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第二十二話 妖鳥は夜にまたたく
妖鳥は夜にまたたく 六
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「そういうわけで頼んだぞ、アルテルフ」
宿の室内で、レオがネックレスに向かって言った。彼女は音を繋げる魔法を使って、魔の森にいるアルテルフに連絡をしていた。
「よし、とりあえず宝石商の場所は伝えた。まだ残っているかわからんが、あればラッキーだな」
レオは宝玉を取り戻す算段をしていた。なんだかんだ言って、宝玉が戻ってくるに越したことはない。
「だが期待はしない方がいい。こういうときは悪い方に考えた方が気楽だ」
レオは宝玉が戻ってこない前提で作戦を練っていた。
「まず村民だ。ヤツら宝玉がないと知ったら大騒ぎするだろう。そこで、ヤツらには宝玉に魔物が取り憑いたから破壊したなどと適当に嘘をつくことで納得させる」
ええ? そんなのうまくいくかな?
「安心しろ。でまかせは得意だ」
そんなの自慢することじゃないよ。ああ、自信満々に胸張っちゃって……
「で、問題の守り神だ。なぜそいつはこの女をずっと見続けていると思う?」
そりゃ、盗んだからでしょ?
「ああ。もっと言うと、それしかできないからだ」
それしかできない?
「いいか、妖精というのはたいてい言葉が話せん。魔物は人間の魂を取り込むことで言語を覚えたりするが、自然の生み出す魔力のみで生きる精たちには言語を習得する機会がない。それで、言葉のかわりに“見ている”んだ」
なるほど……
「宝を返してほしい。だが言葉も話せんし、ほかに干渉するわざもない。だから必死に目で訴えている」
そっか……それでずーっと見てるんだ。
「あの……いったいどうすれば……」
ノクチュアが不安げに言った。これが解決しないと彼女は呪いから解放されない。それに宝玉が夜鳥様の大切な宝と知って以来、彼女はかなりの罪悪感をいだいている。
「おまえ、彫刻はできるな」
「はい、もちろん」
なんでも退魔師はみんな彫刻が得意らしい。というのもお守り作りでよく彫るからだ。紙や金属でも作るけど、価格と耐久性の兼ね合いから木彫りが多い。それは単なる平べったい板で作ることもあるし、手のひらサイズの動物や守護像などもよく彫る。板でも像でも中身はおなじだが、所有者が思い入れを持つと効果を増すことがあり、多分に求められる。
「よし、それじゃ守り神のところに行くぞ」
「えっ!?」
ノクチュアはギクリと驚き、
「な、なにしにですか!?」
「謝りに行くに決まっているだろう」
「謝るって、どうやって……」
ノクチュアの疑問はもっともだ。なにせ妖精は言葉が通じない。
「それに宝玉もありません……たとえ通じたとしても、許してくれるはずが……」
「そこは誠意だ。なあ、レグルス」
「はい、わたくしもそう思います」
レグルスは当然という顔で言った。そしてニッコリ微笑み、おだやかな声で、
「ノクチュアさん、わたくしども動物がどう会話しているかご存知ですか?」
「……いえ」
「なんとなくです」
「なんとなく?」
「はい。動物はほとんど話せません。話せたとしてもおなじ種族のあいだだけで、ほんの簡単な合図を送るくらいしかできません。だからわたくしどもは、なんとなくで通じ合うんです」
「しかし……誠意なんてものが伝わるでしょうか」
「伝わります。本気で想いを伝えようと思えば、かならず届きます」
「念ずれば通ず、と言うだろう」
加えてレオが言った。
「そもそも想いというのは、言葉よりなんとなくの方が伝わるんだ。我々人間は言葉という便利な道具を手に入れたかわりに、最も大切な“なんとなく”を感じる力が薄れてしまっている。だからみんな臆病なんだ。いまのおまえのようにな」
ふむ……レオの言ってることはよくわかんないなぁ。ノクチュアはわかってるのかな?
「……大丈夫でしょうか」
「心配ない。おまえはわたしの言う通りにしていればそれでいい。それですべてうまくいく。それに、この妖精にひとを害する力はないようだしな」
そう言ってレオはノクチュアにまっすぐな笑みを向けた。レグルスも、うんうんとうなずいている。
それを見てぼくは、
(あ、そうかぁ)
と思った。レオの目はたぶん「信じろ」と言っている。そしてレグルスはそんなレオを信じているから、自信を持ってうなずいている。
そうか、そういうことか。これが通じるってことなんだね。その証拠に、
「……わかりました。信じます」
とノクチュアが言った。思った通りだ。いやあ、ぼくってやっぱり頭がいいなぁ。
そんなわけでぼくらは山に入った。
時刻は真夜中。もう少し早く出てもよかったけど、村が寝静まるのを待って、数時間の仮眠を取った。
「おい、転ばないよう気をつけろよ」
レオがぼくらに注意した。夜の山は本当に真っ暗で、カンテラがなければなにも見えなかった。
「しかし、これほど鬱蒼としているのに魔物がほとんどいないとはな」
レオが興味深そうに言った。ふつう、暗い場所は魔物が多い。街は結界が張ってあるからともかく、大自然にはたいてい魔物が潜んでいる。
「妖精は多いですね」
とレグルスが半透明の住民たちを見て言った。ぼくらの周りにはスケスケの鳥や小動物、小さな裸の人間姿など、肉体を持たない妖精たちが様子見をするようにうようよしている。たまに魔物もいるが、生き物に乗り移れるほど大きくない。
「わたしが最初来たときは、なにもいませんでした」
ノクチュアが闇を見渡し言った。彼らは光とは別の理屈で視界に映っている。だから闇に溶けることなく、鮮明に確認できる。
「おそらく守り神に合わせているんだろう。魔は土地の神に暮らしを合わせることが多いからな」
なんで?
「さあな。わたしの予想だが、おそらく憧憬だろう。人間だってスターのファッションや言動をまねたりするだろう? 事実、鳥が多い」
言われてみれば鳥の姿が多かった。とくにフクロウを模したものが多い。
「まあ、その点に関しては諸説あるんだがな。それよりそろそろか?」
ぼくらは村から三十分ほど歩いていた。ノクチュアの話ではこの辺りのはずだけど……
そう思った途端、
「む!」
背後からの視線が変わった。それまでノクチュアの背を見つめていたのに、正面から感じるようになった。
それは高所の一点から見つめていた。
「ほう……なかなか見事じゃないか」
レオが斜め上を見上げ、言った。
ぼくらの正面には岩壁がある。まるで地面がせり上がってできたかのような岩肌が横長に広がっており、横穴に木像の祠が収まっている。
だが、そんなものは目に入らない。
それは、暗闇の中ではっきりと存在していた。
高さはおよそ三メートル。フクロウを丸っこくしてふくらませたような巨大な妖精が、大きなふたつの目でぼくらを見下ろしていた。
「……すごいね」
ぼくは思わず言った。まん丸な瞳は子供が縦にすっぽり収まるほど大きかった。
だけど威圧感はない。大きいということで多少の圧迫感があるのと、眼力の強さに身がすくんでしまうけど、そこに殺伐とした気は一切ない。
むしろ、あたたかい。
たとえるなら初夏の夜に浮かぶ満月のような、涼しげなあたたかみがる。
「なんだか、やさしいね」
ぼくは思ったままに言った。
「わたくしとは真逆の神ですね」
レグルスがなぜかうれしそうに言った。でもその気持ちはわかる。なんていうか、夜鳥様を見ていると、夜道で頼りがいのある大人と会った子供のようにホッとする。
そんな温和な気配に当てられて、
「……」
ノクチュアが声もなく立ちつくした。甘いスープを飲んだような顔で、夜鳥様を見上げている。
その顔が、少し悲しげに崩れた。
「……どうして夜鳥様は怒ってらっしゃらないんでしょうか」
夜鳥様は怒っていなかった。こちらに向ける無表情に、むしろ歓迎するような微笑みを感じた。
「ふむ……」
レオはあごに手を置き、言った。
「……もしや、おまえが宝玉を返しに来たと思っているんじゃないのか?」
なるほど、そうかもしれない。ノクチュアは夕方までに宝玉を売っている。夜鳥様は彼女が宝玉を手放した場面を見ていない。言われてみれば、ノクチュアのリュックに視線を向けている気がする。
「あ……」
ノクチュアはぎこちない視線をレオに向け、夜鳥様に向けた。ふたりは見つめ合っていた。
そして、察したのだろう。
夜鳥様の目が静かに沈んだ。ゆっくりと、カクカクと、地面に向いた。明らかに悲しみのサインだった。
「ごめんなさい!」
ノクチュアは倒れ込むように手をつき、謝った。
「わたしがあんなことをしたから! わたしが……! わたしのせいで……!」
彼女は泣いていた。ボロボロの顔を夜鳥様に向けて、どうにもならない声を上げた。
聞こえているのか、伝わっているのか、夜鳥様は見るからに沈んでいる。
そこに、
「レグルス、やれ」
「はい!」
レオの合図でレグルスが剣を振り、近くの木を切り倒した。彼女の愛剣は大剣にしても厚く重く、斧を超える威力を持っている。
それを片手でスパスパ扱い、折った木をスライスした。そうしてひとの頭ほどの大きさの四角い木材を作り、ノクチュアにスッと差し出し、
「彫りましょう。おわびの品を」
レオの作戦はこうだった。どうせもう宝玉は戻ってこないんだし、おわびの品でも渡して謝るしかない。それなら手作りの品がいい。
「手作りには想いがこもる。実際のところ感情論でしかないが、どういうわけか店売りの芸術品より魅力がある。まあ、念がこもることもあるし、なによりやはり、もらう側がうれしいからな」
そんなわけでレオはなにか彫って渡せと指示した。とびきり想いを込めて彫ればかならず通じると言った。
だけどどうだろう。だって宝玉のかわりだよ? かたや金貨二十枚で買取の品だよ? それを手作りの木像で代用なんてできるのかな?
「ははっ、おまえも案外いまどきだな」
なんだよそれ、ちょっとバカにしてるでしょ。
「まあ、見ていろ。きっとうまくいく。絶対ではないが、おそらくこの守り神なら大丈夫だろう」
そう言ってレオは宿でもらったウィスキーのビンをラッパ飲みした。その視線は、たのしそうにノクチュアの背中を見ていた。
ノクチュアはあぐらをかき、こつこつと木にノミを当てていた。
宿の室内で、レオがネックレスに向かって言った。彼女は音を繋げる魔法を使って、魔の森にいるアルテルフに連絡をしていた。
「よし、とりあえず宝石商の場所は伝えた。まだ残っているかわからんが、あればラッキーだな」
レオは宝玉を取り戻す算段をしていた。なんだかんだ言って、宝玉が戻ってくるに越したことはない。
「だが期待はしない方がいい。こういうときは悪い方に考えた方が気楽だ」
レオは宝玉が戻ってこない前提で作戦を練っていた。
「まず村民だ。ヤツら宝玉がないと知ったら大騒ぎするだろう。そこで、ヤツらには宝玉に魔物が取り憑いたから破壊したなどと適当に嘘をつくことで納得させる」
ええ? そんなのうまくいくかな?
「安心しろ。でまかせは得意だ」
そんなの自慢することじゃないよ。ああ、自信満々に胸張っちゃって……
「で、問題の守り神だ。なぜそいつはこの女をずっと見続けていると思う?」
そりゃ、盗んだからでしょ?
「ああ。もっと言うと、それしかできないからだ」
それしかできない?
「いいか、妖精というのはたいてい言葉が話せん。魔物は人間の魂を取り込むことで言語を覚えたりするが、自然の生み出す魔力のみで生きる精たちには言語を習得する機会がない。それで、言葉のかわりに“見ている”んだ」
なるほど……
「宝を返してほしい。だが言葉も話せんし、ほかに干渉するわざもない。だから必死に目で訴えている」
そっか……それでずーっと見てるんだ。
「あの……いったいどうすれば……」
ノクチュアが不安げに言った。これが解決しないと彼女は呪いから解放されない。それに宝玉が夜鳥様の大切な宝と知って以来、彼女はかなりの罪悪感をいだいている。
「おまえ、彫刻はできるな」
「はい、もちろん」
なんでも退魔師はみんな彫刻が得意らしい。というのもお守り作りでよく彫るからだ。紙や金属でも作るけど、価格と耐久性の兼ね合いから木彫りが多い。それは単なる平べったい板で作ることもあるし、手のひらサイズの動物や守護像などもよく彫る。板でも像でも中身はおなじだが、所有者が思い入れを持つと効果を増すことがあり、多分に求められる。
「よし、それじゃ守り神のところに行くぞ」
「えっ!?」
ノクチュアはギクリと驚き、
「な、なにしにですか!?」
「謝りに行くに決まっているだろう」
「謝るって、どうやって……」
ノクチュアの疑問はもっともだ。なにせ妖精は言葉が通じない。
「それに宝玉もありません……たとえ通じたとしても、許してくれるはずが……」
「そこは誠意だ。なあ、レグルス」
「はい、わたくしもそう思います」
レグルスは当然という顔で言った。そしてニッコリ微笑み、おだやかな声で、
「ノクチュアさん、わたくしども動物がどう会話しているかご存知ですか?」
「……いえ」
「なんとなくです」
「なんとなく?」
「はい。動物はほとんど話せません。話せたとしてもおなじ種族のあいだだけで、ほんの簡単な合図を送るくらいしかできません。だからわたくしどもは、なんとなくで通じ合うんです」
「しかし……誠意なんてものが伝わるでしょうか」
「伝わります。本気で想いを伝えようと思えば、かならず届きます」
「念ずれば通ず、と言うだろう」
加えてレオが言った。
「そもそも想いというのは、言葉よりなんとなくの方が伝わるんだ。我々人間は言葉という便利な道具を手に入れたかわりに、最も大切な“なんとなく”を感じる力が薄れてしまっている。だからみんな臆病なんだ。いまのおまえのようにな」
ふむ……レオの言ってることはよくわかんないなぁ。ノクチュアはわかってるのかな?
「……大丈夫でしょうか」
「心配ない。おまえはわたしの言う通りにしていればそれでいい。それですべてうまくいく。それに、この妖精にひとを害する力はないようだしな」
そう言ってレオはノクチュアにまっすぐな笑みを向けた。レグルスも、うんうんとうなずいている。
それを見てぼくは、
(あ、そうかぁ)
と思った。レオの目はたぶん「信じろ」と言っている。そしてレグルスはそんなレオを信じているから、自信を持ってうなずいている。
そうか、そういうことか。これが通じるってことなんだね。その証拠に、
「……わかりました。信じます」
とノクチュアが言った。思った通りだ。いやあ、ぼくってやっぱり頭がいいなぁ。
そんなわけでぼくらは山に入った。
時刻は真夜中。もう少し早く出てもよかったけど、村が寝静まるのを待って、数時間の仮眠を取った。
「おい、転ばないよう気をつけろよ」
レオがぼくらに注意した。夜の山は本当に真っ暗で、カンテラがなければなにも見えなかった。
「しかし、これほど鬱蒼としているのに魔物がほとんどいないとはな」
レオが興味深そうに言った。ふつう、暗い場所は魔物が多い。街は結界が張ってあるからともかく、大自然にはたいてい魔物が潜んでいる。
「妖精は多いですね」
とレグルスが半透明の住民たちを見て言った。ぼくらの周りにはスケスケの鳥や小動物、小さな裸の人間姿など、肉体を持たない妖精たちが様子見をするようにうようよしている。たまに魔物もいるが、生き物に乗り移れるほど大きくない。
「わたしが最初来たときは、なにもいませんでした」
ノクチュアが闇を見渡し言った。彼らは光とは別の理屈で視界に映っている。だから闇に溶けることなく、鮮明に確認できる。
「おそらく守り神に合わせているんだろう。魔は土地の神に暮らしを合わせることが多いからな」
なんで?
「さあな。わたしの予想だが、おそらく憧憬だろう。人間だってスターのファッションや言動をまねたりするだろう? 事実、鳥が多い」
言われてみれば鳥の姿が多かった。とくにフクロウを模したものが多い。
「まあ、その点に関しては諸説あるんだがな。それよりそろそろか?」
ぼくらは村から三十分ほど歩いていた。ノクチュアの話ではこの辺りのはずだけど……
そう思った途端、
「む!」
背後からの視線が変わった。それまでノクチュアの背を見つめていたのに、正面から感じるようになった。
それは高所の一点から見つめていた。
「ほう……なかなか見事じゃないか」
レオが斜め上を見上げ、言った。
ぼくらの正面には岩壁がある。まるで地面がせり上がってできたかのような岩肌が横長に広がっており、横穴に木像の祠が収まっている。
だが、そんなものは目に入らない。
それは、暗闇の中ではっきりと存在していた。
高さはおよそ三メートル。フクロウを丸っこくしてふくらませたような巨大な妖精が、大きなふたつの目でぼくらを見下ろしていた。
「……すごいね」
ぼくは思わず言った。まん丸な瞳は子供が縦にすっぽり収まるほど大きかった。
だけど威圧感はない。大きいということで多少の圧迫感があるのと、眼力の強さに身がすくんでしまうけど、そこに殺伐とした気は一切ない。
むしろ、あたたかい。
たとえるなら初夏の夜に浮かぶ満月のような、涼しげなあたたかみがる。
「なんだか、やさしいね」
ぼくは思ったままに言った。
「わたくしとは真逆の神ですね」
レグルスがなぜかうれしそうに言った。でもその気持ちはわかる。なんていうか、夜鳥様を見ていると、夜道で頼りがいのある大人と会った子供のようにホッとする。
そんな温和な気配に当てられて、
「……」
ノクチュアが声もなく立ちつくした。甘いスープを飲んだような顔で、夜鳥様を見上げている。
その顔が、少し悲しげに崩れた。
「……どうして夜鳥様は怒ってらっしゃらないんでしょうか」
夜鳥様は怒っていなかった。こちらに向ける無表情に、むしろ歓迎するような微笑みを感じた。
「ふむ……」
レオはあごに手を置き、言った。
「……もしや、おまえが宝玉を返しに来たと思っているんじゃないのか?」
なるほど、そうかもしれない。ノクチュアは夕方までに宝玉を売っている。夜鳥様は彼女が宝玉を手放した場面を見ていない。言われてみれば、ノクチュアのリュックに視線を向けている気がする。
「あ……」
ノクチュアはぎこちない視線をレオに向け、夜鳥様に向けた。ふたりは見つめ合っていた。
そして、察したのだろう。
夜鳥様の目が静かに沈んだ。ゆっくりと、カクカクと、地面に向いた。明らかに悲しみのサインだった。
「ごめんなさい!」
ノクチュアは倒れ込むように手をつき、謝った。
「わたしがあんなことをしたから! わたしが……! わたしのせいで……!」
彼女は泣いていた。ボロボロの顔を夜鳥様に向けて、どうにもならない声を上げた。
聞こえているのか、伝わっているのか、夜鳥様は見るからに沈んでいる。
そこに、
「レグルス、やれ」
「はい!」
レオの合図でレグルスが剣を振り、近くの木を切り倒した。彼女の愛剣は大剣にしても厚く重く、斧を超える威力を持っている。
それを片手でスパスパ扱い、折った木をスライスした。そうしてひとの頭ほどの大きさの四角い木材を作り、ノクチュアにスッと差し出し、
「彫りましょう。おわびの品を」
レオの作戦はこうだった。どうせもう宝玉は戻ってこないんだし、おわびの品でも渡して謝るしかない。それなら手作りの品がいい。
「手作りには想いがこもる。実際のところ感情論でしかないが、どういうわけか店売りの芸術品より魅力がある。まあ、念がこもることもあるし、なによりやはり、もらう側がうれしいからな」
そんなわけでレオはなにか彫って渡せと指示した。とびきり想いを込めて彫ればかならず通じると言った。
だけどどうだろう。だって宝玉のかわりだよ? かたや金貨二十枚で買取の品だよ? それを手作りの木像で代用なんてできるのかな?
「ははっ、おまえも案外いまどきだな」
なんだよそれ、ちょっとバカにしてるでしょ。
「まあ、見ていろ。きっとうまくいく。絶対ではないが、おそらくこの守り神なら大丈夫だろう」
そう言ってレオは宿でもらったウィスキーのビンをラッパ飲みした。その視線は、たのしそうにノクチュアの背中を見ていた。
ノクチュアはあぐらをかき、こつこつと木にノミを当てていた。
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