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VS料理ゴロ
第二十二話 男の証
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「それまで!」
ジャッジが声高に叫んだ。
制限時間はまだ残っていたが、両者完成の宣言により調理パートが終了となった。
そして、これから実食パートへと移る。
「ではまずはオウムから食べるがよい!」
オウムの前に中年コックの料理が置かれた。
“ツーブリー食堂のまかないスペッシャル”——それは中年の店でまかないで作っていたものを店売りレベルに昇華させ、メニューに加えたものだという。
平皿に裂いたキャベツを敷き詰め、その上にサイコロステーキを乗せる。
そこに砂糖、しょうゆ、酒、ニンニクペーストを混ぜたソースをかけ、最後に刻んだ青ネギを振りかける。
なるほど、うまそうだ。
ご飯にも合いそうだし、キャベツと肉を同時に口に含めば二重のうまさが味わえるだろう。
それを、オウムが食った。
まずは肉だけで。
そして次にキャベツと合わせて。
「ふむ……やはりこんなところか」
オウムはニヤリとほくそ笑んだ。
予想通りの味——あるいはそれ以下だったのだろう。
顔つきだけでなく身振りにまで余裕を感じる。
対して中年は青ざめていた。
なぜなら——
「次はソヴァーユ! 食すがよい!」
それはほとんど“まかないスペッシャル”だった。
平皿にサンチュを敷き詰め、その上にサイコロステーキを乗せる。
ソースはおなじだ。
しかし青ネギは乗っていない。
そのかわり肉を中央に寄せ、周囲を細切りのキュウリと大葉、ニンジンで囲っている。
まったくのおなじではない。
だが十分に内容を理解した、お題に沿った料理だろう。
これをオウムは、サイコロステーキの時点で見破っていたのだ。
『お父さん……!』
娘の心配そうな声が舞台に響いた。
だが彼女がなにを叫ぼうともう関係ない。
料理はすでに並べられてしまった。
『こ、これは……!』
中年は料理を口にした。
そして微動だにしなくなってしまった。
『こ、この方が……合う!』
「そうだろう!」
オウムが腕組み、言った。
「たしかにキャベツと青ネギでも十分にうまい! だがこれをサンチュと細切り野菜に変えれば、組み合わせのたのしみが生まれる! 肉だけでもうまい! サンチュにくるめばまたうまい! 野菜も混ぜればなおうまい! たったひとつの料理でこんなにも幅が生まれるんだ!」
『くっ……!』
「あえて肉とソースはおなじレベルで作ってやった! 本来ならもっと上等なものが作れたがな! だがおかげでよくわかっただろう! おなじレベルのものを使って、こんなにも差が出るということがな!」
『ううううううーーっ!』
『お父さああああーーん!』
中年が崩れ落ち、美女が舞台にしがみついた。
そして、残酷なジャッジが下される。
「ソヴァーユはいま完全なる敗北を認めた! よってこの勝負、オウムの勝ちとする! 娘はオウムのものだ!」
瞬間、娘の両腕が光の縄で縛られ、先端がオウムの元へと伸びた。
ジャッジによる約束の強制執行だ。
『お、お父さーん!』
『カツニシオーーッ!』
親子は涙ながらに呼び合った。
しかし中年は力が抜けたように動けない。
娘は吸い寄せられるようにオウムの方へと歩いていく。
神の力には逆らえない。
「これで娘はおれのものだ!」
オウムは中年を見下ろし、白い歯を見せつけ、
「なに、安心しな。おれは大事な商品に手を出そうなんてバカなまねはしない。それこそ宝石のように扱ってやるよ。ただまあ、これほどの美女となれば、どんなヤツが買うか知らんがな」
『お父さん! 助けて!』
『うううっ! すまない! おれがバカなばっかりに……! うううーーッ!』
「ま、せいぜい立派な貴族にでも買われることを祈るんだな!」
そう言ってオウムは娘を連れ、舞台を降りた。
おれはなんだかムカついてしょうがなかった。
当然悪いのは親父だ。
娘も承知のうえで乗ったのかもしれないが、それでも人間を賭けて戦うなんて正気じゃない。
ましてやてめえの娘をだ!
『ああ、かわいそうに。きっと女衒にでも売られるんだろうなあ』
『カツニシオちゃんは好きな人がいたらしいぜ』
『健気でいい子だったのに、見てらんねえぜ』
そんな声が周りから聞こえた。
さすがのアンもこの状況では、
「……なんか気分悪いわね」
と眉をひそめていた。
「くっ……なんてかわいそうなんだ! なんとかして助けられないものか!」
アカトも拳を握ってなげいている。
そうだよなあ。なんとかして助けてやりたいよなあ。
いい方法ないかねぇ。
「なんならおれが代わってもいい!」
おいおい、おめえが美女の代わりになるかよ。
おめえはキンタマがついてるんだぜ。
たとえ女装して化粧して、万が一美女に扮したとしても、パンツをめくった瞬間キンタマがこんにちはするんだぜ。
そんなもんだれが買うんだ。
……ん? ちと待てよ。キンタマ……
——そうだ! この手があった!
「待ちやがれ、オウム!」
おれは手のひらを前に出して叫んだ。
するとどこぞへと行こうとしていたオウムが振り返った。
「なんだ!」
「おれと勝負しろ!」
「なに!?」
「おれが勝ったらその女を父親に返せ! おれが負けたらこのアカトという男をくれてやる!」
「なに!?」
オウムがジロリとおれを睨んだ。
と同時に、
「えっ!?」
アカトがびっくらこいて目ン玉おっ広げた。
「お、おれ!?」
「ああ! おめえ代わってやりたいっつってたじゃねーか!」
「いや、でも……」
「オウム! この男は金になるぜ!」
おれはアカトを無視して話を続けた。
「なにせ優秀なハンターだ! 狩猟、解体、ついでに料理までできやがる! 人材としちゃ優秀だろう!」
「ふーむ……それが本当なら悪くない話だな」
オウムは鋭い眼差しでアカトを品定めした。
「たしかに肉付きは悪くない。力もありそうだし、手の皮も厚い。その辺の美女よりいい値がつくかもしれん」
おっ、いい感じか?
「だが、断る!」
なに!?
「わざわざ呼び止めて勝負を仕掛けるということは、それだけ勝算があるということだ! おれは負ける勝負はしない!」
なんだと!?
「てめえ、逃げるのか!」
「ああ、逃げるさ!」
「それでも男か!」
「なんとでも言え! おれは負ければすべてを失う料理ゴロ! 下手は打たん!」
オウムはそう言って立ち去ろうとした。
なるほどヤツの言うことは正論だ。
それにすでに大金の元を手に入れた状態でリスクを背負う必要はない。
だが——!
「てめえ、それでもキンタマついてるのか!」
「なに!?」
ヤツは止まった。
おれの言葉に振り返り、猛獣のような気配を発した。
——キンタマの有無を問われて無視できる男はいない!
「あーそうかい! おめえキンタマねえのか! それじゃあしょうがねえなあ! タマなしじゃあ逃げるのもなあ!」
おれは大いにあざ笑ってやった。
するとおれの意図に気づいたのか、アンもニヤリとして、
「えー!? あんたキンタマないのー!? うっそー! 男のくせにタマなしって恥ずかしくないのー!? もしかしてチンチンもないんじゃなーい!?」
それにつられて周りも、
『タマなしオカマやろうーー!』
『それでも男かー!』
『どうせ包茎よーー!』
さんざんに言いまくった。
どうだ、これでも逃げられるか!
「い、言わせておけば……!」
お? 怒ったか?
「だれがタマなしだ! 見ろ!」
なっ……!? こいつズボンを脱いで!
「どうだ! これを見てもタマなしと言えるか!」
こいつ……なんて立派なキンタマだ!
チンチンは包茎だが、タマはしっかりどっしり男らしいぜ!
「これがおれのキンタマだ! 嘘だと思うなら近くでよく見てみろ!」
これは……本物だ!
「本物かどうかちゃんと触ってみろ!」
この揉み心地……間違いねえ!
「味も舐めてみろ!」
この味は……紛れもなくキンタマ!
「わかったか! おれは男だ! タマなしなんかじゃない!」
そう言ってオウムは脚を開き、雄々しいキンタマをアピールした。
なるほど、これをタマなしと呼ぶのは失礼だ!
本物の男と呼ばざるを得ない!
だが……それが狙いだ!
「フッ……かかったな、マヌケめ!」
「なに!?」
「そのキンタマは男の証! となればてめえは逃げられねえ! なぜなら逃げればタマなしだからだ!」
「ハッ……!」
「タマがなければ逃げるのも仕方がない! だがタマがある以上、てめえは勝負するしかねえ! それが男だからだ!」
「しまった! ハメやがったな!」
「勝負だオウム! その女はおれが救う!」
ジャッジが声高に叫んだ。
制限時間はまだ残っていたが、両者完成の宣言により調理パートが終了となった。
そして、これから実食パートへと移る。
「ではまずはオウムから食べるがよい!」
オウムの前に中年コックの料理が置かれた。
“ツーブリー食堂のまかないスペッシャル”——それは中年の店でまかないで作っていたものを店売りレベルに昇華させ、メニューに加えたものだという。
平皿に裂いたキャベツを敷き詰め、その上にサイコロステーキを乗せる。
そこに砂糖、しょうゆ、酒、ニンニクペーストを混ぜたソースをかけ、最後に刻んだ青ネギを振りかける。
なるほど、うまそうだ。
ご飯にも合いそうだし、キャベツと肉を同時に口に含めば二重のうまさが味わえるだろう。
それを、オウムが食った。
まずは肉だけで。
そして次にキャベツと合わせて。
「ふむ……やはりこんなところか」
オウムはニヤリとほくそ笑んだ。
予想通りの味——あるいはそれ以下だったのだろう。
顔つきだけでなく身振りにまで余裕を感じる。
対して中年は青ざめていた。
なぜなら——
「次はソヴァーユ! 食すがよい!」
それはほとんど“まかないスペッシャル”だった。
平皿にサンチュを敷き詰め、その上にサイコロステーキを乗せる。
ソースはおなじだ。
しかし青ネギは乗っていない。
そのかわり肉を中央に寄せ、周囲を細切りのキュウリと大葉、ニンジンで囲っている。
まったくのおなじではない。
だが十分に内容を理解した、お題に沿った料理だろう。
これをオウムは、サイコロステーキの時点で見破っていたのだ。
『お父さん……!』
娘の心配そうな声が舞台に響いた。
だが彼女がなにを叫ぼうともう関係ない。
料理はすでに並べられてしまった。
『こ、これは……!』
中年は料理を口にした。
そして微動だにしなくなってしまった。
『こ、この方が……合う!』
「そうだろう!」
オウムが腕組み、言った。
「たしかにキャベツと青ネギでも十分にうまい! だがこれをサンチュと細切り野菜に変えれば、組み合わせのたのしみが生まれる! 肉だけでもうまい! サンチュにくるめばまたうまい! 野菜も混ぜればなおうまい! たったひとつの料理でこんなにも幅が生まれるんだ!」
『くっ……!』
「あえて肉とソースはおなじレベルで作ってやった! 本来ならもっと上等なものが作れたがな! だがおかげでよくわかっただろう! おなじレベルのものを使って、こんなにも差が出るということがな!」
『ううううううーーっ!』
『お父さああああーーん!』
中年が崩れ落ち、美女が舞台にしがみついた。
そして、残酷なジャッジが下される。
「ソヴァーユはいま完全なる敗北を認めた! よってこの勝負、オウムの勝ちとする! 娘はオウムのものだ!」
瞬間、娘の両腕が光の縄で縛られ、先端がオウムの元へと伸びた。
ジャッジによる約束の強制執行だ。
『お、お父さーん!』
『カツニシオーーッ!』
親子は涙ながらに呼び合った。
しかし中年は力が抜けたように動けない。
娘は吸い寄せられるようにオウムの方へと歩いていく。
神の力には逆らえない。
「これで娘はおれのものだ!」
オウムは中年を見下ろし、白い歯を見せつけ、
「なに、安心しな。おれは大事な商品に手を出そうなんてバカなまねはしない。それこそ宝石のように扱ってやるよ。ただまあ、これほどの美女となれば、どんなヤツが買うか知らんがな」
『お父さん! 助けて!』
『うううっ! すまない! おれがバカなばっかりに……! うううーーッ!』
「ま、せいぜい立派な貴族にでも買われることを祈るんだな!」
そう言ってオウムは娘を連れ、舞台を降りた。
おれはなんだかムカついてしょうがなかった。
当然悪いのは親父だ。
娘も承知のうえで乗ったのかもしれないが、それでも人間を賭けて戦うなんて正気じゃない。
ましてやてめえの娘をだ!
『ああ、かわいそうに。きっと女衒にでも売られるんだろうなあ』
『カツニシオちゃんは好きな人がいたらしいぜ』
『健気でいい子だったのに、見てらんねえぜ』
そんな声が周りから聞こえた。
さすがのアンもこの状況では、
「……なんか気分悪いわね」
と眉をひそめていた。
「くっ……なんてかわいそうなんだ! なんとかして助けられないものか!」
アカトも拳を握ってなげいている。
そうだよなあ。なんとかして助けてやりたいよなあ。
いい方法ないかねぇ。
「なんならおれが代わってもいい!」
おいおい、おめえが美女の代わりになるかよ。
おめえはキンタマがついてるんだぜ。
たとえ女装して化粧して、万が一美女に扮したとしても、パンツをめくった瞬間キンタマがこんにちはするんだぜ。
そんなもんだれが買うんだ。
……ん? ちと待てよ。キンタマ……
——そうだ! この手があった!
「待ちやがれ、オウム!」
おれは手のひらを前に出して叫んだ。
するとどこぞへと行こうとしていたオウムが振り返った。
「なんだ!」
「おれと勝負しろ!」
「なに!?」
「おれが勝ったらその女を父親に返せ! おれが負けたらこのアカトという男をくれてやる!」
「なに!?」
オウムがジロリとおれを睨んだ。
と同時に、
「えっ!?」
アカトがびっくらこいて目ン玉おっ広げた。
「お、おれ!?」
「ああ! おめえ代わってやりたいっつってたじゃねーか!」
「いや、でも……」
「オウム! この男は金になるぜ!」
おれはアカトを無視して話を続けた。
「なにせ優秀なハンターだ! 狩猟、解体、ついでに料理までできやがる! 人材としちゃ優秀だろう!」
「ふーむ……それが本当なら悪くない話だな」
オウムは鋭い眼差しでアカトを品定めした。
「たしかに肉付きは悪くない。力もありそうだし、手の皮も厚い。その辺の美女よりいい値がつくかもしれん」
おっ、いい感じか?
「だが、断る!」
なに!?
「わざわざ呼び止めて勝負を仕掛けるということは、それだけ勝算があるということだ! おれは負ける勝負はしない!」
なんだと!?
「てめえ、逃げるのか!」
「ああ、逃げるさ!」
「それでも男か!」
「なんとでも言え! おれは負ければすべてを失う料理ゴロ! 下手は打たん!」
オウムはそう言って立ち去ろうとした。
なるほどヤツの言うことは正論だ。
それにすでに大金の元を手に入れた状態でリスクを背負う必要はない。
だが——!
「てめえ、それでもキンタマついてるのか!」
「なに!?」
ヤツは止まった。
おれの言葉に振り返り、猛獣のような気配を発した。
——キンタマの有無を問われて無視できる男はいない!
「あーそうかい! おめえキンタマねえのか! それじゃあしょうがねえなあ! タマなしじゃあ逃げるのもなあ!」
おれは大いにあざ笑ってやった。
するとおれの意図に気づいたのか、アンもニヤリとして、
「えー!? あんたキンタマないのー!? うっそー! 男のくせにタマなしって恥ずかしくないのー!? もしかしてチンチンもないんじゃなーい!?」
それにつられて周りも、
『タマなしオカマやろうーー!』
『それでも男かー!』
『どうせ包茎よーー!』
さんざんに言いまくった。
どうだ、これでも逃げられるか!
「い、言わせておけば……!」
お? 怒ったか?
「だれがタマなしだ! 見ろ!」
なっ……!? こいつズボンを脱いで!
「どうだ! これを見てもタマなしと言えるか!」
こいつ……なんて立派なキンタマだ!
チンチンは包茎だが、タマはしっかりどっしり男らしいぜ!
「これがおれのキンタマだ! 嘘だと思うなら近くでよく見てみろ!」
これは……本物だ!
「本物かどうかちゃんと触ってみろ!」
この揉み心地……間違いねえ!
「味も舐めてみろ!」
この味は……紛れもなくキンタマ!
「わかったか! おれは男だ! タマなしなんかじゃない!」
そう言ってオウムは脚を開き、雄々しいキンタマをアピールした。
なるほど、これをタマなしと呼ぶのは失礼だ!
本物の男と呼ばざるを得ない!
だが……それが狙いだ!
「フッ……かかったな、マヌケめ!」
「なに!?」
「そのキンタマは男の証! となればてめえは逃げられねえ! なぜなら逃げればタマなしだからだ!」
「ハッ……!」
「タマがなければ逃げるのも仕方がない! だがタマがある以上、てめえは勝負するしかねえ! それが男だからだ!」
「しまった! ハメやがったな!」
「勝負だオウム! その女はおれが救う!」
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