13 / 17
13、真実が明らかに
しおりを挟む「離したくないが、仕方ないか」
馬車が止まると、名残惜しそうに離れる。私も離れたくないけど、抱き合ったまま会場に入るわけにはいかない。
これから私は、ジュラン様を追い詰めようとしている。ハンク様と想いが通じ合ったばかりだというのに、嫌われてしまうかもしれない。
そう考えると怖いけど、これが今の私だ。
ハンク様にエスコートしてもらい、会場へと足を踏み入れる。私達に気付いた1人の令嬢が、まるで幽霊でも見たかのように驚いた顔で固まった。
固まっている令嬢に向かってウィンクをすると、彼女は『きゃ~』と、黄色い声をあげた。
「ローレン様のお顔が……」
「やはり、お美しい……」
今まで見下していたのに、傷が消えただけで手のひらを返す。
「ローレン!?」
周りから視線が集まる中、ジュラン様が私達に気付いた。
「ジュラン様、いらしていたのですね」
出席していることを知らなかったフリをして、ジュラン様に笑顔を向ける。
「傷痕が、消えたのか……やはり、お前は綺麗だ。だが、なぜハンクといるんだ!? 離れろ!!」
傷痕が消えた途端、私の顔をずっと見つめるジュラン様。今となっては、この人の何を愛していたのか分からない。
「離れるのは、あなたです。私達の結婚は、無効になりました。ジュラン様の子を生んでくれたシンシアさん……ではなく、新しい彼女のハイリーさんとお幸せに」
「ローレン……? 何を言っているんだ!?」
私が反撃するなんて思っていなかったのか、本気で動揺している。引き止めようと、私に手を伸ばした。
「触るな! 穢らわしい!
あぁ、ごめんなさい。ジュラン様の愛人に、毎日侮辱されていたので、言葉使いが悪くなってしまったようです。ですが、これが私の本心です」
「お前は、俺のものだ! 誰にも渡さない! ローレン……愛しているんだ!」
正気を失ったように、目が血走っている。彼の愛は、ただの執着としか思えない。
「ジュラン様の愛は、随分薄っぺらいのですね。そういえば、他の令嬢はシンシアさんより醜いと仰っていましたものね。他の方との結婚は、考えられないのですよね?」
私の言葉に、会場にいる令嬢達の表情が変わる。
「それは、聞き捨てなりませんね!」
誰よりもプライドが高いマリアンが、黙っているはずがなかった。
「ローレン、あなた自分が醜いと言われたからって、そんな嘘をつくなんて……見損なったわ!」
最初から、見損なわれるような仲じゃない。
「嘘だと思うなら、私ではなく直接本人に聞いたらどう? ねえ、シンシアさん」
会場の入口から、レイバンがシンシアさんを支えながらこちらに歩いて来る。
「な!? なぜ、お前がここにいるんだ!?」
シンシアさんを見て、顔が青ざめていくジュラン様。
子を生んですぐに、ジュラン様に追い出されたシンシアさんを、レイバンが見つけた。レイバンが夜会に連れて行きたいと言った人物は、シンシアさんだったのだ。
邸から追い出されたシンシアさんは両親を亡くしていて、行く宛てもなく、お金もなく、街をフラフラと歩いていた。そんなシンシアさんを偶然見かけたレイバンが、ジュラン様の愛人だとは知らずに声をかけたそうだ。
まさか、シンシアさんが私の味方についてくれるとは思っていなかった。子を奪われ、無惨に捨てられた怒りから、子を産んだばかりの辛い体でも、この場に来て彼の本性を証言したいと言ってくれた。
「ジュラン様……私の子を、返してください! 私を愛していると仰ってくれたのは、全て嘘だったのですか!? 令嬢達なんかより、私の方が美しいと言ってくれたではありませんか!!」
シンシアさんは、本当に美しい。だからこそ、ジュラン様がそう言ったのだと裏付けられた。自分達は、シンシアさんに負けていると思ったのか、反論する者は誰一人いなかった。
……くだらない。
誰かと比べる必要なんて、ありはしないのに。容姿だけが全てだと思っているジュラン様は、決して誰も愛せないだろう。
「お、俺は、そんなことを言った覚えはない! 他の令嬢は、ローレンより醜いと言っただけだ!」
墓穴を掘るとは、このことを言うのだろう。自ら認めてしまったジュラン様のことを、令嬢達は睨みつけている。そんな中、マリアンは涙目になっている。まさか、マリアンはジュラン様に好意を持っていたのだろうか……
だとしたら、私をあんなに嫌っていたことにも納得が行く。
「ジュラン様……そんなの、嘘ですよね? 私が一番だと、仰ってくれたではありませんか……」
まさかジュラン様が、マリアンにも手を出していたとは……
1,680
あなたにおすすめの小説
離縁した旦那様が、今になって後悔の手紙を送ってきました。
睡蓮
恋愛
乱暴な言葉を繰り返した挙句、婚約者であるロミアの事を追放しようとしたグレン。しかしグレンの執事をしていたレイはロミアに味方をしたため、グレンは逆追放される形で自らの屋敷を追われる。その後しばらくして、ロミアのもとに一通の手紙が届けられる。差出人はほかでもない、グレンであった…。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました
ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」
大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。
けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。
王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。
婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。
だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから
越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。
新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。
一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる