神様 NEW GAME

伊織 アヤト

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ゼウスの助言

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【アルディア創世歴一〇〇五年】


 太陽が高く昇り、少しも影を作らんと言わんばかりに光を大地へ照りつける。聞こえる虫の声も一週間前とは異なっているようだ。
 
 この年の梅雨は例年に比べて長く、雨が何日も降り続いた。梅雨の間はあまり気温が上がらず、明けてからの夏は一段と暑く感じた。


 「あぁ…暑い…」


 ゲオルギア家の一室。アトス・ゲオルギア、五才。
 
 金色に輝く艶のある髪、ぱっちりとした大きな目、女性とも思える中性的な顔立ち、少しだけ成長したアトスは神であった頃と変わらぬ美貌を備えていた。違うのは幼さくらいだろうか。

 そんな彼は椅子の背にもたれ掛かり、本を読みながら項垂れている。

 日照不足により農作物への不安があった村人にとっては待ちに待った太陽の光であったが、アトスにとってはそうではなかったようだ。


 「神界にいた頃は暑さなんてなかったからなぁ」


 彼は現在、神であった頃の記憶があった。産まれた時はその記憶はなかったのだが、甦ったと言うべきか。そのきっかけは先日起こった出来事へ遡る。




 彼は数日前にこの世界で五才となった。家族に祝われ、その暖かみと興奮で眠れなかった夜のことである。急に胸のアザが熱を持ち、アトスは意識を失ったのだ。

 目の前が暗転した直後、白の世界へと視界が切り替わる。

 そうして創造神が現れた。


 「やっほー!アトスちゃん!ワシの可愛い一人娘!」


 記憶にかかった靄が消し飛ぶ。アトスはじわじわと滲み出てくる記憶を辿り、創造神の名前を見つけた。


 「ゼウス…さま…?」


 「そうじゃ!ゼウスじゃよ!久しぶりじゃのう。元気そうで何よりじゃ。そして幼いアトスちゃんも…ありじゃな!」


 五年前、神から人間となる時にゼウスとはもう会う事は出来ないと思っていたが、彼はいつもの調子で目の前に現れたのだった。


 「ゼウス様…。色々とありがとうございます」


 「うむ。記憶が戻ったようじゃな」

 
 アトスの五年前に生まれ変わる際、ゼウスへと願った事。渡した紙に記載した内容には人間になることに加えて、記憶の引き継ぎも含まれていた事を思い出す。

 ただ、引き継ぎの方法までは願った時点では分からなかった。その為、人間となったアトスの前にゼウスが現れている現状に少し驚いた。

 神が人間に対し、直接的な干渉を行うことは禁忌である。そのような取り決めが神界にはあった。いくらアトスが元神であろうが、今は人間。その事を思い出しながらアトスは焦るように訪ねる。


 「か、神がこのような干渉を行ってもよろしいのでしょうか?」


 ゼウスは微笑みながらアトスの肩に優しく手を置く。


 「構わんよ。創造神が決めた事じゃ。それに記憶を掘り起こす事はアトスちゃんの報酬に含まれておるからの。誰にも文句は言わせんわい」


 元々はゼウスが決めたルールである。それを覆したとしても誰も何も言うまい。ただゼウスがそこまでした事はアトスの知る限りはなかった。


 「まぁ、可愛いアトスちゃんの為じゃ!深く考えるでないわい。せっかくここまで来たんじゃから…ついでにアトスちゃんの為にいくつか助言をさせてもらおうかの」


 もうルールは何処へ行ったのかと脳裏に過ったが…ゼウスの好意である。何も言わず、有り難く頂戴しておこうとアトスは思ったのであった。

 アトスが授かったアドバイスは三つ。

 今は加護を使いこなすように努力をする事。
 村の子どもと仲良くする事。
 そしてヤスラ大森林奥地にある神樹を目指す事。

 アトスはゼウスから授かった助言を胸に刻み、先ずは加護について学ぶ事を決めたのであった。



 そして現在に至り、アトスは今日もゲオルギア家、ケビンの書庫にて加護についての勉学に励んでいる訳である。

 ケビンの書庫はそれなりの本が揃っていた。だが本人曰く、自分は読んだことはない、だそうだ。歴代の村長が収集したものがほとんど。加護の本はジークが研究の為に集めたものを王都へ出向く際に村長宅に寄贈したらしい。


 「さて、一通り家にある加護についての書物は読み終えた。次は…実践…かな」


 神としてのアトスは加護の知識は持っていた。ただ人間として神の能力を使用する事は初めてである。少し不安な気持ちを抱えながらもアトスは部屋の中央に立つ。


 「まずは輪廻の加護の能力を…」


 アトスは目を閉じ、加護の力をイメージする。

 するとアトスの全身が淡く光り、アザが疼く。そして仄かに青い膜が身体を覆った。


 「…うん、上手くいった。身体が少しだけ軽くなったかな」

 
 輪廻の加護は身体能力を上昇させるものである。アトスは神だった頃にはこの加護を様々な生命に授けた事があった。ある者は翼を得たように天高くまで跳躍したり、またある者は自分の背丈より数倍はある大岩を素手で砕いた。使い手により能力の大小はあるが、非常に使い勝手の良い能力だとアトスは感じていたものだ。


 「これ、やっぱり便利だよね。ちょっと出力をあげて…」


 部屋の角へ移動したアトスは部屋の反対へとジャンプを試みる。そして力の調節を失敗した。

 ジャンプしたと同時に反対側にある本棚が引力を持ったかのようにアトスと本棚の距離が縮め、ドンッと大きな音が聞こえた。そして収用された本が一斉にアトスへと降り注いでいったのであった。

 
 「…いてててて」


 部屋のドアが勢いよく開く。


 「どうしたの!?」


 母マリアが血相を変え、部屋を見渡し、アトスと目が合う。


 「大丈夫、アトス!?怪我はない!?」


 「お母様、大丈夫です」


 「もう!心配させないで!可愛い顔にキズがついたらどうするの」


 可愛い顔は男の子としてどうなのか心にキズを作るアトス。その後、書庫で何をしていたか問われ、加護の練習とは言わない方が良さそうだと思ったアトスは咄嗟に本棚の童話集を取ろうとして落ちたと伝えた。次の日から本棚の前には可愛い動物の描かれた椅子が置かれるようになる。

 そして加護の実践は次回から外でしようと反省したのであった。
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