小さな星屑

イケダユウト

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第三章

小さな星屑 第十七話

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 蒼太たちは隼人の怪我を治療するために、秤子の父親が院長をしている病院にいた。と言っても父親は仕事中なので、実際の処置は隣の秤子の家で行なっていた。


「隼人センパイ‼︎ 大丈夫ですか‼︎」


 話を聞きつけた羅夢や真矢たちも秤子の家に駆けつけた。羅夢は怪我だらけの隼人を見て、今にも泣き出しそうになりながら終始騒いでいる。


「もう、何で殴られたの蒼太先輩じゃないんですか‼︎」

「おいおい、村田……そりゃねぇだろ……」

「ハハハハッ‼︎ 蒼太、散々な言われようやなぁ」


 二人のやりとりを見て真矢も純も瑞希も皆んな笑い出した。




「ありがとう、秤子」


 少し離れたところで消毒液を片付けている秤子に比奈はお礼を言った。


「大したことないですよ。それに私は医者の娘です。怪我人を放っておくことなんて出来ませんよ」


 秤子は笑顔で答えた。騒動もひと段落して皆んなが賑やかに笑っている中、鋏介は一人黙って考えていた。

 今の俺には自分を犠牲にしてまで守りたいものはあるのだろうか。バスケを失った学のように自分も何かを失って自暴自棄になってしまうくらいなら、大切なものなんて最初から持たなくても良い。そういう風に思ってこれまで過ごしていた。だから出来る限り他人とも関わらないように日々過ごしてきた。
 
 だが、今日の隼人の行動を見て、守りたいと思えるものがあることは素晴らしいことだと心から感じた。自分もそう思える何かを持ってみたくなった。


「なぁ、八木」


 鋏介に呼ばれて蒼太は振り返った。


「俺もお前らの仲間に入れてくれないか?」

「それって……」

「俺もお前らと一緒にダンスをさせてくれ」


 鋏介は蒼太たちに向かって頭を下げた。突然の出来事に驚いた蒼太と真矢は顔を見合わせたが、すぐに笑顔で鋏介の方を向いた。


「あぁ、勿論良いに決まってるだろ‼︎」

「大歓迎や‼︎」

「ありがとう」


 顔を上げた鋏介も笑顔で感謝した。


「よっしゃ、これで四人目や‼︎理想のグループまで、あと一人や」


 真矢はガッツポーズをしながら喜んだ。


「その最後の一人、俺に任せてくれないか?」


 鋏介は蒼太たちに頼んだ。


「心当たりでもあるのか?」

「あぁ。そいつを連れて学校に行くから、この後屋上で待っててくれ」


 そう言って鋏介は秤子の家を出てどこかに向かった。








「ふぁ~眠い」


 蒼太たちを逃してから数分後、学は欠伸をしながら倉庫から出てきた。


「粋がってた割には、全然歯応えがなかったな。牛島の方が骨があったぞ」


 そう言って学が去った倉庫には何十人もいた男たちが全員倒れていた。


「さてと、久々に身体動かしに行くか」


 肩を回しながら歩き出す学の顔は、どこか清々しそうだった。






 蒼太、真矢、純、それから隼人の四人は鋏介に言われた通り学校の屋上で待っていた。しばらくして鋏介が誰かの首根っこを掴んでやってきた。


「おい、越前‼︎ 離せよ‼︎」


 鋏介が連れてきたのは心平だった。心平は学に蒼太たちがダンスを始めたことを教えた。それだけでなく比奈を使って二人を誘き出すこと、そのために昨日の男たちを使うことを提案した。そして、男たちの側には協力するフリをして学に復讐すれば良いと吹き込んだのも心平の仕業だった。


「心当たりって風間のことだったのか」

「そうだ。今回の騒動は全部こいつが仕組んだことだったんだ。だから、心平。責任取ってお前もメンバーになれ」


 鋏介は首根っこを掴んだまま心平に言った。


「ふざけんな‼︎ 何で俺がお前らとダンスなんか」

「それとも運動神経抜群のお前でもダンスは無理なのか?」


 嫌がる心平に鋏介は、今どき子供でも引っかからないような挑発をした。しかし、いつもからかうことはあっても、からかわれることに慣れていない心平は案の定突っかかって来た。


「おい、誰に向かって言ってるんだ。俺は天才だぞ。お前らのやってるダンスなんか一瞬で覚えて、すぐ誰よりも上手く踊れるに決まってるだろ」

「じゃあ決まりだな」

「待てよ‼︎ 俺はまだやるなんて一言も……」

「男に二言はなしだ」


 鋏介に言われてぐうの音も出ない様子の心平だった。


「それから心平。お前にはまだやらなきゃいけない事があるだろ」


 鋏介は手を離すと心平を蒼太たちの前に突き出した。


「ちっ‼︎ 分かったよ……悪かったなお前ら」


心平はバツの悪そうな顔で謝った。


「許さねぇよ」


隼人が静かに言った。


「隼人……」

「だから、許して欲しかったら全力で蒼太たちの目標に協力しろ」


 隼人はニッと笑うと心平に向かって言った。


「分かったよ。その代わり俺の才能に嫉妬しても知らねぇからな」

「おうおう、なかなか言ってくれるじゃねぇか。風間の方こそ、ダンスが出来ねぇって弱音吐くんじゃねぇぞ」


 自信満々な様子の心平に向かって蒼太は威勢よく言った。


「ということで、これでメンバーは揃ったわけやな。ほなこの五人で大会目指すで‼︎」


 こうして蒼太、真矢、純、そして新たに加わった鋏介と心平の五人でダンスの大会を目指すことになったのだった。
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