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9、マーサちゃん!?
まさか、マーク殿下がそのことを知っているとは思わなかった。それを聞いたブライトも、口を開く。
「エミリーが話していないことを、軽々しく口にしないでください」
「ブライトも、知っていたの?」
「知っていたというより、そんな気がしていた。姉妹なのに、全然似ていないからな」
ブライトは気付いていたのに、何も聞かなかったんだ。一人で何でも背負うなと言われたのに、彼に話さなかったことを反省した。
「父が戻って来るまでは、私から何かをするつもりはありません。バーバラはすでに、自ら自滅してしまったのですから」
私から婚約者であるジョゼフ様を奪い、自分が侯爵家を継ぐのだと思わせた。だけど、バーバラには何も手にすることは出来ない。そしてお父様は、義母とバーバラを許すことはないだろう。
十年前、父が義母とバーバラを連れて来た時、新しい家族が出来るのだと嬉しかった。
父が所有している領地は、地方にもある。王都にある邸に戻るのは、年に四回程度。母が亡くなってからは、私を一人にしないように、一緒に地方へと連れて行ってくれていた。それでも父は仕事が忙しく、一緒に過ごす時間は短かった。
だから父は、私の為に後妻を迎えた。父は母以外愛していない。結婚前に、愛することはないと義母に話していた。その代わり、贅沢な暮らしを約束した。義母はそれを受け入れ、私達は家族になった。そして十年が経ち、欲が出てしまったということなのだろう。
義母に殴られても父に報告しなかったのは、義母に申し訳ないという気持ちがあったからだ。私のせいで、愛されない結婚をしたことに罪悪感を抱いていた。義母は私を殴る度に、『お前の父親は、私を愛さない』と言っていた。結婚前にした約束……いつかは、愛されると思っていたのかもしれない。
「お姉さんがそう決めているのなら、もう何も言いません。あ、これ美味しいです~」
マーク殿下は、デザートを頬張りながら可愛らしい笑顔を見せた。この笑顔を、やっぱり私は知っている……
「マーサちゃん!?」
「……バレちゃいました?」
気まずそうな顔をするマーク殿下。
「でも、マーサちゃんは女の子……のはず」
マーサちゃんというのは、十一年前に知り合った女の子だ。父に連れられて行った地方の地に滞在していた時、一人の女の子と出会った。
女の子はよく笑う子で、とても笑顔が可愛くて、私のことをお姉ちゃんと呼んでいた。
「僕は最初から男ですよ! お姉さんが勝手に勘違いしただけです!」
頬を膨らませて、怒った顔を見せる。可愛すぎて、全く怖くない。
「ドレスを着ていましたよね?」
フリフリのドレスを着た、可愛い女の子だったはず。男の子には、見えなかった。
「あれは姉上達が来る度に、着せ替え人形みたいに僕に着せて遊んでいたんです。それが嫌で、いつも逃げ出していました。その時、お姉さんと出会ったんです。お姉さんが僕を女の子だと勘違いしていたから、思わずマーサだなんて名乗ってしまいました」
じゃあやっぱり、マーク殿下はマーサちゃんなんだ。そういえば殿下は身体が弱く、地方で静養していた。
「でも、どうして言ってくれなかったのですか?」
「女の子だと思われているのに、言えるわけがないではありませんか。僕は男です! 五年前に会った時も、全く気付かなかったですよね? 僕はお姉さんに初めて会った時から大好きだったのに、あんなクズといつの間にか婚約していたし……」
目をうるわせながら、じっと見つめてくる殿下が、マーサちゃんと重なる。
「私も、マーサちゃんが大好きでした。妹のように思っていました」
殿下は目にいっぱい涙を浮かべたまま、固まってしまった。
「さすがに今のは可哀想だ。せめて、弟だろう……」
ブライトは呆れながら、ため息をついた。そんなことを言われても、私にとってマーサちゃんは女の子だ。殿下を好きだとは言えないけれど、マーサちゃんなら心から好きだと言える。
「君に同情されたくありません! これからお姉さんに、僕を男として好きになってもらえばいいだけです!」
すぐに立ち直るところも可愛い。殿下には申し訳ないけど、男性として見ることは出来そうにない。それを言ったら、また落ち込んでしまいそうだから、黙っておくことにした。
「エミリー様、学園長がお呼びです」
食事を終えて食堂から出ると、学園長の侍女が待っていた。ブライトと殿下には、先に教室に戻ってもらい、私は侍女に案内されて学園長室へと向かった。
学園長室の扉を開くと、
「エミリ~! 会いたかったぞ~!」
ものすごい猫なで声で名前を呼ばれ、学園長に抱きしめられた。
「伯父様……苦しいです……」
「おお! すまない! エミリーに会えて嬉しくて、ついな」
学園長は、私の伯父だ。母の兄で、キーグル公爵家当主。義母が私の母だと思っている人達が多く、学園長が私の伯父だと知るものは少ない。
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