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第六章:こんなハーレムいいですか?
夏を満喫?! と思いきや……~花にたかる蟲~
しおりを挟むパサランが来てから一週間後のある日。
「泳ぎたい」
私は何故かそう思った。
泳ぎたくて仕方ないのだ。
――でもここにそんな施設あるっけ?――
――最悪の場合、あの施設にこもるのも手か――
なんて考えているとフィレンツォは答えた。
「ありますよ、そういう施設が」
「本当か?」
「はい、では皆様にもお声掛けいたしますね」
「うん、分かった。何か準備は――」
「しなくて結構です」
フィレンツォの言葉にしょんぼりしながらも、心の中ではうきうきしていた。
泳ぐための施設か、どんなのだろう、と。
「……凄いですね、これは」
施設に来て出た言葉はそれだった。
前世の大規模なプール施設が目の前に広がっていた。
各所には水の精霊達が配置され、監視や遊具を動かすなどを行っているのが見える。
建物も、構造空間魔術で内部が見た目の5倍以上の広さになっているのもスゴイと思った。
「これを作った人は凄いですね、一体誰ですか」
「サロモネ王です」
「はい?」
「ですから、サロモネ王ですよ、ダンテ様」
フィレンツォの言葉に耳を疑った。
「そこから何度か改修はされてますが、最初にこの施設を作ったのはサロモネ王です。他にも多くの施設をサロモネ王が作り、今に至るまで精霊や妖精と共に修理改修して発展させています。あそこのロングスライダー、今年できたばかりだそうですよ」
フィレンツォはそう言いながら超長いウォータースライダーを指さした。
「……すごいな」
――しかし、400年以上前に創られたとしたら、どんだけスゴイ人だったんだ、サロモネ王は――
などと感心する。
そして、重要な事を思い出す。
「皆さん、泳げますか?」
水着に着替えて置いて今更ながらなのだが、私はたずねた。
エリアとクレメンテは首を横に振り、エドガルドは首を傾げ、唯一自信満々に泳げると断言したのはアルバートとカルミネだけだった。
「ダンテは泳げるのか?」
「確か泳げますよダンテ様は、城に居た時夏場の湖で全力で泳いでましたから。ちょうどその頃エドガルド様は留学中でしたね。エドガルド様が戻られてからは、学院の準備などで忙しくしておりましたから」
「……」
それを聞いたエドガルドは明らかに悔しそうな顔をしていた。
――それはしゃーないからそこまで悔しそうな顔はやめなさい――
と心の中で思いながら、エドガルドの肩を叩く。
「ここで、思い出作りをしましょう、皆で」
そう囁けばエドガルドは口元に淡い笑みを浮かべた。
――それにしても――
私は周囲を見渡す。
視線がこちらに集まっている。
――水着は普通のを選んだけども、なんでこんなに目立ってるんだ?――
エドガルドとクレメンテは居心地悪そうにしており、エリアは私の背後に隠れてしまっている。
堂々としているのはアルバートとカルミネの二名。
――この二人色々とタフすぎん?――
「ダンテ様はご婚約されているのは公表されていますが、婚約者の方々と一緒にこのような場所に来るのは初めてだからこそ注目されているのです」
色々と考えている私に、フィレンツォが囁いた。
「なるほど、そういうことか」
「あと、気を付けてください。ダンテ様は他の方ともう婚約する気がなさそうなのでよいですが、全員にちょっかいを出す輩や、婚約者様方に手をだそうとする輩がいない訳ではないので」
「わかった、できるだけ固まって行動するよ」
「それが宜しいかと」
正直、色々と厄介ごとはついてまわるんだなと理解できた。
「泳ぎ慣れてないエドガルドと、クレメンテとエリアは私と一緒に行動しましょう。フィレンツォはアルバートとカルミネと行動を、泳ぎ慣れてるのですか――」
「いや、私もそちらにいる。泳ぎの指導なら任せろ」
「俺もそちらが良い。指導なら俺も任せて欲しい」
「……では、みんなで初心者向けのプールで泳ぎましょうか」
五人が頷いたので、私達はそろって初心者向けのプールに移動した。
泳ぎ慣れてない人向けに浮き輪が貸し出されており、エリアはそれを使ってぷかぷか浮くだけで満足そうにしていた。
クレメンテとエドガルドはアルバートとカルミネの指導もあり、泳げるようになっていた。
私はエリアの傍で浮き輪の紐をひっぱって浮いていた。
「ダンテ様は……泳がなくてよいのですか?」
「ん? ああ、泳ぐのもいいけど、もう少ししてからだね」
「ダンテ様、私が紐を持ってますので……」
「フィレンツォ、じゃあ頼んだ。エリアちょっと泳いできますね」
「はい」
手を振るエリアに背を向けて私は水の中に沈んだ。
澄んだ水、透明な水、常に浄化され続ける綺麗な水を泳ぐ。
一番得意なのはやっぱり潜水だなと思いながら潜りそしてプールの端にたどり着いて顔を出す。
ぷはっと息を吐きだして、縁にあがり、まとめておいた髪をそのままで首を軽く振る。
「ふぅ」
「あの、ダンテ殿下でございますか?」
そう若い男女が六人程いるグループの一人が声をかけてきた。
「そうですが……何か御用でしょうか?」
「ご婚約おめでとうございます」
「有難うございます」
「それで――」
男が最後まで言う前にエドガルドとカルミネが猛スピードでやってきて、私を庇うような仕草をして前に出る。
「すまないが、今はダンテ殿下は私的な休みにある。故に、要件があるならば私達を通してもらおう」
「俺達が話を聞こうではないか、何かようか?」
「「い、いえ、何も!!」」
六人組は急いで逃げ去った。
「全くお前が絡まれてどうする」
「そうだぞ、ダンテ」
「ははは、すみません」
私は苦笑して二人に返す。
二人は盛大なため息をついた。
「お前に何かあったらどうするつもりだ……」
「あ、大丈夫ですよ。私視線で人の呼吸止めれるんで」
「「そういう問題じゃない!!」」
余計に叱られた、まぁ、そんな予感はしてたので、しょんぼりしておく。
ちなみに視線で呼吸を止めるのは魔眼とかそういった類のものではない。
殺気で人を硬直させることができるのだ、無論野生動物にも効果がある。
なので、無用な争いを避けられる自信はあったが、エドガルド達からはそう言う意味ではないと怒られた。
確かによくよく考えると、根本的に間違っている気がするのだが、どう間違っているのかよく分からないので、私は相当アレだろう。
ただ、この日を境に、私に対してアプローチをしてくる輩が増えた増えた。
まぁ、理由は分かる。
一人ならともかく。
複数人と同時に婚約したのだ。
取り入る隙があると思われているのだろう。
私がガードする前に、エドガルドやフィレンツォ、アルバートがガードしてしまうので、自分でガードする機会がほとんどないのが少し悲しい。
――想像練習してたのになぁ――
『やめておけ、お前が断るとロクなことにならん』
神様にそう言われたので、自分ではガードしない方針にならざるえなくなった。
エリアが絡まれそうな時は、笑ってない笑顔を向けると相手はびびって逃げてくれるのだが、これは別に良いらしい。
――線引きがよくわからないなぁ――
そんなことを考えながら、花にたかる蟲を追い払うような日々も始まった。
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