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14、さようなら
しおりを挟む「お前っ!? 何を言っているんだ!? お前など、知らん!」
私達が婚約していた頃から、社交の場で何度も会話をしていたのを見ている。マリアンを知らないはずはない。
「ジュラン様!? なぜそのような嘘を仰るのですか!? 私はジュラン様に、ずっと尽くして来たのに……」
本気の涙。マリアンは、本気で彼を愛していた。彼女のことは嫌いだけど、裏切られてツライ気持ちは分かる。
「俺にはローレン以外いらない! お前が何をしようと、一番になれるわけがない! 嘘をついているのはお前だ!」
「ジュラン……お前、最低だな」
ハンク様は呆れ顔で、ジュラン様にそう言った。
「う、うるさい! 全部お前が仕組んだんだな!? 俺から、ローレンを奪おうとしても無駄だぞ!! ローレンは俺のものだ!!」
何度も何度も、『俺のもの』と口にするジュラン様に腹が立って来た。ハンク様が仕組んだ? 彼は、ジュラン様がハンク様にしたことを今まで私に話さなかった。そのような方が、そんなことをするはずがないじゃない!
「いい加減にしてください、ジュラン様。私はあなたにされて来たことを、許すつもりはありません。侮辱し、蔑んでおいて、傷痕がなくなったら手のひらを返すような方を、まだ愛しているとお思いなのですか? あなたを愛したことは、私の最大の過ちです!」
「ローレン……俺を捨てないでくれ!」
「ジュラン様には、彼女が何人もいらっしゃるではありませんか。シンシアさん、ハイリーさん、マリアン、そしてマーニャさん。マーニャさんのことを、覚えていますよね? あなたのせいで、自害した女性です」
「……俺は、お前を選んだんだ。マーニャが自害しようと、俺には関係ない」
ジュラン様のせいで人の命が失われたというのに、関係ないと言うの? この人は、狂ってる。
「それでもあなたは、人間なのですか……?」
「お前は、嬉しくないのか!? この世で一番美しいということだ! 傷が消えて、また俺達は元に戻ることが出来るじゃないか! 子供など、シンシアにくれてやる! 俺達の子を作ろう! きっと美しい子が生まれる!!」
嫌悪感……いいえ、恐怖さえ覚える。容姿に執着する彼は、モンスターのように恐ろしい顔をしている。子供を、なんだと思っているのか……怒りが込み上げてきた。
バシンという、乾いた音が会場に響き渡った。
気付いたら、怒りに任せて彼の頬を思い切り叩いていた。
「あなたに子を育てる資格はありません! 美しい? それがなんだと言うのですか!? あなたに必要なのが容姿だけなら、自分の好みの人形でも作って結婚してください! 中身のないあなたを、愛する人なんかいない!!」
感情的になってしまうなんて、大人気ない。叩かれたことに驚いているのか、私が感情的になったことに動揺しているのか、彼は殴られた頬に指先で触れながら身動きひとつしない。
この人に何を言っても、心を変えることなんて出来ないのは分かりきっている。自分だけが大事なジュラン様は、他人が全て道具だと思っていて、いらなくなったら表情ひとつ変えずに捨てる。
その時、会場の入口から兵士達が入って来た。ジュラン様を捕らえに来たようだ。
あなたはもう終わり。沢山の貴族の前で、あなたの本性は暴かれた。貴族は意外とお喋りだから、マーニャさんとシンシアさんのことが国中に広がるのは時間の問題だ。
「ジュラン・ノーグルだな? 国を偽った罪で、連行せよとの命がくだされた。一緒に来てもらおう」
抵抗することもなく、大人しく着いて行く。
殴られたことが、それほど堪えたのだろうか……そう思いながら、連行されて行く後ろ姿を見ていたら、ジュラン様は振り返った。
「ローレン! すぐに戻るからな! また一緒に暮らそう! 俺達は、結ばれる運命だ!」
会場にいる出席者達も、ジュラン様は異常だと認識したようだ。特に女性達の顔が、引きつっている。
彼に出会った時、こんな日が来るとは思わなかった。
ジュラン様、さようなら。私はあなたに、二度とお会いしたくありません。
ハンク様が、そっと私の手を握ってくれた。この手を、離したくない。
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