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二章
怖いセリーナ
しおりを挟む「セリーナ様がいらっしゃった意味……ですか? 私には、検討もつきません」
動揺する様子もない。ホークス公爵とは、大違いだ。けれど、私も動揺はしない。良くも悪くも、ガレスタ王国での経験が私を強くしてくれた。
「ホークス公爵が、すべて話してくれました。公爵は、私につくそうです。これでも、私がきた意味が理解できませんか?」
「ええ、理解できません。ホークス公爵がなにをお話したかは存じませんが、私がお話することはなにもありません」
侯爵は、まったく動じていない。
「ランドルク公爵が企てていることの証言も、ハーレス侯爵が不正をしていることもわかっています。ですから、侯爵が認めようが認めまいがどちらでもかまいません。私はただ、あなたに正しいことをする機会を与えたかっただけです」
正直なところ、自分から罪を認めてこちら側について欲しかったけれど、欲に目が眩んだ人間にこれ以上なにを言っても無駄だろう。
「あのセリーナ様が、ずいぶんとお優しい言葉をかけてくださる。ですが、ここから無事に帰れるとお思いですか?」
あのとは、クリスティ様の誕生パーティーの時のことを、言っているのだろう。
すべてを知っていると話したのだから、そう来るだろうと思っていた。
「動くと斬る」
カタリーナがハーレス侯爵の首元に、剣を突きつける。
「な……!? これは、どういうことですか? 私が叫べば、あなた方はおしまいだ!」
侯爵は、ようやく動揺を見せた。
ホークス公爵と一緒に来たのは、正解だったようだ。侯爵は信用して、応接室に使用人を入れなかった。カタリーナは気づかれることなく、簡単に背後を取ることができた。
「ご紹介しますね。スフィリル帝国の剣術大会で優勝した、私の護衛のカタリーナです。どうぞ、叫んでみてください。侯爵が声を発する前に、その首が落ちてしまうでしょうけれど」
満面の笑みを浮かべて、侯爵にそう告げる。
私の後ろで、ホークス公爵がカタカタと震えているようだ。すぐに私につくことを決めて、よかったと思っているだろう。
自分でも、残酷な言葉を平気で口にしている自覚はある。カタリーナのことを言えないな……
「……私はグルダの侯爵だ。そんなこと、できるはずがない」
首元に剣を突きつけられているのに、まだ強気な態度を崩さない。けれど、声はずいぶんと小さい。叫ぼうとしていると、誤解されないためだろう。
「できますよ。陛下から、罪人を斬り捨てる許可をいただいています。協力しないのなら、侯爵に用はありません」
「な……!?」
まあ、嘘だけれど。
そもそも、ルギウス様と会ったのはずいぶん前のことだ。
これはスフィリル帝国にいる時、ドレイ事件で私が危険な目にあったことを心配して、叔父様が出してくださった許可だ。陛下とは言ったけれど、ルギウス陛下とは言っていない。
「おまえは、バカだな。セリーナに手を出せば、スフィリル帝国が黙っていない。そんなに死にたいのか?」
カタリーナ……その方は、まだ侯爵なのだけれど……
「あなたがしてきたことは、許されないことです。私たちに協力するのなら、命だけは助けると約束しましょう」
カタリーナの言葉がきいたのか、ハーレス侯爵はようやく大人しくなり、私の提案にのることを決めた。
「侯爵にも、一緒に来ていただきます。一ヶ月後には王宮に集まることになっているのですから、かまいませんよね?」
ハーレス侯爵は、素直に了承する。
屋敷を出ると、グランディ王国の護衛十人が到着していた。
ロイド叔父様への手紙を頼んだ時、待機している護衛十人ほどにハーレス侯爵邸へ来るようにと伝言を頼でいた。
「ハーレス侯爵とホークス公爵は、ハーレス侯爵家の馬車にお乗りください。カタリーナがご一緒いたします」
二人をカタリーナに見張らせ、私は一人でホークス公爵家の馬車に乗る。
レイビス様にはカタリーナと離れないように言われているけれど、カタリーナに見張りを任せたのには理由がある。次の場所に着くまでに、ハーレス侯爵も従順になっていることだろう。
護衛を増やしたのは、これから会う貴族も皆連れていくことにしたからだ。侯爵にも言った通り、一ヶ月後には王宮に集まることになっているのだから、このまま連れて行っても問題はないだろう。
シェリルからもらった地図によると、次の屋敷までは十二時間ほどかかる。
気を張っていたからか、一人になると一気に力が抜けた。
「クゥン……」
バッグの中から顔を出したクウを抱き上げて、膝の上に乗せる。
「レイビス様はきっと、私より上手くできているのでしょうね」
「クゥンクゥン」
同調しているのか、膝から可愛らしい前足を伸ばしてくる。……いや、ただ単に顔に触りたいだけのようだ。いつも頬ずりしているから、それを要求しているみたいだ。
抱き上げて頬ずりすると、満足したのかまた眠ってしまう。クウの可愛らしい姿に癒されながら、いつの間にか私も眠りについていた。
その頃、レイビスは────
「優しく話しているうちに、協力を申し出た方がいい」
二人目の貴族を脅していた。
交渉を持ちかけることもなく、話を聞くこともなく、問答無用で協力を強制する。
「……ご協力いたします」
グランディ王国の王太子に脅され、逆らえる者などいない。効率的だが、レイビスらしくはない。
「殿下、もう少しやりようがあると思いますが?」
護衛の一人が、レイビスらしくないやり方に疑問を口にする。
「俺は、なによりセリーナが心配なんだ。一刻も早く、彼女と合流したい。だから、一番効率のいい方法を選んだだけだ」
「殿下らしくないと、セリーナ様に怒られますよ」
「覚悟の上だ」
ある意味、なによりセリーナを大事に思うレイビスらしかった。
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