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小さな変化
パンの作り方を習い、街の施設を周り、野菜を育てる。毎日が忙しく過ぎて行きます。
今がものすごく楽しい。
生まれてからずっと、城から出た事がなかったのに、今は自由に街へ出かけられる。
本当は、一国の王妃が頻繁に街に出る事は良くないのかもしれません。シルビアにも、護衛の人達にも迷惑をかけているのは自覚しています。
私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。
「パンの味が変わったか?」
朝食をとりながら、ビンセント様がそう言った。
「美味しくありませんでしたか?」
今日のパンは、私が焼いたものでした。
パン作りを習い始めて1ヶ月が経ち、料理長が初めて認めてくれたのが嬉しくて、ビンセント様にお出ししてしまいました。
やっぱり、美味しくなかったのでしょうか……
「いや……なんだか、優しい味だな。」
優しい味? それは、褒めてくれているのでしょうか?
ビンセント様に褒められたのが嬉しくて、顔がにやけてしまう。
「何をニヤついているんだ? 気色悪い。」
き、気色悪い!?
「パンを褒めていただいたので、嬉しかったんです!」
気色悪いなんて、ビモードでも言われた事ない! (違う悪口は散々言われましたけど……)
「このパンは、君が作ったのか?」
「はい。
勝手にお出ししてしまい、申し訳ありませんでした。次からは、料理長が焼いたパンをお出しします。」
初めて美味しく出来たから、ビンセント様にも食べていただきたかった。目的は果たせたので、問題はありません。
「このままでいい。」
「……え? このままで、とは?」
「君が焼いたパンでいいと言っている。
それにしても、色々やっているとは思っていたが、パンまで焼いていたとはな。すごい行動力だな。」
行動力なんて、ビモードにいた時には全くなかった。私が何かすることは、王妃様やエレノアやジェイソンが許してくれませんでした。まさに籠の鳥。こっそり本を読んだり勉強するのが精一杯で、やりたい事をやるなんて考えが全くなかった。
「色々な事が出来るのは、陛下が自由にさせてくださっているからです。私は今、すごく幸せなんです!」
満面の笑顔を浮かべるセリーナ。ビンセント王は、初めて妻の顔を真っ直ぐ見ていた。
ただのお飾りだったはずのセリーナから、目が離せなくなっていた。
「……無理はするな。」
今……無理はするなって言いました?
ビンセント様は、私を心配してくださっているのでしょうか?
そんなはずありませんね。私はただのお飾り王妃なのですから。
その日から買ったパンではなく、自分で焼いたパンを配り始めました。
皆さんが美味しいって言ってくれるのが嬉しくて、いくらでも頑張れそうな気がします。
「いつもありがとうございます。今日のパンは、一段と美味しいです!」
「私にはこんな事位しか出来ませんが、皆さんが笑顔になってくれるのが、すごく嬉しいです。」
「こんな事ではありません。王妃様が毎日、私達の為に頑張ってくださっていることを存じております!」
あれ……?
「あの……私が王妃だと、気づいていたんですか?」
気づかれないように平民の服を着て、護衛の方達には離れてもらっていたのに……
「私達の為にここまでしてくださる方はいませんでした。王妃様がこの国に嫁いでいらしてから、セリーナ様が現れたのですから、バレバレでしたよ。」
そこまで考えていませんでした……
「気づかれていないと思っていたので、バレバレだったなんて恥ずかしいですね……」
「私共は国王様と王妃様に感謝しております。この国の民で、本当に良かった!」
それを聞いたら、ビンセント様がお喜びになりますね。私も、この国の王妃で良かったと思っています。
私には手の届く範囲……この城下にある街くらいまでしか行くことが出来ないけど、街の皆さんの話によると、今地方に住んでる人達は仕事があったり、畑を持っていたりして、苦しい暮らしを強いられてはいないようです。
その理由は、ビンセント様が平民の税を極力安くして、貴族から高い税を取っているからだそうです。仕事も土地も畑も持たない民は、こうして城下の街に来て仕事を探さなければならないということのようです。
その頃、ビモード王国にもセリーナ王妃の噂が流れ始めていた。
「セリーナ様が、デリター王国の民に愛されているという話を聞いたか!?」
「やはり、ローズ様の忘れ形見だな。」
「それに比べて、この国の王子も王女も王妃でさえどうしようもないな。」
「おい! 誰かに聞かれたら大変だぞ!?」
「かまうものか! この国の国王は、あの王妃の言いなりだぞ!? こんな国に、未来なんかない!」
セリーナの噂は瞬く間にビモードに広がり、王城にも噂が流れていた。
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