【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第三章 十一月の受難

仮想新婚、からの3

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 「そうですよね!
 私ったら何考えて……本当にすみません」

 佐山は察するとか、裏を読むということをしない。
 目に映る事実をそのまま受け取る。

 日付の違い。
 佐山は、この事実を見ていた。

 ニュースで公開された梨奈ちゃんの顔じゃなくて。

 泣きそうになってまばたきを繰り返す。

 今まで何を血迷っていた?
 佐山は、視覚的なイメージだけで何かを決めつけるような短慮な男ではない。
 ルナと瓜二つのベビーがいたとしても。

 私は、どれだけ浅はかだったのだろう。
 一人で余計なことを考えて焦って。

 「何事も」

 突き出していた顔を引っ込める佐山。

 「冷静さが必要なのです。
 周囲の状況に惑わされてはいけません」

 「は、はいっ」

 「どうも頼りないな」
 
 ぐうの音も出ない。
 佐山は、うっすら髭を生やした顎に指を当てて何か考えている様子である。

 バカだと思われたかな?

 こんな簡単なことに自分で気づけないなんて。
 思っただろうな。
 また恥をさらしてしまった。

 「まぁいいでしょう。
 ところで、大家さんにも連絡を取らなくては」


 「どうして急に大家さんが出てくるんです?」

 何の気なしに聞いたら、佐山はあんぐり口を開けたまま固まった。
 そして再び顔を突き出してくる。

 だから近いってば。


 「何故あなたが襲われたのか、先ほど話したばかりではないですか」



 そうだった。



 いちばん問題アリなのは木田だが、おかしな話を住人に吹き込んだのは大家・挟間道代であった。

 ルナを預かり、佐山が手伝いのため私の部屋を出入りするようになり、昌也を巻き込んだ修羅場に発展し。

 そうした出来事の表面だけを捉えつつ、道代の妄言は次第に膨らんでいった。
 そして。

 
 ──要するにね。あの、誰でもいいの。


 これが場所を問わず撒き散らされ、木田のような男に巡ってしまったのだ。

 「宮原さん」

 佐山に呼ばれて我に返った。
 相変わらず近くにある顔は、不審げにこちらを見つめている。

 「いえ、分かってますよ?
 でも助かったらホッとしちゃって」

 慌てて胸の前に両手を広げると、佐山は眉をひそめた。


 「大家さんを止めない限り、同じような事件が起こる可能性はあるのですよ」

 「あ、確かに」

 「まったく、仕様がない人だな。
 今までよく無事に暮らしてきましたね」

 あなたが傍にいると、何故か思考が飛ぶんです。
 とは言えず、「ええ、まぁ」と曖昧な返事をする。

 「大家が入居者の情報を垂れ流すなど、あってはならないことです。
 あなたがどんな女性であろうとね」

 言いながら、佐山は顔を引っ込めていく。
 確かに、そう言われると道代に対して怒りが沸いてきた。

 “あなたがどんな女性でも”という言い方は引っ掛かるが、佐山はいつだって冷静だ。
 頼りになる。


 さっきまで料理について御託を並べてたのに。
 この落差は何なの。


 「それにしても」

 目の前で、佐山が口の端をひん曲げる。

 「本当によく顔に出る人ですね!」

 そして、肩を揺らしてクツクツと笑い出した。


 えっ、出てた!? 


 思わず頬に手を当ててしまう。

 「次から次へと。あぁ愉快だ」

 佐山は長身を折り曲げてまだ笑っている。

 「ちょ、佐山さん?」

 「ひー」

 いや、どんだけ面白かったの!?

 「見ていて飽きませんよ、あなたという人は」
 

 この落差は何だ。


 何でそういう、ちょっと可愛い顔で笑うかな。
 一度引いた熱が、ぶり返してしまうじゃない。


 また顔に出てしまうのが恥ずかしくて、ルナに構うことにした。
 どういう寝相なのか、サルを顔面に乗せている。

 同じタイミングでサルをどかそうとした佐山の手をむんずとつかんでしまった。

 「はっ! す、すみません!」

 「ああ、いえ」

 「か、片付けようかな」

 今度は佐山の食器に手を伸ばす。
 が、手に力が入らず危うく取り落としそうになる。

 「おっと」


 「!!」
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