〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな

文字の大きさ
14 / 42

14、王妃にそっくりな令嬢

しおりを挟む


 「気のせいか、オリビアがずっとレイチェルを見ているようだが……」

 気のせいなんかじゃない。ずっと、視線を感じている。

 「ものすごく、勝ち誇った顔をしていますね……」

 エリック様は私のものと、言いたいのだろうか。正直、エリック様になんの未練もないのだけれど。

 「関わらない方がいいな」

 ディアム様が私の手を取り、その場を離れようとすると、オリビア様とエリック様がこちらに近付いて来た。

 「レイチェル様!」

 そして、呼び止められてしまった。このまま立ち去りたい気持ちでいっぱいだけれど、仕方なく笑顔を作って振り返る。

 「はい?」

 関わりたくなかったけれど、名前を呼ばれてしまったのだから、無視をするわけにもいかない。
 たった今オリビア様は婚約を発表し、そのまま私に話しかけて来た。みんなに注目されている状態で、あからさまに王女殿下を無視は出来なかった。

 「本当に、ごめんなさいね? エリックはレイチェル様の婚約者だったというのに、今は私の婚約者になりました。恨まないでくださいね? 私、レイチェル様から嫌がらせされたことは、全て忘れようと思います。辛かったけれど、今はエリックが側にいてくれますから」

 開いた口が塞がらないとは、このことをいうのだろうか。停学処分まで受けたというのに、まだ私に嫌がらせをされたという神経が分からない。そこまでしても、エリック様を手に入れたかったということなのだろうけれど……

 「謝る必要は、ありません。お二人は、とてもお似合いだと思います。では、失礼しますね」

 オリビア様のことはさらに嫌いになったけれど、これから起こることを考えたら怒る気にもならない。
 私の言葉が意外だったのか、オリビア様はそれ以上何も言って来なかった。エリック様は何か言いたげにこちらをみていたけれど、私達はそのままその場を離れた。

 「ずいぶんと、大人な対応だったな」

 「私は大人ですよ。知りませんでした?」

 オリビア様から離れられたことに安心して、母がすぐ側まで来ていたことに気付かなかった。

 「レイチェル」

 名前を呼ばれて、身体がこわばる。この感じは、振り返らなくても怒っているのだと分かる。

 「お母様……」

 振り返ると、母は貼り付けたような笑顔で私を見ていた。

 「そちらの方は?」

 ディアム様が隣りにいるから、笑顔を作っているようだ。作り物の笑顔を崩さず、視線がディアム様に向けられる。

 「こちらはクラスメイトの、ディアム・モートン様です」

 「そう、モートン公爵家の方ですか。娘と少し話がしたいのだけれど、お借りしてもよろしいかしら?」

 「ですが……っ」

 止めようとしたディアム様の袖を、母に見えないように引っ張る。『母親が娘と二人で話したい』と言っているだけなのに、拒絶したら不審に思われる。小さく「大丈夫です」と告げ、母のあとをついて行く。
 ディアム様には心配かけてしまうけれど、先程オリビア様を見ていた母の様子からして、私達が入れ替えを知っていることには気付いていない。それでも私に怒っているということは、オリビア様が言っていた、私に嫌がらせされたということに対してだろう。殴られるくらいは、覚悟しなければならない。

 会場から出て中庭に出る。
 母はキョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認してから話し始める。

 「先程、オリビア様が仰っていたことは本当なの? まさか、一国の王女様に嫌がらせしたなんて、あなた正気なの!?」

 その一国の王女と自分の子を入れ替えたあなたに、言われたくなんかない。けれど、今の言葉で気付いていないことが分かった。

 「私は、嫌がらせなんてしていません……」

 何を言っても、無駄なのは分かっている。

 「黙りなさい! いったい何様なの!?」

 母は手を振り上げ、私の頬に向かってその手を振り下ろした……

 「なっ……!?」

 振り下ろした母の手を、頬に当たる寸前でディアム様が掴んでいた。

 「何をなさっているのですか?」

 怒りを含んだ声に、母を睨みつける眼差し。大丈夫だと言ったのに、心配でついてきてくれたようだ。

 「こ、これは躾です! 王女様に嫌がらせするような娘を、叱るのは当然でしょう!?」

 「レイチェルは、嫌がらせなどしていない。俺が、保証する。それとも、俺を信じないのか?」

 獲物を追い詰めるような鋭い視線に、母はうろたえている。ディアム様の初めて見る表情に、彼が本気で怒っているのだと感じた。

 「……わ、分かりました。信じます」

 モートン公爵家を敵に回すようなことは、さすがに出来なかったようだ。
 母はそのまま会場に戻り、二人きりになった。

 「……バカか……」

 「え?」

 「君は、バカか!? 殿下にも、俺から離れるなと言われただろう!?」

 「……申し訳ありません。ですが、母は気付いていませんでした。疑われない為には、母の言う通りにした方がいいとお……」

 その瞬間、気付いたらディアム様の腕の中にいた。

 「ディアム様……?」

 私を抱きしめる腕が、震えている。

 「怖かった……君に何かあったらと、すごく怖かった。頼むから、無茶はしないでくれ……」

 震えた声が、震えた腕が、私のことをどんなに心配してくれていたのかを教えてくれる。

 「ごめんなさい」

 腕の中から逃れようと思えば出来たけれど、そうしなかった。彼が落ち着くまでは、もう少しこのままでいよう。


◇ ◆ ◇

 
 レイチェルとクライド伯爵夫人、そしてディアムが会場から出た後、貴族達はレイチェルの噂をしていた。
 オリビアがレイチェルに話しかけた時に、貴族達の目に映ったレイチェルの姿が、あまりにも王妃に似ていたからだ。

 「あの令嬢は、いったい……」
 「あれ程似ているのは、どういうことなのだろうか?」

 王妃にそっくりな令嬢、だが今まで見たこともなかった。レイチェルが貴族達の目に触れたのは、これが初めてだったからだ。
 オリビアは王妃にも国王にも、似ていない。今までは、それを不思議に思う者はいなかった。『わがままな王女』くらいにしか、思っていなかった。それが、レイチェルの存在で変わり始める。

しおりを挟む
感想 135

あなたにおすすめの小説

王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

処理中です...