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第三章:学園生活開始!
変化~そして相変わらずの嫌な予感~
しおりを挟む『お前はおかしい』
『普通じゃない』
私を異常だと責める無数の人影が視界に入る。
――じゃあ、お前達は普通なのか?――
――そもそも普通って何?――
でも、私は何も言わずに、言葉を飲み込むのだ。
「……」
目を覚ますと私はベッドの上にいた。
ソファーに横になってからの記憶がないから、おそらくフィレンツォが運んでくれたんだろうと思った。
――あんまり見たくない夢を見た――
私は起き上がり、ふぅと息を吐いた。
静かに扉が開く音がした。
フィレンツォが入ってきたのだ。
「ダンテ様、まだ横になっていても良いのですよ?」
「いや、二度寝は次の休みに取っておくとするよ。それより、フィレンツォが運んでくれたのかい?」
「はい。ダンテ様、あまり無理をなさらないでください」
「そうできるようにしたいな、この学生生活の間に」
私はフィレンツォの言葉に困ったように笑ってそう返す。
「……だといいのですが」
フィレンツォはため息をついた。
「なんでそんな疲れたような表情をするんだ?」
「ダンテ様、割と無茶しますから心配なのですよ」
「はははは……」
否定できないので渇いた笑いしかでなかった。
私が朝食を食べ終え、身支度を整えてから、フィレンツォがエリアを起こしに行こうとした。
「あ、私も行くよ。フィレンツォだけだときっと驚くかもしれないし」
「そうですか……畏まりました」
私はフィレンツォの後をついて行き、エリアの部屋の中に入る。
部屋に入ると、部屋の隅で毛布にくるまってガタガタと震えている彼が視界に入った。
別に部屋が荒れた様子はない。
「――エリア?」
私は彼の名前を呼んだ。
出来るだけ、穏やかに。
私の声にエリアは恐る恐る顔を上げ、私の姿を確認すると怯えた表情から泣きそうな顔になった。
そして私に近づこうとして、毛布につまずいてこけた。
慌てて私はエリアに駆け寄り、抱き起す。
「エリア、大丈夫ですか? 痛いところとかないですか?」
「だ、大丈夫です……」
「鼻が赤くなってるじゃないですか、顔から転んだからですね」
私は赤くなっているエリアの鼻に手を当てて、無詠唱で治癒術を使う。
「あ……」
「これで大丈夫そうですね、立てますか?」
私がたずねると、エリアはこくりと頷いて立ち上がった。
エリアが朝食を終え、そして身支度をフィレンツォが整えるまで私は傍にいた。
エリアがそれを求めたから、それに応じただけのこと。
嫌がるならしていない。
「……」
ブレスレッドを触りながら、エリアは少し気まずそうな顔をしていた。
環境が一変したのだ、落ち着かないのも無理はないだろう。
紫がかった銀色の髪――モーヴシルバーって言うんだっけか?
長い髪は整えられ、綺麗に結われている。
私も髪はセミロング――つまり肩程の長さなので結う場合は何か個人的面倒な感じがしているのでそのままにしている。
もっと髪の毛で遊んでもいい気もするのだが、前世の癖がまだ残りこれ以上伸ばすのが面倒くさいのもある。
18年以上も前の事か、18年しか経っていないか、どちらかはまだ私にはわからない。
「どうしたのですか、エリア」
エリアが私をじっと見つめているのに気づき、声をかける。
「そ、その……ダンテ殿下は本当に、綺麗な髪に、綺麗な目、綺麗な肌で、お美しいなぁって……」
「そうですか? ふふ、少し恥ずかしいですが、嬉しいです。有難うございます」
私がそう答えると、エリアは笑みを浮かべてから何処か陰鬱な表情になった。
「それに比べて……僕は……」
自分の容姿におそらくコンプレックスを抱えているような仕草が見られた。
実際、エリアは鏡に映る自分をあまり見ようとしていなかった。
「エリア」
私は彼の名前を読んで近寄る。
綺麗なモーヴシルバーの髪を撫で、白皙の頬に触れる。
エリアは不安げに菫色の目で私を見上げる。
「エリア、貴方のその髪も、肌も、目も、とても綺麗です。私は好きですよ」
「……で、も……」
「貴方を蔑む者や、悪く言う者の言葉など、聴く必要などありません。そのような輩に気を取られていては――貴方を大切に思ってくれる人の声を聴き逃しかねません」
エリアが自分を卑下してしまうのは仕方ない、エリアは劣悪な環境に置かれ、虐げられてきたのだから。
エリアは菫色の目で不安げに私を見つめている。
私は微笑んで、言う。
「私は貴方の事が大切ですよ」
私の言葉に、エリアの頬が薄い紅に染まる。
「え、あ……あり、がとう……ございます」
まるで恥じらう乙女のようだ。
――可愛らしい――
「ダンテ殿下」
「ん? どうしたのですか、フィレンツォ?」
「エドガルド殿下からお手紙が届いております」
「兄上から?」
フィレンツォの持っている手紙を受け取る。
確かにインヴェルノ王家の者しか使うことが許されていない印璽で封蝋がされている。
「クレメンテ殿下がいらっしゃられるまでまだ時間がありますのでお目を通すのが良いかと」
「では、そうさせていただきます。エリア、すみません。ちょっと部屋に戻らせていただきますね」
「は、はい……」
私はそう言って手紙を手にしたまま、エリアの部屋を後にした。
部屋に戻り、手紙の封を切る。
中には数枚の便箋が入っていた。
エドガルドの筆跡で書かれた内容に私は目を通す。
一枚目は、現在のインヴェルノ王国の状況について。
まだあちらは完全に春にはなっていないらしいが、雪解けが始まりつつあるようだ。
国民は皆春の祭りの準備で大忙しらしい。
祭りの時、フィレンツォにお願いして、王族だと、次期国王ダンテだと分からないように変装して、祭りに参加したのが懐かしい。
最もそれができたのは本当小さい頃だけだったが。
その祭りを、戻ってきたら一緒に見たいと書いてくれたことがとても嬉しかった。
二枚目には、城の事、問題があるらしい。
それは父が私がこの四年のうちに伴侶を見つけて帰ってきたら早々に隠居したいとほざ……我儘を言っている事。
言う度に、エドガルドと母が叱りつけ、ここ最近は最終手段である隠居した先代国王である祖母を呼び出すと言って叱りつけている程だとか。
王様の仕事が面倒くさいからかと思ったら、単に母と公務を気にせず過ごしたい……まぁいちゃいちゃしたいからだけというので、エドガルドは頭が痛くなったらしい。
私も頭が痛くなった。
――父さん、いい加減にしてくれ。若造の私には荷が重すぎる、というかこの四年が大変なのだから心労をかけさせないでくれ、特にエドガルドに――
もし、父達がこちらに来たときは少し問いただそうと思った。
三枚目――これはエドガルドにとっての一番重要な内容なのだろうと思われた。
私以外には当たり障りのない文章として読むように術が施されている。
万が一誰かが読んだ場合でも気づかれない様にと最新の注意を払っているのが分かる。
早く会いたい、会えないそう言った思いが綴られていた――
ダンテ、本当はお前の手紙を待つべきなのだろう。
でも、どうしても待つことができず、出してしまった。
お前は私の事を気遣って出していたというのに、私はそれが出来なかった。
堪え性がない輩だと嗤ってくれても構わない。
お前が居なくなって、一週間も経たぬというのに、私は寂しくて仕方がない。
早く会いたい、けれどもそれをする為の準備を私はしている。
だから会えない。
一年は確実に会うことができないだろう。
一年でやり切れるか自信はないが、お前の為なら私はなんだってできる。
ああ、でも寂しくてたまらない。
早く会いたい。
私の最愛のダンテへ。
「……」
いじらしいと思う一方でやたらと何かを気にしているのが気になる。
――一体何をしているのだろう?――
出発前に言っていた事なのだろう、だから聞くことはやめておこうと私は判断した。
手紙を引き出しにしまって鍵をかける。
――しかし、何故だろう、この何とも言えぬ嫌な予感がするのは……――
『まぁ、今は気にするな』
相変わらずの神様の言葉に、私はため息をつくしかなかった。
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