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第十九話 廃業の危機
廃業の危機 八
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「まさかレオと会うなんてな」
サービックさんは顔いっぱいにしわを寄せて笑った。
「まったくだ。わたしもおじさんと会えるなんて思わなかった」
レオもこころからうれしそうだった。どうやら旧知の中らしい。その和気あいあいとした空気があったかくて、ぼくまで笑顔になって、横から訊いた。
「ねえレオ。このひとだれなの?」
「ああ、おじさんは祖母の友人だ。むかしよく森に遊びに来てくれたんだ」
「へえ……おばあちゃんの」
なんでも彼はおばあちゃんの幼馴染で、レオのオシメも替えたことがあるという。
「レオ、彼は何者なんだ?」
「夫だ。覚えてないか? むかし都からいいとこのガキが遊びに来てただろう」
「ああ、あの子か! そうか、仲がいいと思ってたが……いっしょになったかぁ、そうかぁ」
へえ、ぼくこのひとと会ったことあったんだ。知らなかったなぁ。なんせぼく、あのときの記憶がレオ以外にないんだもんなぁ。
「それは母の魔法のせいだ。我が家は素性がバレるとあまりよくない家系だからな」
へえ……変わった家系だなぁ。
「ところでレオ。おまえ、ここになにしに来たんだ?」
とサービックさんが訊いた。すると、
「魂を拾いに来たんだ。死人が出ると思ってな」
「なに? じゃあおまえ、ばあちゃんの方を選んだのか?」
「その方がいいと思ってな」
「そうか……まあ、そうだろうな」
話を聞くに、どうやらレオのおばあちゃんは魂売りをしていたらしい。そういえばなんでレオが魂売りをしてるのか知らなかったけど、その辺に理由があるのかな?
「しかし、それじゃお互い忙しいな」
サービックさんはふところからパイプを取り出し、たばこを入れた。
「魂ってのはすぐに消えてしまうんだろう? 急がないと。それにおれも別の仕事があって、あまり余裕がないんだ」
言いながら、魔道具ライターを取り出し、火を着けた。
「そうか……また会えるか?」
レオは少し不安そうに言った。
「そうだな………………そのうち顔を出すよ。森に食われなければな」
「……ならよかった」
答えを聞いて、レオは胸のつかえが取れたように息を吐いた。ちょっとした会話だけど、なんだか妙に重い気配を感じた。
どうしてだろう。これだけ仲がいいのにずっと会ってなかったみたいだし、なにかあったのかな?
「それじゃあ、おれは仕事に戻るぞ。またな」
「ああ、また」
サービックさんは手を振り、屋内へと戻っていった。ぼくらはすぐに館に連絡を取り、かごを持ってきてもらって、帰り際にまたあいさつをして家路についた。
今回の外出はいろんなことがあった。
誕生日ということでレオのとんでもないお願いを聞いたり、死相が見えなくなって困惑したり、熱い戦いをしたり、レオの知人にあったりと、うれしいこと、困ったこと、たくさんあった。
そんな二日間を終え、深夜、ぼくらはベッドで布団にくるまり、あれこれと話していた。
「しかし、どう思う?」
レオがピクスに訊いた。今夜レオは土人形を作り、彼女を寝室に招いていた。
ピクスは元占い師の霊魂だ。生前は神木から未来予知の力を預かり、それを元に仕事をしながら世界を旅してきた老婆だ。レオの呪術によって妙齢の姿となり、たまにこうして肉体を与えられ、ベッドを共にしている。
「死相ねぇ……」
ピクスはごろんと仰向けになり、枕と後頭部のあいだに手を差し込んで、言った。
「あたしと違ってレオの力は生まれつきだしねぇ」
「とはいえ、長く未来予知をしてきたおまえだ。なにかわかることはないか?」
「そうねぇ……」
ピクスは少し考え、
「いくつか想像はできるわ」
「どんなだ?」
「まず年齢ね。むかしから若い女には不思議な力が宿るっていうじゃない。あなたもう大人だし、とうとう終わりがきたのかもね」
「そうか……」
「それと処女性ね。よく乙女を聖女って呼んで儀式に参加させたりするし、年齢と話が被るけど、そのへんの問題かもよ」
「だがとっくにアーサーのものだぞ」
「体はね。でもこころはそうじゃなかったのかも。なにか思い切ったことでもした? “はじめて”を失うくらい大胆なこととか」
ギクリ! とレオが赤面した。そういえばバーでレオが死相を見れなかったとき、ぼくらはとんでもないことをしていた。もしかしてあれがレオにとっての喪失だったのかな? そんなことある?
「もしくは……世界が変わるからかもね」
「世界が変わる?」
「例の魔道具、どんどん広まってるんでしょ?」
そう、魔道具の普及は進んでいる。魔法の使えない全人類が日常的に魔法を使えるようになる革命的アイテム——魔道具。金持ちにはもう行き渡っているし、サービックさんも使っていた。安価に生産できるようになれば、いずれ庶民も使うようになるだろう。
「ねえレオ、神木様はどうして未来が見えたと思う?」
「……さあ」
「簡単に言うと、データからの推測よ」
「どういうことだ?」
「たとえばボールがここにあるとするじゃない。それで、もしここに西風が吹いたらどうなる?」
「東に転がるな」
「そうよね、簡単なことだわ。それじゃあ次に、ボールの東に石があったらどうなる?」
「ぶつかるな」
「そう、ぶつかるわ。それがわかるのが神木様、わからないのがあたしたちよ」
「……つまりどういうことだ?」
「神木様は何千年と生きてきたわ。下手をすればもっとむかしから、想像もつかないくらい長いあいだ、世界とともに呼吸してきた。そうすると、この世のすべてがわかってしまうの」
「あっ、そういうことか!」
レオは手を叩いて納得した。いや、ぼくぜんぜんわかんないんだけど。どーゆーこと?
「アーサー、おまえは聞いても理解できん。眠ってしまえ」
いや、教えてよ! 知りたいよ!
「アーサー君、あたしが教えてあげるわ。まず、世界はひとつの存在なの。あたしの体も、あなたの体も、この館も、隣の国も、世界の果ても、みんな別々で、同時にひとつの存在として繋がっているの」
……ほへ?
「ほら見ろ、わからんだろう」
「まだ難しい話しかしてないわよ。わかるように言うわ。ねえアーサー君、たとえばあなたの体に血が流れているわよね」
そりゃ流れてるさ。
「その血はあなたの体の一部よね」
当然だよ。
「つまり、あなたの血はあなたよね」
そうに決まってるじゃん。
「じゃあもし傷を負って、血が外に出たら、その血はあなた?」
そりゃあ………………んん?
「あなたの中にあるときは、あなたなのよね。じゃあ外に出てもあなた?」
……違う、かな?
「でも中にあるうちはあなたなのよね? 外に出たらあなたじゃなくなっちゃうの? それはあなた? それともただの“血”?」
…………むむむ?
「難しいわよね。それじゃ答えを言うわ。あなたの血は、あなたであると同時に、一個の血でもあるわ」
はあ……
「そして、この世界はたとえるなら“ひとつの体”なのよ」
へえ……
「あたしたちは“世界”という名のひとつの体の血液みたいなものなの。アーサー君の血が一滴ごとに別個の血でありながら、アーサー君というひとかたまりの存在であるのとおなじように、ひとも、動物も、魚も、海も、空も、大地も、みんな世界の一部なの」
ほお……
「それで話は戻るけど、神木様はなんで未来が見えたかっていうと、世界を見てきたからなの」
ふむ……
「草木は目や耳がないかわりに、空気中の魔力を通して世界を感じることができるの。みんな繋がっているからね。それで、小さな草は近くのことしかわからないけど、大きな樹はずっと遠くまで、それこそ世界中のことがわかるの。そうすると未来がわかるようになるわ」
ふーむ……
「風が吹くとわかっていれば、ボールが転がるとわかるでしょ。ボールが転がるとわかっていれば、石にぶつかるとわかるでしょ。前になにが起きたか知っていれば、次になにが起きるかわかるでしょ。その連続が未来予知なの。未来を予知するっていうのは、無限に連続する過去から次の瞬間を知って、その瞬間からまた次の瞬間を、また次の瞬間をって繰り返し積み重ねることなの。わかる?」
………………
「うん、わかった!」
「な、ピクス。話しても無駄だろう?」
「ええっと……あたしの話し方が下手だったかしら」
ちょっと、なんだよもう! わかったって言ってるのに!
「まあまあ、アーサー。よしよししてやるから少し黙ってろ。ほーら、よしよし」
う、ずるいなあ。それされるとぼくが黙るの知ってるからって。むう……
「しかし、魔道具か……」
レオがしみじみと言った。
「魔道具はいままで存在しなかったからなぁ」
「これから世界が変わってしまうのかもね」
ピクスさんは静かに言った。
「神木様が生きてこられた何千年、何万年の常識が覆されてしまう、新しい時代が来るのかも」
「それで、わたしの予知能力である死相判断も効かなくなってきた——というわけか」
「かもね」
「……魔道具なんてものが生まれなければなぁ」
レオはぼくの頭を抱き抱え、ため息を吐いた。わあ、君はしょんぼりしてるかもしれないけど、おかげでこっちはドキドキだよ。なんせぼくらは裸なんだから。こんな顔いっぱいに当てられたら……
「おや?」
あ、いけない!
「おいおい、アーサー。おまえあれだけ発散したのに、もうか」
だ、だってレオがこんなことするから!
「あら、アーサーくん復活したの?」
うわっ! ピクスが背中からくっついて……いろいろ当たってる! 前から! うしろから!
「おやおや、おまえは本当にチャンバラが好きだなぁ。ぐいぐい来るじゃないか」
ち、違うんだ! ふたりにがっしり抱きつかれてるからうまく動けないだけで……やめて! こんな鍔迫り合い……ああ!
「なあに? 男の子は前で戦ってるの? じゃああたしはうしろの女の子と遊ぼうかしら」
そこは女の子じゃない! ていうかそれ以前に……ああーー!
「おお、おお、おまえはこころが広いなぁ。ケチンボをよく“ケツの穴の小さいヤツ”などと言うが、わたしの夫は実に気前がいい」
「あなたいい夫を手に入れたわね。あたしは生前結婚できなかったら本当にうらやましい。ああ、すごく“いい”わぁ」
「いいだろう? なんせ夫にも妻にもなるんだからな。こんな男そうおらんぞ。さて、お強い騎士様が剣を構えておられることだし、稽古をつけていただくとするか。あの腕前だ。さぞすばらしい突きを見せてくれることだろう。ククク、あははは、あははははは!」
サービックさんは顔いっぱいにしわを寄せて笑った。
「まったくだ。わたしもおじさんと会えるなんて思わなかった」
レオもこころからうれしそうだった。どうやら旧知の中らしい。その和気あいあいとした空気があったかくて、ぼくまで笑顔になって、横から訊いた。
「ねえレオ。このひとだれなの?」
「ああ、おじさんは祖母の友人だ。むかしよく森に遊びに来てくれたんだ」
「へえ……おばあちゃんの」
なんでも彼はおばあちゃんの幼馴染で、レオのオシメも替えたことがあるという。
「レオ、彼は何者なんだ?」
「夫だ。覚えてないか? むかし都からいいとこのガキが遊びに来てただろう」
「ああ、あの子か! そうか、仲がいいと思ってたが……いっしょになったかぁ、そうかぁ」
へえ、ぼくこのひとと会ったことあったんだ。知らなかったなぁ。なんせぼく、あのときの記憶がレオ以外にないんだもんなぁ。
「それは母の魔法のせいだ。我が家は素性がバレるとあまりよくない家系だからな」
へえ……変わった家系だなぁ。
「ところでレオ。おまえ、ここになにしに来たんだ?」
とサービックさんが訊いた。すると、
「魂を拾いに来たんだ。死人が出ると思ってな」
「なに? じゃあおまえ、ばあちゃんの方を選んだのか?」
「その方がいいと思ってな」
「そうか……まあ、そうだろうな」
話を聞くに、どうやらレオのおばあちゃんは魂売りをしていたらしい。そういえばなんでレオが魂売りをしてるのか知らなかったけど、その辺に理由があるのかな?
「しかし、それじゃお互い忙しいな」
サービックさんはふところからパイプを取り出し、たばこを入れた。
「魂ってのはすぐに消えてしまうんだろう? 急がないと。それにおれも別の仕事があって、あまり余裕がないんだ」
言いながら、魔道具ライターを取り出し、火を着けた。
「そうか……また会えるか?」
レオは少し不安そうに言った。
「そうだな………………そのうち顔を出すよ。森に食われなければな」
「……ならよかった」
答えを聞いて、レオは胸のつかえが取れたように息を吐いた。ちょっとした会話だけど、なんだか妙に重い気配を感じた。
どうしてだろう。これだけ仲がいいのにずっと会ってなかったみたいだし、なにかあったのかな?
「それじゃあ、おれは仕事に戻るぞ。またな」
「ああ、また」
サービックさんは手を振り、屋内へと戻っていった。ぼくらはすぐに館に連絡を取り、かごを持ってきてもらって、帰り際にまたあいさつをして家路についた。
今回の外出はいろんなことがあった。
誕生日ということでレオのとんでもないお願いを聞いたり、死相が見えなくなって困惑したり、熱い戦いをしたり、レオの知人にあったりと、うれしいこと、困ったこと、たくさんあった。
そんな二日間を終え、深夜、ぼくらはベッドで布団にくるまり、あれこれと話していた。
「しかし、どう思う?」
レオがピクスに訊いた。今夜レオは土人形を作り、彼女を寝室に招いていた。
ピクスは元占い師の霊魂だ。生前は神木から未来予知の力を預かり、それを元に仕事をしながら世界を旅してきた老婆だ。レオの呪術によって妙齢の姿となり、たまにこうして肉体を与えられ、ベッドを共にしている。
「死相ねぇ……」
ピクスはごろんと仰向けになり、枕と後頭部のあいだに手を差し込んで、言った。
「あたしと違ってレオの力は生まれつきだしねぇ」
「とはいえ、長く未来予知をしてきたおまえだ。なにかわかることはないか?」
「そうねぇ……」
ピクスは少し考え、
「いくつか想像はできるわ」
「どんなだ?」
「まず年齢ね。むかしから若い女には不思議な力が宿るっていうじゃない。あなたもう大人だし、とうとう終わりがきたのかもね」
「そうか……」
「それと処女性ね。よく乙女を聖女って呼んで儀式に参加させたりするし、年齢と話が被るけど、そのへんの問題かもよ」
「だがとっくにアーサーのものだぞ」
「体はね。でもこころはそうじゃなかったのかも。なにか思い切ったことでもした? “はじめて”を失うくらい大胆なこととか」
ギクリ! とレオが赤面した。そういえばバーでレオが死相を見れなかったとき、ぼくらはとんでもないことをしていた。もしかしてあれがレオにとっての喪失だったのかな? そんなことある?
「もしくは……世界が変わるからかもね」
「世界が変わる?」
「例の魔道具、どんどん広まってるんでしょ?」
そう、魔道具の普及は進んでいる。魔法の使えない全人類が日常的に魔法を使えるようになる革命的アイテム——魔道具。金持ちにはもう行き渡っているし、サービックさんも使っていた。安価に生産できるようになれば、いずれ庶民も使うようになるだろう。
「ねえレオ、神木様はどうして未来が見えたと思う?」
「……さあ」
「簡単に言うと、データからの推測よ」
「どういうことだ?」
「たとえばボールがここにあるとするじゃない。それで、もしここに西風が吹いたらどうなる?」
「東に転がるな」
「そうよね、簡単なことだわ。それじゃあ次に、ボールの東に石があったらどうなる?」
「ぶつかるな」
「そう、ぶつかるわ。それがわかるのが神木様、わからないのがあたしたちよ」
「……つまりどういうことだ?」
「神木様は何千年と生きてきたわ。下手をすればもっとむかしから、想像もつかないくらい長いあいだ、世界とともに呼吸してきた。そうすると、この世のすべてがわかってしまうの」
「あっ、そういうことか!」
レオは手を叩いて納得した。いや、ぼくぜんぜんわかんないんだけど。どーゆーこと?
「アーサー、おまえは聞いても理解できん。眠ってしまえ」
いや、教えてよ! 知りたいよ!
「アーサー君、あたしが教えてあげるわ。まず、世界はひとつの存在なの。あたしの体も、あなたの体も、この館も、隣の国も、世界の果ても、みんな別々で、同時にひとつの存在として繋がっているの」
……ほへ?
「ほら見ろ、わからんだろう」
「まだ難しい話しかしてないわよ。わかるように言うわ。ねえアーサー君、たとえばあなたの体に血が流れているわよね」
そりゃ流れてるさ。
「その血はあなたの体の一部よね」
当然だよ。
「つまり、あなたの血はあなたよね」
そうに決まってるじゃん。
「じゃあもし傷を負って、血が外に出たら、その血はあなた?」
そりゃあ………………んん?
「あなたの中にあるときは、あなたなのよね。じゃあ外に出てもあなた?」
……違う、かな?
「でも中にあるうちはあなたなのよね? 外に出たらあなたじゃなくなっちゃうの? それはあなた? それともただの“血”?」
…………むむむ?
「難しいわよね。それじゃ答えを言うわ。あなたの血は、あなたであると同時に、一個の血でもあるわ」
はあ……
「そして、この世界はたとえるなら“ひとつの体”なのよ」
へえ……
「あたしたちは“世界”という名のひとつの体の血液みたいなものなの。アーサー君の血が一滴ごとに別個の血でありながら、アーサー君というひとかたまりの存在であるのとおなじように、ひとも、動物も、魚も、海も、空も、大地も、みんな世界の一部なの」
ほお……
「それで話は戻るけど、神木様はなんで未来が見えたかっていうと、世界を見てきたからなの」
ふむ……
「草木は目や耳がないかわりに、空気中の魔力を通して世界を感じることができるの。みんな繋がっているからね。それで、小さな草は近くのことしかわからないけど、大きな樹はずっと遠くまで、それこそ世界中のことがわかるの。そうすると未来がわかるようになるわ」
ふーむ……
「風が吹くとわかっていれば、ボールが転がるとわかるでしょ。ボールが転がるとわかっていれば、石にぶつかるとわかるでしょ。前になにが起きたか知っていれば、次になにが起きるかわかるでしょ。その連続が未来予知なの。未来を予知するっていうのは、無限に連続する過去から次の瞬間を知って、その瞬間からまた次の瞬間を、また次の瞬間をって繰り返し積み重ねることなの。わかる?」
………………
「うん、わかった!」
「な、ピクス。話しても無駄だろう?」
「ええっと……あたしの話し方が下手だったかしら」
ちょっと、なんだよもう! わかったって言ってるのに!
「まあまあ、アーサー。よしよししてやるから少し黙ってろ。ほーら、よしよし」
う、ずるいなあ。それされるとぼくが黙るの知ってるからって。むう……
「しかし、魔道具か……」
レオがしみじみと言った。
「魔道具はいままで存在しなかったからなぁ」
「これから世界が変わってしまうのかもね」
ピクスさんは静かに言った。
「神木様が生きてこられた何千年、何万年の常識が覆されてしまう、新しい時代が来るのかも」
「それで、わたしの予知能力である死相判断も効かなくなってきた——というわけか」
「かもね」
「……魔道具なんてものが生まれなければなぁ」
レオはぼくの頭を抱き抱え、ため息を吐いた。わあ、君はしょんぼりしてるかもしれないけど、おかげでこっちはドキドキだよ。なんせぼくらは裸なんだから。こんな顔いっぱいに当てられたら……
「おや?」
あ、いけない!
「おいおい、アーサー。おまえあれだけ発散したのに、もうか」
だ、だってレオがこんなことするから!
「あら、アーサーくん復活したの?」
うわっ! ピクスが背中からくっついて……いろいろ当たってる! 前から! うしろから!
「おやおや、おまえは本当にチャンバラが好きだなぁ。ぐいぐい来るじゃないか」
ち、違うんだ! ふたりにがっしり抱きつかれてるからうまく動けないだけで……やめて! こんな鍔迫り合い……ああ!
「なあに? 男の子は前で戦ってるの? じゃああたしはうしろの女の子と遊ぼうかしら」
そこは女の子じゃない! ていうかそれ以前に……ああーー!
「おお、おお、おまえはこころが広いなぁ。ケチンボをよく“ケツの穴の小さいヤツ”などと言うが、わたしの夫は実に気前がいい」
「あなたいい夫を手に入れたわね。あたしは生前結婚できなかったら本当にうらやましい。ああ、すごく“いい”わぁ」
「いいだろう? なんせ夫にも妻にもなるんだからな。こんな男そうおらんぞ。さて、お強い騎士様が剣を構えておられることだし、稽古をつけていただくとするか。あの腕前だ。さぞすばらしい突きを見せてくれることだろう。ククク、あははは、あははははは!」
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