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28、今日の主役
しおりを挟む会場に入ると、煌びやかな世界に圧倒される。
これが、本物の社交界……
「あら、お姉様じゃない。パーティーに出られるドレスを持っていたなんて、知らなかったわ。そのドレス、素敵ね。でも、お姉様には似合わないわ。私になら、すごく似合うと思わない?」
会場に入ってすぐに、キャロルに会ってしまった。相変わらずな彼女に、安心する。キャロルにとっても、両親を断罪することになるのだからと思っていたけれど、全く罪悪感などなかった。
「俺がレイチェルの為に選んだドレスが、お前に似合うはずがないだろう。鏡を見てからものを言え。それと、今日も臭いぞ」
「ディアム様……いらしたのですね。ドレス、お姉様にお似合いですね! さすが、ディアム様! 父が呼んでいるようなので、これで失礼します」
私の着ているドレスが欲しくて、真っ先に声をかけてきたようだ。キャロルはディアム様が苦手になってしまったようで、彼の姿を見てすぐに離れて行った。
「ディアム様、ありがとうございます」
「ん?」
「何でもありません」
ディアム様は、私を不安にさせたりはしない。
今日私の隣りにいてくれているのが、ディアム様で本当に良かったと思う。
会場内を見渡してみると、すぐにクライド伯爵夫妻を見つけた。二人の人間を殺した後だというのに(本当は生きているけれど)、楽しそうに笑いあっている。特に母は、愛する人の命を狙った。それなのに、どういう神経をしているのだろうか……
「ディアム様、両親に挨拶に行きます」
「分かった、行こう」
ゆっくりとクライド伯爵夫妻に近付き、声をかける。
「お父様、お母様、いらしていたのですね」
私を見た父は嬉しそうに微笑み、母は父の後ろで私を睨み付けた。
「おお! レイチェルではないか! あまりに美しくて、我が娘ながら見惚れてしまうな! ケリーのことは聞いた。可哀想なことをしたな」
ディアム様といる私を見て、上機嫌のようだ。ケリーを始末しろと言ったのは、父だろう。そう仕向けたのは私だけれど、それでも父にはケリーの名を口にして欲しくない。
「お父様……ありがとうございます。お母様も、ケリーが亡くなり悲しいですよね? ケリーは、お母様の侍女だったのですから」
「ええ……そうね。遺体は家族が引き取ったのでしょう? 顔くらい見たかったわ」
自分が殺した侍女の顔が見たいなどと、本気で思っているのだとしたら悪趣味が過ぎる。絶対にこの人だけは、許すことが出来ない。
「お母様の気持ちも考えず、勝手に申し訳ありませんでした。ケリーがあのようなことになってしまい、すぐにご両親の元にかえして差し上げたかったのです」
ケリーの両親にも、全ての事情を話してある。娘が死んだことになるなんて、それしか方法がなかったとはいえ、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「いいのよ。それより、今日はオリビア様のお祝いの日なのだから、悲しい話はやめにしましょう!」
オリビア様のお祝いの日……私にとっても、今日が誕生日なのだけれど。父にも母にも、一度も祝ってもらえなかった。
「そうですね、では失礼します。お二人で、楽しんでください」
「レイチェルも、ディアムと楽しみなさい!」
ずっと上機嫌だった父と、ずっと不機嫌だった母。二人を両親と呼ぶのは、これが最後だ。
オリビア様が姿を現し、貴族達がお祝いを言いに周りに集まっている。
本来なら、陛下がオリビア様を紹介する。けれど今日は、誕生日を迎える王女の紹介はこの後行われる。
「レイチェル、少し話したいのだが……」
貴族達に囲まれているオリビア様から離れ、エリック様が話しかけて来た。
「何ですか?」
エリック様と話すことなど、私には何もない。けれど、話を聞かなければこの後動きづらくなるかもしれないと考えた。
「すまなかった!」
深々と頭を下げるエリック様に、何事かと周りの方達が振り返る。
「やめてください。どうされたというのですか?」
「僕が愚かだったと、キャロルがオリビアに会いに来た時に気付いたんだ。君がずっと、キャロルに酷い目にあわされていたことを知っていたのに……僕は、君を責めてしまった。それに気付いてから、今までのことを思い返したんだ。なぜ僕は、君ではなくオリビアを信じてしまったのか……本当に、すまない……。もう一度、やり直したい。僕には、君しか愛せない」
だからエリック様は、オリビア様に冷たくなっていたのね。
「謝罪は受け取りました。ですが、やり直すつもりはありません。エリック様への気持ちは、すでに消え去っています。私の中には、もうあなたはいない。ですから、私のことは忘れてください」
今の私の心の中にいるのは、ディアム様だと確信した。今も隣りで微笑んでくれる彼が、誰よりも愛しい。私は、ディアム様を愛している。
「そう……か。僕は君を大切にすることが出来なかったのだから、自業自得だな……。レイチェル、誕生日おめでとう」
エリック様は、私の誕生日を覚えてくれていたようだ。
「エリック!? どうして、私の側にいてくれないの!?」
寂しげに微笑むエリック様の隣りに、貴族達から逃げ出して来たオリビア様が並んだ。
「またエリックを誘惑するつもり!? 行きましょう!」
話しかけたのは、私ではないのだけれど……
エリック様はオリビア様に腕を引かれて、連れて行かれた。
「レイチェル」
ディアム様に名前を呼ばれ、私達は一度会場の外に出る。そして、陛下と王妃様、ダニエル殿下と合流する。この後王女として紹介されるのは、オリビア様でなく私だ。
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