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17、覚悟
アビーが使用人を連れ出すと、ベッドから起き上がり客室を出る。そして警戒しながら、父の書斎へ行く。
母が殺された後、父を破滅させようと何度も思った。もちろん、行動もした。けれど、私は邸に近付くことさえ出来なかった。
あの時、絶望などせずにすぐに行動していたらと、何度も後悔をした。だからもう、後悔はしたくない。
書斎のドアには、鍵がかかっていた。これは、私が邸を追い出される前からだ。父は誰も信用していない。離れに追いやられた時、鍵を開ける練習をした。どんな鍵でも開けられるわけではないけれど、貴族の邸に使われている鍵は限られていて、鍵の種類さえ把握していれば、そんなに難しいことではなかった。
持って来た道具で素早く鍵を開けて中に入る。
一番先に調べるのは机の引き出しの中。
鍵をかけていないところをみると、この中には重要な物はなさそうだ。
棚の引き出しも全て見たけれど、何も見つからない。書斎に鍵をかけて誰も入らせなかったことと、几帳面で慎重な性格だから、絶対に何かしらあると思ったのだけれど、何もないことに焦り始める。
几帳面……そう考えると、本棚に違和感を感じた。
本棚にはびっしりと本が置かれていて、種類別に並んでいる。でも、一箇所だけ種類が異なる本が間に挟まれている場所があった。
その本を手に取り、開いてみる……
背表紙は、他国の語学書と書かれている。けれど中身は、今までの悪事が事細かに記されていた。
何年何月何日に、○○が○○をした……など。書かれている内容は、いつ誰が何をしたか。
前国王様と前王妃様の毒殺や、母のことまで記されていた。実行した者の名には、バツ印がつけられているものもある。つまり、その印がついている者は、もうこの世にはいないということだろう。
この本には、父の名は記されていない。けれど、父の命令でなければ、これほど詳細に書けるはずがない。ほとんどが揉み消されていて、罪が明らかになっていないものばかりだ。
ここに書かれている人達を問い詰めれば、父の罪を証言してくれるだろう。彼らの罪の証拠は、この中にある。
果たしてこの中の何人が、父に本物の忠誠を誓っているのか。恐怖で支配して来た父を、守ろうとする人なんていないだろう。
本を持ち、書斎を出て、急いで客室へと戻ってベッドに入る。
しばらくすると、お茶を持ってアビーが入って来る。
「ロゼッタ様、お目覚めですか? お身体の具合いはいかがでしょう?」
アビーはわざとらしく大きな声でそう聞いて来た。使用人が廊下にいるという合図だろう。
「……少し良くなったわ」
そう言いながら、本をアビーに渡す。
「アビー、あなたは先に戻って。私はまだ王宮に戻れないと、陛下に伝えてくれる?」
廊下にいる使用人に聞こえるように、大きな声で話す。
医者はもうすぐ来てしまう。私が身ごもっていないことが知られるのも、時間の問題だ。この証拠を無事にドリアード侯爵に届けられれば、私はどうなっても構わなかった。
もちろん、アビーは猛反対した。けれど、私が言い出したら聞かないことを彼女は知っている。
「かしこまりました」
私の手を握りしめ、アビーは辛そうに顔を歪める。
妊娠していないと分かれば、証拠を手に入れたことも気付かれるだろう。きっと私は、拷問される。
「行って!」
小声で、アビーに命じた。
アビーは証拠の本を隠し、深々と私に頭を下げてから客室を出て行った。
彼女には、辛い役目をお願いしてしまった。
アビー、ごめんね……
アビーが無事に邸を出てしばらくすると、医者が到着した。
結果はもちろん……
「妊娠は、していないようです」
申し訳なさそうに目を伏せながら、医者はそう言った。
「な!? バカなことを言うな! 主治医が、妊娠していると言ったのだぞ!?」
最初は、医者の診断を信じようとはしなかった。
「……間違いございません」
断言をする医者を見て、怒りの矛先が私へと向けられる。
「お前……まさか、私を騙したのか!?」
今更気付いても、もう遅い。
アビーは今頃、王宮に到着してドリアード侯爵に証拠を渡しているだろう。
騙されたとわかった父のあまりにも間抜けな顔に、思わず笑ってしまう。
「ふふっ……お父様は、あれほど疑り深い方でしたのに、子を授かったと言っただけで私を信じたのですか? 私を信じるなんて、本当に浅はかです。引退した方が、良いのではありませんか?」
お父様、あなたはもう終わりです。
「だ、黙れ!!!」
その瞬間、パシンっという乾いた音が響き渡った。
左頬がジンジンする。父は私の頬を、力いっぱい叩いていた。
「ロゼッタを地下に連れて行け!!」
使用人達に腕を掴まれ、ベッドから引きずり下ろされる。
その時、慌てたように足音をバタバタとさせて使用人が部屋に飛び込んで来た。
「だ、旦那様! へ、陛下がお見えです!!」
使用人は真っ青な顔で、そう告げた。
どうして、アンディ様が??
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