〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな

文字の大きさ
31 / 42

31、どこまでも最低な母親

しおりを挟む


 夫人の性格を考えたら、その可能性も考慮しておくべきだった。娘だけを、幸せにしたいと思う人間ではないからだ。
 私は勝手に、オリビア様も私と同じなのだと勘違いしていた。

 「何を言っているの……? 私は、あなたなんて知らないわ!」

 オリビア様は何も知らない演技を続けているけれど、先程夫人を睨み付けていた顔は、全てを知っていたのだと物語っていた。
 いつから……? 夫人は私とオリビア様を入れ替えた後、王宮には近付かなかった。オリビア様との接点なんて、なかったはず……
 たった一度だけ、オリビア様に近付く機会があったことを思い出した。それは、学園のダンスパーティーの日だ。
 オリビア様をいじめたと私を責めた後、母が何をしていたか知らない。あの時、オリビア様に全てを話したのだろう。
 停学が開けた後、大人しくなっていたのは、陛下に叱られたからではなく、真実を聞いたからだったのかもしれない。

 「……もしかして、陛下もご存知だったのですか?」

 「確信があったわけではない。ただ、その可能性もあると思っていた。これでも、オリビアを育てて来た親だからな。お前は、オリビアも知らないのだと疑わなかった。私達も、そう望んでいたのだが……」

 陛下は、オリビア様を信じたかったのだろう。
 この家族は、どれほど私達を苦しめたら気が済むのだろうか。

 オリビア様には、最初からいい印象を持っていたわけではないから、私は大丈夫だ。けれど、陛下や王妃様や殿下にとっては、知りたくなかったことだろう。

 「オリビア様、もう演技は結構です。全てを話してください」

 オリビア様が知ったのは最近のことで、今更それを知ったからと、陛下に話せなかったという気持ちは分かる。けれど、先程の夫人を睨み付けた目には、罪悪感なんて微塵も感じられなかった。

 「……レイチェル様なら、分かるでしょう? 私は、ただ動揺して……」

 私達が入れ替わっていたからと、同じ境遇だったわけではない。私に同意を求めても無意味だ。

 「その女は私の母だと名乗り、近付いてきた。私に感謝しろと言ったわ……冗談じゃない! いっそ死んでくれたら良かったのよ! 私は、何も悪くない。エリックも、分かってくれるでしょう?」

 私の同意を得られないと分かると、エリック様に縋り付いた。

 「君は、どこまでも嘘吐きなのだな。君の口から出る言葉は、どれが真実なのかも分からない。これ以上、僕を巻き込まないでくれ」

 オリビア様を見下ろす目は、ものすごく冷たい。
 
 「エリック……? 私を見捨てるの? 私はあなたを、愛しているの! あなたさえいてくれたら、何もいらないわ!」

 オリビア様の必死な言葉は、エリック様の心には響かなかった。エリック様はオリビア様の手を振り払い、無言でホールから出て行った。
 あなたさえいてくれたら……そう思っていたなら、エリック様にだけは真実を話すべきだった。一途なところは父親似で、狡いところは母親似だったのかもしれない。
 エリック様を追いかけようとしたオリビア様は、兵に止められた。
 
 「離してよ! エリック! 待って! 行かないでー!!」

 オリビア様はもう、ただの被害者ではなくなった。
 それにしても、夫人は本当に意地が悪い。あのままオリビア様は何も知らないと思わせておけば、娘だけは無事で済んだのに……
 自分のことしか考えていないから、娘だけが無事なのが許せなかったということか。

 「クライド伯爵夫人、なぜオリビア様に話したのですか? オリビア様の婚約を発表する姿を見て、幸せそうなオリビア様が妬ましかったのですか? あなたは、本当に腐っている……」

 エリック様の姿が見えなくなり、オリビア様はまたその場に崩れ落ちた。

 「レイチェル……あなたは、十七年も私の娘だったじゃない。育ててあげた恩も忘れて、私を責めるなんていいご身分ね? ああ、王女様だったっけ。あははっ! 王女を私は毎日虐げてやった! 泣きそうな顔を見ると、優越感を得られたわ。日に日に王妃に似ていくあなたを虐げるのは、何より快感だった!」

 私を見ながら、狂ったように話し出す。
 あまりに狂気じみていて、ざわめいていたホール内が静まり返った。
 夫人はまだ、私はあの頃のままだと思っている。

 「それで? 私があなたを恐れているとでも?」

 私はもう、弱くない。あなたが育てた娘は、あなたを地獄に突き落とす存在だ。


 
しおりを挟む
感想 135

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...