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第三章:学園生活開始!
手を取ってくれたから~貴方を守ります~
しおりを挟む『さて、問題はエリアについてだな』
――そうですよ、正直どうすりゃいいのか全く分かりませぬ――
いつもの精神状態になった私に、神様が現状の問題を確認するように言う。
もちろん私はどうすればいいのか分からない。
『なに、既にお前が使っている手段があるではないか』
――はい?――
何かやったっけかとちょっと悩む、けれど思い当たらず。
『無意識にやってたのか……まぁそれだけ馴染んでるということか』
――一人で納得しないでくださいお願いします――
『王族特権というのを使え』
――はい?――
『分からないようなら、フィレンツォが戻ってきたら相談してみろ。そういう案件で相談できる相手にはうってつけだろう。まぁ、お前なら分かっているから問題なかろう。寧ろ重要なのはそれまでに、エリアの信頼を勝ち取ることだ』
――それが難しいんですってばよ!!――
『では、助言だ「哀れむ」な。これは次に会う奴も同じだな「哀れむ」な、できるだけな』
――え、えーと……――
『さて、それでも難関だろう、とっておきの助言だ』
――な、何ですか?!――
『エリアには、どうしたいのか、聞くといい』
――え、それ地雷になりません?――
『ならんのだなぁ、これが。さぁ、行動するがいい!!』
――違ったら責任取ってくださいよー!!――
『違ったらな!!』
――フラグっぽくて怖いー!!――
正直怖いが「戻された」以上やるしかないのだ。
正直もうちょっとあの時間停止空間かつ精神対話空間で神様から色々助言が欲しかったのだが、今はできない。
――駄目だったら文句言うどころじゃすまないからな!!――
「……エリア、貴方に聞きたいのです」
「な、なん、です……か……ダンテ殿下……」
「――貴方は、どうしたいのですか?」
私の言葉に、彼は顔を上げて、戸惑いの表情でこちらを見た。
「どう、したい……と、いう、のは?」
「そのままの意味です、貴方が生い立ち等話していただいたからこそ聞きたいのです。いまのままでいたいのか、それとも――」
「べつの何か違う道へ行きたいのか」
私は「逃げたいのか」と言わず、そう言った。
「――そんなのむ……」
「無理かどうかではないのです、貴方は何をしたいのですか? 此処では貴方を咎める者も、虐げる者も、告げ口をする者もいません。思った事を述べて、いいのです」
私はただ、静かにそう言った。
エリアはしばらく呆然としてから、菫色の目からぼろぼろ涙をこぼしてうつむいた。
「……僕は……もう、あの場所に帰りたくない……僕に暴力をふるって、男の人達に僕を犯させてお金とかを得ているあんな場所に帰りたくない……!! もう僕はあの家から自由になりたい!! あの人達に怯えて生きていたくない!!」
「――分かりました、それが貴方の願いなのですね」
「……」
エリアはこくりと頷いた。
少しして、ノックする音が聞こえた。
「誰ですか?」
「ダンテ殿下の執事、フィレンツォ・カランコエです」
「フィレンツォですか待っていました、入って来てください」
そう言うと、フィレンツォが扉を開けて入ってくる。
「フィレンツォ、戻って来て早々だが準備をして欲しいのです」
「何でしょうか」
「エリアを私の『客人』として扱いたいのです」
「?!」
「畏まりました」
私の言葉に、エリアは驚愕しているが、フィレンツォは予想していたのか冷静だ。
メーゼの学院に通う王族は「客人」という少し特別な立場の存在を持つことができる。
王族が「客人」扱いした相手は王族と同じ扱いを受けることができる。
つまり、その相手は王族の庇護を受けることになる。
手出しをすれば、例え相手の身内であろうとも「王族に手を出した」と扱われ、処罰される。
また、学院卒業後も、その関係を継続し、王族の庇護を受け続けることが可能だ。
滅多に使われることのない、王族特権。
だが、私は使う。
――使えるもんは何でも使う、そうでしょう?――
『ああ、正解だ、流石は私が見込んだ者』
――なーんか白々しいなぁ――
『何故疑う!?』
「そ、そんなぼ、僕なんかに――!!」
「――あの時貴方は私に助けを求めた。ならば私はそれに応えます。私を利用して構いません、エリア。貴方が私の手を取ってくださるのでしたら、私は貴方を応援します、貴方が『家』から自由になり、何をしたいか見つける為に」
私はそう言って手を差し出す。
エリアはしばらく黙り込んでいたが、恐る恐る私の手を取った。
「――私の手を取ってくれて、選んでくださってありがとうございます」
私は彼にそう言ってほほ笑む。
「フィレンツォ、学院の方に連絡をしたら、手続きを」
「畏まりました」
「て、手続き? な、何の……?」
「貴方を強姦した輩共を訴える手続きです、私が代理人としてやります」
「で、でも――!!」
「エリア、もう貴方は私の『客人』です。だからもう『兄』という名の男達に『両親』という名の存在に、怯える必要はないのです」
「私が、守ります。貴方が『夢』を持ち、それを叶えるその日まで」
私はエリアの両手を包み込むように握り、微笑んで言う。
エリアは破顔し、嗚咽を零した。
「ありがとう、ございます……ありがとう、ございます……!! 僕は貴方に、何も返せないのに……!!」
「お礼は、貴方の『夢』が叶った時でいいですよ」
私はなるべく優しい口調でそう返した。
『いやはや、こうも助言がいるようでいらぬのは有難いものだ』
――頻繁に助言くれてもいいんですよ?――
『堕落しないだろうが、甘やかしすぎるのは問題なのでやらんぞ?』
――神様ってそういうとこありますよね!!――
幼少時からの執事であり、頼れる存在であるフィレンツォは私の意思をくみ取るように、行動してくれていた。
手続きに関しては、流石に代理人である私の署名は私がしないといけないので、ちゃんと読んで署名する。
文書に関してはフィレンツォが確認してから私が確認し、署名するのだが、何か癖で私の確認は其処迄必要ない程フィレンツォを信頼しているのに確認癖が抜けない。
これに関してフィレンツォは「ダンテ様は妙な所で心配性ですね」と言って笑っている。
これは前世の事柄が原因なのだが、思い出すと胸糞悪くなるのでやめておいた。
――精神状態を自分から悪くするのは止めよう、普通の自傷行為よりもヤバイ場合がある――
『どちらも「自傷」である時点で、相当不味い気がするのだがな』
――それは言わんでください――
神様のツッコミにそれ以上言わないよう頼む。
正直今は思い出したくない。
「――では『客人』の証となる物を買いに行きましょう」
「あの、証と、いうのは……?」
エリアは其処迄詳しくないようだ。
まぁ、私もちゃんと覚えているかどうか不安もあるので確認もかねて口にしてみる。
「王族は『客人』に対して、王族が栄誉あるもの達などに渡す『証』と同じ系統の物を渡すのです、その証は私の国だと金色の雪の結晶ですね」
「その通りですダンテ殿下。インヴェルノ王家は黄金の雪の結晶、プリマヴェーラ王家は真紅のチリエ、エステータ王家は碧色のアロナの輪、アウトゥンノ王家は橙色のロファナ、他の貴族が印に似たものを使っても咎められませんが、色と形状が同じのを使用・保持する事は王族と王族に認められたもの者以外許されません」
ちなみに、雪の結晶は前世では「樹枝六花」と呼ばれるタイプの形をしている、結晶の名前は割と知らない人多い気がするけど、前世でアンケートとったことないので分からない。
「ど、どのような形、なのでしょうか?」
エリアは教育でもあまり恵まれてなかったのか、一般常識的な事も分からないらしい。
「すぐ確認できますよ」
「え」
「私の目に何か紋様があるでしょう? それです」
私はエリアに顔を近づけて、指で目の下を軽く叩く。
金色の私の目には、瞳孔を中心にして銀色で雪の結晶の紋様が描かれている。
――まぁ、印同様、金色だったら、同系色で分かりづらいから違う色なんだろうけども――
「――どうか、しましたか?」
顔が真っ赤になっているエリアに私は問いかける。
「い、いえ……なんでもありません……」
「そうですか、具合が悪かったらすぐに言ってくださいね」
「は、はい……」
エリアがこくんと頷いたのを見てから、フィレンツォを見る。
「それにしても他の国は植物なのにどうしてインヴェルノは――……フィレンツォ、何ですか? そのあきれ顔は?」
「いえ、何でもありません」
フィレンツォの呆れ顔、というか何か言いたいけどやめとこうと言わんばかりの表情が私は非常に気になった。
『まぁ、今は気にするな』
神様の意味深な台詞、何となく嫌な予感がした。
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