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かりそめキャスト
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息も鼓動もとまった。
何が起こっているのか、分からない。目線の高さまで、ぐいと持ち上げられたこの、疑いようのない左手を、目の当たりにしても。
指という指は全て捕まった。
「何固まってんの?」
影に塗られた表情に、瞳だけがぼんやり光を蓄える。いつの間にか隣に立って、覆い被さるように私を見る、この不敵な笑みは一体、誰――?
「蓮未、くん…?」
「…」
口の端は下がる、開く。垣間見える白い歯。僅かに鋭くした目元にかぶさる、睫毛の一本一本に夕陽をまぶして。
「『タカヤ』」
「え…っ」
「ハルカ、いつもそう呼んでんじゃん、俺のこと」
厚みを増した彼の瞳が、私を捉えて逃がさない。なんて強引な視線。有無を言わせない口調。確かに蓮未くんなのに、蓮未くんじゃない。私は、下の名前で呼んだことなんて、無い。
「…だれ…?」
声になれずに呟いた、私の精一杯の問い掛けを、彼は盛大なため息で散らし、
「いいから、」
思い切り、結んだ手を引く。
「呼んでよ」
「…っ!」
彼の胸にぶつかりそうになる直前、棒になりかけた脚は踏みとどまる。だから爪先だけの衝突。
至近距離の瞳、映る私の顔すらぼんやり揺らいで。とまっていたはずの心臓は乱れながら飛び回るから、この息もか細く。呼応するように震える瞼に、瞬きすら許さない。
人質にとられた左手は彼の向こう側。夕色を抱き込んでまっすぐ、ゆっくり心臓へと歩いてくる眼差しは一層強く。言うまで返さないと身勝手な意思を捩じ込む。
これじゃ、王子と言うより暴君だ。
「……」
指と指の隙間が埋まっていく。そのたび舌先がしびれていく。わずかな酸素を手繰り寄せるように、小さく、私は息を吸い込んで――
「鷹矢、くん…」
ふっと、
「…合格」
やわらいだ。繋いだ手も、目も口も、風も温度も空気もすべて。
その向こうでパチンと、音がした。
薄く息をつくその微笑みはやっぱり王子様で、このひととき見つめられていた強引な彼は幻だったんじゃないかとすら思うほど。
「ごめんね、驚いた?」
私は安堵した。声がやわらかい。
「あの…今度こそ、…蓮未くん?」
腕をそっと私の身体に沿わせるようにしてから彼は、ひとつずつ指を解放していく。最後の指先、触れていた私じゃない体温が離れていくのを、戸惑うくらいに、なんだか、
「…だめだよ、」
引き留めたい、なんて。
「さっき教えた通りに呼んでくれなきゃ」
「…!」
「でないとまた、怒られちゃうよ?」
少し、寄せられただけなのに。やわらかくてやさしい、それでいて少し悪戯っぽい。傾いだ首、なけなしの夕陽をすべて吸い込んだ彼の笑み。王子様はいつだって、私の瞳も酸素も、太陽まで奪う。
「…だれに…?」
さっきまで、融かすほどに私を見ていた彼の朧姿が、また少しずつ質量を伴いはじめ、
「……」
鷹矢くんはすっと数歩離れた。落ちゆく陽がその背中へ黒を注ぐ。唇を起こす横顔が、どんな表情をしていても、分からなくなるくらいに。
「…僕の中の、俺」
次の日、これはこれで学校は大変な騒動になっていた。
「ねえ、清次さんってどの人?」
「このクラスで合ってんの?王子の彼女」
「ほらあの子だよ、長い髪の…」
「ええ、見えない!こっち向いてー」
この間まで隣のクラスの前にあった人だかりは、そっくりそのまま、この教室の前に移動しただけだった。
朝には耳が早いクラスメイトに始まり、皆から存分に冷やかされ、休み時間になるとこうして廊下から眺められ。上野のパンダの気持ち、少しは分かる気がした。そんな冗談は言えるのに、付き合うことになったとは言ってもこの複雑な事情のことを、結局は誰にも言えず終いだった。あまり、触れてまわるような話でもないと思ったし。
「よくやった、遥」
「今度二人で歩いてるところ、見せてねっ」
紗奈ちゃんはわしゃわしゃと髪を撫でてくれるけど。美冬ちゃんもスケッチブック片手に張り切っているけど。私の頭はまだこんがらがったままだった。せめて紗奈ちゃんや美冬ちゃんには正直に全てを打ち明けたくても、まだ自分でも整理しきれていない、というより、その材料が揃っていないうちからは、どうすることもできない。
「…頑張ったね」
そんな風に机を見つめて、ぼうっとしている私の正面にふわり。紗奈ちゃんはしゃがみ込んで笑顔を届けてくれる。
「紗奈ちゃん…」
なんだかほっとして、私も釣られて目尻を下げた。
でも、頑張るのはきっと、これからなのだ。私は、蓮未くん――鷹矢くんのために。成らなければいけないから。
――忘れられない女の子がいるんだ。
「名前まで一緒だったから、びっくりしちゃったよ」
「…じゃあ、私の名前を呼んだわけじゃなくて…」
「…うん。見かけた後ろ姿が、その子とあまりに似てたから、つい。…ごめんね」
「ううん。…謝んないで」
「…でも後ろ姿だけじゃなかった」
「え?」
「不思議だよ。…本当に、ハルカとまた、出会えたみたいだって」
「…そんなに、そっくりなの?」
「……うん」
「…」
「だからね、僕の中の…僕はタカヤって呼んでるんだけど、彼が、ハルカと過ごしたいって」
「…うん」
「…彼と、僕のために。ハルカに、成ってくれる?」
「…私で、よかったら」
――ありがとう。…………
よくよく考えたら、知らない子に成りきるなんて、そんなに簡単なことじゃないはずだ。つい、いいよなんて返事をしてしまったけれど。
チャイムが鳴る。皆の足音と机や椅子の動く音に紛れて、私は頬杖の中にため息を隠す。
告白をしに行ったつもりが予想だにしない申し入れを受けることになり、私は自分の立ち位置を見極められずにいた。それでもこれだけははっきりしている。
きっと私は、鷹矢くんの恋人なんかじゃない。
だから、紗奈ちゃんや美冬ちゃんが自分のことのように喜んでくれても、周囲の人があんなふうに私を見ても、それはすべて私じゃないみたいで。私の向こうの「誰か」なんじゃないかって。
ドクンと脈打つ心音が「そうだ」と言った気がして、なんだかどこかがちくりと痛くて、授業はずっと上の空だった。
お昼休み、私と美冬ちゃんの机をくっつけたところに、紗奈ちゃんがぷらんとお弁当を揺らしながらやって来る。
「食べよ食べよー」
「おお?遥、今日はタッパーなのっ?」
昨夜、色々といっぱいいっぱいで、おばさんのご飯も喉を通らなかった。だから夕食が始まってすぐ、お暇させてもらったとき、帰りがけに包んで持たせてくれたのだ。
「うん、湊人のおばさんのお手製。たくさんあるから二人ともどうぞ」
大きめのタッパーの、蓋をめくる。
「すごっ!」
溢れんばかりの黄金のオーラは、二人の視線を釘付けにする。
「林堂のおばさん、料理研究家か何か?」
紗奈ちゃんたちは同時に覗き込んだあと、後方の席の、湊人をちらり。
「…?」
すぐに気づいて、訝しげな視線だけを返してくる。私だけはそこに、まともに加われなかった。
昨夜は私がそんなだったから、湊人とも上手く会話できていない。「ただいま」と「お帰り」すら交わしたかどうか、あやふやだった。昨日の放課後、私が中庭へ行くことは湊人も知っていた。きっと、振られて落ち込んでいると思ったはずだ。あいつのことだから、もっと子供っぽい冷やかしとか、馬鹿にしたような憎まれ口を予想していたのに、静かにそっとしておかれたものだから、余計調子が狂った。それとも、私がぼうっとしていて覚えていないだけなのかな。
今朝からの、私の周りの非日常的なざわめきを、湊人はどう見ているのだろう。言いそびれたままなのが、後ろめたくて。どんどん気まずくなるのは分かっているのに。
湊人もあれからずっと何も言ってこないまま、今日も半分が過ぎようとしている。
あぁ。考えがまとまらない。きっとお腹が空いているせいだ。なにせ昨日の夕御飯から食事をすべて飛ばしてしまっているから。
そして長らく空腹状態の胃を満たすべく、光輝くジャーマンポテトに箸を伸ばしたときだった。
「ハルカ!」
教室の後ろの扉から、唯一無二のキラキラしたオーラが漂ってくる。それは声の主が放つものに違いなかった。
クラスメイトの視線は一様に彼へ、それから私へと移る。
私はと言えば、間抜けに口を開けたまま。掴み損ねたじゃがいもが箸の先でこける。
「鷹矢くん…」
私のそんな吹けば飛ぶような声ですら、教室中を駆け巡った。
「『ハルカ』に『鷹矢くん』だって」
「思った以上にこれは…」
「さすが、初々しくも見せつけてくれるわー!」
そんな声のいくつかが耳に入ったところで、もう訳がわからなくなる。まるで芸能人のゴシップだ。未だに口は閉じられない。
「メッセ送ったけど、既読つかないから」
そんなことは意に介していないのか、彼は爽やかな王子スマイルを崩さない。扉を手で畳んだままじっと見ている。私だけを。
分かっていても体温は一気に上昇する。石炭をくべすぎた蒸気機関車みたいに茹る顔。私はやっと箸を置き、弾かれたようにポケットからスマホを取り出す。
「今日、お昼一緒に食べよう」
メッセージアプリを開くまでもなく、ディスプレイは最重要案件であることを強調するかのように、その一言を教えてくれた。
「ご、ごめん、見てなくて…」
「あはは、ハルカらしい」
ハルカさんも割と抜けた人だったのだろうか。なんて思うより早く、教室中の好奇の視線は輪をかけたようにさんざめくから、私はいたたまれずに立ち上がる。
追うように見上げられる、ふたりの視線。
「あたしらはいいから、行っといで」
「ふふっ、またお話聴かせてねっ」
紗奈ちゃんの微笑と美冬ちゃんのウィンクは、面白半分でもなんでもなくて。
「紗奈ちゃん…美冬ちゃん…」
そうだ、思えば昨日も、ううん、いつだって。こうして背中を押してくれている。
「うん…ありがと、行ってきます…!」
そして私は、幾つもの瞳に身体中をつっつかれるようにして教室を後にする。だから、あんぐりと口を開けたまま固まる湊人のことに、気を留める余裕も無く。その後ろを足早に抜けてしまう。
「あ。遥、お弁当…」
「ぜーんぶ置いてっちゃったねっ」
人目を避けたい私たちは、落ち着ける場所を探して校内を彷徨った。
でもうろうろと歩き回れば回るほど、ギャラリーは増え。それも仕方の無いことだ。だって私の横を歩いているのは、こんなに格好良い、見鐘台の王子様。
「あはは、参ったね」
「うん…」
「みんな、ハルカのことが気になるみたい」
「ええっ?違うよ、鷹矢くんでしょ?」
「だって僕は、昨日解放されたはずだろう?」
「あ…」
そうだ。彼の行くところ行くところ、あまりに人が集まってしまうものだから、昨日の放課後のあの告白大会と引き換えに、彼は安寧を手に入れたはず。
「…ハルカ、みんなになんて呼ばれてるか知ってる?」
「え?私?」
あだ名のことだろうか。皆目見当もつかない。どうしよう、今回のことで絶対悪目立ちしているだろうし、何かとんでもない名を付けられていたら。
「じゃあ、僕は?」
「王子様…」
くすぐったそうな顔をすると、鷹矢くんは右手の指をぴんと伸ばして揃えて、それを左胸に添える。それだけでも神々しいのに、そうっと瞼を閉じて、首だけで恭しく一礼。
「だからハルカは、シンデレラ」
「ええっ!?」
びんっと、髪の毛の先まで驚いてしまった。
なんて、畏れ多い。私があの、うそ、毎晩絵本からやわらかく微笑みかけてくれる、お姫様と同じ名前を、拝してしまうなんて!
「ははっ、その反応、かわいい」
精巧な硝子細工のよう。そんな睫毛を一本ずつ丁寧に寝かせて、弧を描く。束ねた日の光が真上からキラキラ。それは彼のためにあるような、輝き。
見とれたから?照れたから?頬がこんなに熱いのは。ただ分かるのは、どちらにしても、彼のせい。
結局たどり着いたのは、テニスコートが眼前に広がる、通路沿いの花壇だった。組まれた煉瓦の上に、並んでそっと腰を降ろす。瑞々しいサルビアの、真っ赤な密度を邪魔しないようにして。
「ふー。もうこんな時間だね」
見れば昼休みはもうあと残りわずか。さすがに私もお腹はぺこぺこだ、と、ここで重大なことに気がついてしまう。
「あれ、そう言えばハルカ、お弁当は?」
あるべきものが無い。
「…教室に、置いてきちゃった…」
両手はすっからかんだったのに、どうして今まで不思議に思わなかったんだろう。答えは分かっている。考える暇なんてなかったから。
「ははっ、ハルカらしいや…」
鷹矢くんに、どきどきさせられて。
「はい」
目の前に差し出されたハムとチーズのサンドイッチと、彼の屈託ない笑顔とを見比べていたら、私の遠慮というものはみるみる溶かされ無くなった。ついに両手でそれを受け取る。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
そのままにこにこと、同じものを彼もひと齧りした。その動く頬を見ながら、私はまだそれを口にできず、代わりに押し戻せない言葉が口を衝く。
「…『ハルカ』さんも、おっちょこちょいだったの?」
「えっ…?」
「あっ、ごめんね、訊いちゃいけないことだったら、忘れて!」
ひととき止まった隣の咀嚼は、ゆっくりと再開して。私は両手に持った綺麗な三角を見つめたまま、サルビアの微かな蜜の香りにも苛まれる。
「…ハルカのこと、知りたい?」
知りたいか知りたくないかで言えば、もちろん知りたかった、けれど。一面の赤に飲み込まれそうな彼の切なげな表情を見ていたら。
「…話したくなければ、…無理はして欲しくない」
知りたいというより、知る必要があると言うべきなのかもしれない。どんな人かを知らないと、私はちゃんとハルカさんに成れないと思うから。二人がどんな関係だったのか――きっと恋人同士だったのだろうけど――どうしてハルカさんは今、鷹矢くんの隣にいないのか。そういうことも含めて全部、まだ何も、私は知らないもの。
私と似ている、同じ名前の女の子、ということ以外は、何も。
それが表情に出ていたのかもしれない。掬い取るように、私を撫で見て彼は、
「そうか、僕が『ハルカに成って』なんて言ったから…?」
一層あえかに微笑んだ。
「…!」
花が鳴き出す、一斉に。
待って。覆ってしまわないで。
あなたたちのような強い赤の大群に、儚い彼は敵わない。
「ちがう、私がそうしたいだけだから!」
抗おうと強く首を振ったのに、風までもが無遠慮だった。赤に肩入れするように。ざあっ、と。甘い香りも私の髪も彼の吐息も。すべて空に召しとられていく。
それでも、私の必死な心言だけは、彼のもとにちゃんと届けられた。赤を包みやさしく溶け込んだ、この笑顔が確かなサイン。だから私だけまた、見とれてしまう。
「本当に、ハルカは優しいね…」
「…」
ううん。私ははにかみながら、今度はゆるく首を振る。あたたかくてやさしいのは、
「ありがとう、」
鷹矢くんのほう。
――ありがとう。…いつまでも、……。
重なる。それは昨日の笑顔。
「ハルカ…」
温度を湛えた頬に持ち上げられた、優麗な瞳。しなやかに染み渡る。今は夕陽のフィルターも取り払われ、降り注ぐ陽射しにより鮮明に、色濃く、ここに。
「いつまでも一緒」の幸せをかたちにしたら、こんな笑顔なんだね、きっと。
私が夜ごと、絵空に見つめるシンデレラの未来。それを彼がこうして、降らせてくれるなら。
たとえ、私の向こうの誰かに向けられたものだとしても。今はかりそめのキャストだとしても。私の憧れはここにある。いつか、満ちてくれるはず。彼の恋を継いだ先に、きっと――
――…いつまでも、一緒にいて。
それは、あるはずだから。
そう信じてみたいから、「ハルカ」を私は、やりきってみせるよ。
何が起こっているのか、分からない。目線の高さまで、ぐいと持ち上げられたこの、疑いようのない左手を、目の当たりにしても。
指という指は全て捕まった。
「何固まってんの?」
影に塗られた表情に、瞳だけがぼんやり光を蓄える。いつの間にか隣に立って、覆い被さるように私を見る、この不敵な笑みは一体、誰――?
「蓮未、くん…?」
「…」
口の端は下がる、開く。垣間見える白い歯。僅かに鋭くした目元にかぶさる、睫毛の一本一本に夕陽をまぶして。
「『タカヤ』」
「え…っ」
「ハルカ、いつもそう呼んでんじゃん、俺のこと」
厚みを増した彼の瞳が、私を捉えて逃がさない。なんて強引な視線。有無を言わせない口調。確かに蓮未くんなのに、蓮未くんじゃない。私は、下の名前で呼んだことなんて、無い。
「…だれ…?」
声になれずに呟いた、私の精一杯の問い掛けを、彼は盛大なため息で散らし、
「いいから、」
思い切り、結んだ手を引く。
「呼んでよ」
「…っ!」
彼の胸にぶつかりそうになる直前、棒になりかけた脚は踏みとどまる。だから爪先だけの衝突。
至近距離の瞳、映る私の顔すらぼんやり揺らいで。とまっていたはずの心臓は乱れながら飛び回るから、この息もか細く。呼応するように震える瞼に、瞬きすら許さない。
人質にとられた左手は彼の向こう側。夕色を抱き込んでまっすぐ、ゆっくり心臓へと歩いてくる眼差しは一層強く。言うまで返さないと身勝手な意思を捩じ込む。
これじゃ、王子と言うより暴君だ。
「……」
指と指の隙間が埋まっていく。そのたび舌先がしびれていく。わずかな酸素を手繰り寄せるように、小さく、私は息を吸い込んで――
「鷹矢、くん…」
ふっと、
「…合格」
やわらいだ。繋いだ手も、目も口も、風も温度も空気もすべて。
その向こうでパチンと、音がした。
薄く息をつくその微笑みはやっぱり王子様で、このひととき見つめられていた強引な彼は幻だったんじゃないかとすら思うほど。
「ごめんね、驚いた?」
私は安堵した。声がやわらかい。
「あの…今度こそ、…蓮未くん?」
腕をそっと私の身体に沿わせるようにしてから彼は、ひとつずつ指を解放していく。最後の指先、触れていた私じゃない体温が離れていくのを、戸惑うくらいに、なんだか、
「…だめだよ、」
引き留めたい、なんて。
「さっき教えた通りに呼んでくれなきゃ」
「…!」
「でないとまた、怒られちゃうよ?」
少し、寄せられただけなのに。やわらかくてやさしい、それでいて少し悪戯っぽい。傾いだ首、なけなしの夕陽をすべて吸い込んだ彼の笑み。王子様はいつだって、私の瞳も酸素も、太陽まで奪う。
「…だれに…?」
さっきまで、融かすほどに私を見ていた彼の朧姿が、また少しずつ質量を伴いはじめ、
「……」
鷹矢くんはすっと数歩離れた。落ちゆく陽がその背中へ黒を注ぐ。唇を起こす横顔が、どんな表情をしていても、分からなくなるくらいに。
「…僕の中の、俺」
次の日、これはこれで学校は大変な騒動になっていた。
「ねえ、清次さんってどの人?」
「このクラスで合ってんの?王子の彼女」
「ほらあの子だよ、長い髪の…」
「ええ、見えない!こっち向いてー」
この間まで隣のクラスの前にあった人だかりは、そっくりそのまま、この教室の前に移動しただけだった。
朝には耳が早いクラスメイトに始まり、皆から存分に冷やかされ、休み時間になるとこうして廊下から眺められ。上野のパンダの気持ち、少しは分かる気がした。そんな冗談は言えるのに、付き合うことになったとは言ってもこの複雑な事情のことを、結局は誰にも言えず終いだった。あまり、触れてまわるような話でもないと思ったし。
「よくやった、遥」
「今度二人で歩いてるところ、見せてねっ」
紗奈ちゃんはわしゃわしゃと髪を撫でてくれるけど。美冬ちゃんもスケッチブック片手に張り切っているけど。私の頭はまだこんがらがったままだった。せめて紗奈ちゃんや美冬ちゃんには正直に全てを打ち明けたくても、まだ自分でも整理しきれていない、というより、その材料が揃っていないうちからは、どうすることもできない。
「…頑張ったね」
そんな風に机を見つめて、ぼうっとしている私の正面にふわり。紗奈ちゃんはしゃがみ込んで笑顔を届けてくれる。
「紗奈ちゃん…」
なんだかほっとして、私も釣られて目尻を下げた。
でも、頑張るのはきっと、これからなのだ。私は、蓮未くん――鷹矢くんのために。成らなければいけないから。
――忘れられない女の子がいるんだ。
「名前まで一緒だったから、びっくりしちゃったよ」
「…じゃあ、私の名前を呼んだわけじゃなくて…」
「…うん。見かけた後ろ姿が、その子とあまりに似てたから、つい。…ごめんね」
「ううん。…謝んないで」
「…でも後ろ姿だけじゃなかった」
「え?」
「不思議だよ。…本当に、ハルカとまた、出会えたみたいだって」
「…そんなに、そっくりなの?」
「……うん」
「…」
「だからね、僕の中の…僕はタカヤって呼んでるんだけど、彼が、ハルカと過ごしたいって」
「…うん」
「…彼と、僕のために。ハルカに、成ってくれる?」
「…私で、よかったら」
――ありがとう。…………
よくよく考えたら、知らない子に成りきるなんて、そんなに簡単なことじゃないはずだ。つい、いいよなんて返事をしてしまったけれど。
チャイムが鳴る。皆の足音と机や椅子の動く音に紛れて、私は頬杖の中にため息を隠す。
告白をしに行ったつもりが予想だにしない申し入れを受けることになり、私は自分の立ち位置を見極められずにいた。それでもこれだけははっきりしている。
きっと私は、鷹矢くんの恋人なんかじゃない。
だから、紗奈ちゃんや美冬ちゃんが自分のことのように喜んでくれても、周囲の人があんなふうに私を見ても、それはすべて私じゃないみたいで。私の向こうの「誰か」なんじゃないかって。
ドクンと脈打つ心音が「そうだ」と言った気がして、なんだかどこかがちくりと痛くて、授業はずっと上の空だった。
お昼休み、私と美冬ちゃんの机をくっつけたところに、紗奈ちゃんがぷらんとお弁当を揺らしながらやって来る。
「食べよ食べよー」
「おお?遥、今日はタッパーなのっ?」
昨夜、色々といっぱいいっぱいで、おばさんのご飯も喉を通らなかった。だから夕食が始まってすぐ、お暇させてもらったとき、帰りがけに包んで持たせてくれたのだ。
「うん、湊人のおばさんのお手製。たくさんあるから二人ともどうぞ」
大きめのタッパーの、蓋をめくる。
「すごっ!」
溢れんばかりの黄金のオーラは、二人の視線を釘付けにする。
「林堂のおばさん、料理研究家か何か?」
紗奈ちゃんたちは同時に覗き込んだあと、後方の席の、湊人をちらり。
「…?」
すぐに気づいて、訝しげな視線だけを返してくる。私だけはそこに、まともに加われなかった。
昨夜は私がそんなだったから、湊人とも上手く会話できていない。「ただいま」と「お帰り」すら交わしたかどうか、あやふやだった。昨日の放課後、私が中庭へ行くことは湊人も知っていた。きっと、振られて落ち込んでいると思ったはずだ。あいつのことだから、もっと子供っぽい冷やかしとか、馬鹿にしたような憎まれ口を予想していたのに、静かにそっとしておかれたものだから、余計調子が狂った。それとも、私がぼうっとしていて覚えていないだけなのかな。
今朝からの、私の周りの非日常的なざわめきを、湊人はどう見ているのだろう。言いそびれたままなのが、後ろめたくて。どんどん気まずくなるのは分かっているのに。
湊人もあれからずっと何も言ってこないまま、今日も半分が過ぎようとしている。
あぁ。考えがまとまらない。きっとお腹が空いているせいだ。なにせ昨日の夕御飯から食事をすべて飛ばしてしまっているから。
そして長らく空腹状態の胃を満たすべく、光輝くジャーマンポテトに箸を伸ばしたときだった。
「ハルカ!」
教室の後ろの扉から、唯一無二のキラキラしたオーラが漂ってくる。それは声の主が放つものに違いなかった。
クラスメイトの視線は一様に彼へ、それから私へと移る。
私はと言えば、間抜けに口を開けたまま。掴み損ねたじゃがいもが箸の先でこける。
「鷹矢くん…」
私のそんな吹けば飛ぶような声ですら、教室中を駆け巡った。
「『ハルカ』に『鷹矢くん』だって」
「思った以上にこれは…」
「さすが、初々しくも見せつけてくれるわー!」
そんな声のいくつかが耳に入ったところで、もう訳がわからなくなる。まるで芸能人のゴシップだ。未だに口は閉じられない。
「メッセ送ったけど、既読つかないから」
そんなことは意に介していないのか、彼は爽やかな王子スマイルを崩さない。扉を手で畳んだままじっと見ている。私だけを。
分かっていても体温は一気に上昇する。石炭をくべすぎた蒸気機関車みたいに茹る顔。私はやっと箸を置き、弾かれたようにポケットからスマホを取り出す。
「今日、お昼一緒に食べよう」
メッセージアプリを開くまでもなく、ディスプレイは最重要案件であることを強調するかのように、その一言を教えてくれた。
「ご、ごめん、見てなくて…」
「あはは、ハルカらしい」
ハルカさんも割と抜けた人だったのだろうか。なんて思うより早く、教室中の好奇の視線は輪をかけたようにさんざめくから、私はいたたまれずに立ち上がる。
追うように見上げられる、ふたりの視線。
「あたしらはいいから、行っといで」
「ふふっ、またお話聴かせてねっ」
紗奈ちゃんの微笑と美冬ちゃんのウィンクは、面白半分でもなんでもなくて。
「紗奈ちゃん…美冬ちゃん…」
そうだ、思えば昨日も、ううん、いつだって。こうして背中を押してくれている。
「うん…ありがと、行ってきます…!」
そして私は、幾つもの瞳に身体中をつっつかれるようにして教室を後にする。だから、あんぐりと口を開けたまま固まる湊人のことに、気を留める余裕も無く。その後ろを足早に抜けてしまう。
「あ。遥、お弁当…」
「ぜーんぶ置いてっちゃったねっ」
人目を避けたい私たちは、落ち着ける場所を探して校内を彷徨った。
でもうろうろと歩き回れば回るほど、ギャラリーは増え。それも仕方の無いことだ。だって私の横を歩いているのは、こんなに格好良い、見鐘台の王子様。
「あはは、参ったね」
「うん…」
「みんな、ハルカのことが気になるみたい」
「ええっ?違うよ、鷹矢くんでしょ?」
「だって僕は、昨日解放されたはずだろう?」
「あ…」
そうだ。彼の行くところ行くところ、あまりに人が集まってしまうものだから、昨日の放課後のあの告白大会と引き換えに、彼は安寧を手に入れたはず。
「…ハルカ、みんなになんて呼ばれてるか知ってる?」
「え?私?」
あだ名のことだろうか。皆目見当もつかない。どうしよう、今回のことで絶対悪目立ちしているだろうし、何かとんでもない名を付けられていたら。
「じゃあ、僕は?」
「王子様…」
くすぐったそうな顔をすると、鷹矢くんは右手の指をぴんと伸ばして揃えて、それを左胸に添える。それだけでも神々しいのに、そうっと瞼を閉じて、首だけで恭しく一礼。
「だからハルカは、シンデレラ」
「ええっ!?」
びんっと、髪の毛の先まで驚いてしまった。
なんて、畏れ多い。私があの、うそ、毎晩絵本からやわらかく微笑みかけてくれる、お姫様と同じ名前を、拝してしまうなんて!
「ははっ、その反応、かわいい」
精巧な硝子細工のよう。そんな睫毛を一本ずつ丁寧に寝かせて、弧を描く。束ねた日の光が真上からキラキラ。それは彼のためにあるような、輝き。
見とれたから?照れたから?頬がこんなに熱いのは。ただ分かるのは、どちらにしても、彼のせい。
結局たどり着いたのは、テニスコートが眼前に広がる、通路沿いの花壇だった。組まれた煉瓦の上に、並んでそっと腰を降ろす。瑞々しいサルビアの、真っ赤な密度を邪魔しないようにして。
「ふー。もうこんな時間だね」
見れば昼休みはもうあと残りわずか。さすがに私もお腹はぺこぺこだ、と、ここで重大なことに気がついてしまう。
「あれ、そう言えばハルカ、お弁当は?」
あるべきものが無い。
「…教室に、置いてきちゃった…」
両手はすっからかんだったのに、どうして今まで不思議に思わなかったんだろう。答えは分かっている。考える暇なんてなかったから。
「ははっ、ハルカらしいや…」
鷹矢くんに、どきどきさせられて。
「はい」
目の前に差し出されたハムとチーズのサンドイッチと、彼の屈託ない笑顔とを見比べていたら、私の遠慮というものはみるみる溶かされ無くなった。ついに両手でそれを受け取る。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
そのままにこにこと、同じものを彼もひと齧りした。その動く頬を見ながら、私はまだそれを口にできず、代わりに押し戻せない言葉が口を衝く。
「…『ハルカ』さんも、おっちょこちょいだったの?」
「えっ…?」
「あっ、ごめんね、訊いちゃいけないことだったら、忘れて!」
ひととき止まった隣の咀嚼は、ゆっくりと再開して。私は両手に持った綺麗な三角を見つめたまま、サルビアの微かな蜜の香りにも苛まれる。
「…ハルカのこと、知りたい?」
知りたいか知りたくないかで言えば、もちろん知りたかった、けれど。一面の赤に飲み込まれそうな彼の切なげな表情を見ていたら。
「…話したくなければ、…無理はして欲しくない」
知りたいというより、知る必要があると言うべきなのかもしれない。どんな人かを知らないと、私はちゃんとハルカさんに成れないと思うから。二人がどんな関係だったのか――きっと恋人同士だったのだろうけど――どうしてハルカさんは今、鷹矢くんの隣にいないのか。そういうことも含めて全部、まだ何も、私は知らないもの。
私と似ている、同じ名前の女の子、ということ以外は、何も。
それが表情に出ていたのかもしれない。掬い取るように、私を撫で見て彼は、
「そうか、僕が『ハルカに成って』なんて言ったから…?」
一層あえかに微笑んだ。
「…!」
花が鳴き出す、一斉に。
待って。覆ってしまわないで。
あなたたちのような強い赤の大群に、儚い彼は敵わない。
「ちがう、私がそうしたいだけだから!」
抗おうと強く首を振ったのに、風までもが無遠慮だった。赤に肩入れするように。ざあっ、と。甘い香りも私の髪も彼の吐息も。すべて空に召しとられていく。
それでも、私の必死な心言だけは、彼のもとにちゃんと届けられた。赤を包みやさしく溶け込んだ、この笑顔が確かなサイン。だから私だけまた、見とれてしまう。
「本当に、ハルカは優しいね…」
「…」
ううん。私ははにかみながら、今度はゆるく首を振る。あたたかくてやさしいのは、
「ありがとう、」
鷹矢くんのほう。
――ありがとう。…いつまでも、……。
重なる。それは昨日の笑顔。
「ハルカ…」
温度を湛えた頬に持ち上げられた、優麗な瞳。しなやかに染み渡る。今は夕陽のフィルターも取り払われ、降り注ぐ陽射しにより鮮明に、色濃く、ここに。
「いつまでも一緒」の幸せをかたちにしたら、こんな笑顔なんだね、きっと。
私が夜ごと、絵空に見つめるシンデレラの未来。それを彼がこうして、降らせてくれるなら。
たとえ、私の向こうの誰かに向けられたものだとしても。今はかりそめのキャストだとしても。私の憧れはここにある。いつか、満ちてくれるはず。彼の恋を継いだ先に、きっと――
――…いつまでも、一緒にいて。
それは、あるはずだから。
そう信じてみたいから、「ハルカ」を私は、やりきってみせるよ。
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