小さな星屑

イケダユウト

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第三章

小さな星屑 第十六話

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 しばらく走ったのち蒼太と隼人は町外れの倉庫に到着した。この倉庫の周りは普段から人通りが少なく、不良の溜まり場になっているともっぱらの噂だ。


「ここだな」

「八木‼︎ 牛島‼︎」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると鋏介が走ってきた。


「越前。何でここに」

「お前らが走って学校から出ていくのが見えて嫌な予感がしてな。何があった?」

「昨日の奴らが比奈を連れ去ったらしい。返して欲しかったここに来いって言われてな」


 隼人が鋏介に状況を説明すると蒼太が倉庫の扉に手をかけた。


「じゃあ行くぞ」


 蒼太が倉庫の重い扉を開けると三人は中に入った。


「比奈‼︎ どこに居るんだ‼︎」

「蒼太‼︎ 隼人君‼︎」


 蒼太が大声で探していると、倉庫の奥から男たちが比奈の腕を掴んだまま出てきた。


「おい‼︎二人だけで来いって言っただろ‼︎何でもう一人増えてるんだよ‼︎」


 腕を掴んでいる男が蒼太に向かって叫んだ。すると、男たちの後ろからフードを被った男が現れた。暗くて顔は分からない。


「まぁ良い。女はもう必要ないから離してやれ」


 フードを被った男に指示をされ比奈は解放された。比奈は急いで蒼太たちの元に駆け寄っていく。


「久しぶりだなぁ八木、牛島。それから鋏介」


 そう言って男はフードを取った。フードの下から現れたのは宍戸学だった。


「学……」

「宍戸、お前の仕業だったのか」

「何でこんな事するんだよ‼︎」


 蒼太は学に向かって叫んだ。


「何でって……そりゃ、お前らに仕返しする為に決まってるだろ」

「仕返しだと?」

「まぁ、覚えてねぇよな。俺はお前らに人生を無茶苦茶にされたんだよ」


 蒼太は過去の出来事を思い返していた。今までに自分の行動で他人に迷惑をかけたことは沢山あった。しかし、宍戸に迷惑をかけたことはあっただろうか。そんなことを考えていると鋏介が話し始めた。


「学は中学の頃にバスケをやってたんだ。常にレギュラーで活躍していたし、高校に入ってからもバスケを続けるつもりだったんだ」




 学の中学は、毎年全国大会に出場するほどのバスケ強豪校だった。学はその中でもエース任されていた。様々な高校から推薦が来ていたが、自分の力を試したいとあえて無名の宝星高校バスケ部に入部したのだ。


「バスケ部……」


 隼人は何かを思い出したかのように呟いた。鋏介はそのまま話を続ける。


「だが、学はレギュラーになれなかったんだ。レギュラーを決める校内戦で学は負けたんだ。バスケを始めて一ヶ月のやつに」

「そう、お前だよ。牛島」


 学は隼人を指差して続きを話し始めた。


「俺はお前に負けたのが原因でレギュラー落ち。その帰りに絡まれた奴らと喧嘩して謹慎処分。部も夏の試合は出場停止になって、俺はバスケ部も退部だ」

「何それ。隼人君、全然悪くないじゃん。逆恨みも良いとこだよ‼︎」


 比奈が学に向かって大声で言った。


「うるせぇ‼︎ 俺は牛島に負けたことで人生が狂ったんだよ。だから牛島も、こいつをバスケ部に誘った八木のことも絶対に許さねぇ‼︎」


 学が感情的に叫んだ。だが、すぐに冷静になってまた話し始める。


「……ということで、今日はお前らにも同じ目を味わってもらおうか」


学は蒼太に向かって指を差した。


「お前ら、今ダンスの大会目指して練習しているらしいな。もし暴力沙汰でも起こしたとかになったら……この先、きっと大会になんて出して貰えないだろうなぁ」


 学はそういうとニッと不気味に笑いながら蒼太に近づいていった。すると、隼人が学の前に立った。


「お前が喧嘩した直接の理由は俺に負けたからだろ。だったら俺だけで良いだろ」

「おい、隼人‼︎」

「良いから、お前そこから動くな」


 学はフッと笑うと、隼人と向かい合った。


「言われなくてもお前もだよ‼」


そう言うと学は思いっきり隼人のことを殴った。

 


 それから何分経ったのだろうか。隼人は一切手を出さずにずっと学に殴られ続けていた。学に殴られ隼人は倒れるが起き上がる。起き上がってきたところを学がまた殴って倒れるが、再び立ち上がる。ずっとその繰り返しだった。
 
 その様子をじっと蒼太と鋏介は黙って見ていた。というより見ているしかなかった。隼人は今、自分たちがダンスを続けられるように必死に耐えてくれている。自分が手を出すことを隼人は望んでいないと蒼太には分かるからだ。鋏介もまた自分なら止められるが、それでは隼人の為にも学の為にもならないと理解していた。今の学を受け止められるのは隼人しか居ないと感じているからだ。


「いつまで一人で殴られてるつもりだ。さっさと諦めろよ」


 学は何度殴っても立ち上がってくる隼人に問いかけた。


「はぁ……はぁ……やっと向き合ってくれたんだよ……本当はずっと好きだったのに周りの目や自信の無さから諦めてたことから、こいつらはやっと一歩前に進んでくれたんだよ。もう誰にも好きなものを失って欲しくないんだよ」


 そう言い放つ隼人の真っ直ぐな目を見て学は思わず圧倒されてしまった。力ではどうにも出来ないという焦りから、学はこれまで以上の力で殴りつけた。


「良い加減にしろよ‼︎ 何で立ち上がってくるんだよ‼︎ 何で俺はバスケが出来ないのに、お前らは好きなことが出来るんだよ‼︎ お前に負けてなかったら、今でも俺はバスケが出来てたのに、全部お前らが悪いんだよ‼︎」


 思わず学は心に溜まっていたものを吐き出していた。


「逃げるなよ……」


 隼人はゆっくり立ち上がると学を見た。


「真剣にバスケをしてたお前の目標を奪われたっていう怒りは理解できる。だからといって誰かの目標を奪ってもいい理由にはならないはずだ」

「隼人の言う通りだ。それに本当にバスケが好きなら何で続けなかったんだよ」


 隼人に続くように蒼太も学に向かって言い放つ。その様子を見た鋏介は静かに口を開いた。


「なぁ学。こいつらは今、真剣にやりたいことがあるんだ。あの時のお前に取ってのバスケのように。だからもう辞めにしないか?」


 鋏介の言葉に学は二人のことを見た。


「俺だって……」


 学は気付いていた。こいつらは何があっても折れない。そして、自分はバスケを辞めさせられたことへの復讐がしたいのではなく、一緒に頑張れる仲間がいる二人に嫉妬していたということも。あの日、隼人に負けたことで強豪校出身のエースから初心者に負けた落ちたエースだと、周りの態度が変わってしまったことに腹が立っていたのだ。自分にも一緒に頑張ろうと側に居てくれる仲間がいれば。


「お前らみたいに全力でぶつかって来てくれる仲間がいれば、俺も何か変われたのかもな……」


 気が付くと学の拳は止まっていた。


「宍戸……」


 隼人はその場にへたり込む。すると、一部始終を見ていた男たちがぞろぞろと仲間を引き連れて現れた。


「全く、ガキの茶番に付き合うのも疲れるぜ」

「どういうことだ」


 学は男たちを睨みつける。


「俺らはお前に仕返しするために協力するフリをしてたって訳だよ」


 気がつくと男たちの人数は数十にもなっていた。


「なるほどな……おい鋏介。悪いがそいつらを連れて出て行ってくれないか」


 学は鋏介に頼むと男たちの方に向かって歩き出した。


「宍戸はどうするんだよ」


 蒼太が学の後ろ姿に問いかける。


「お前らへの用はもう済んだ。ここから先は俺とこいつらの問題だ」

「分かった」


 鋏介は隼人に肩を貸して立ち上がらせた。蒼太と比奈も手を貸しながら出口へと向かう。出ていく直前、隼人は立ち止まり学に話しかけた。


「宍戸……バスケ、またいつでも勝負してやるから。待ってるぞ」

「あぁ……勿論だ」


 蒼太たちには学の背中しか見えていなかったが、どこか学が笑ったように思えた。そして、四人は倉庫を後にした。


「さて……誰が誰に仕返しするって?」


 学は拳を鳴らしながら、男たちに向かって走り出した。
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