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第二章
小さな星屑 第十一話
しおりを挟む次の日、蒼太と真矢は屋上で純のことを待っていた。
「蒼太。昨日、あのまま帰って良かったんか?」
「言いたいことはちゃんと言ったし、俺は純のことを信じてるよ」
すると、屋上の扉が開き奥から純が現れた。
「純っ‼︎」
純は蒼太たちに近付いていくと、ゆっくり話し始めた。
「……僕は今までずっと勉強ばかりしてた。それは別に勉強が好きだったからじゃなくて、皆んなみたいに運動が出来なかったり、楽しい雰囲気に自分から混ざれないから。でも、何か言い訳が欲しくて。勉強が忙しいから出来ないんだって自分に言い聞かせてたんだ。でも昨日、蒼太君に言われた言葉を聞いたら、昔も同じようなこと言われたなぁって思い出したんだ」
純は幼い時から運動が苦手で、周りのクラスメイトが休み時間に外で遊んでいる時も、自分が一緒に遊ぶと周りが楽しくないだろうと考えてしまい、一人でいることが多かった。
昼間授業でやったことを復習したり、本を読んだりして時間を過ごしていくうちに、ますます人の輪に入ることが苦手になってしまい、純はさらに独りぼっちになってしまっていた。
中学に上がり、さらに勉強も忙しくなっていく中、両親が英語のリスニング用に使いなさいと持ち運べるCDプレイヤーを買ってくれた。純も言われた通り英語の教材を入れながら、毎日聞いて勉強していたある日。
「なぁ、いつもそれ何聞いてんの?」
突然話しかけられたことに驚いた純が顔を上げると、今まで一度も話したことのない隣のクラスの生徒が立っていた。
「えっと……英語の教材……」
「マジか‼︎休み時間まで勉強するとか真面目か‼︎」
呆気に取られる純をよそに、男子生徒はカチカチとCDプレイヤーを操作しながら話を続けた。
「これ英語の教材しか入ってないの?」
「うん……」
「え~勿体無い使い方してるなぁ。音楽プレイヤーは音楽を入れてこそだろ」
そう言って手に持っていた一枚のCDを純の目の前に差し出した。
「ちょうど友達に貸してたCDが返ってきたところだから、貸してやるよ」
「えっ、良いよ別に……」
「遠慮すんなって」
戸惑う純にはお構いなしに男子生徒は持っていたCDを机に置いた。
「おい、蒼太‼︎バスケやるんだろ。早く行くぞ」
「おう‼︎今行くから。明日また感想聞きにくるから、ちゃんと聴いとけよ」
蒼太はそう告げると足早に教室を去っていった。純は残されたCDを眺めながら、どうしたもんかと頭を悩ませた。
家に帰った後、純は蒼太に渡されたCDを眺めていた。これまで音楽なんて、テレビ番組で流れている時にしか聴いたことはなく、ましてや自分から進んでCDを買った事などなかった。家族もそういうのには興味がなく、ずっと縁遠いものだと思っていたのに、まさかこんな形で手元に来るとは。
「どうしようかな……」
おそらく今日の感じだと、絶対に明日も来ると考えられる。強引とはいえ、せっかく貸してくれたものをそのまま返すのは流石に悪い気がする。そう思い、純はプレイヤーにCDをセットした。再生ボタンを押した次の瞬間、純に衝撃が走った。
ギターサウンドが走り抜けていくイントロの爽快感もさることながら、思わず縦ノリをしたくなるドラムとベースのリズムも、ボーカルの澄み渡る歌声も、全てが純にとって新鮮だった。
「何これ……凄い‼︎」
気が付くと純は、何度も何度もリピートして聴き入っていた。
次の日、純は学校に着くなり隣のクラスに行き蒼太のことを探していた。早く感想を伝えたい、この気持ちを早く共有したくて堪らなかった。
しかし、早く着き過ぎたのか蒼太の姿は見当たらない。廊下に出て辺りを見回していると、向こうの方から蒼太が何人かと一緒に歩いてきた。純は蒼太を見つけると、すぐさま駆け寄り話しかけた。
「あれ?お前は昨日の……」
「昨日はCD有難う‼︎めちゃくちゃ良かったよ‼︎特に間奏が終わってからの……」
今までずっと一人で静かに勉強していたのが嘘のように、純は止めどなく話し続けた。むしろこれまで誰とも話さなかった分の熱量をここで一気に噴き出しているようにも見えた。
言いたい事を全部伝え終わった後、急に我に返った純はどうしようもなく恥ずかしくなった。
「あっ……ごめん、朝から急に。迷惑だったね。これ返すね」
冷静になった純はカバンからCDを取り出した。しかし、蒼太は受け取らない。というより、必死に笑いを堪えていてそれどころじゃなかった。
「……ぷっ‼︎あはははっ‼︎いや~お前そんなに熱く何かについて話せるやつだったんだなぁ。びっくりしたよ」
蒼太はケラケラ笑いながら、渡してきたCDを純に戻した。
「そんなに気に入ったなら、これやるよ」
「良いの?」
「あぁ、お前が持ってる方がなんかCDも嬉しいだろうし」
「有難う」
純は微笑みながらCDをカバンにしまった。
「お前、音楽好きなんだな」
「そうなのかな……?」
「そうに決まってるだろ。それだけ熱くなれるんだからさ。自分の気持ちには正直になった方が良いと思うぞ」
「うん、有難う」
蒼太と純はそう言いながら笑い合った。
「あの~お取り込み中すみませ~ん」
二人が楽しそうに会話している隣で黙ってずっと話を聞いていた女子生徒が、たまらず話しかけた。
「ずっと楽しそうに話しているのは構わないんだけど、そろそろ誰なのか紹介してくれない?私も隼人君も訳が分かってないから」
「なんだよ比奈、せっかちだなぁ。え~っと……ごめん、名前なんだっけ?」
お互いに話もした事ない状態なのに、よくそこまで仲良くなれたなぁと呆れる比奈に、全くその通りだよと隼人も笑っていた。
「改めて、俺は八木蒼太だ」
「牛島隼人だ。宜しくな」
「魚谷比奈です。いつも蒼太のバカのお守りしてます」
「おい、バカは余計だ、バカは」
純は二人のやり取りを見てクスクスと笑っていた。
「初めまして、早乙女純です」
自己紹介を終えた四人の周りは、これから宜しくなぁという声と共に暖かい雰囲気に包まれていた。
そして、現在。純はカバンからCDを取り出した。
「蒼太君からもらったCDを見て思い出したんだ。僕は心から音楽が好きなんだって」
純がCDを見つめながら微笑んだ。
「蒼太君、弓瀬君。僕は運動が出来ないから足を引っ張ることがあるかもしれない。性格もすぐに積極的になるのは難しいと思う。でも、好きなことにちゃんと向き合おうって気持ちは嘘じゃない。だから、こんな僕でも良ければ蒼太君たちの仲間に入れて欲しいんだ。お願いします‼︎」
一礼しながら想いを伝える純は、今までの弱々しい姿とは違い、強い決意のこもった姿だった。そんな言葉を聞いた蒼太と真矢は顔を見合わせた。
「って言ってるけど、どないする?蒼太」
「勿論……大歓迎だよ‼︎」
「有難う‼︎」
三人は自然と笑顔になった。
「よっしゃ、これで三人やな‼︎せや、まだちゃんと自己紹介してなかったな。B組に転入してきた弓瀬真矢や」
「A組の早乙女純です。よろしく弓瀬君」
「さぁ挨拶も済んだことだし、練習するぞ‼︎」
蒼太がスピーカーから音楽を流すと三人で朝練を始めた。
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