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8、私はいりません

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 「それは、仕方がないように思います。初めてお目にかかりましたが、ルイーズ様の容姿はお世辞にも褒められたものじゃありません。男性は、美しい女性に惹かれるもの……その容姿では、浮気されても文句は言えないと思います」

 初対面な上に彼女は平民。それでも、遠慮するどころか笑顔で侮辱して来た。彼女は女性の魅力を、容姿だけだと思っているようだ。
 私だって、好きでこのような容姿で生まれたわけじゃない。綺麗になる努力もして来た。何もしなくても美しいからと、他人を侮辱していいはずはない。私を見下すように見ている目は、ハリソン様と同じだ。2人は、似たもの同士。

 「浮気したとお認めになるのですね?」

 「私達は愛し合っているので、浮気には当たらないと思います。ルイーズ様の容姿で、こんなにも美しいハリソン様のお飾り妻になるのですから、感謝しないといけませんよ?」

 マーシャさんは頭がキレるのだと思っていたけど、ただのバカだったようだ。浮気したことを認めてくれた上に、私がお飾り妻になると宣言した。もっと早くに、マーシャさんに会っていたら、2年も我慢しなくてすんだのかもしれない。

 「ハリソン様は、マーシャさんに差し上げます。私はいらないので、好きにしてください」

 私の言葉に、2人の顔が真っ青になった。ハリソン様は分かるけど、散々私を侮辱したマーシャさんが真っ青になる意味が分からない。あれだけ言われて、それでも私がハリソン様を手放さないと思っていたのだろうか……?

 「ルイーズ、マーシャはただの幼馴染みだ! 冗談を言っただけだよ。マーシャは昔から、冗談が好きなんだ! な! そうだよな、マーシャ!?」

 弁解をするハリソン様を、睨みつけているマーシャさん。何となくだけど、状況が理解出来た。ハリソン様は、私に愛されているのだとマーシャさんに見栄を張ったのだろう。そう考えると、先程の彼女の発言は、ハリソン様は自分のものだというアピールだったのだと分かる。

 「…………」

 プライドが邪魔をしているのか、認めようとしない。それどころか、私に謝りたくないと顔に書いてある。
 正直、このやり取りは無意味だ。なぜなら、すでに婚約解消は決まっているからだ。

 「マーシャ!? 何を黙っているんだ!? 早くルイーズに謝れ!」

 少し意外だ。ハリソン様は、彼女の気持ちより私のお金の方が大事だと思っているようだ。
 彼女の美しい顔が恐ろしい形相になっていることに、彼は気付いていない。

 「その必要はありません。これ、何だと思いますか?」

 ガードナー侯爵から受け取った、婚約誓約書を取り出して見せる。そしてそれを、2人の目の前でビリビリに破り捨てた。

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