〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな

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14、夜会

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 王宮で開かれる夜会の前日、使用人からパウエル子爵の報告書を受け取った。思った通り、パウエル子爵は真っ黒だ。

 「お父様、少しお時間よろしいでしょうか?」

 その夜、受け取った報告書を父に見せた。パウエル子爵の処分は、父に任せることにした。
 パウエル子爵の犯した罪は、横領と密売。この国で売買を禁じられている物を、他国に売っていた。パウエル子爵は、爵位剥奪で済めばいい方だ。
 父はすぐに陛下に報告をし、内密に調査が始まった。使用人が調べてくれた報告書があるから、それほど時間はかからないだろう。

 そして、夜会の日が訪れた。
 ドレスを着るのは、学園で行われたダンスパーティー以来だ。あの日は、オリバー殿下の好みに合わせた地味なドレスを着ていた。けれど今日は、めいっぱい着飾る。

 「うっとりするほど、お美しいです……」

 マディソンは、鏡越しにうっとりした顔で私を見ている。
 
 「ありがとう、マディソンもとても綺麗! やっぱり、マディソンには赤が似合うと思った。髪は私がやってあげるから、ここに座って」

 今日はマディソンも、侍女としてではなく一緒に夜会に出席する。
 学園が休みの日に必要な物を買いに行った時、ドレスや靴も買っていた。両親と会うことが出来るのは、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。酷い目にあわされては来たけれど、マディソンにとってはそれでも家族だ。

 「お願いします」
 
 素直に、ドレッサーの前に腰を下ろすマディソン。そろそろ、私の性格を分かって来たようだ。遠慮したところで、怒られるだけだと。

 「少しは、仕事に慣れた?」

 髪をとかしながらそう聞くと、鏡越しにマディソンは微笑んでいた。

 「こんなに良くしていただいて、慣れないはずがありません。リアナに出会って、初めて幸せだと思いました。旦那様も奥様も優しくして下さり、本当に感謝しています」

 「……そう思ってくれて、良かった。はい、出来たわ」

 支度を終えた私達は、両親とは別の馬車で王宮へと出発した。

 急な夜会の知らせにも関わらず、王宮にはたくさんの貴族の馬車が次々と到着していた。その中には、パウエル子爵夫妻とセシリー様の姿もある。そして、すぐに私達に気付いた。

 「まあ! リアナ様ではありませんか! 堂々と、私の妹をお連れになっているのですね。オリバー殿下に、リアナ様の横暴な振る舞いをやめさせて欲しいと進言いたしますわ!」

 今日はいつになく、セシリー様が偉そうな態度を取ってくる。まさか急な夜会は、自分との婚約を発表する為だと思っているのだろうか。

 「所詮、公爵令嬢……王太子妃には逆らわない方が身の為だと思うぞ?」

 パウエル子爵の態度も、ずいぶんと大きくなっている。これは、勘違いしていると確信した。
 それも、仕方がないことかもしれない。王太子には、ウォルター殿下が相応しいという意見が多かったことは知っていても、選ばれたのはオリバー殿下だった。オリバー殿下の婚約者を選ぶ試験に参加していた公爵家以外は、何も知らされていなかった。オリバー殿下が王太子でいる為に必要だった公爵家の力がなくなれば、必然的にオリバー殿下は王太子ではなくなるということも知る由もない。オリバー殿下でさえ、知らなかったのだから。

 「どなたが王太子妃なのでしょう? そのようなお話しは、聞いていませんが」

 「未だに、オリバー殿下が自分のことを愛しているとでも思っているのですか? おめでたいですね。リアナ様は、私に借りを返すと仰っていましたが、それは不可能のようですね」

 勝ち誇った顔で私のことを見る。
 
 「私にはもう、心を寄せている方がいます。オリバー殿下には、全く興味はないので心配はいりません」

 初めて、ライアン様への気持ちを口にした。そうしたのは、少し先にライアン様の姿が見えたから。彼の姿を目で追いながらそう口にすると、彼と目が合った。私の声は聞こえていないはずなのに、まっすぐ私を見つめながらこちらに近付いて来て、私の前で足を止めた。

 「リアナに、呼ばれた気がした」

 急に呼び捨てで呼ばれ、一気に鼓動が早くなる。

 「侯爵令息のライアン様が、リアナ様にはお似合いですね!」

 嫌味のつもりなのだろうけれど、セシリー様は大国の意味が分かっていないのだろうか……
 ハインボルトはこの国の五倍程の領土があり、人口は約七倍だ。それに、他国の貴族を蔑むような発言は、国際問題にもなりかねない。勘違いとはいえ、王太子妃になろうとしている人間の発していい言葉ではない。

 「ライアン様は、とても素敵な方です。私は、ライアン様に出会えたことに感謝しています」

 心からそう思える相手に出会えたことは、奇跡だと思う。

 「ま、負け犬は、何を言っても負け犬ね。そろそろ、失礼します。オリバー殿下に、ご挨拶をしなくては」

 「セシリー様、夜会を楽しんで下さいね」

 最初にセシリー様が『妹』と言ってから、一度もマディソンについて触れようとはしなかった。それどころか、マディソンの顔を三人は一度も見ていない。そんな扱いを受けても、マディソンは気にしていないようだ。
 セシリー様が、この夜会を楽しめることはないだろう。今から絶望を味会うことになるだろうけれど、同情する気持ちが全くわかない。

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