15 / 26
15、新たな味方
ブレナン侯爵やほかの貴族達に手紙を送ってから、一週間が経った。そして、一通の手紙が届いた。
「ロゼッタ様のお気持ちは、きっと届いています!」
「絶対に大丈夫です!」
アビーもサナも不安な表情を浮かべているのに、私の心を落ち着かせようとしてくれている。
手紙は、ブレナン侯爵含めて十五人の貴族に送った。けれど、返事は一通のみ。
不安な気持ちを抑えながら、封を開ける。
手紙に記されていたのはたった一言……『お会いしたい』とだけ。
私のことを信用していないから、何かの証拠になるような余計なことは書かなかったのだろう。
それに、私のせいで暗殺計画を阻止されたのだから、印象は最悪だろう。
ドリアード侯爵を通して、会う日程を伝え、その日が訪れた。会う場所は王宮ではなく、王都にある小さなレストランの個室。
私は王宮から出ることを許されてはいないから、サナの服を借り、使用人として外出することにした。アビーを一緒に連れて行くことは出来ないから、ローリーと一緒に行くことにした。使用人が馬車を使うと怪しまれる為、徒歩でレストランを目指す。
ドリアード侯爵には、護衛をつけると言われたけれど断った。使用人が護衛を付けていたら目立ってしまう。それに、ブレナン侯爵達にも私は護衛など必要ないほど信頼しているとアピールしたかった。そう思っていたのに……
「サナ! 待って! 私も一緒に行くわ!」
メイド服を着た見知らぬ女性が、そう言いながらあとを追いかけて来た。
私を『サナ』と呼んだのだから、ドリアード侯爵の命令で来たのだとすぐに分かった。
「仕方ないわね。行くわよ」
彼女を受け入れはしたけれど、彼女の顔に見覚えがない。
「どうしてついてきたの?」
小声でそう聞くと、
「兄に、サナ様をお守りするようにと」
そう答えた。
……兄? 首を傾げる私に、女性は続ける。
「デイモンは私の兄です。ご心配はいりません。私は空気のいい田舎で、療養していることになっています」
彼女の名前は、レイシアだそうだ。
侯爵は妹の身体が弱いから、療養の為に田舎で暮らしていると父に報告していた。けれど、レイシアは健康そのもので、なんなら兄より剣術も体術も優れていた。
ドリアード侯爵が動けない時は、王都にいないはずのレイシアが動いているというわけだ。リジィと義母のことも、ブレナン侯爵と手を組んでいる貴族達のことも、彼女が調べたようだ。
「……護衛は不要だと言ったのに」
「そうですね、兄はそのつもりだったようですが……」
意味深なところで、言葉が途切れる。
「それはどういう……」
「さあ、もう少しペースをあげましょう。このままだと、日が暮れてしまいます」
彼女は、答える気がないようだ。
やっぱり、兄妹だ。良く似ている。
何事もなくレストランに到着し、裏口から中に入る。裏口では店長が待っていて、人目に触れないように個室へと案内してくれた。
個室に入ると、ブレナン侯爵が立ち上がり、こちらに近づいて来た。
個室には、ブレナン侯爵のみで、他の貴族の姿はない。
「初めまして、ロゼッタ様。まさか、そのようなお姿でお見えになるとは思いませんでした」
表情はにこやかだけれど、警戒しているようだ。
「初めまして、ブレナン侯爵。初めに、一つだけ言わせていただきます。私は、陛下のお命を狙った侯爵が許せません。ですが、これから陛下を全力でお守りすると誓ってくださるなら、この思いは私の心の中だけにしまっておきます」
味方になって欲しいと言ったのは私だ。けれど、アンディ様を殺そうとしたことは許すことが出来ない。
「ワッハッハッ! これは、面白い!」
一瞬驚いた顔をしたブレナン侯爵は、すぐに大きな声で笑い出した。その様子からは、警戒がとけたように見えた。
「失礼。ロゼッタ様は、お母上のハンナ様にそっくりですな」
「母を、ご存知なのですか?」
「もちろん、存じております。ハンナ様は、私の幼馴染みでした……」
ブレナン侯爵の表情から察するに、侯爵は母に恋をしていたようだ。いや、今でも愛しているように見える。それで、納得がいった。
アンディ様の命を狙ってまで、父を排除しようとしていたのは、復讐だったのかもしれない。
「母を想ってくださり、ありがとうございます」
心を込めて、ブレナン侯爵にお礼を言いながら丁寧に頭を下げる。
母は、愛されていた。間違った人を愛して、愛されないまま亡くなったのだと思っていたけれど、ちゃんと愛されていたことが嬉しかった。
「やはり、ロゼッタ様はハンナ様にそっくりだ。聡明で、誰にも負けない強さをお持ちのようだ。私は、決めました。ロゼッタ様に従います! 他の貴族の説得は、私にお任せください!」
交渉の為に、色々と考えてきた。けれど、そんなのは、最初から無意味だったようだ。
ブレナン侯爵が見極めたかったのは、私の本音。私がアンディ様の為なら、何でもすると感じ取ったのだろう。母のおかげだ。
頼もしい味方ができ、あとは父を破滅させる為の作戦を練るだけだ。
あなたにおすすめの小説
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定