小さな星屑

イケダユウト

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第四章

小さな星屑 第十八話

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 鋏介、心平がメンバーに加わり、一ヶ月ほど経った。メンバーも増えたことで練習はより綿密に行われていた。二人ともセンスがあったので、すぐに全員で振りを合わせることも出来るようになった。


「さて、五人になったっちゅうことでだいぶ見栄えも良くなった気がするわ」


 人数が増えたことでフォーメーションの幅も広がり、より本格的なダンスチームになっていった。しかし、以前真矢が言っていたようにまだ今ひとつパフォーマンスに華がない。


「どないしたもんかなぁ」

「前に言ってたダイナミックさか?バク転出来るやつなんてそうそう……」

「バク転なら出来るぞ」



 鋏介はそう言ってクルッとバク転をやってのけた。


「こんなので良いのか?」

「ええも何も……バッチリやないか‼︎」


 真矢は目を輝かせながら、鋏介の手を握って上下にブンブン振り回しながら喜んだ。


「昔、体操をやってたからな。こういうやつなら色々と出来るぞ」

「そうかそうか‼︎心平はなんか出来ひんのか?」


 真矢が心平の方を向いて尋ねた。


「何かってなぁ……まぁ、こんなのなら」


 心平は足を滑らせながら地面を縦横無尽に動き回った。華麗に地面を移動する心平を見て純は手を叩きながら称賛した。


「凄いよ風間くん‼︎」

「これはええぞ‼︎なぁ、もうすぐ最終下校時刻にもなるし、どっか別の場所でダンスの構成話し合わんか?」


 真矢は二人のダンスを見てメンバーそれぞれのソロパートを作るのも良いと考え、皆んなに提案した。


「俺はパス。お前らが考えたやつで俺は良いから、振り決まったら言ってくれ」


 真矢の提案も虚しく、心平はさっさと帰ってしまった。


「すまない、俺も家の手伝いがあるから今日は無理だ」

「ごめん、僕もこれから勉強しないとだから……」


 心平に続き鋏介、純までもが申し訳なさそうに帰っていった。


「なんや皆んなして……悲し過ぎて涙出てくるわ」


 断られて落ち込んでいる真矢の肩を蒼太が叩いた。


「まぁそう言うなよ。俺は付き合うぜ」

「ほんまか‼︎流石は蒼太や‼︎」


 落ち込んでいた真矢の顔がパッと明るくなった。


「じゃあ、俺の家に来いよ。ダンスのDVDとかあるから参考になるだろうしさ。ついでに晩飯もご馳走してやるよ」

「晩御飯までとは……ヨッ‼︎男前っ‼︎」

「いやいや、そんなこと……ありますけど‼︎」


 夕焼けの空の下。放課後の屋上で二人はくだらないやり取りをしながらケラケラ笑い合っていた。



 学校を出た蒼太と真矢は、そんまま蒼太の家に向かいDVDを観ながら五人分のダンスの振り付けを考えていた。ある程度構成も考えたところで蒼太は晩御飯の鍋の準備を始めた。

「いや~それにしても、こんな広い部屋に一人でおるとはなぁ」


 真矢は蒼太が一人で住んでいる部屋を見渡しながら、しみじみと言った。大きなリビングにはソファと大型テレビ。部屋は何室もあって、どう考えても蒼太が一人で住むには持て余しているに違いない。


「両親は二人ともほとんど家に居ないからな」

「蒼太の親は何やってる人なんや?」

「母さんはいわゆるキャビンアテンダントってやつ。世界中を飛び回ってるよ。親父は何やってるのか知らない」

「知らんって……」

「年に数回しか顔見ないし。ふら~っと帰ってきて、ふら~っとまたどこかに行くんだから、全然わかんねぇよ」


 そんな会話をしていると家のインターフォンが鳴った。


「おっ、来たか。せっかくだし隼人も呼んだんだ。弓瀬、ちょっと出てくれないか」

「おう、任しとき‼︎」


真矢は玄関に向かいドアを開けた。


「ようこそ、いらっしゃいまし……」


 笑顔で隼人を迎えるつもりの真矢だったが、ドアの前に立っていたのは隼人ではなく、同い年くらいの見たことない女の子だった。女の子は真矢の顔を見るとニッコリと笑った。


「お邪魔しまーす」


 状況が掴めず固まっている真矢の横を通り抜けると、女の子はスタスタと中に入っていった。間も無くしてまた誰かが入ってくる。


「おい、唯‼︎ 勝手に先行くなよ‼︎」

「いや、だって隼人にぃ遅いから。それにこの人が『ようこそ』って出迎えてくれたから、『お邪魔しまーす』って入っただけだよ」

「えっ? 唯? 隼人にぃ? えっ? えっ?」


 ここに来てもまだ状況が飲み込めない真矢が、真ん中で二人を交互に見ながら首を傾げている光景は実に滑稽なものだ。





「あははははっ‼︎」


 隼人から一部始終を聞いた蒼太はお腹を抱えて笑い転げていた。


「笑い事ちゃうで、ほんま。めっちゃびっくりしたんやから」

「悪いな驚かせて。蒼太の家に行くって言ったら、こいつも着いていくって言うからさ」

「ニヒヒヒヒ」


 唯は無邪気な顔で笑っていた。


「唯、とりあえず弓瀬に挨拶しろ」

「はーい。どうも牛島唯(うしじま ゆい)です。歳は十一歳の小学六年生です。兄がいつもお世話になっております」
 
 
 唯は丁寧にお辞儀をした。


「これはこれはご丁寧にどうも……って、小学生やと‼︎」


 真矢が驚くのも無理ない。身長は既に蒼太たちとほぼ変わらず、スタイルも良い。顔も整っていて、言われなければ誰もが高校生と見間違えるルックスだった。


「老け顔だねって、よく言われます」


 舌を出しながら照れることで、ようやく年相応の子供っぽさが垣間見える。


「あかん……この数分で驚きすぎて絶対寿命縮んだわ……」


 あまりに色んな情報が急に飛び込んできたので、頭の整理が追いつかず真矢は目が点になっていた。


「まぁ、弓瀬は放っておいて鍋食おうぜ」

「そうだな」

「いただきまーす‼︎」


 唖然としている真矢をよそに三人は鍋を食べ始めた。しばらくして、ようやく落ち着いてきたのか真矢も一緒に鍋をつつき出した。




「それにしても、まさか隼人に妹がおったとはなぁ」

「あんまり学校では家族のこと話さないしな」

「もっと妹のこと自慢しても良いんだよ~」

「お前は喋ってると溢すから黙って食え」


 冷たくあしらう隼人に対しても、懲りずに唯はちょっかいを出し続ける。学校では周りに優しく頼れる存在の隼人だが、唯がいると恥ずかしいのか口調もどこか強めになっている。


「いや~妹ええなぁ。俺のとこは弟でめちゃくちゃ生意気やから全然可愛げないわ」

「兄弟のいない俺からしたら、隼人も弓瀬も賑やかそうで良い気がするけどな」


 隼人の面倒見の良さも真矢の人を巻き込んでいく性格も、賑やかな家族がいるからかもなと蒼太は少しだけ羨ましく感じた。


「うるさい妹で良ければ、全然この家に置いていくぞ」

「良い気がするとは言ったけど、唯はちょっと遠慮させてもらう……」

「おい‼︎ 隼人にぃも蒼太も私の扱いひどすぎっ‼︎」


 唯のことを押し付け合う二人を見て皆んなで笑いながら、四人は賑やかに鍋を囲んだ。




 鍋も食べ終わり蒼太の家を出た隼人と真矢と唯は帰り道を歩いていた。

「いや~よう食うたわ」

「食べた食べた」

 
 真矢と唯は満足そうにお腹をさすりながら歩いている。


「二人とも食べ過ぎだ」

「それにしても知らん事ばっかりやったわ。蒼太が一人で暮らしてることも隼人に妹がおったこともびっくりやで」

「そうだろうな」

「そういえば聞いた事なかったけど、隼人の親は何してる人なんや?」


 家族のことなど普段の学校生活ではこれまで話すことはなかったので、真矢はふと疑問に思ったことを投げかけた。


「俺の親は……もう居ないんだ」


 隼人は前を向いたまま少し寂しそうな顔つきで答えた。


「俺が小さい時に両親が離婚して。俺と唯は母親に引き取られたんだけど、その後病気で亡くなって。今は祖母の家で暮らしてるんだ」

「そうやったんか……すまん、知らんかったとはいえ」

「いや、良いんだ。ばあちゃんは優しいし、俺も唯も元気に暮らしてるしな」


 真矢を気遣ったのか隼人は出来る限り明るく言った。そんな会話をしていたせいか、二人の歩くスピードが遅くなっていたことに気付かず、唯だけが遥か先を歩いていた。


「ちょっと‼︎こんな夜道をか弱い女子一人で歩かせるつもり‼︎二人とも早く‼︎」


 振り返って叫んでいる唯の元に隼人と真矢は急いで向かった。



 真矢たちが帰った後、蒼太は鍋の後片付けをしていた。すると、リビングの床にシュシュが落ちていることに気が付いた。いつも唯が手に付けていたシュシュで、鍋を食べる時に汚してはいけないと手から外してそのまま忘れてしまったのだろう。


「しょうがねぇなぁ。明日は学校休みだし、届けてやるか」


 蒼太はシュシュを忘れないようにしまった。
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