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21.新国王 フィリップ
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綺麗な星空だった。
フィリップは、仰向けに寝転んで、夜空を見上げた。
ウッドフィールドを発って、二十日以上が過ぎていた。
リックも、レティシアも、アンヌも、ハリーも、みんな今頃、どうしているだろう。
王都アルカンスィエルでの決戦を、明日に控え、フィリップは、それぞれの顏を思い返していた。
フィリップは、九月の末日、皆の出立より一足先に、ウッドフィールドを発った。
リヴィングストン伯爵の行き届いた手配により、馬を乗り継ぎ、街道を全速力で駆け抜け、四日でユースティティアまで戻り、すぐさまユースティティア軍に合流した。
頼る者のないフィリップを案じたリヴィングストン伯爵は、サヴァティエ公爵・・・、現在、ユースティティア軍の総指揮を取るサヴァティエ総司令官に、手紙を書いた。
サヴァティエ総司令官とリヴィングストン伯爵は、旧知の間柄で、師弟関係にあった。
若い頃、ユースティティアに遊学していたリヴィングストン伯爵は、軍事、政治、経済、芸術、あらゆる学問をサヴァティエ総司令官に師事した。
また、サヴァティエ総司令官にとっても、リヴィングストン伯爵は、愛弟子であった。
リヴィングストン伯爵が、サヴァティエ総司令官宛てに書いた手紙の内容を、フィリップは、知らなかった。
ただ、リヴィングストン伯爵からの手紙を受け取ったサヴァティエ総司令官は、フィリップを手元に置いた。
十七歳の、まだ一人前とは言い難い若者を手元に置き、保護した。
つまり、戦いの最前線から、切り離そうとしたのだった。
フィリップは、それに納得しなかった。
サヴァティエ総司令官が、自分を守ろうとしてくれていることはわかった。
けれども、それは、フィリップの望んでいることではなかった。
フィリップは、サヴァティエ総司令官に最前線への配置を願い出た。
顔に深い皺の刻まれた白髪豊かな、六十八歳になる総司令官は、フィリップの顔を見据えて言った。
「覚悟は出来ているのか?」
「もちろんです」
「何故、死に急ぐ?君はまだ若い。この戦いを生き残って、新しいユースティティアのために、生きたいとは思わないか?ロバートも、それを望んでいる」
サヴァティエ総司令官は、リヴィングストン伯爵をファーストネームで呼んだ。
「お気持ちは有り難いですが、それは、私の望みではありません。私は、一兵卒として、戦うつもりです」
「野心はないのか?」
「野心?」
「君は、庶子とはいえ、王家の血をひく。戦いが終わって、ユースティティアが新たな門出を迎える時、ふさわしい地位に付けるかも知れない。望めば・・・、ユースティティアに君臨できるかもしれないぞ」
サヴァティエ総司令官が、何故、そのような問いをするのか、その真意は、フィリップにはわからなかった。
ただ、フィリップは一度もそのようなことを考えたことが、無かった。
この戦いを、生き残れるとも思っていなかった。
そして、生き残ったとしても、新しいユースティティアを支配するなどとは、夢にも考えたことが無かった。
それは、自分以外の誰かの仕事だ。
でも、もし・・・、万一、生き残ることができたなら・・・。
そこまで考えて、フィリップは、おかしくなって、ふっ、と笑った。
「何がおかしい?」
急に、微笑みを漏らしたフィリップを、サヴァティエ総司令官は訝しげに、見つめた。
失礼しました、と答えて、フィリップは真顔に戻ったものの、生き残ったら、リックのような御者になりたい、と考えた自分が、やっぱりおかしかった。
「失礼しました。私は、一兵卒です。それ以上のことは、望みません。そもそも、この戦いを生き残れるとは、思っていません。戦いに身を投じて、国の為に死ぬことが、本望です。万一・・・、万一、この戦いを生き延びたなら、ユースティティアの一貴族として、国の再建に力を尽くしたいと思います」
私欲のない眼だ。
純粋な、美しい瞳だ。
けれども、まだ十代の危うさも潜んでいる。
フィリップのその瞳を見て、サヴァティエ総司令官は、そう思った。
いいだろう、サヴァティエ総司令官は、フィリップの願いを聞き入れた。
ユースティティアとグラディウス、その一進一退の攻防は、凄惨を極めていた。
けれども、グラディウスのアレクセイ国王が、前線を離れ、グラディウスの王都に帰還していたことは、少なからずグラディウス軍の士気に、影響を与えていた。
それは、ユースティティア軍にとって、大きく有利に働いた。
じわじわ、グラディウス軍を押し戻し、王都アルカンスィエルの奪還が、現実になり始めていた。
一週間前、アルカンスィエルを目前にした、ユースティティアの命運を賭けた死闘で、辛勝したユースティティア軍は、勢いづいた。
あと一つ、あと一つ勝てば・・・、王都アルカンスィエルが、ユースティティアの手に戻って来る。
兵士たちの士気は、大いに上がった。
けれども、フィリップの胸には、違った思いが、去来していた。
それで、明日の決戦を目前にし、ひとり部隊を離れて、草原で寝転がり、夜空を眺めていたのだった。
フィリップは、仰向けに寝転んで、夜空を見上げた。
ウッドフィールドを発って、二十日以上が過ぎていた。
リックも、レティシアも、アンヌも、ハリーも、みんな今頃、どうしているだろう。
王都アルカンスィエルでの決戦を、明日に控え、フィリップは、それぞれの顏を思い返していた。
フィリップは、九月の末日、皆の出立より一足先に、ウッドフィールドを発った。
リヴィングストン伯爵の行き届いた手配により、馬を乗り継ぎ、街道を全速力で駆け抜け、四日でユースティティアまで戻り、すぐさまユースティティア軍に合流した。
頼る者のないフィリップを案じたリヴィングストン伯爵は、サヴァティエ公爵・・・、現在、ユースティティア軍の総指揮を取るサヴァティエ総司令官に、手紙を書いた。
サヴァティエ総司令官とリヴィングストン伯爵は、旧知の間柄で、師弟関係にあった。
若い頃、ユースティティアに遊学していたリヴィングストン伯爵は、軍事、政治、経済、芸術、あらゆる学問をサヴァティエ総司令官に師事した。
また、サヴァティエ総司令官にとっても、リヴィングストン伯爵は、愛弟子であった。
リヴィングストン伯爵が、サヴァティエ総司令官宛てに書いた手紙の内容を、フィリップは、知らなかった。
ただ、リヴィングストン伯爵からの手紙を受け取ったサヴァティエ総司令官は、フィリップを手元に置いた。
十七歳の、まだ一人前とは言い難い若者を手元に置き、保護した。
つまり、戦いの最前線から、切り離そうとしたのだった。
フィリップは、それに納得しなかった。
サヴァティエ総司令官が、自分を守ろうとしてくれていることはわかった。
けれども、それは、フィリップの望んでいることではなかった。
フィリップは、サヴァティエ総司令官に最前線への配置を願い出た。
顔に深い皺の刻まれた白髪豊かな、六十八歳になる総司令官は、フィリップの顔を見据えて言った。
「覚悟は出来ているのか?」
「もちろんです」
「何故、死に急ぐ?君はまだ若い。この戦いを生き残って、新しいユースティティアのために、生きたいとは思わないか?ロバートも、それを望んでいる」
サヴァティエ総司令官は、リヴィングストン伯爵をファーストネームで呼んだ。
「お気持ちは有り難いですが、それは、私の望みではありません。私は、一兵卒として、戦うつもりです」
「野心はないのか?」
「野心?」
「君は、庶子とはいえ、王家の血をひく。戦いが終わって、ユースティティアが新たな門出を迎える時、ふさわしい地位に付けるかも知れない。望めば・・・、ユースティティアに君臨できるかもしれないぞ」
サヴァティエ総司令官が、何故、そのような問いをするのか、その真意は、フィリップにはわからなかった。
ただ、フィリップは一度もそのようなことを考えたことが、無かった。
この戦いを、生き残れるとも思っていなかった。
そして、生き残ったとしても、新しいユースティティアを支配するなどとは、夢にも考えたことが無かった。
それは、自分以外の誰かの仕事だ。
でも、もし・・・、万一、生き残ることができたなら・・・。
そこまで考えて、フィリップは、おかしくなって、ふっ、と笑った。
「何がおかしい?」
急に、微笑みを漏らしたフィリップを、サヴァティエ総司令官は訝しげに、見つめた。
失礼しました、と答えて、フィリップは真顔に戻ったものの、生き残ったら、リックのような御者になりたい、と考えた自分が、やっぱりおかしかった。
「失礼しました。私は、一兵卒です。それ以上のことは、望みません。そもそも、この戦いを生き残れるとは、思っていません。戦いに身を投じて、国の為に死ぬことが、本望です。万一・・・、万一、この戦いを生き延びたなら、ユースティティアの一貴族として、国の再建に力を尽くしたいと思います」
私欲のない眼だ。
純粋な、美しい瞳だ。
けれども、まだ十代の危うさも潜んでいる。
フィリップのその瞳を見て、サヴァティエ総司令官は、そう思った。
いいだろう、サヴァティエ総司令官は、フィリップの願いを聞き入れた。
ユースティティアとグラディウス、その一進一退の攻防は、凄惨を極めていた。
けれども、グラディウスのアレクセイ国王が、前線を離れ、グラディウスの王都に帰還していたことは、少なからずグラディウス軍の士気に、影響を与えていた。
それは、ユースティティア軍にとって、大きく有利に働いた。
じわじわ、グラディウス軍を押し戻し、王都アルカンスィエルの奪還が、現実になり始めていた。
一週間前、アルカンスィエルを目前にした、ユースティティアの命運を賭けた死闘で、辛勝したユースティティア軍は、勢いづいた。
あと一つ、あと一つ勝てば・・・、王都アルカンスィエルが、ユースティティアの手に戻って来る。
兵士たちの士気は、大いに上がった。
けれども、フィリップの胸には、違った思いが、去来していた。
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