14 / 18
14、夜会
しおりを挟む王宮で開かれる夜会の前日、使用人からパウエル子爵の報告書を受け取った。思った通り、パウエル子爵は真っ黒だ。
「お父様、少しお時間よろしいでしょうか?」
その夜、受け取った報告書を父に見せた。パウエル子爵の処分は、父に任せることにした。
パウエル子爵の犯した罪は、横領と密売。この国で売買を禁じられている物を、他国に売っていた。パウエル子爵は、爵位剥奪で済めばいい方だ。
父はすぐに陛下に報告をし、内密に調査が始まった。使用人が調べてくれた報告書があるから、それほど時間はかからないだろう。
そして、夜会の日が訪れた。
ドレスを着るのは、学園で行われたダンスパーティー以来だ。あの日は、オリバー殿下の好みに合わせた地味なドレスを着ていた。けれど今日は、めいっぱい着飾る。
「うっとりするほど、お美しいです……」
マディソンは、鏡越しにうっとりした顔で私を見ている。
「ありがとう、マディソンもとても綺麗! やっぱり、マディソンには赤が似合うと思った。髪は私がやってあげるから、ここに座って」
今日はマディソンも、侍女としてではなく一緒に夜会に出席する。
学園が休みの日に必要な物を買いに行った時、ドレスや靴も買っていた。両親と会うことが出来るのは、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。酷い目にあわされては来たけれど、マディソンにとってはそれでも家族だ。
「お願いします」
素直に、ドレッサーの前に腰を下ろすマディソン。そろそろ、私の性格を分かって来たようだ。遠慮したところで、怒られるだけだと。
「少しは、仕事に慣れた?」
髪をとかしながらそう聞くと、鏡越しにマディソンは微笑んでいた。
「こんなに良くしていただいて、慣れないはずがありません。リアナに出会って、初めて幸せだと思いました。旦那様も奥様も優しくして下さり、本当に感謝しています」
「……そう思ってくれて、良かった。はい、出来たわ」
支度を終えた私達は、両親とは別の馬車で王宮へと出発した。
急な夜会の知らせにも関わらず、王宮にはたくさんの貴族の馬車が次々と到着していた。その中には、パウエル子爵夫妻とセシリー様の姿もある。そして、すぐに私達に気付いた。
「まあ! リアナ様ではありませんか! 堂々と、私の妹をお連れになっているのですね。オリバー殿下に、リアナ様の横暴な振る舞いをやめさせて欲しいと進言いたしますわ!」
今日はいつになく、セシリー様が偉そうな態度を取ってくる。まさか急な夜会は、自分との婚約を発表する為だと思っているのだろうか。
「所詮、公爵令嬢……王太子妃には逆らわない方が身の為だと思うぞ?」
パウエル子爵の態度も、ずいぶんと大きくなっている。これは、勘違いしていると確信した。
それも、仕方がないことかもしれない。王太子には、ウォルター殿下が相応しいという意見が多かったことは知っていても、選ばれたのはオリバー殿下だった。オリバー殿下の婚約者を選ぶ試験に参加していた公爵家以外は、何も知らされていなかった。オリバー殿下が王太子でいる為に必要だった公爵家の力がなくなれば、必然的にオリバー殿下は王太子ではなくなるということも知る由もない。オリバー殿下でさえ、知らなかったのだから。
「どなたが王太子妃なのでしょう? そのようなお話しは、聞いていませんが」
「未だに、オリバー殿下が自分のことを愛しているとでも思っているのですか? おめでたいですね。リアナ様は、私に借りを返すと仰っていましたが、それは不可能のようですね」
勝ち誇った顔で私のことを見る。
「私にはもう、心を寄せている方がいます。オリバー殿下には、全く興味はないので心配はいりません」
初めて、ライアン様への気持ちを口にした。そうしたのは、少し先にライアン様の姿が見えたから。彼の姿を目で追いながらそう口にすると、彼と目が合った。私の声は聞こえていないはずなのに、まっすぐ私を見つめながらこちらに近付いて来て、私の前で足を止めた。
「リアナに、呼ばれた気がした」
急に呼び捨てで呼ばれ、一気に鼓動が早くなる。
「侯爵令息のライアン様が、リアナ様にはお似合いですね!」
嫌味のつもりなのだろうけれど、セシリー様は大国の意味が分かっていないのだろうか……
ハインボルトはこの国の五倍程の領土があり、人口は約七倍だ。それに、他国の貴族を蔑むような発言は、国際問題にもなりかねない。勘違いとはいえ、王太子妃になろうとしている人間の発していい言葉ではない。
「ライアン様は、とても素敵な方です。私は、ライアン様に出会えたことに感謝しています」
心からそう思える相手に出会えたことは、奇跡だと思う。
「ま、負け犬は、何を言っても負け犬ね。そろそろ、失礼します。オリバー殿下に、ご挨拶をしなくては」
「セシリー様、夜会を楽しんで下さいね」
最初にセシリー様が『妹』と言ってから、一度もマディソンについて触れようとはしなかった。それどころか、マディソンの顔を三人は一度も見ていない。そんな扱いを受けても、マディソンは気にしていないようだ。
セシリー様が、この夜会を楽しめることはないだろう。今から絶望を味会うことになるだろうけれど、同情する気持ちが全くわかない。
2,081
あなたにおすすめの小説
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。
白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる