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第九話 アーサーのお留守番
アーサーのお留守番 三
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さて、どうしようかな……
ぼくはレオのいない一日をどう過ごそうか悩んでいた。
ぼくの生活は基本的にレオのあとをついて回っている。レオの遊びに付き合ったり、レオがしていることの手伝いをしたり、レオに仕事を頼まれたり、あとレオのいやらしいいたずらに振り回されたりと……とにかくレオがいるとなにかしらが起こり、退屈しない。むしろやりたいことがあるのにレオに阻まれて邪魔に思うことさえある。
でも実際にレオがいなくなってみると、どうしていいかわからない。世間では、妻が出かけると独身に戻った気になって自由を謳歌できるなんて言うけど、ぼくはその逆だ。道の真ん中にひとりぽつんと置いてかれた子供のように落ち着かなくなってしまった。なにか趣味でもあれば没頭して時間が溶けるんだろうけど、ぼくはこれといった遊びを知らない。
別に読みたい本もないしなぁ……
ぼくは書庫の方角を向いて数歩歩いたり、玄関に向かってちょっと進んでみたり、キッチンの方を見てみたり、と右往左往していた。どうしていいかわからなかった。
そこに、
「アーサー様ー!」
広間の方からアルテルフが慌ただしく駆けてきた。
「助けて! おねがーい!」
「どうしたのアルテルフ?」
「かゆい、かゆい!」
「かゆい?」
「背中かゆいんですー! でもうまく届かなくって、お願い、掻いてー!」
なんだ、なにかと思ったらそんなことか。助けてなんて言うからちょっと驚いたよ。
アルテルフはぼくの了承を聞く前にすでに背中を見せ、
「このへん! このへんかゆいの!」
と左右の肩甲骨のあいだを示した。
「早くっ! 早くー!」
アルテルフはぴょんぴょんと跳ね、ぼくを急かした。しかしぼくは躊躇せずにいられなかった。
だって、なんだか甘酸っぱいんだ。アルテルフは成鳥だけど、人間に変げすると幼い少女の姿になる。年齢にして十二、三歳ほどだ。
髪をツインテールにしてるから”うなじ”が隠れない。その露出した肌が妙な色気を持っている。
うなじは別にいやらしい部分でもなんでもない。ただの首のうしろだ。ただの肌だ。
それが触れがたいほどの色気を持っている。みずみずしいフレッシュな色気が、さわやかかつ濃厚ににおっている。
それを意識した瞬間、衣服に閉じられたアルテルフの体すべてが”女”に見えてしまった。服の上からでも、いや、服そのものさえいやらしさを感じる。よく冷えた炭酸水がシュワっと爽快感を放つように、少女のうしろ姿が魅力を振りまいている。
「ねえー、かゆいよー! 早く早くー!」
「ご、ごめん。いまやるよ」
ぼくはゴクリと息をのみ、恐る恐る背に触れた。右手の四本の指を熊手のようにし、アルテルフの背中の真ん中を軽く掻く。すると、
「あっ、そこ……」
とアルテルフが妙に色っぽい声で言った。
なんだか両肩が浮つく。すごくいやらしいことをしている気分になる。
そもそもぼくは女の体に慣れていない。レオと毎晩のように愛し合っているのに、いまだにはじめてのような気持ちで緊張してしまうほど、ぼくはウブだ。
だから、ただの背中が触れがたい。なんでもないことなのに、女の秘めた部分に手を伸ばすような背徳感を覚えてしまう。
呼吸が苦しい。たくさん息を吸いたい。でもそうするとぼくがいま熱くなっていることがアルテルフにばれてしまう。
お、溺れそうだ……
そんなぼくを知ってか知らずか、
「ああん、もどかしい!」
なんとアルテルフは服をめくりあげた。
「えっ!?」
「そんなんじゃぜんぜんかゆいの取れませんよ! 強く掻いて!」
アルテルフは服のすそをつかみ、あごまで持ち上げていた。こともあろうか玄関前の広い空間で、うしろ向きとはいえ乳房を丸出しにしていた。
ぼくはもう呼吸を我慢できなかった。
目の前の細い背中はうなじとは比べ物にならないほど色っぽかった。ツヤのある肌はもちろん、その細い胴体が描くラインや、わずかに生えるうぶ毛さえもが生々しい色気を放っていた。
「はあっ、はあっ……」
「ねえ、なに息荒くしてるんですかー! 早く掻いてよー!」
少女の肌がくねくねと踊る。すると、つるんとした脇が魅惑のにおいを振りまく。角度によっては正面の浅い膨らみの”ふもと”が見えてしまう。
「ねえ、してくれないんですかー? アーサー様は騎士じゃないんですかー?」
「えっ?」
ぼくは予想外の言葉に意識を取り戻した。
アルテルフは言った。
「ねえー、騎士って困ってるひとを助けるんでしょー? 助けを求めてるひとを見捨てたりしないんでしょー? なのになんで掻いてくれないのー? アーサー様、騎士じゃないんだー」
「ち、違うよ! ぼくは騎士だ!」
「じゃあ早くー! ねえ、ねえー!」
ぼくはゴクリとのどを響かせ、緊張で震える手を前に伸ばした。
ぼくは騎士だ。騎士はひとを見捨てたりしない。どんなときでも逃げたりしない。それが剣の戦いでも、こころの闘いでもだ!
ぼくの右手がアルテルフの肩甲骨のあいだを直接掻いた。
——ああ、冷たい。しっとりしてやわらかい。決していやらしい部分なんて触ってないのに、どうしてこんな気持ちになってしまうんだろう……
「そうそう、気持ちいい~」
アルテルフは無邪気な声で言った。それがむしろ欲情を誘った。まるで少女が性に無頓着なのをいいことに、理由をつけて肌に触れているような錯覚を覚えた。いけないことだと思うのに、この時間を”たのしんで”しまっている。
「ねえー、こんどは肩甲骨のあたり、両方掻いてー」
「えっ?」
ぼくの声はうわずっていた。
「ねえ、掻いてー。かゆい、かゆいよー」
そう言われ、ぼくは両手を使った。感触が二倍だ。もしこれが背中ではなく正面なら、ちょうど胸の辺りに触れていると思った。
「もっと外ー」
ぼくは手を外にずらした。
「もっとー」
もっと外に。
「もっとー」
えっ? だって、もう脇だよ?
「脇の下かゆいのー! 掻いてー!」
こ、こんなところに手を? そんなことしていいのか? だって、そこからちょっと手を前に出すだけで、わしづかみにしてしまう……
「早くー、騎士でしょー?」
「ううっ……」
ぼくはアルテルフの脇下に手を滑らせた。まるで背後から抱き寄せるような格好だ。
指が前に行きたがる。その”ふもと”に触れてしまいたいと思っている。ほんの少し……そう、ほんの少し間違えてしまえばいい。いきおいがつき過ぎて、ちょっと前に手が出てしまえばいい。それはわざとじゃなくて、単なる事故に過ぎない……
……な、なにを考えてるんだぼくは! どうしてこんなことが頭に浮かんでしまうんだ!
ああもう! 呼吸が苦しい! こんなに息をしてるっていうのに!
「あーもー、もどかしいですねー。いつになったら触るんですか?」
「へっ?」
アルテルフはクスクスと笑い、ゆっくり首をうしろに回した。右半分だけ見える彼女の横顔から、少女とは思えないほど艶やかな流し目が覗き込んだ。
「触りたいんでしょ、おっぱい」
「な、なにを……!」
ぼくは呼吸が乱れるあまり言葉もろくに離せなかった。
「そんなに手を汗まみれにしちゃって、欲情してるの丸わかりですよ」
「し、してないよ! ぼくはただ……」
「へー、嘘つくんだ」
アルテルフはめくり上げていた服から手を離し、体ごと振り返った。
「じゃあこれ、なに?」
「わっ!」
アルテルフの太ももがぼくの両足のあいだに滑り込み、熱くなったところをぎゅっと押した。
「どしたの? 女の子の体触っておっきくしちゃったの?」
「ち、ちが……」
「違わないよね」
アルテルフは脚をゆっくり上下に動かしながら、幼児にものを教えるような声で言った。
「あたし背中かいてもらっただけだよね。なのになんでこんなになってるの? おかしいよね? ふつう背中かいただけでこうはならないよね?」
や、やめて……息がもたない……擦りつけないで……
生意気な少女の瞳が上目遣いでまっすぐぼくを見つめた。そして吐き捨てるように言った。
「この変態ッ」
あっ……
「少女に欲情する変態ッ。変態って言われてビクビクする変態ッ」
や、やめてっ……やめてっ……
「クスクス。やっぱり変態って言われるの好きなんだね。いい顔してるよ。すっごくせつなそう」
「ち、違……」
「いいんだよ、変態。いっぱいビクビクしな」
そう言ってアルテルフはぼくの両手首をつかみ、へそだしシャツの胴体へ潜り込ませた。
「な、なにを……」
「ご・ほ・う・び」
「へえっ?」
「変態ちゃんがかわいい声で鳴くからごほうびに触らせてあげますよ」
「そ、そんなダメだよ!」
「クスクス。いーからいーから。背中掻いてくれたお礼ですよ。ほら、お股かゆいかゆいなんでしょ? お手手もお股もムズムズしてるんでしょ? じゃスッキリさせなきゃ」
ぼくはなにも言い返さなかった。というよりなにも言えなかった。もう頭が回らなかった。
呼吸は湯気だった。体内の熱が蒸気となって口からあふれ、頭の中まで曇らせていた。ぼくのこころは彼女の脚と服の下の秘部以外なにも見えなくなっていた。命令されるのがうれしくて、罵られると全身がゾクゾク痺れた。
ぼくの手が誘導され、ゆっくりと上に向かった。決して強く握られているわけではない。抵抗しようと思えば簡単にできる。だが、手のひらが肌を舐める感触がたまらなかった。そしてアルテルフのあざ笑うかのような眼差しが、ぼくの意識をどろどろに溶かしていた。
ああ、もうすぐ触れてしまう。そうしたらきっとぼくは堕ちてしまう。なし崩しにされてしまう。ぼくは騎士だってのに……愛するひとだけを愛し、ほかの女に欲情なんてしちゃいけないのに……ああ……
ごめんよレオ。ぼくは……
と、こころの中でつぶやいた瞬間、大事なことを思い出した。
「ダメだ!」
ぼくは力いっぱい腕を引き、アルテルフから離れた。そして四つん這いで床に向かい、汗と息をぶちまけながら叫んだ。
「あ、危ない! もうちょっとで約束を破るところだった!」
そう、ぼくはレオと約束していた。今夜ふたりで愛し合うと。すべてレオに捧げると。決して無駄打ちをしてはいけないと。
それをあと数秒で終わらせてしまうところだった。危うく欲望に負けるところだった。
「もー、びっくりしましたよ。突然大声で飛び退いたりして」
アルテルフはのん気に笑っていた。あんなことしたあとでよく平気でいられるよ。
ぼくは息も絶え絶えに言った。
「ご、ごめん。でもダメなんだ」
「なにがダメなんですか?」
「その……レオと約束したんだ。今夜のために溜めておくって」
「溜めるって、あれをですか?」
ぼくはコクンとうなずいた。すると、
「あ、そーだったんですかー? ごめんなさい、そんなの知らなかったからー! あはははははー!」
知らなかったからって、知ってたらいいと思ってたのか? 相変わらずこの子よくわかんないなぁ。ていうかあんなことしてどうするつもりなんだよ。ぼくは君のあるじの夫だろう? いたずらだって、やっていいことと悪いことがあるよ。
「それじゃアーサー様、あたし出かけるから。じゃーねー」
そう言ってアルテルフは玄関を出て行った。そして扉が閉まった直後、ぴょおーと鷹の鳴き声が聞こえた。どこぞへと飛んでいったらしい。
まったく、いったいなにが目的なんだか。いつもいつも変なことして、よくも悪くもレオの使い魔だよ。
それにしてもずいぶん昂っちゃったなぁ。気持ちを落ち着けないと。ああ、レオ。早く帰ってきて……
ぼくはレオのいない一日をどう過ごそうか悩んでいた。
ぼくの生活は基本的にレオのあとをついて回っている。レオの遊びに付き合ったり、レオがしていることの手伝いをしたり、レオに仕事を頼まれたり、あとレオのいやらしいいたずらに振り回されたりと……とにかくレオがいるとなにかしらが起こり、退屈しない。むしろやりたいことがあるのにレオに阻まれて邪魔に思うことさえある。
でも実際にレオがいなくなってみると、どうしていいかわからない。世間では、妻が出かけると独身に戻った気になって自由を謳歌できるなんて言うけど、ぼくはその逆だ。道の真ん中にひとりぽつんと置いてかれた子供のように落ち着かなくなってしまった。なにか趣味でもあれば没頭して時間が溶けるんだろうけど、ぼくはこれといった遊びを知らない。
別に読みたい本もないしなぁ……
ぼくは書庫の方角を向いて数歩歩いたり、玄関に向かってちょっと進んでみたり、キッチンの方を見てみたり、と右往左往していた。どうしていいかわからなかった。
そこに、
「アーサー様ー!」
広間の方からアルテルフが慌ただしく駆けてきた。
「助けて! おねがーい!」
「どうしたのアルテルフ?」
「かゆい、かゆい!」
「かゆい?」
「背中かゆいんですー! でもうまく届かなくって、お願い、掻いてー!」
なんだ、なにかと思ったらそんなことか。助けてなんて言うからちょっと驚いたよ。
アルテルフはぼくの了承を聞く前にすでに背中を見せ、
「このへん! このへんかゆいの!」
と左右の肩甲骨のあいだを示した。
「早くっ! 早くー!」
アルテルフはぴょんぴょんと跳ね、ぼくを急かした。しかしぼくは躊躇せずにいられなかった。
だって、なんだか甘酸っぱいんだ。アルテルフは成鳥だけど、人間に変げすると幼い少女の姿になる。年齢にして十二、三歳ほどだ。
髪をツインテールにしてるから”うなじ”が隠れない。その露出した肌が妙な色気を持っている。
うなじは別にいやらしい部分でもなんでもない。ただの首のうしろだ。ただの肌だ。
それが触れがたいほどの色気を持っている。みずみずしいフレッシュな色気が、さわやかかつ濃厚ににおっている。
それを意識した瞬間、衣服に閉じられたアルテルフの体すべてが”女”に見えてしまった。服の上からでも、いや、服そのものさえいやらしさを感じる。よく冷えた炭酸水がシュワっと爽快感を放つように、少女のうしろ姿が魅力を振りまいている。
「ねえー、かゆいよー! 早く早くー!」
「ご、ごめん。いまやるよ」
ぼくはゴクリと息をのみ、恐る恐る背に触れた。右手の四本の指を熊手のようにし、アルテルフの背中の真ん中を軽く掻く。すると、
「あっ、そこ……」
とアルテルフが妙に色っぽい声で言った。
なんだか両肩が浮つく。すごくいやらしいことをしている気分になる。
そもそもぼくは女の体に慣れていない。レオと毎晩のように愛し合っているのに、いまだにはじめてのような気持ちで緊張してしまうほど、ぼくはウブだ。
だから、ただの背中が触れがたい。なんでもないことなのに、女の秘めた部分に手を伸ばすような背徳感を覚えてしまう。
呼吸が苦しい。たくさん息を吸いたい。でもそうするとぼくがいま熱くなっていることがアルテルフにばれてしまう。
お、溺れそうだ……
そんなぼくを知ってか知らずか、
「ああん、もどかしい!」
なんとアルテルフは服をめくりあげた。
「えっ!?」
「そんなんじゃぜんぜんかゆいの取れませんよ! 強く掻いて!」
アルテルフは服のすそをつかみ、あごまで持ち上げていた。こともあろうか玄関前の広い空間で、うしろ向きとはいえ乳房を丸出しにしていた。
ぼくはもう呼吸を我慢できなかった。
目の前の細い背中はうなじとは比べ物にならないほど色っぽかった。ツヤのある肌はもちろん、その細い胴体が描くラインや、わずかに生えるうぶ毛さえもが生々しい色気を放っていた。
「はあっ、はあっ……」
「ねえ、なに息荒くしてるんですかー! 早く掻いてよー!」
少女の肌がくねくねと踊る。すると、つるんとした脇が魅惑のにおいを振りまく。角度によっては正面の浅い膨らみの”ふもと”が見えてしまう。
「ねえ、してくれないんですかー? アーサー様は騎士じゃないんですかー?」
「えっ?」
ぼくは予想外の言葉に意識を取り戻した。
アルテルフは言った。
「ねえー、騎士って困ってるひとを助けるんでしょー? 助けを求めてるひとを見捨てたりしないんでしょー? なのになんで掻いてくれないのー? アーサー様、騎士じゃないんだー」
「ち、違うよ! ぼくは騎士だ!」
「じゃあ早くー! ねえ、ねえー!」
ぼくはゴクリとのどを響かせ、緊張で震える手を前に伸ばした。
ぼくは騎士だ。騎士はひとを見捨てたりしない。どんなときでも逃げたりしない。それが剣の戦いでも、こころの闘いでもだ!
ぼくの右手がアルテルフの肩甲骨のあいだを直接掻いた。
——ああ、冷たい。しっとりしてやわらかい。決していやらしい部分なんて触ってないのに、どうしてこんな気持ちになってしまうんだろう……
「そうそう、気持ちいい~」
アルテルフは無邪気な声で言った。それがむしろ欲情を誘った。まるで少女が性に無頓着なのをいいことに、理由をつけて肌に触れているような錯覚を覚えた。いけないことだと思うのに、この時間を”たのしんで”しまっている。
「ねえー、こんどは肩甲骨のあたり、両方掻いてー」
「えっ?」
ぼくの声はうわずっていた。
「ねえ、掻いてー。かゆい、かゆいよー」
そう言われ、ぼくは両手を使った。感触が二倍だ。もしこれが背中ではなく正面なら、ちょうど胸の辺りに触れていると思った。
「もっと外ー」
ぼくは手を外にずらした。
「もっとー」
もっと外に。
「もっとー」
えっ? だって、もう脇だよ?
「脇の下かゆいのー! 掻いてー!」
こ、こんなところに手を? そんなことしていいのか? だって、そこからちょっと手を前に出すだけで、わしづかみにしてしまう……
「早くー、騎士でしょー?」
「ううっ……」
ぼくはアルテルフの脇下に手を滑らせた。まるで背後から抱き寄せるような格好だ。
指が前に行きたがる。その”ふもと”に触れてしまいたいと思っている。ほんの少し……そう、ほんの少し間違えてしまえばいい。いきおいがつき過ぎて、ちょっと前に手が出てしまえばいい。それはわざとじゃなくて、単なる事故に過ぎない……
……な、なにを考えてるんだぼくは! どうしてこんなことが頭に浮かんでしまうんだ!
ああもう! 呼吸が苦しい! こんなに息をしてるっていうのに!
「あーもー、もどかしいですねー。いつになったら触るんですか?」
「へっ?」
アルテルフはクスクスと笑い、ゆっくり首をうしろに回した。右半分だけ見える彼女の横顔から、少女とは思えないほど艶やかな流し目が覗き込んだ。
「触りたいんでしょ、おっぱい」
「な、なにを……!」
ぼくは呼吸が乱れるあまり言葉もろくに離せなかった。
「そんなに手を汗まみれにしちゃって、欲情してるの丸わかりですよ」
「し、してないよ! ぼくはただ……」
「へー、嘘つくんだ」
アルテルフはめくり上げていた服から手を離し、体ごと振り返った。
「じゃあこれ、なに?」
「わっ!」
アルテルフの太ももがぼくの両足のあいだに滑り込み、熱くなったところをぎゅっと押した。
「どしたの? 女の子の体触っておっきくしちゃったの?」
「ち、ちが……」
「違わないよね」
アルテルフは脚をゆっくり上下に動かしながら、幼児にものを教えるような声で言った。
「あたし背中かいてもらっただけだよね。なのになんでこんなになってるの? おかしいよね? ふつう背中かいただけでこうはならないよね?」
や、やめて……息がもたない……擦りつけないで……
生意気な少女の瞳が上目遣いでまっすぐぼくを見つめた。そして吐き捨てるように言った。
「この変態ッ」
あっ……
「少女に欲情する変態ッ。変態って言われてビクビクする変態ッ」
や、やめてっ……やめてっ……
「クスクス。やっぱり変態って言われるの好きなんだね。いい顔してるよ。すっごくせつなそう」
「ち、違……」
「いいんだよ、変態。いっぱいビクビクしな」
そう言ってアルテルフはぼくの両手首をつかみ、へそだしシャツの胴体へ潜り込ませた。
「な、なにを……」
「ご・ほ・う・び」
「へえっ?」
「変態ちゃんがかわいい声で鳴くからごほうびに触らせてあげますよ」
「そ、そんなダメだよ!」
「クスクス。いーからいーから。背中掻いてくれたお礼ですよ。ほら、お股かゆいかゆいなんでしょ? お手手もお股もムズムズしてるんでしょ? じゃスッキリさせなきゃ」
ぼくはなにも言い返さなかった。というよりなにも言えなかった。もう頭が回らなかった。
呼吸は湯気だった。体内の熱が蒸気となって口からあふれ、頭の中まで曇らせていた。ぼくのこころは彼女の脚と服の下の秘部以外なにも見えなくなっていた。命令されるのがうれしくて、罵られると全身がゾクゾク痺れた。
ぼくの手が誘導され、ゆっくりと上に向かった。決して強く握られているわけではない。抵抗しようと思えば簡単にできる。だが、手のひらが肌を舐める感触がたまらなかった。そしてアルテルフのあざ笑うかのような眼差しが、ぼくの意識をどろどろに溶かしていた。
ああ、もうすぐ触れてしまう。そうしたらきっとぼくは堕ちてしまう。なし崩しにされてしまう。ぼくは騎士だってのに……愛するひとだけを愛し、ほかの女に欲情なんてしちゃいけないのに……ああ……
ごめんよレオ。ぼくは……
と、こころの中でつぶやいた瞬間、大事なことを思い出した。
「ダメだ!」
ぼくは力いっぱい腕を引き、アルテルフから離れた。そして四つん這いで床に向かい、汗と息をぶちまけながら叫んだ。
「あ、危ない! もうちょっとで約束を破るところだった!」
そう、ぼくはレオと約束していた。今夜ふたりで愛し合うと。すべてレオに捧げると。決して無駄打ちをしてはいけないと。
それをあと数秒で終わらせてしまうところだった。危うく欲望に負けるところだった。
「もー、びっくりしましたよ。突然大声で飛び退いたりして」
アルテルフはのん気に笑っていた。あんなことしたあとでよく平気でいられるよ。
ぼくは息も絶え絶えに言った。
「ご、ごめん。でもダメなんだ」
「なにがダメなんですか?」
「その……レオと約束したんだ。今夜のために溜めておくって」
「溜めるって、あれをですか?」
ぼくはコクンとうなずいた。すると、
「あ、そーだったんですかー? ごめんなさい、そんなの知らなかったからー! あはははははー!」
知らなかったからって、知ってたらいいと思ってたのか? 相変わらずこの子よくわかんないなぁ。ていうかあんなことしてどうするつもりなんだよ。ぼくは君のあるじの夫だろう? いたずらだって、やっていいことと悪いことがあるよ。
「それじゃアーサー様、あたし出かけるから。じゃーねー」
そう言ってアルテルフは玄関を出て行った。そして扉が閉まった直後、ぴょおーと鷹の鳴き声が聞こえた。どこぞへと飛んでいったらしい。
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