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愛しています
しおりを挟むリサが王妃になってから、2年が経った。
「リサ! 休んでいないとダメではないか!!」
「陛下は心配し過ぎです。私は病気ではありませんよ!」
リサのお腹には、新しい命が宿っていた。
「1日に何回おいでになるおつもりですか!?
陛下が公務をなさらないと、臣下達が困っていましたよ。」
ロベルトは妊娠中のリサが気になり、日に10回は様子を見に来ていた。
「気になり過ぎて、公務が手につかないのだ。」
毎日こんなに会いに来てくださるのはとても嬉しいですが、生まれる前からこんなに過保護だと、先が思いやられます。
「陛下、公務に戻ってください。でないと、夜はおひとりで寝ていただきます。」
「な!? それは嫌だ!! 君がいないと、眠れそうにない!!」
最近の陛下は、まるで子供みたいです。
そんな陛下も、好きですけど……
「では、執務室に戻ってください。」
「……わかった。
ちゃんと休んでいるんだぞ!
ルビー、リサを見張っていてくれ!!」
陛下は渋々、執務室へと戻って行きました。
カイト様がこの国の情報を売ったことで、この2年はとても忙しくしておられました。
デシタニアにいた密偵は全員捕らえられ、拷問を受けていました。カイト様が全て自白した事で、デシタニアと交渉し、捕らえられていた密偵を救う事は出来ましたが、すでに半数以上の密偵が命を失っていた。
デシタニアは汚い手を使って情報を手に入れた事を、他の国に知られたくはなかったようで、交渉はスムーズに進みました。
ですが、カイト様が売った情報で、多くの命が失われました。
今までの国境の兵士の配置さえ知られているので、全てを見直さなければならなくなり、陛下はずっと気持ちを張り詰めていらっしゃいました。
カイト様が売った情報の後始末は終わったのですが、陛下のお顔はお暗いままでした。亡くなった方々はもう生き返らない……それが、お辛かったのでしょう。
私に子が出来たことで、陛下の笑顔を久しぶりに見る事ができ、少しだけ安心しております。
「陛下がお元気になられて、本当に良かったですね。」
「そうね。」
陛下はカイト様を見逃そうとした事を悔いています。亡くなった方々に申し訳ないと、心を痛めていらっしゃいます。
私の事を思ってくださっての事……陛下には、大変申し訳なく思っております。
「陛下にお茶をお出しするわ。美味しいお茶の淹れ方を教えてくれる?」
陛下の為に出来ることをしたい。
「また心配されますよ?」
「この子が生まれるまで、私に動くなって言いたいの? それは無理ね。陛下にも、分かっていただかないと。」
この国の為に、陛下の為に、そしてこの子の為に、私は私の出来ることをします。
陛下、私は守られているだけの存在ではないことを、証明させていただきます!
「それから、ハンナを呼んでくれる?
これからのお茶会の事を話し合うわ。側室はハンナだけになってしまったし、王室の行事はハンナに任せようと思う。」
「よろしいのですか? ハンナ様は、王妃様を……」
私を前王妃様と一緒に虐めていた。
でもそれは、仕方のないことだと思う。
「ハンナも王室の一員よ。陛下に尽くしてもらわないとね。」
もう二度と、国を裏切る者が出ないようにしなければなりません。その為には、近くにいる者の不満をなくすことから始めようと思います。
「陛下、お茶をお持ちしました。」
執務室にお茶を運ぶと、陛下はものすごく驚いていました。イスから立ち上がり、慌てて私に駆け寄って来て、
「何をしているんだ!?
休んでいなくては、ダメじゃないか!!」
そう言って、無理やりソファーに座らされました。
「陛下、心配はいりません。安定期に入りましたし、これからは私がお茶をお持ちします。
私から会いに来ますので、陛下は臣下達が困らないよう、公務に集中なさってください。」
「……君は、強くなったな。」
「当たり前です。もうすぐ、母になるのですから。」
「そうだな。私も、強くならねばならないな。」
笑顔を向けてくださる陛下に、私はもう一度恋をした。
陛下、愛しています。これからも、ずっと……
END
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