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第二章:エドガルド、自分、そして──
ようやく仲良き兄弟に?(side:フィレンツォ)
しおりを挟むエドガルド殿下がご帰国なされた。
凛としたたたずまいをしてらっしゃるのに――何か違和感を感じられた。
ジェラルド陛下は無事帰ってきた喜びで違和感を感じてないようだが、御后様は理解していらっしゃる。
これは一体なんなのだろうか?
二日後のダンテ様の誕生は盛大にお祝いをされた。
多くの民に祝福されているがダンテ様は非常にお疲れのように見えた。
それもそのはず、ダンテ様はこういう場が非常に苦手でいらっしゃる。
ただ、それ以外何か違うものも抱えているようにも見えました。
「ダンテ。16歳の誕生日おめでとう。どうかこれからも健やかに成長してね」
「16年というのはあっという間だな、ダンテ。おめでとう」
「父上、母上、有難うございます」
城の中での祝いの宴でジェラルド陛下と御后様がダンテ様に祝いのお言葉をおっしゃられている。
ダンテ様は微笑みを浮かべながら、宴に招待された貴族の方々と挨拶をしているが――本心ではやりたくないのでしょうが、今は我慢してくださいとしか思えないので私は無言を貫くことになった。
正直心が痛い。
入口の方で、騒めくのが聞こえた。
その場にいらっしゃる御方に、私は言葉を失う。
「――誕生日おめでとうダンテ」
驚くほどに優しい微笑みを浮かべたエドガルド殿下がいらっしゃった。
となりの執事は四人分のグラスを乗せたトレイを持っている。
「――有難うございます、兄上」
ダンテ殿下は微笑み、何でもないように返すが、私の心は穏やかではない。
どんな学院生活を送ったのかすら不明のエドガルド殿下があのように「微笑む」のが異常に見えたのだ。
「エドガルド……」
「どうしたのです、父上?」
エドガルド殿下は微笑んでいらっしゃる。
「――帰国前に、ダンテの誕生祝になる飲み物はないかと思い少し買い物をしました。酒精のないダンテ好みの赤果実のジュースを見つけまして」
「エドガルド、どうしてダンテの好みを知っているの?」
「ダンテから手紙をもらっていました、手紙に書いてあったのです」
エドガルド殿下が先にグラスを一つ手に取り、口にした。
「ええ、良い味です。ダンテも飲んでみるといい」
「有難うございます兄上」
ダンテ様もグラスを一つ手に取り口にした。
「ええ、父上、母上。とても美味しいですよ」
ダンテ様の表情に安心したのか、陛下も御后様もグラスを手に取り口になされました。
しばらくしてダンテ様は眠そうにあくびをなさいました。
今日の事はかなり無理をしていたので疲れたのでしょうか?
「ダンテ? どうしたの?」
「すみません母上……少し眠くなってきたので休んでも良いでしょうか……?」
「そうね、疲れたでしょう」
「お前は無理をよくするからな、それが今来たのかもしれん。なら早めに休むと良い」
「有難うございます……」
「ダンテ」
「何でしょう……兄上?」
「『良い夢』を」
「有難うございます……」
少しふらつくダンテ様を支えつつ私は部屋を後にしました。
「ダンテ様、お疲れですね……」
「ああ、疲れたよ……うん、だからゆっくり寝たいんだ……」
「――分かりました、お休みなさいダンテ様」
私は静かに部屋を後にしました。
自室で自問自答します。
果たしてあれが良かったのかと。
そして早朝、私はトンデモないものを目にしました。
「どういう事ですか? ダンテ様?」
エドガルド殿下がダンテ様のベッドで眠っているではありませんか。
一体何があったというのです?!
「その、夜中に目が覚めてなんとなく部屋から出たら兄上が通路をふらついてて、足取りが危なっかしいし、心配だったので部屋に入れて、ベッドに座らせたら急に泣き出して……まぁ、その、どうやら学院生活があんまり良いものじゃないみたいで……宥めていたら寝てしまったから、私が床で寝てるの見たらお前がびっくりするどころじゃないし、かといって人を呼んだら兄上が起きそうだったので……」
ダンテ様は困ったように事情を話してくださいました。
もし、これが事実ならエドガルド殿下から事情を聞かなければなりません。
「……はぁ……驚きましたよ。エドガルド殿下がダンテ様の腕の中で子どものように眠っていらしたので……」
本当、驚きました。
「父上と母上には言いにくかったんだと思う。自分の執事にも。四年間ため込んでため込んで帰ってきて慣れない事をして――それで緊張の糸が切れた……みたいな感じかなぁ」
「なるほど」
何となく納得はできました。
が、それはそれ。
「……ですが、学院であったことはきっちり話していただかないといけませんねこれは。他の王族が留学した際同じようなことがあったら不味いですから。そして何よりエドガルド殿下のお心に傷をつけた罪を償って頂かねば」
「ほ、ほどほどにな?」
ダンテ様にそう言われますが、多分無理です。
お目が覚めたエドガルド殿下は、軽い食事を済ませた後、陛下達の元へお連れしました。
勿論最初は拒否し、嫌がられましたが、一度私を追い出したダンテ様の話術……なのでしょうかそれで連れてお連れすることができました。
エドガルド殿下は確実に精神をお病みになっているのが分かりました。
ただ、何処か異常で、その理由がわからなかったのです。
ですから――執事を呼び出して問いただしました。
予想通り、エドガルド殿下の精神が病んでいる理由の根っこには執事が関わっていました。
そのことをダンテ様にはお伝えした方が良いと思い、ダンテ様の元へと私は向かいました。
「ダンテ殿下、入室の許可を」
「構わない、フィレンツォ。入って来てくれ」
ダンテ殿下の許可を頂き、お部屋に入ります。
「エドガルド殿下の件で、御話があります。ですから来ていただきたいのです」
「兄上は?」
「エドガルド殿下は今回の会議には参加されない方がよいと陛下が」
「は?」
ダンテ様は魔の抜けた声を出しましたが、事情を聴いたらどうなることやら。
「――父上、兄上の事で何があったのです?」
会議室に入り、椅子に座ったダンテ様は問いかけます
「その通りだ。所で、ダンテ。エドガルドの方にあれから何か異変は見られなかったか?」
ダンテ様は少し考える仕草をなされました。
「フィレンツォに私が言った事以外、ただ気になる点が一つ」
「何がだ? 言ってみるがいい」
「兄上と先ほどお茶を飲んでいたのですが兄上は『普段紅雪茶を飲んでいた』という事は別に気にならなかったのですが『紅雪茶が苦すぎた』と言っていたのです。あのお茶は其処迄苦いものではないはずです」
その言葉に、陛下は額に手を当てました。
部屋の空気が重くなります。
「ダンテ殿下こちらを」
私がダンテ様の目の前に小瓶を出しました、中には赤い透明な液体が入っています。
「これは、何かの薬?」
「インスタビレと呼ばれる薬の一種です。正確には薬というより毒です、精神を病ませる」
「何でそんな危険――まさか」
ダンテ様はこれで理解をなされたようです。
「ダンテ、お前のお目付け役基執事としてフィレンツォを任命した後、エドガルドのそれまでの執事が体調を崩し、その執事の弟がエドガルドの執事をすることになった」
「……」
「その執事は、ダンテ殿下に嫉妬しているエドガルド殿下に取り入りやすくする為に茶にその薬を混ぜていたそうです。エドガルド殿下の前の執事は有能だった故、その身内がそのような事をするとは思わなかった私共の不手際です」
ダンテ様は堪える様に手を握りました。
「城にいる間は微量でしたが、留学――学院での生活中は、その執事一任となる為、薬の量を増やしていったそうです」
「……その薬はどのような作用が?」
「エドガルド殿下が飲まされていた薬は酷く『悪意』に敏感になり、それによって精神が不安定になるものです。学院生活はあまりよくなかったのと、薬の効果もあり、エドガルド殿下は、周囲の悪意を何倍にも感じ取ってしまいそれに病んでおられたのかと」
「――何故、その『執事』はそのような事を?」
ダンテ様は怒りの感情を押し殺しているようでした。
「エドガルド殿下に自分の娘を娶らせて王家との繋がりを作ろうと」
「……父上、もしかして、その『執事』は兄上に自身の娘を会わせたり等していましたか?」
「――ダンテ、本当にお前は頭の回転が速いな、その通りだ。エドガルドが留学中に幾度も会わせていたそうだ」
「父上、あまりこのような事を言いたくはないのですが……」
「その執事の娘、兄上を誘惑したりするような事をしていたりしませんでしたか?」
「……その通りだ、何故そう思った?」
ダンテ様の言葉に、陛下は静かおたずねになられました。
「私は女性へそういった欲求をあまり抱かないのは既にご存じでしょう、ですが兄上は明確にしていない上私とは異なります、ことに及び身ごもってしまえば――兄上事です、愛していなくとも、妻にするでしょう。そういう行為をしたのは自分だと責めて」
「成程……確かにそうなるな」
「――父上、処罰の方と再発防止の方はどうするおつもりですか?」
ダンテ殿下は静かにおっしゃいました。
「処罰の方は今決めているところ――」
「ならば主犯である元執事は処刑するのが妥当かと」
部屋が驚愕に包まれます。
『あのお優しいダンテ殿下が?』
そう皆思っているのでしょう。
「王族にどんな性質のものであれ、毒を飲ませるなど許してはならない。ましてや執事として主の信頼を裏切る行為をしたのです。兄上がそれでどれ程苦しんだことか」
「そして手慣れているように思えます。おそらく似たことをその男はやっていたのでしょう」
「……確かに、調べなおす必要があるな」
「兄上を苦しめた愚者と関わる者達全てから事情聴取を、洗いざらい吐かせましょう。再発防止はそれと並行して。処刑に関しては全てが明らかになってからで良いと思われます」
「このような愚行に気づかなかったのは、私達の不手際。二度とこのような事態を引き起こさぬようにしなければなりません」
「このような『病巣』は残らず取り除かなければ――」
ダンテ様のその時のお顔は、まさしく次期国王に相応しい施政者の顔をなされておりました。
会議が終わると、ダンテ様は足早に自室へとお戻りになられました。
「ダンテ様、エドガルド殿下の事が心配ですか?」
「それは当然にきまってるじゃないか。大切な兄上だからね」。
「本当に、ダンテ様はエドガルド殿下を大切に思っているのですね」
幼い頃から、仲良くしたくて仕方なかった兄君であるエドガルド殿下と良好になれたのが余程嬉しいのでしょう。
その時の私はそう思ってました。
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