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後編
私の涙を見て、満足そうに微笑むマギー。
残念だけど、その幸せはすぐに崩れ去ってしまう。先程会話した時に伝えることは出来たけれど、そうしなかった私も性悪なのかもしれない。だけど、親切に教えてあげる義理なんかない。あなたが、私との関係を壊したのだから。
「実は、もう一つ報告があります」
パトリック様とマギーが壇上を降りると、ボーグル侯爵は嬉しそうにそう話す。そして……
「このボーグル侯爵家を継ぐ息子のランドールと、ローズ男爵家のミラーナの婚約をご報告致します! 二人共、こちらに来なさい 」
言われた通り壇上へと上がると、壇上のすぐ下で、まだ状況を把握出来ていないマギーが口を開けたまま呆然としていた。
マギーが婚約した相手は、ボーグル侯爵家の嫡男ではなく、夫人の連れ子だ。ランドール様のお母様は、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。夫人は伯爵令嬢だったが、平民の男性と結婚して生まれたのがパトリック様。夫に先立たれた夫人に、幼馴染みだったボーグル侯爵が求婚して二人は結婚をした。マギーが私の婚約を知ったのが一週間前で、ボーグル侯爵家の事情を調べる時間がなく、私の婚約者を奪うことに全力を注いだのだろう。
マギーはボーグル侯爵家の嫡男だと勘違いし、パトリック様を誘惑していた。そのことに気付いたランドール様は、パトリック様に忠告したが、聞く耳を持たなかったそうだ。ドレスと共に送られて来た手紙には、そのことが書かれていた。
「どういう……こと?」
ランドール様と私を見上げながら、顔が青ざめていくマギー。ようやく、思考が動き出したようだ。
「お前がバカだっただけだろう」
マギーの隣で、ニヤリと笑いながらそう言ったパトリック様。パトリック様は、もしかしたら最初からマギーの魂胆に気付いていたのかもしれない。
パトリック様の豹変ぶりに、マギーの思考はまた停止したようで、目を見開いたまま固まっていた。
挨拶を終えて壇上を降りると、マギーはものすごい形相で睨みながらこちらに向かって歩いて来る。
「あなたの仕業でしょ!?」
私の前で足を止めると、責めるような口調でそう言った。マギーの思考回路は、どうなっているのだろうか。
「いい加減にしろ。これ以上、僕の婚約者に近付くな」
静かな口調だったけれど、ランドール様が怒っているのが分かる。彼を信じきれなかったことに、罪悪感を感じた。
「ランドール様、どうしてミラーナなのですか!? ミラーナなんかより、私の方が美しいです。今からでも遅くはありません。私を選んでください! ミラーナは、パトリック様と婚約すればいいではありませんか! 私達、お似合いだと思います!」
必死にランドール様にアピールするマギーを見ていたら、怒りを通り越して哀れに思えた。なぜそんなにも必死になって、私の婚約者を奪おうとするのか……。
自分を少しでも良く見せる為に私を利用し、私から婚約者を奪うことで自分の方が優れているのだと実感する。周囲の目ばかりを気にして生きている彼女は、幸せなのだろうか。
「君を美しいとは思わない。美しいというのは、ミラーナのような女性のことだ。それに、君を好きになることは決してない。僕はミラーナ以外、愛せない」
ランドール様の言葉に、胸の鼓動が早くなる。そのように思ってくれていたなんて、知らなかった。確かに、妻になって欲しいとは言われたけれたど、愛してくださっていたなんて……。
「お前は、俺の婚約者だということを忘れたのか? 婚約者の前で、他の男に色目を使うなんて最低だな。厳しい躾が必要なようだ」
パトリック様は鋭い目付きでマギーを見ると、逃がさないと言わんばかりに強引に肩を抱き寄せた。
「な!? 離してください! 婚約は破棄します! ボーグル侯爵家を継げないパトリック様との結婚なんて、何の意味もありません!」
ランドール様を落とせないと悟ったマギーは、本性を現した。腕を振り払おうと暴れるマギーに、パトリック様は耳元で囁いた。
「婚約を破棄することなど出来ない。そう、誓約書に書いてあったはずだが? 急いで婚約したかったようだから、きちんと読まなかったのだろう。お前は、私と結婚して平民になるか、お前の実家の財産を全て差し出すしか道はない。はたしてお前の為に、お父上は全財産を差し出すだろうか?」
マギーのお父様が、全財産を差し出すはずがない。何よりも、お金を大切に思っている方だ。
一刻も早く私から婚約者を奪おうとして、誓約書を読むことなくサインしてしまったのだろう。
「そん……な……」
サインしたことを思い出したのか、マギーはその場に崩れ落ちたまま、ブツブツと何かを言っているが、聞き取ることは出来ない。
「兄上は、それでよろしいのですか!?」
ランドール様は、心配そうにパトリック様を見ている。
パトリック様は、マギーの本性を知っていて、彼女と婚約をした。しかも、彼女の逃げ道まで奪っている。ということは、パトリック様はマギーと結婚するということだ。パトリック様が、マギーを愛しているとは思えなかった。
「こんな俺を、お前は義兄として慕ってくれた。俺はお前の義兄だから、お前の幸せを守る責任があるんだ。ミラーナ嬢、不安な思いをさせて悪かった。マギーに俺が君の婚約者だと思わせる為に、ランドールには君に会うのを控えてもらっていたんだ。だから、ランドールを責めないでくれ」
マギーを見る冷たい表情とは違い、優しくて温かい表情になるパトリック様。
「責めるだなんて、ありえません。今回のことで、ランドール様への想いが強くなりました」
パトリック様は、柔らかい表情で微笑んだ後、
「良かった。あ、そうそう、俺のことは気にしないでくれ。マギーには働きに出てもらって、楽をするつもりだ。こんな性悪をもらってやるのだから、それくらいはしてもらわないとな」
そう言って、豪快に笑った。
数週間後、パトリック様とマギーは小さな教会で式を挙げた。
パトリック様が言っていた通り、マギーは食堂で働き出したそうだ。家事をしたことも、働いたこともないマギーは、毎日店主に叱られているという話しだ。それでも、朝から晩まであのマギーが働きに出ている。パトリック様は、どんな躾をしたのか……。
そして一年後、私はランドール様の妻になった。
「君が思うよりずっと、僕は君を愛してる」
結婚初夜、彼は私の頬に手を添えて、優しくキスをした。
「知っています」
唇が離れると、私はそう言って微笑んだ。
この手を、離さない。この先、ずっと……
END
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