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転生したらしいよ
暴飲暴食をしても許される日は?
誕生日にクリスマス。
大晦日と…正月もだ。
暴飲暴食なんて言っても、食うより飲む派。特別な日の暴飲は肝臓も許してくれる気がするから不思議だ。
財布事情から、ちょいと高めの女の子がいるような店には行かない。
学生の頃は居酒屋の飲み放題コースが定番。大学を卒業してからは、居酒屋のランクをちょびっと上げて、趣のある静かな居酒屋でちびちびと日本酒を飲んで大人ぶったりする。
好きなのはハイボール。
焼酎はちょっと苦手だけど、チューハイならイケる。
財布に余裕がある日は日本酒を楽しむ。翌日が怖いけどな。
体質かな?
そういえば、二十歳の祝いに1回だけ男友達と女の子がいる店で飲んだことがある。正直、俺には合わなかったわ。
弁が立つわけでもなく、話題を広げるだけの知識もない。
お金出して可愛い子を侍らすより、その分を酒代に回す方が俺に向いていると理解した。
なんて言っても、そこまで酒が強いわけじゃないけどな。
まぁ、それ以前に、女の子の店になんて行ったのバレたら説教コースだわ。
誰に?って彼女にだよ。
大学はEランク。平均的な身長に、ひょろっとした筋肉なし男の俺にも彼女がいるんだよ。
顔立ちは良くもないけど悪くもない。平均的だと思うのに、「なんでお前に彼女できて俺にできねぇんだよ!」といじけるくらいモテなかったわ。
それが、大学卒業前に彼女ができました。
めっちゃ美人よ。
でも、めっちゃ酒飲むんだよ。
笑っちゃうくらい強い。
出会いは某居酒屋チェーンだらかね。
酔っぱらい同士が出会って、お酒談議で意気投合。「好きだ。付き合ってください」なんて告白はしてないけど、気づけば酒飲み友達になってて、なんとなく同棲が始まった感じ。
フィーリングが合うのかな。
居心地がいいんだ。
こんな俺のどこがいいのか聞いたことがある。
彼女曰く「ケイくん、浮気しなさそう。女に貢ぐよりお酒に貢ぐでしょう?」だって。
正解。
なんで金かけてまで修羅場確定の女と浮気しなきゃなんないんだ。リスクは回避するものだ。
暴飲も金かけたリスクだろ?って思うだろうが、俺はアル中じゃない。休肝日も決めてあるし、月に幾ら使うかも考えて酒を買っている。
これでも、ちゃ~~んと自分の許容量を計算してるんだよ。
当然、ケーサツ24時みたいなやつに出てくる酔っ払いのような醜態を晒したことはない。てか、そこまで飲むと決めてる時は家飲みだ。
家飲みサイコー!
つまみは、スーパーの割引シールが張られたお惣菜。
酒は缶チューハイが中心かな。缶チューハイはタコかレモン系と決めてるけど、奮発する日は迷わずハイボールだ。果物系の甘いやつは好きじゃない。あれはジュースだ。
超安上がり男だろ?
んでも今日は大晦日。
1年の締めに多少の贅沢は許される……はず。
クリスマスにも言った気がするけど!
「ケイくん、ケイくん。目ぇすわってるよ~」
「……寧々?」
酔ってるつもりはなかったけど、酔ってんのかな?
確かに、頭がぼんやりふわふわしてるわ。
胡坐を組みなおして、円いこたつテーブルの真ん中に置いた土鍋を見る。カセットコンロの火を落としてるから、白く固まりつつある豚の脂と、少しだけ残った白菜とキノコが食欲を減退させる冷え冷え感だわ。
ただ、この汁には豚しゃぶや鶏団子、牡蠣なんかの旨味が凝縮されている。水炊きだから、朝になったら味噌汁にすると旨い。
餅って買ってたかな?
まぁ、いいや。
鍋の周りには野菜を盛っていた大皿や取り皿、箸が転がっている。カーペットの上には、空のハイボール缶やワインボトルがボウリングのピンみたいに並ぶ。
寧々こだわりの並べ方だ。
「ケイくん、お蕎麦は?年越し蕎麦。緑のカップ麺だけど食べる~?」
「も……腹いっぱい…」
酔ってると自覚したからか瞼が重くなってきた。
うつらうつらと頭を揺らしつつ、さして顔色の変わっていない寧々を眺める。
マジで寧々は強いわ。
先祖にウォッカを浴びるほど飲んでたロシア人でもいるんじゃないか?
目は色気ったっぷりに蕩け、口調は舌足らずの甘えたになってるけど、頬に赤味は一切ない。
マドラー代わりの箸を使い、上機嫌に芋焼酎のロックを作っているのだから俺以上に飲む。蟒蛇だ。
もこもこしたパジャマ兼部屋着の下は、ボンキュッボン!の拝みたくなるスタイルなのに、飲んで飲んで飲みまくる。かといって、頻繁にトイレに行くわけでも、腹が膨れてくるわけでもない。人体の謎を詰め込んだ体をしている。
前の彼氏は、それに呆れ、「君はアル中になりそうだな」と去って行ったらしい。
ちなみに、下戸な上に浮気ナルシスト野郎だったと鼻で笑っていた。
馬鹿な男だよ。
1.8ℓの紙パック芋焼酎が似合う美人なんて他にいないぞ?お洒落なカクテルじゃなくて芋焼酎っていうのが最高にいいのにな~。
あぁ~やべ。
酔っぱらって頭が回らん。
うつらうつらする視界の隅っこに、音声を絞ったテレビが除夜の鐘を撞きに来た参拝客を映している。
静謐とした寺に、しんしんと粉雪が舞う。
これぞ日本の大晦日だな。
彼女と酒飲んで、腹いっぱいで、あったかこたつ。
幸せか!
「ケイくぅ~ん。寝ちゃうのぉ?カウントダウン、これからなのに~」
へへ、とだらしなく笑った寧々の声を最後に、俺の頭はかくんと落ちた。
「ケイデン!ケイデン・アニシモバ!」
一喝に、ハッ、と頭を上げる。
周囲を見渡すと、くすくすと嘲笑混じりの声が広がった。
ああ、やってしまった。
神経質そうな分厚い眼鏡の教師が、パシパシと教鞭を鳴らしながら、「次に寝たら留年も覚悟したまえ」なんて肩を怒らせて教壇に戻って行く。
手元に広げた教科書に点々と落ちた涎を制服の袖で拭って、再開した授業に耳を傾ける。
教師が流暢に喋る言葉も、開いた教科書の細かな文字の羅列も、全てが外国語だ。
今も昔も外国語は苦手だ。きっと未来でも苦手だ。
俺は母国から出ないのにな。
ここ、アザレンカ王国は海とは縁遠い大陸の真ん中に位置している。
小さくはないが、大きくもない。
可もなく不可もなく、戦争がないだけ御の字の国だ。海に出るには国の西方を流れる大河から、3ヵ国に通行料を払いつつ下って行かなければならない。一攫千金だ!の前に、往復の通行料でゲボが出ると思う。
貧国ではないが、富国でもない。
唯一、胸を張って自慢できるのは、アザレンカ人の女性は美人が多い!ということだ。
その強みを生かし、前国王の妹が大国に嫁いでいる。現王女も大国と縁を繋いだと聞く。それを後ろ盾に侵略戦争を仕掛ける輩がいないと言われているけど、実際は旨味のない国なので放置中と言った方が正しい。
故に、家を継ぐ嫡男やスペアくん以外は、他国とパイプを繋ごうと躍起になる。
俺が寝こけたここは、貴族の子女が通う学園だ。
これでも俺は領地もち貴族の子。
領地って言っても猫の額ほどの狭い領地だ。一応、歴史だけは古いが、先祖を遡るとたまたま武功を立てた平民モブ兵士に辿り着く。
細々とした領地経営で、なんとか生き残ってる子爵家にすぎない。
そんな子爵家の四男に生まれては、貴族の子としてはほぼ無価値。
貧乏暇なし子沢山は、何も平民だけじゃない。下っ端貴族にも当てはまる。
んで、そういう子息こそ死に物狂いで勉強しなきゃなんないんだけど、俺は外国語アレルギーなのだ!
まったく頭に入ってこない。
最悪なのが、この学園の授業の選択教科は、選択という名の外国語一択だ。
何を選択するのかといえば、学びたい国の言語だ。
5ヵ国語から選べるのだが、時間割の調整次第で最大3ヵ国語の選択ができる。当然、猛者たちは3ヵ国を選択する。俺なんて1ヵ国で呼吸困難なのに!
普通はさ、音楽、絵画、ダンスとか選べるんじゃないの?
なんで全部外国語なんだよ!
さっき、俺が叱られて笑った奴らの中にも、外国語が苦手な奴は多い。お前らだって1ヵ国語選択者だろうがよ!
目くそ鼻くそめっ!
まぁ、それを悟らせないのが貴族ってものらしい。
俺はいいんだよ。
平民になるんだから。
みっちりと語学の授業が終わった後は、国史と宗教学を終え、ようやく解放される。
貴族の子供っていうのは、幼少期から家庭教師によって基礎的な学問は学ぶんだよ。音楽やダンスも含まれるので、学園では学園でしか学べないことを集中的に学ばせる。
それが外国語だ。
ネイティブな教師たちが、ネイティブな発音で集中講義を行う。あとは人脈作りと、社会の縮図とされる学園での立ち振る舞い訓練だ。
外国語が苦手な上に、社交性を捨てた俺には地獄となる。
ゴーンゴーン、と重低音な終業の鐘に背中を押されて、さっさと教室を後にする。
教室は成績順ではなく、家の爵位によって纏められている。なんでも、上の爵位と下の爵位ではマナーから何から違うんだってよ。
上の爵位の奴と同じ教室になるのは外国語くらいだが、鼻につく奴が多いのは確かだ。
そもそも男爵と子爵には”一代限り”が多い。
男爵に至っては、歴史ある古式ゆかしき男爵は2割ほどだ。
さらに3割が家を継げない次男以下の貴族子息が頑張って、国に貢献して叙爵した新興貴族だったりする。
あとは所謂”成り上がり”だ。一代限りの爵位を金で買った商人とかなので、ほぼ平民。
ちなみに、金で買えるのは男爵位までで、子爵位は何かしら功績が必要になる。今は貴族が多いので、ひょいひょいと叙爵されない。男爵位も当面の予定数の爵位は埋まってると聞いたことがある。
貴族が増えすぎてもダメだから、いろいろ調整してるんだと。
ここで注意しなければならないのが、「ほぼ平民だろ」とか「男爵風情が」と侮らないことだ。
爵位を金で買った男爵は貴族のマナーやルールにこそ疎いが、経営下手な伯爵家よりも金があるのだ。他国に太いパイプを持っていたりもする。無闇やたらに貶すことは自殺行為と同じだ。
なので、どうしてもヒエラルキーを築きたいお坊ちゃんたちは、俺にみたいな子爵家の味噌っかすを見つけては嫌味を投げつける。
暴力こそないが、嫌味と皮肉のエッジはすごい。
そういうターゲットの奴は、俺みたいにさっさと教室を出て寮に戻る。
教室に残っているのは、卒業後を見据えた人脈作りが必要なお坊ちゃんたちだ。
まさに学園の醍醐味の人脈作りが、陰キャが去った後に行われるわけだ。
結果、俺みたいな奴は毎日が単調で退屈。
寮と教室の往復くらいしかしていないんだよ。
心の癒しは、寮の飯が美味いのと、同室の男爵家の息子が俺の同類ってことくらいだ。
何が同類って、古式ゆかしい男爵家の3男で外国語が不得手で、社交性が皆無。もちろん、婚約者も恋人もおらず、放課後デートなんて想像の産物。将来は平民になってのんびり暮らそうと漠然とした将来設計を立てているところだ。
二言三言喋るだけのあっさりとした仲だけど、居心地は悪くない。
生活パターンも同じで、寮と教室の往復で1日が終わっている。
寮の大食堂でたらふく飯を食って、談話室にも行かず、隠れるように風呂に入って、そそくさとベッドに潜り込む。
よくよく考えれば、「…はよ」と「おす」と「んじゃ、おやすみ」くらいしか喋ってねぇわ。
まぁ、いいけど。
とにかく、曜日の感覚すら分からなくなるような、判で押したような毎日だ。
たまに抜き打ちテストで知恵熱出たり、余所見でうっかりと女子生徒と肩がぶつかり「あぁん!?」とメンチ切られたりするが、概ね日常の一コマである。
貴族の令嬢というのは、俺みたいな婿候補にならない生徒のことを虫とでも思ってるんだよ。令嬢スマイルは有料なんだ。めっちゃ怖い。
そんな学園の隅っこでひっそり生きているような俺が、晴天の霹靂とでもいうような出来事と遭遇してしまった。
放課後。
逃げるように教室を飛び出した俺を捕まえたのはハゲた算術教師だ。荷物持ちを手伝わされたお陰で、いつもとは違うルートを辿ることになった。
結果、普段は立ち寄らない裏手の庭園で、うっかりかち合ってしまったのだ。
世にいう婚約破棄現場に!
なんということでしょう。
周囲にモブというエキストラはいない。
いや、俺がいる。
空は劇的な夕焼け色に染まって……はいない。嵐が来そうな天気でもなく、昨日と同じ小春日和な青空が広がっている。
俺も素通りすりゃあ良かったのに、うっかり木の裏っかわに隠れてしまった。
だってさ、才色兼備の完璧令嬢と謳われるネッセリローゼ・ネフェルト侯爵令嬢と、政略的な意味しかないだろうアンドレエス侯爵家の顔だけ男フェリクスだ。
こいつ、ナルシストでキモいんだよ。暇さえあれば手鏡で金髪を弄って微笑の練習してんのを隠そうともしないんだぜ?
女子がキャーキャー言っている意味が分からん。
次期侯爵だから取り巻きも多いけど、語学力は俺と大差ないからな!
そんな顔だけ男が鬱陶しい前髪を掻き上げながら、「ローゼは下品だろう?僕には相応しくないんだよね」なんて抜かしやがる!
「だから、婚約を白紙にしたくてね。価値観の違う僕たちには愛は生まれないだろうし、そんな僕たちが結婚したところで不幸は目に見えているからね」
おうおうおう。価値観の違いと宣うか。
婚約解消に事を運びたいのは、穏便に済ませたいからだろうな。
破棄なんて過激なことを言って反撃されたら、それこそ顔だけ男の不貞が大量に出てくる。あいつは叩けば埃が出て、積もって、自分が埋もれるほどにある。
男子寮なめんな。
女子のネットワークほどじゃないが、下位には下位の情報収集力があるのだ。
そろり、とネフェルト侯爵令嬢の顔を覗き見れば、なんの感情もない。擬音にすればスンだ。
艶やかなプラチナブロンドと背景のバラで、まさに妖精のよう美しさがある。ついでに拝みたくなるボンキュッボンだ。
尊い。
「婚約の白紙は構いませんわ。政略などと言われておりますが、実際は父親同士が幼馴染というだけのことで結ばれた婚約ですから。そこには当然、恋愛感情はございません」
なんと!
親同士の繋がりって大切なんだなぁ。
羨ましい!
「ただ、わたくしが下品とはどいう意味でしょうか?」
「身に覚えがないかい?君、完璧令嬢などと言われながら、夜会の度に浴びるほどワインを飲んでいるじゃないか。あれ、恥ずかしいんだよね」
「醜態をさらした覚えはございません。ただ、エスコートをしてくれるはずの方が何処かへ消えてしまうので、仕方なく会場の隅でお酒を嗜んでいただけですわ。一体、何処で何をしていたのかしら?」
頬に手を当て、こてん、と首を傾げたネフェルト侯爵令嬢の可愛さよ!
天元突破だぜ!
片や顔だけ男は、顔を紅潮させ、「とにかく!」と声を荒立てた。
「君との婚約はなかったことにさせてもらう!」
そう言い捨てて、逆ギレ顔だけ男は去って行く。
その怒らせた背中に、ネフェルト侯爵令嬢が嘲笑を送る。
「後日、父がアンドレエス侯爵家へ婚約破棄の手続きを行いに伺いますわ。ああ、貴族の契約に泥を塗ったベッカー子爵家にも当然、相応の慰謝料の請求書を送りますわ。貴族の婚約は公表されておりますから。知らなかった、では済まされませんよ」
おお!
尻尾を掴んでたのか!
顔だけ男が絵に描いたような驚愕顔で振り返った。
「な…な、にを…」
「そう動揺なさることでもないでしょう?浮気性の婚約者を野放しにするとでも?もしかして、上手く隠していると思っていたかしら?」
ネフェルト侯爵令嬢がさくらんぼ色の唇に手を当て、「うふふふ」と笑っている。
完全に見限ってる目だわ。
「ベッカー子爵令嬢とお幸せに。…幸せになれるかしら?でも、ならないとダメよね。パパになるんだもの」
うぉ~マジか~。
顔だけ男は顔面蒼白の戦意喪失状態だ。それでも周囲に視線を走らせ、偶然通りかかった生徒に「違う!違う!」と汗だくで否定しつつ逃げて行った。
弱っ。
てか、婚約者でもない令嬢に手を出して避妊を失敗したとか、終わっただろ?
平民ならまだしも、貴族は処女性を重んじる。王族や公爵家は、挙式前に処女の有無を確認される。ひと昔前の王族に至っては、初夜の際に立会人がいたのだ。ちゃんと子作りに励んでいるのを見、シーツに血が付着しているのを確認するまでが立会人の仕事だ。
どんなプレイだよ!
下位貴族は上位貴族ほど処女性を神聖視していないし、例え重要視していても婚姻前検査はしない。自己申告制だ。
だが、婚前交渉の上に妊娠となると話は変わってくる。
上下関係なく貴族社会に生きている以上、下位貴族も托卵防止にそれなりにルールを敷いているのだ。そのルールの筆頭がデキ婚だ。
疑わしきは罰してしまえ!の精神である。
平民だってデキ婚は後ろ指さされる。
それを踏まえれば、純潔を奪った顔だけ男は、かなりのペナルティを食らうと思われる。子爵令嬢もタダじゃ済まない。下剋上を狙った寝取りなら人生終了の一択だ。
それ以前に、貴族の婚約は家同士の契約だからな。当主不在で勝手に破棄できるものじゃない。
やっぱりあいつは顔だけか。
侯爵家を継ぐのは次男だな。
ざまぁ。
天に二物も三物も与えられている奴は地獄に堕ちるがいい!
ああ、妬み嫉みだよ。
俺なんて貧乏子爵家の平々凡々埋没系四男なんだぞ!婚約者も恋人もいないドーテイなんだぞ……。処女性を重んじるなら童貞性だって重んじてくれよ…。
うぅ……視界が滲んできた。不思議。
「ところで、覗き君。あなたはなぜ泣いているのかしら?」
……ん?
恐る恐るに頭を上げると、目の前にはネフェルト侯爵令嬢が不機嫌な顔で立っている。
距離にして2メートル。
めっちゃ近い!
そして美しい!
甘やかなフローラルな香りは、ここが庭園だからか、それともネフェルト侯爵令嬢から香ってくるのか。
とりあえず、こっそり深呼吸だ!
ネフェルト侯爵令嬢は腕を組み、つん、と顎を上げた居丈高な雰囲気を醸し出している。威嚇のつもりだろうけど、可愛いが先んじて全てが妖精という感想に落ち着く。
デレデレと顔面の筋肉が弛緩しそうだ。
でも、かの妖精は怒っているので、俺も神妙に少しだけ項垂れてみる。
「あ…いや、あの…すみません。覗き見するつもりはなかったのですが…」
「覗き君も幻滅してるんでしょう?女が酒を飲むなんて」
俺は首がもげるほど全力で頭を振る。
他所の国は知らないけど、この国は16才で成人する。例え学生でも、成人していれば酒解禁だ。
なので、隠れて飲む必要はない。
但し、貴族社会では、”酒に弱い女性こそ可憐で守りたい”という謎の風潮が持て囃されている。
所謂、男のエゴを押し付けた女性観だ。
婚約者や妻より酒に弱いと、男として立つ瀬がないからだろう。昔、それで恥をかいた王族か高位貴族がいたと、俺は睨んでいる。
そんな風潮を遵守すべく、夫人や令嬢は、最初の乾杯でシャンパンを一口だけ飲み、テーブルに戻す。残ったシャンパンは破棄という勿体ないお化けが叛乱を起こす勢いの暗黙のマナーが浸透している。
「夜会のお酒、美味しいですよね。俺もよく飲みます」
ははっ、と笑えば、ネフェルト侯爵令嬢の目が冷ややかに据わる。
「あ…いえ、すみません。えっと…ネフェルト侯爵令嬢の飲酒に関しては何も思っていません。俺は…なんていうか…貴族の定義の端っこに引っかかってるような貧乏子爵家ですけど、女性が酒を飲んで品がない風潮は肌に合いませんし。うちの両親は両方とも酒豪なので、女だからとかいう偏見はないんです」
「両方?子爵夫人も?」
「はい。1日の終わりに一杯……て、一杯では終わらないんですけど。夫婦でお酒を飲むのが楽しいそうです。お酒は美味しく楽しくが、我が家の家訓です。なので、女性はお酒を飲まないっていうルール?マナー?は、田舎の貧乏貴族には理解できないっていうか。だから、どうしてネフェルト侯爵令嬢の婚約が解消されたのかが不思議で…。あ、結局は浮気でしたね」
へへ、と愛想笑いで視線を彷徨わせる。
どう言い訳しても覗き見は褒められたものじゃない。
侯爵家から抗議が来ようものなら貧乏貴族の未来はない。
両親の知らぬ場所で、我が家は風前の灯火です。
親父、悪い!
心の中で両手を合わせて謝っていると、ふふ、と可憐な笑い声が聞こえた。
「素敵なご両親ですわね。わたくしも、社交界のルールには首を傾げるしかありませんわ。ですが、急にルールは変わるものでもありませんしね」
ネフェルト侯爵令嬢は諦念を込めたため息を吐いた。
「今世は諦めて、お父様にもう少しマシな方を探してもらいますわ。でも、次に生まれ変われるのなら、楽しくお酒を嗜んでも誹りを受けない国が良いですわね」
そう言って華やかな笑みを浮かべたネフェルト侯爵令嬢に、俺はドキマギと手汗をズボンに擦り付けた。
あの顔だけ男は、本当に馬鹿だな。
どっ、と起きた爆笑の渦に、「…は?」と間抜けな声が漏れた。
のろのろと体を起こせば、付けっぱなしのテレビが目に付く。
めでたい紅白のセットと陽気な漫才を繰り広げるベテラン芸人が映っている。画面左上には7時26分の表示だ。
おぅ…めっちゃ寝てた。
実家だったら、こたつで寝るなって叱られてたわ。
ちょびっと頭痛いのは風邪じゃなくて酒だろな。
いつの間にか片付けられている卓上には、飲みかけのまま放置した缶チューハイ。あと、パーティ開けにされたポテチのピザ味だ。
この開け方にすると、袋を閉じてまた明日ができないんだけどな。
カーペットの上には、紙パックの麦焼酎が仲間入りしている。
ペットボトルのウーロン茶は焼酎で割る用だろうけど、残り僅かだから飲み干して大丈夫だろう。
一気にウーロン茶を飲み干して思う。
こたつで寝たらダメだな。なんか喉が乾燥するわ。
「あ~~ケイくぅん、やっと起きたぁ?あけおめ~おめ~」
トイレに行ってたのか、よたよたとご機嫌に寧々が歩いて来る。
「あけおめ。…ずっと飲んでた?」
「飲んで~ちょびっと寝て~飲んで~。今、トイレ行ったから、ぼーこー空よ。また飲める」
るんるんと鼻歌でも口ずさみそうなほどご機嫌だ。
さすがに頬が赤らんでいるし、目はとろんと蕩けているけど、へべれけな泥酔ってわけじゃない。
歩いてトイレに行けるんだから、やっぱ寧々の肝臓はすごいよ。
俺なら這って行くしかないんだけどな。
「お屠蘇用意するからぁ」と、寧々が持ってきたのは奮発して買った一升瓶の大吟醸。
「お屠蘇って、100パー酒じゃなくない?」
「えぇ~うちのお屠蘇は昔っから100パーお酒、日本酒だよぉ」
お屠蘇を注ぐのはマグカップだ。
とぷとぷとぷっ…と、豪快に酒が注がれる。
お屠蘇っていうか迎え酒だな。
「あけおめ。今年もよろしくな」
「あけおめ~。今年も楽しいお酒を飲もうねぇ~」
マグカップを軽くぶつけ合って乾杯だ。
フルーティーでスッキリ。あと口に辛味が少々。
「うま」
「おいしぃ~」
「あ。そういやぁ、寧々。俺って異世界転生してたっぽい」
「出た!異世界転生~!て、ケイくん死んでないし」
「あ~…異世界から、こっちに転生したっぽい。向こうから見れば、こっちは異世界じゃん?」
こくり、とお屠蘇を飲んで、拍手とともに袖にはけて行く芸人を見る。
ケイデン・アニシモバの長い人生にとって、あの束の間の会話が一番の幸福だったんだなぁ。
ぼんやりと、虫食い状態の記憶が蘇ったけど、彼女との会話ほど鮮明な記憶はない。
あの場面を思い出さなければ、単なる夢に終わってたかも。
てか、ケイデン。
ちょっと人生薄すぎない?
ひとり哀愁に暮れていると、寧々はほわほわ顔でお屠蘇に口をつけながら、「確かに?」と適当に頷いている。
「チートは?異世界転生チート!」
寧々は口角を上げポテチを一枚手に取ると、杖のようにくるくる回し、「ビビディバビディブ~~」とはしゃぐ。
クリスマスに見たシンデレラの魔女…?ばあさんの影響かな。
「あ~、たぶん、あの世界に魔法はなかったかな。ファンタジー要素ゼロだったよ」
「面白味ゼロ~」
けたけたと寧々は笑う。
「まぁ、強いてチートと言うなら、打たれ強さ?」
「あ~分かった!身体強化ってやつ~」
「精神的なやつ」
どんなパワハラでも受け流しできる強さは身についてると思う。
貴族ヒエラルキーの底辺を彷徨った四男なめんな!
て、めっちゃ悲しい……!
寧々はポテチを頬張ると、憐れみを浮かべた笑みで俺の頭を撫でた。
「どんまい」
「うぅ…悲しい」
どうせ俺は前世も今世もモブだよ。
「あぁ~、なんか腹減ってきた!昨日の鍋、味噌汁にするけど食う?」
「食う!」
きゃっきゃとはしゃぐ寧々にモブの悲しみが吹き飛ぶよ。
「味噌汁食って、お屠蘇飲んで寝直すかな」
「あたしも寝る~。で、起きたら初詣行こ~」
「夕方な」
「神様にお礼しなきゃね~。転生ありがと~。美味しく楽しいお酒、ありがと~」
もう1回、「乾杯~」と2人一緒に天井に向かってマグカップを掲げる。
マジ、神様ありがと!
今年も楽しいお酒の年になりますように!
誕生日にクリスマス。
大晦日と…正月もだ。
暴飲暴食なんて言っても、食うより飲む派。特別な日の暴飲は肝臓も許してくれる気がするから不思議だ。
財布事情から、ちょいと高めの女の子がいるような店には行かない。
学生の頃は居酒屋の飲み放題コースが定番。大学を卒業してからは、居酒屋のランクをちょびっと上げて、趣のある静かな居酒屋でちびちびと日本酒を飲んで大人ぶったりする。
好きなのはハイボール。
焼酎はちょっと苦手だけど、チューハイならイケる。
財布に余裕がある日は日本酒を楽しむ。翌日が怖いけどな。
体質かな?
そういえば、二十歳の祝いに1回だけ男友達と女の子がいる店で飲んだことがある。正直、俺には合わなかったわ。
弁が立つわけでもなく、話題を広げるだけの知識もない。
お金出して可愛い子を侍らすより、その分を酒代に回す方が俺に向いていると理解した。
なんて言っても、そこまで酒が強いわけじゃないけどな。
まぁ、それ以前に、女の子の店になんて行ったのバレたら説教コースだわ。
誰に?って彼女にだよ。
大学はEランク。平均的な身長に、ひょろっとした筋肉なし男の俺にも彼女がいるんだよ。
顔立ちは良くもないけど悪くもない。平均的だと思うのに、「なんでお前に彼女できて俺にできねぇんだよ!」といじけるくらいモテなかったわ。
それが、大学卒業前に彼女ができました。
めっちゃ美人よ。
でも、めっちゃ酒飲むんだよ。
笑っちゃうくらい強い。
出会いは某居酒屋チェーンだらかね。
酔っぱらい同士が出会って、お酒談議で意気投合。「好きだ。付き合ってください」なんて告白はしてないけど、気づけば酒飲み友達になってて、なんとなく同棲が始まった感じ。
フィーリングが合うのかな。
居心地がいいんだ。
こんな俺のどこがいいのか聞いたことがある。
彼女曰く「ケイくん、浮気しなさそう。女に貢ぐよりお酒に貢ぐでしょう?」だって。
正解。
なんで金かけてまで修羅場確定の女と浮気しなきゃなんないんだ。リスクは回避するものだ。
暴飲も金かけたリスクだろ?って思うだろうが、俺はアル中じゃない。休肝日も決めてあるし、月に幾ら使うかも考えて酒を買っている。
これでも、ちゃ~~んと自分の許容量を計算してるんだよ。
当然、ケーサツ24時みたいなやつに出てくる酔っ払いのような醜態を晒したことはない。てか、そこまで飲むと決めてる時は家飲みだ。
家飲みサイコー!
つまみは、スーパーの割引シールが張られたお惣菜。
酒は缶チューハイが中心かな。缶チューハイはタコかレモン系と決めてるけど、奮発する日は迷わずハイボールだ。果物系の甘いやつは好きじゃない。あれはジュースだ。
超安上がり男だろ?
んでも今日は大晦日。
1年の締めに多少の贅沢は許される……はず。
クリスマスにも言った気がするけど!
「ケイくん、ケイくん。目ぇすわってるよ~」
「……寧々?」
酔ってるつもりはなかったけど、酔ってんのかな?
確かに、頭がぼんやりふわふわしてるわ。
胡坐を組みなおして、円いこたつテーブルの真ん中に置いた土鍋を見る。カセットコンロの火を落としてるから、白く固まりつつある豚の脂と、少しだけ残った白菜とキノコが食欲を減退させる冷え冷え感だわ。
ただ、この汁には豚しゃぶや鶏団子、牡蠣なんかの旨味が凝縮されている。水炊きだから、朝になったら味噌汁にすると旨い。
餅って買ってたかな?
まぁ、いいや。
鍋の周りには野菜を盛っていた大皿や取り皿、箸が転がっている。カーペットの上には、空のハイボール缶やワインボトルがボウリングのピンみたいに並ぶ。
寧々こだわりの並べ方だ。
「ケイくん、お蕎麦は?年越し蕎麦。緑のカップ麺だけど食べる~?」
「も……腹いっぱい…」
酔ってると自覚したからか瞼が重くなってきた。
うつらうつらと頭を揺らしつつ、さして顔色の変わっていない寧々を眺める。
マジで寧々は強いわ。
先祖にウォッカを浴びるほど飲んでたロシア人でもいるんじゃないか?
目は色気ったっぷりに蕩け、口調は舌足らずの甘えたになってるけど、頬に赤味は一切ない。
マドラー代わりの箸を使い、上機嫌に芋焼酎のロックを作っているのだから俺以上に飲む。蟒蛇だ。
もこもこしたパジャマ兼部屋着の下は、ボンキュッボン!の拝みたくなるスタイルなのに、飲んで飲んで飲みまくる。かといって、頻繁にトイレに行くわけでも、腹が膨れてくるわけでもない。人体の謎を詰め込んだ体をしている。
前の彼氏は、それに呆れ、「君はアル中になりそうだな」と去って行ったらしい。
ちなみに、下戸な上に浮気ナルシスト野郎だったと鼻で笑っていた。
馬鹿な男だよ。
1.8ℓの紙パック芋焼酎が似合う美人なんて他にいないぞ?お洒落なカクテルじゃなくて芋焼酎っていうのが最高にいいのにな~。
あぁ~やべ。
酔っぱらって頭が回らん。
うつらうつらする視界の隅っこに、音声を絞ったテレビが除夜の鐘を撞きに来た参拝客を映している。
静謐とした寺に、しんしんと粉雪が舞う。
これぞ日本の大晦日だな。
彼女と酒飲んで、腹いっぱいで、あったかこたつ。
幸せか!
「ケイくぅ~ん。寝ちゃうのぉ?カウントダウン、これからなのに~」
へへ、とだらしなく笑った寧々の声を最後に、俺の頭はかくんと落ちた。
「ケイデン!ケイデン・アニシモバ!」
一喝に、ハッ、と頭を上げる。
周囲を見渡すと、くすくすと嘲笑混じりの声が広がった。
ああ、やってしまった。
神経質そうな分厚い眼鏡の教師が、パシパシと教鞭を鳴らしながら、「次に寝たら留年も覚悟したまえ」なんて肩を怒らせて教壇に戻って行く。
手元に広げた教科書に点々と落ちた涎を制服の袖で拭って、再開した授業に耳を傾ける。
教師が流暢に喋る言葉も、開いた教科書の細かな文字の羅列も、全てが外国語だ。
今も昔も外国語は苦手だ。きっと未来でも苦手だ。
俺は母国から出ないのにな。
ここ、アザレンカ王国は海とは縁遠い大陸の真ん中に位置している。
小さくはないが、大きくもない。
可もなく不可もなく、戦争がないだけ御の字の国だ。海に出るには国の西方を流れる大河から、3ヵ国に通行料を払いつつ下って行かなければならない。一攫千金だ!の前に、往復の通行料でゲボが出ると思う。
貧国ではないが、富国でもない。
唯一、胸を張って自慢できるのは、アザレンカ人の女性は美人が多い!ということだ。
その強みを生かし、前国王の妹が大国に嫁いでいる。現王女も大国と縁を繋いだと聞く。それを後ろ盾に侵略戦争を仕掛ける輩がいないと言われているけど、実際は旨味のない国なので放置中と言った方が正しい。
故に、家を継ぐ嫡男やスペアくん以外は、他国とパイプを繋ごうと躍起になる。
俺が寝こけたここは、貴族の子女が通う学園だ。
これでも俺は領地もち貴族の子。
領地って言っても猫の額ほどの狭い領地だ。一応、歴史だけは古いが、先祖を遡るとたまたま武功を立てた平民モブ兵士に辿り着く。
細々とした領地経営で、なんとか生き残ってる子爵家にすぎない。
そんな子爵家の四男に生まれては、貴族の子としてはほぼ無価値。
貧乏暇なし子沢山は、何も平民だけじゃない。下っ端貴族にも当てはまる。
んで、そういう子息こそ死に物狂いで勉強しなきゃなんないんだけど、俺は外国語アレルギーなのだ!
まったく頭に入ってこない。
最悪なのが、この学園の授業の選択教科は、選択という名の外国語一択だ。
何を選択するのかといえば、学びたい国の言語だ。
5ヵ国語から選べるのだが、時間割の調整次第で最大3ヵ国語の選択ができる。当然、猛者たちは3ヵ国を選択する。俺なんて1ヵ国で呼吸困難なのに!
普通はさ、音楽、絵画、ダンスとか選べるんじゃないの?
なんで全部外国語なんだよ!
さっき、俺が叱られて笑った奴らの中にも、外国語が苦手な奴は多い。お前らだって1ヵ国語選択者だろうがよ!
目くそ鼻くそめっ!
まぁ、それを悟らせないのが貴族ってものらしい。
俺はいいんだよ。
平民になるんだから。
みっちりと語学の授業が終わった後は、国史と宗教学を終え、ようやく解放される。
貴族の子供っていうのは、幼少期から家庭教師によって基礎的な学問は学ぶんだよ。音楽やダンスも含まれるので、学園では学園でしか学べないことを集中的に学ばせる。
それが外国語だ。
ネイティブな教師たちが、ネイティブな発音で集中講義を行う。あとは人脈作りと、社会の縮図とされる学園での立ち振る舞い訓練だ。
外国語が苦手な上に、社交性を捨てた俺には地獄となる。
ゴーンゴーン、と重低音な終業の鐘に背中を押されて、さっさと教室を後にする。
教室は成績順ではなく、家の爵位によって纏められている。なんでも、上の爵位と下の爵位ではマナーから何から違うんだってよ。
上の爵位の奴と同じ教室になるのは外国語くらいだが、鼻につく奴が多いのは確かだ。
そもそも男爵と子爵には”一代限り”が多い。
男爵に至っては、歴史ある古式ゆかしき男爵は2割ほどだ。
さらに3割が家を継げない次男以下の貴族子息が頑張って、国に貢献して叙爵した新興貴族だったりする。
あとは所謂”成り上がり”だ。一代限りの爵位を金で買った商人とかなので、ほぼ平民。
ちなみに、金で買えるのは男爵位までで、子爵位は何かしら功績が必要になる。今は貴族が多いので、ひょいひょいと叙爵されない。男爵位も当面の予定数の爵位は埋まってると聞いたことがある。
貴族が増えすぎてもダメだから、いろいろ調整してるんだと。
ここで注意しなければならないのが、「ほぼ平民だろ」とか「男爵風情が」と侮らないことだ。
爵位を金で買った男爵は貴族のマナーやルールにこそ疎いが、経営下手な伯爵家よりも金があるのだ。他国に太いパイプを持っていたりもする。無闇やたらに貶すことは自殺行為と同じだ。
なので、どうしてもヒエラルキーを築きたいお坊ちゃんたちは、俺にみたいな子爵家の味噌っかすを見つけては嫌味を投げつける。
暴力こそないが、嫌味と皮肉のエッジはすごい。
そういうターゲットの奴は、俺みたいにさっさと教室を出て寮に戻る。
教室に残っているのは、卒業後を見据えた人脈作りが必要なお坊ちゃんたちだ。
まさに学園の醍醐味の人脈作りが、陰キャが去った後に行われるわけだ。
結果、俺みたいな奴は毎日が単調で退屈。
寮と教室の往復くらいしかしていないんだよ。
心の癒しは、寮の飯が美味いのと、同室の男爵家の息子が俺の同類ってことくらいだ。
何が同類って、古式ゆかしい男爵家の3男で外国語が不得手で、社交性が皆無。もちろん、婚約者も恋人もおらず、放課後デートなんて想像の産物。将来は平民になってのんびり暮らそうと漠然とした将来設計を立てているところだ。
二言三言喋るだけのあっさりとした仲だけど、居心地は悪くない。
生活パターンも同じで、寮と教室の往復で1日が終わっている。
寮の大食堂でたらふく飯を食って、談話室にも行かず、隠れるように風呂に入って、そそくさとベッドに潜り込む。
よくよく考えれば、「…はよ」と「おす」と「んじゃ、おやすみ」くらいしか喋ってねぇわ。
まぁ、いいけど。
とにかく、曜日の感覚すら分からなくなるような、判で押したような毎日だ。
たまに抜き打ちテストで知恵熱出たり、余所見でうっかりと女子生徒と肩がぶつかり「あぁん!?」とメンチ切られたりするが、概ね日常の一コマである。
貴族の令嬢というのは、俺みたいな婿候補にならない生徒のことを虫とでも思ってるんだよ。令嬢スマイルは有料なんだ。めっちゃ怖い。
そんな学園の隅っこでひっそり生きているような俺が、晴天の霹靂とでもいうような出来事と遭遇してしまった。
放課後。
逃げるように教室を飛び出した俺を捕まえたのはハゲた算術教師だ。荷物持ちを手伝わされたお陰で、いつもとは違うルートを辿ることになった。
結果、普段は立ち寄らない裏手の庭園で、うっかりかち合ってしまったのだ。
世にいう婚約破棄現場に!
なんということでしょう。
周囲にモブというエキストラはいない。
いや、俺がいる。
空は劇的な夕焼け色に染まって……はいない。嵐が来そうな天気でもなく、昨日と同じ小春日和な青空が広がっている。
俺も素通りすりゃあ良かったのに、うっかり木の裏っかわに隠れてしまった。
だってさ、才色兼備の完璧令嬢と謳われるネッセリローゼ・ネフェルト侯爵令嬢と、政略的な意味しかないだろうアンドレエス侯爵家の顔だけ男フェリクスだ。
こいつ、ナルシストでキモいんだよ。暇さえあれば手鏡で金髪を弄って微笑の練習してんのを隠そうともしないんだぜ?
女子がキャーキャー言っている意味が分からん。
次期侯爵だから取り巻きも多いけど、語学力は俺と大差ないからな!
そんな顔だけ男が鬱陶しい前髪を掻き上げながら、「ローゼは下品だろう?僕には相応しくないんだよね」なんて抜かしやがる!
「だから、婚約を白紙にしたくてね。価値観の違う僕たちには愛は生まれないだろうし、そんな僕たちが結婚したところで不幸は目に見えているからね」
おうおうおう。価値観の違いと宣うか。
婚約解消に事を運びたいのは、穏便に済ませたいからだろうな。
破棄なんて過激なことを言って反撃されたら、それこそ顔だけ男の不貞が大量に出てくる。あいつは叩けば埃が出て、積もって、自分が埋もれるほどにある。
男子寮なめんな。
女子のネットワークほどじゃないが、下位には下位の情報収集力があるのだ。
そろり、とネフェルト侯爵令嬢の顔を覗き見れば、なんの感情もない。擬音にすればスンだ。
艶やかなプラチナブロンドと背景のバラで、まさに妖精のよう美しさがある。ついでに拝みたくなるボンキュッボンだ。
尊い。
「婚約の白紙は構いませんわ。政略などと言われておりますが、実際は父親同士が幼馴染というだけのことで結ばれた婚約ですから。そこには当然、恋愛感情はございません」
なんと!
親同士の繋がりって大切なんだなぁ。
羨ましい!
「ただ、わたくしが下品とはどいう意味でしょうか?」
「身に覚えがないかい?君、完璧令嬢などと言われながら、夜会の度に浴びるほどワインを飲んでいるじゃないか。あれ、恥ずかしいんだよね」
「醜態をさらした覚えはございません。ただ、エスコートをしてくれるはずの方が何処かへ消えてしまうので、仕方なく会場の隅でお酒を嗜んでいただけですわ。一体、何処で何をしていたのかしら?」
頬に手を当て、こてん、と首を傾げたネフェルト侯爵令嬢の可愛さよ!
天元突破だぜ!
片や顔だけ男は、顔を紅潮させ、「とにかく!」と声を荒立てた。
「君との婚約はなかったことにさせてもらう!」
そう言い捨てて、逆ギレ顔だけ男は去って行く。
その怒らせた背中に、ネフェルト侯爵令嬢が嘲笑を送る。
「後日、父がアンドレエス侯爵家へ婚約破棄の手続きを行いに伺いますわ。ああ、貴族の契約に泥を塗ったベッカー子爵家にも当然、相応の慰謝料の請求書を送りますわ。貴族の婚約は公表されておりますから。知らなかった、では済まされませんよ」
おお!
尻尾を掴んでたのか!
顔だけ男が絵に描いたような驚愕顔で振り返った。
「な…な、にを…」
「そう動揺なさることでもないでしょう?浮気性の婚約者を野放しにするとでも?もしかして、上手く隠していると思っていたかしら?」
ネフェルト侯爵令嬢がさくらんぼ色の唇に手を当て、「うふふふ」と笑っている。
完全に見限ってる目だわ。
「ベッカー子爵令嬢とお幸せに。…幸せになれるかしら?でも、ならないとダメよね。パパになるんだもの」
うぉ~マジか~。
顔だけ男は顔面蒼白の戦意喪失状態だ。それでも周囲に視線を走らせ、偶然通りかかった生徒に「違う!違う!」と汗だくで否定しつつ逃げて行った。
弱っ。
てか、婚約者でもない令嬢に手を出して避妊を失敗したとか、終わっただろ?
平民ならまだしも、貴族は処女性を重んじる。王族や公爵家は、挙式前に処女の有無を確認される。ひと昔前の王族に至っては、初夜の際に立会人がいたのだ。ちゃんと子作りに励んでいるのを見、シーツに血が付着しているのを確認するまでが立会人の仕事だ。
どんなプレイだよ!
下位貴族は上位貴族ほど処女性を神聖視していないし、例え重要視していても婚姻前検査はしない。自己申告制だ。
だが、婚前交渉の上に妊娠となると話は変わってくる。
上下関係なく貴族社会に生きている以上、下位貴族も托卵防止にそれなりにルールを敷いているのだ。そのルールの筆頭がデキ婚だ。
疑わしきは罰してしまえ!の精神である。
平民だってデキ婚は後ろ指さされる。
それを踏まえれば、純潔を奪った顔だけ男は、かなりのペナルティを食らうと思われる。子爵令嬢もタダじゃ済まない。下剋上を狙った寝取りなら人生終了の一択だ。
それ以前に、貴族の婚約は家同士の契約だからな。当主不在で勝手に破棄できるものじゃない。
やっぱりあいつは顔だけか。
侯爵家を継ぐのは次男だな。
ざまぁ。
天に二物も三物も与えられている奴は地獄に堕ちるがいい!
ああ、妬み嫉みだよ。
俺なんて貧乏子爵家の平々凡々埋没系四男なんだぞ!婚約者も恋人もいないドーテイなんだぞ……。処女性を重んじるなら童貞性だって重んじてくれよ…。
うぅ……視界が滲んできた。不思議。
「ところで、覗き君。あなたはなぜ泣いているのかしら?」
……ん?
恐る恐るに頭を上げると、目の前にはネフェルト侯爵令嬢が不機嫌な顔で立っている。
距離にして2メートル。
めっちゃ近い!
そして美しい!
甘やかなフローラルな香りは、ここが庭園だからか、それともネフェルト侯爵令嬢から香ってくるのか。
とりあえず、こっそり深呼吸だ!
ネフェルト侯爵令嬢は腕を組み、つん、と顎を上げた居丈高な雰囲気を醸し出している。威嚇のつもりだろうけど、可愛いが先んじて全てが妖精という感想に落ち着く。
デレデレと顔面の筋肉が弛緩しそうだ。
でも、かの妖精は怒っているので、俺も神妙に少しだけ項垂れてみる。
「あ…いや、あの…すみません。覗き見するつもりはなかったのですが…」
「覗き君も幻滅してるんでしょう?女が酒を飲むなんて」
俺は首がもげるほど全力で頭を振る。
他所の国は知らないけど、この国は16才で成人する。例え学生でも、成人していれば酒解禁だ。
なので、隠れて飲む必要はない。
但し、貴族社会では、”酒に弱い女性こそ可憐で守りたい”という謎の風潮が持て囃されている。
所謂、男のエゴを押し付けた女性観だ。
婚約者や妻より酒に弱いと、男として立つ瀬がないからだろう。昔、それで恥をかいた王族か高位貴族がいたと、俺は睨んでいる。
そんな風潮を遵守すべく、夫人や令嬢は、最初の乾杯でシャンパンを一口だけ飲み、テーブルに戻す。残ったシャンパンは破棄という勿体ないお化けが叛乱を起こす勢いの暗黙のマナーが浸透している。
「夜会のお酒、美味しいですよね。俺もよく飲みます」
ははっ、と笑えば、ネフェルト侯爵令嬢の目が冷ややかに据わる。
「あ…いえ、すみません。えっと…ネフェルト侯爵令嬢の飲酒に関しては何も思っていません。俺は…なんていうか…貴族の定義の端っこに引っかかってるような貧乏子爵家ですけど、女性が酒を飲んで品がない風潮は肌に合いませんし。うちの両親は両方とも酒豪なので、女だからとかいう偏見はないんです」
「両方?子爵夫人も?」
「はい。1日の終わりに一杯……て、一杯では終わらないんですけど。夫婦でお酒を飲むのが楽しいそうです。お酒は美味しく楽しくが、我が家の家訓です。なので、女性はお酒を飲まないっていうルール?マナー?は、田舎の貧乏貴族には理解できないっていうか。だから、どうしてネフェルト侯爵令嬢の婚約が解消されたのかが不思議で…。あ、結局は浮気でしたね」
へへ、と愛想笑いで視線を彷徨わせる。
どう言い訳しても覗き見は褒められたものじゃない。
侯爵家から抗議が来ようものなら貧乏貴族の未来はない。
両親の知らぬ場所で、我が家は風前の灯火です。
親父、悪い!
心の中で両手を合わせて謝っていると、ふふ、と可憐な笑い声が聞こえた。
「素敵なご両親ですわね。わたくしも、社交界のルールには首を傾げるしかありませんわ。ですが、急にルールは変わるものでもありませんしね」
ネフェルト侯爵令嬢は諦念を込めたため息を吐いた。
「今世は諦めて、お父様にもう少しマシな方を探してもらいますわ。でも、次に生まれ変われるのなら、楽しくお酒を嗜んでも誹りを受けない国が良いですわね」
そう言って華やかな笑みを浮かべたネフェルト侯爵令嬢に、俺はドキマギと手汗をズボンに擦り付けた。
あの顔だけ男は、本当に馬鹿だな。
どっ、と起きた爆笑の渦に、「…は?」と間抜けな声が漏れた。
のろのろと体を起こせば、付けっぱなしのテレビが目に付く。
めでたい紅白のセットと陽気な漫才を繰り広げるベテラン芸人が映っている。画面左上には7時26分の表示だ。
おぅ…めっちゃ寝てた。
実家だったら、こたつで寝るなって叱られてたわ。
ちょびっと頭痛いのは風邪じゃなくて酒だろな。
いつの間にか片付けられている卓上には、飲みかけのまま放置した缶チューハイ。あと、パーティ開けにされたポテチのピザ味だ。
この開け方にすると、袋を閉じてまた明日ができないんだけどな。
カーペットの上には、紙パックの麦焼酎が仲間入りしている。
ペットボトルのウーロン茶は焼酎で割る用だろうけど、残り僅かだから飲み干して大丈夫だろう。
一気にウーロン茶を飲み干して思う。
こたつで寝たらダメだな。なんか喉が乾燥するわ。
「あ~~ケイくぅん、やっと起きたぁ?あけおめ~おめ~」
トイレに行ってたのか、よたよたとご機嫌に寧々が歩いて来る。
「あけおめ。…ずっと飲んでた?」
「飲んで~ちょびっと寝て~飲んで~。今、トイレ行ったから、ぼーこー空よ。また飲める」
るんるんと鼻歌でも口ずさみそうなほどご機嫌だ。
さすがに頬が赤らんでいるし、目はとろんと蕩けているけど、へべれけな泥酔ってわけじゃない。
歩いてトイレに行けるんだから、やっぱ寧々の肝臓はすごいよ。
俺なら這って行くしかないんだけどな。
「お屠蘇用意するからぁ」と、寧々が持ってきたのは奮発して買った一升瓶の大吟醸。
「お屠蘇って、100パー酒じゃなくない?」
「えぇ~うちのお屠蘇は昔っから100パーお酒、日本酒だよぉ」
お屠蘇を注ぐのはマグカップだ。
とぷとぷとぷっ…と、豪快に酒が注がれる。
お屠蘇っていうか迎え酒だな。
「あけおめ。今年もよろしくな」
「あけおめ~。今年も楽しいお酒を飲もうねぇ~」
マグカップを軽くぶつけ合って乾杯だ。
フルーティーでスッキリ。あと口に辛味が少々。
「うま」
「おいしぃ~」
「あ。そういやぁ、寧々。俺って異世界転生してたっぽい」
「出た!異世界転生~!て、ケイくん死んでないし」
「あ~…異世界から、こっちに転生したっぽい。向こうから見れば、こっちは異世界じゃん?」
こくり、とお屠蘇を飲んで、拍手とともに袖にはけて行く芸人を見る。
ケイデン・アニシモバの長い人生にとって、あの束の間の会話が一番の幸福だったんだなぁ。
ぼんやりと、虫食い状態の記憶が蘇ったけど、彼女との会話ほど鮮明な記憶はない。
あの場面を思い出さなければ、単なる夢に終わってたかも。
てか、ケイデン。
ちょっと人生薄すぎない?
ひとり哀愁に暮れていると、寧々はほわほわ顔でお屠蘇に口をつけながら、「確かに?」と適当に頷いている。
「チートは?異世界転生チート!」
寧々は口角を上げポテチを一枚手に取ると、杖のようにくるくる回し、「ビビディバビディブ~~」とはしゃぐ。
クリスマスに見たシンデレラの魔女…?ばあさんの影響かな。
「あ~、たぶん、あの世界に魔法はなかったかな。ファンタジー要素ゼロだったよ」
「面白味ゼロ~」
けたけたと寧々は笑う。
「まぁ、強いてチートと言うなら、打たれ強さ?」
「あ~分かった!身体強化ってやつ~」
「精神的なやつ」
どんなパワハラでも受け流しできる強さは身についてると思う。
貴族ヒエラルキーの底辺を彷徨った四男なめんな!
て、めっちゃ悲しい……!
寧々はポテチを頬張ると、憐れみを浮かべた笑みで俺の頭を撫でた。
「どんまい」
「うぅ…悲しい」
どうせ俺は前世も今世もモブだよ。
「あぁ~、なんか腹減ってきた!昨日の鍋、味噌汁にするけど食う?」
「食う!」
きゃっきゃとはしゃぐ寧々にモブの悲しみが吹き飛ぶよ。
「味噌汁食って、お屠蘇飲んで寝直すかな」
「あたしも寝る~。で、起きたら初詣行こ~」
「夕方な」
「神様にお礼しなきゃね~。転生ありがと~。美味しく楽しいお酒、ありがと~」
もう1回、「乾杯~」と2人一緒に天井に向かってマグカップを掲げる。
マジ、神様ありがと!
今年も楽しいお酒の年になりますように!
この作品は感想を受け付けておりません。
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