変幻自在の領主は美しい両性具有の伴侶を淫らに変える

琴葉悠

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甘い時間を邪魔される

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 優しく頭を撫でられている感覚に、サフィールは静かに目を開けた。
 ニエンテが優しく微笑みながら、自分の頭を撫でてれているのに、気づく。
「起きたかい、サフィール。いや、起こしてしまったかな?」
「……いいえ」
 ニエンテの最後の言葉の方をサフィールは否定する。
 ニエンテの温かな手がなぞるように、頬を撫で、そして唇に触れた。
「あ……」
「サフィール、君に口づけをしたい、いいかな」
「……はい」
 サフィールはニエンテの言葉に口元に淡い笑みを浮かべて、体を起こし、ニエンテの口づけに、ゆだねた。
 まぐわいの時のような「甘い」口づけではないが、幸せな口づけに、サフィールは夢を見ているようだった。
 こんな時間がずっと続けばいいとさえ思ってしまうほどに。

 それを壊すように、扉をノックする音が聞こえた。

 口づけはそこで中断された。
 サフィールは扉をノックした音が少しだけ恨めしく思えた。
「何かね?」
 ニエンテが尋ねると扉が開き、メイドが入って来た。
「申し訳ございません、ニエンテ様。私共では対応が困難な事案が発生しました」
「城の内部に異常は見られない、そして今日は来客の予定はないはずだ、一体何があったのだね?」
「――統治者の一人、ルカン様がいらっしゃいました」
 メイドの言葉に、サフィールがニエンテを見れば、眉間に皺を寄せている。
「……彼に、私は『妻を大事にしたいから来ないでくれ』とかなり、きつく、言ったつもりなんだけど……なんで来たのかな?」
「……奥方様には少々聞かせたくないお言葉が……」
 メイドの言葉に、ニエンテはため息をついていた。
「サフィール、君はここから出てはいけないよ。ちょっと君には会わせたくない奴だからね、ルカンは」
「……どのような、方、なのですか?」
「……淫魔だよ、男も女も関係なく性的な意味合いで色々やらかす奴でね」
「わかり……ました……ここに、います……」
「ありがとう、どうにかしたら戻ってくるから、それまで……」
 ニエンテはそう言って再度、サフィールの唇に口づけをしてから、寝室から出て行った。
 サフィールは閉まり、鍵のかかる扉を見てから、再びベッドに横になり、口づけをしてもらった、唇を触る。

――もっといろんな場所に口づけを、して欲しい……――

 そう願いながら、サフィールはベッドの上でニエンテが戻ってくるのを待つことにした。




 ニエンテは部屋から出ると、サフィール専用の姿から、初対面もしくは嫌な相手、仕事時の真っ黒で目や鼻や口のない、異形の姿に体を変えて、服も真っ黒なスーツ姿に変えた。
 ロビーに転移し、メイドと会話しながら歩く。
「おい、あの馬鹿淫魔何抜かしやがった」
「はいルカン様は『ニエンテの奥さん、両性なんでしょう? だったらさぁ、3Pやろうよ!! 絶対気持ちいいって!! それにスゴイ綺麗な子なんでしょう、ねぇねぇ、会わせてよ、させてよー』と馬鹿な事をのたまっておりました」
「死ね!! あの馬鹿淫魔!!」
「一応、攻撃許可はでておりましたのでそれで対応したのですが、一向に帰ってくれる気配がなく居座ってるので……」
「――わかった、それほどの馬鹿なら、少し『脅し』てもいいか」
 ニエンテは不機嫌そうな声で言うと、城の外に出て、武装状態になっているメイドや執事にその解除命令を出して、後ろに下がらせる。
 土煙が消え、あちこちボロボロになったが、すぐさま美しい――だか何処か卑猥な服を身に着けた男がそこにいた。
 ニエンテはどかどかと大股で近づき、にやけているその男の服を掴んでどすの聞いた声で言う。
「おい、ルカン。俺は言ったよな? お前に『俺は嫁さん大事にしたい時期だから、絶対近づくな、お前みたいな、他者の伴侶に平気で手をだそうとする輩には絶対会わせねぇ、下手すると殺しかねない』って?」
「いや、だって見たいじゃん? そんなに言われると逆に。それにスゴイ綺麗な子なんだろう、ねぇ、見せて――」
 男――ルカンはそこまで言って顔色を青ざめさせ口を閉ざした。
 ルカンの周囲を黒い獣が口を開けて囲んでいるからである。
「テメェに選ばせてやる、俺に『喰われて』完全に死ぬか、大人しく家に帰り俺が出ないと駄目な依頼をするとき以外此処に来ないか――選べ」
 ニエンテの低い声に、ルカンは冷や汗を流し、口を開いた。
「わ、わかった……帰るよ……」
 その言葉に、低い唸り声を上げていた獣たちは姿をけした。
「ならいい、さっさと失せろ!!」
 ニエンテは怒鳴りルカンを投げ飛ばすと、ルカンは地面にぶつかる前に姿を消して、いなくなった。
「……」
「――いなくなられましたか?」
「俺の領域から完全に出た、念のため警備を強化しておけ、俺は寝室に戻る」
「畏まりました」
 ニエンテはそう言って姿や服、声を変えて、その場から姿を消した。

 寝室の扉の前に転移し、乱れや、何かされた痕跡がないか確認し終えると、扉をノックしてから、鍵を開けて中に入る。
「サフィール」
 ベッドに横になっている美しい妻の名前を呼ぶと、サフィールは体を起こしてこちらを見てきた。
 無表情だった顔が自分を見ると、嬉しそうな柔らかな笑みを浮かべた。
 ニエンテは微笑みを浮かべたまま、扉を閉めると、ベッドに足早に近づき、腰を下ろし、サフィールを抱きしめる。
 抱きしめ、サフィールの長い美しい金色の髪にくすぐったさを感じながら、首筋にキスをする。
 ひとしきりキスをして、気分が良くなった状態で幸せそうな笑みを浮かべているサフィールの唇に触れるだけのキスをして、髪を撫でる。
「君と一緒にいれる時が落ち着くよ……可愛い私のサフィール……」
 そう言ってキスをする、サフィールは抵抗することもなくそれを受け入れた、嬉しそうにほほ笑んだまま。

 必要がない限り、今日はこうしてのんびりしよう、のんびり可愛い妻を愛でよう、とニエンテは思っていた。
 だが、それを撃ち砕くように、再び扉をノックする音が響いた。
 ニエンテは、何となく今日が厄日な予感をこの時点で感じ始めた。

 ニエンテの予想通り、ニエンテが「正妻を迎えた」と言う情報を聞きつけた、統治者や、それに近い立場の者達が次から次へとやってきた。
 ニエンテはメイド達に基本「アポ無し来客は全部断れ、非常時でもない限り」と言う命令をしたのだが、さすがにメイド達では統治者等それに近しい立場の存在は少々荷が重い為、ニエンテは度々外に出ては招かれざる連中を追い払った。

「だ――!! くそ!! 俺はちゃんと連絡したはずだ!! 『来るな』と!! 『妻は見せねぇ』と!! ついでに『贈り物』もいらねぇと言った!! なのに何なんだ!!」
 ニエンテはロビーに設置してあるソファーに座って頭を抱えた。
「お疲れ様です」
「くそ、せっかくサフィールちゃんとまったり過ごそうと思ってたのに、なんでこうなるんだよ!!」
「――しばらく続きそうですね、私共もそれは好ましいとは思いません」
「あれ、珍しく俺の意見にちゃんと賛成してくれてんな」
「奥方様には、私共もおりますが、奥方様の御心を一番支えているのはニエンテ様です。ですので、奥方様の為に、できればゆっくりとお過ごしできる時間をおつくりして差し上げたいのです」
「あーなるほど……」
 ニエンテは頬杖をつきながら、ふぅと息を吐く。
「来た連中全員脅したけど、これ以上来るなよ。もう夜だってのに、俺は連中の所為でサフィールちゃんと過ごす時間今日ほっとんど奪われたんだからな!!」
「高位防御壁を展開しますか?」
「――そうするわ、夜は俺はサフィールちゃんを愛でていたい――っと俺が馬鹿連中対応していた時サフィールちゃんどうしてた?」
「食事や、入浴はお済になられました。――ニエンテ様が奥方様の為におつくりになった庭に行きませんかと尋ねましたが『ニエンテと一緒がいい』とお断りされました。他の部屋の案内なども同じようにお断りされました」
「どうしよう、俺の奥さん超可愛すぎる」
「本当に、ニエンテ様には勿体ない程の奥方様です――ですが、ニエンテ様以外ではきっとここに来たような暗く悲しい表情のままでしょう」
「……お前等が俺を褒めるなんて珍しいな」
 メイドの発言に、ニエンテは少し驚いたような声を出す。
「――ニエンテ様以外の御方にとって、奥方様――サフィール様は『統治者にして四大真祖の一人イグニスの子ども』というステータスで見る輩が多いでしょう、妻に、夫にしたがる者は多いでしょう、ですがニエンテ様はサフィール様という存在を見ております。そして――」

「サフィール様が求めている『愛』を『ぬくもり』を良からぬ気持ちではなく、純粋に注いでおります。故に、サフィール様はニエンテ様の元に来るべくして来たのです、ですので、大切にしてくださいませ」

 メイドはそう言って頭を下げた。
 ニエンテは額らしい部分を押さえながら、ふぅと息をついた。
「……まぁ、そのつもりなんだけども……」
「何か問題でも?」
「――そうだな、『最上位統治者』って事になってる俺が今までいろんな理由つけて独り身だったのが、まぁ誰の子とかはさておき『正妻』を取った、さてもし俺に近づきたい連中は何をしようとする?」
「――他の統治者のように『妾』に相当する立場に入ろうとうする女性、もしくは娘をその立場に入れようとする輩が出てくる、でしょうか」
「それもある、さて、ここで問題だ、俺は何故サフィールちゃんを『城の外に出さず、誰にも会わせたがらない』か?」
「――無垢な奥方様に、取り入ろうと、漬け込もうする輩が出かねない。もしくは、無垢な奥方様を『害』なす輩が現れる可能性がある、でしょうか」
「その通り!!」
 ニエンテは忌々しそうに息を吐いた。
「元々サフィールちゃんはイグニスの所の馬鹿な餓鬼共とその母親連中に命を狙われているから、ここに来たという経緯もある。あいつの所はまだそれが完全に片付いていない。それに、今サフィールちゃんは『最上位統治者』って事になってる俺の『正妻』だ。俺に取り入る、もしくは俺をどうにかしたい奴はヤバイ俺に直接手を出すよりサフィールちゃんに手を出して間接的に何かした方が安全だと理解するだろう、確かに、他の所に比べて俺の所は安全だが、俺に喧嘩売る馬鹿が居ないわけじゃない」
「そうですね、五十年程前にもニエンテ様の命を狙った輩がおりましたしね」
「ああ、アレは俺の事詳しくない奴に依頼して俺が外出した時に狙ったからなー、まあ依頼人は一族根絶やしにしてやったし、実行犯もこの世界からお別れしてもらったしな」
 ニエンテは立ち上がり、姿をサフィール用の姿に変えた。
「まぁ、俺は今日来た連中と来なかった連中全員に『今まで通り、俺を議会とか社交界には呼ぶな、もちろん俺の妻もだ』って耳にタコができるレベルで言ったからな、これでそれが来たら、破って捨てろ、報告だけでいい」
「畏まりました」
 メイドが頭を下げるのを見ると、ニエンテはロビーから姿を消した。




 サフィールは寝衣に身を包んで横になっていた。
 今日はあまり良い日ではなかった、ニエンテが優しく自分を抱きしめ、愛でてくれている最中に何度も何度も来訪者が来たことで中断されたのだ。
 ニエンテの反応から「招かれざる客」が城に来た事が分かった、せっかくたくさん愛でてもらえると思ったのに、それを妨害されたのでサフィールは憂鬱だった。

 ノックする音、扉の開く音、扉が閉まる音、鍵がかかる音に、サフィールの胸が高鳴った。

「サフィール」
 甘く優しい、愛おしい声が自分を呼ぶのに反応し、サフィールは向きを変えて体を起こしてみると、ニエンテが居た。
 ニエンテはサフィールの頬を撫でて、頬に口づけをしてくれた。
「今日は、招いてないお客ばかりで疲れてしまったよ、だからサフィール」

「私の疲れを癒してくれないかい? 君を愛でることで……まぐわうことで……」

 ニエンテの甘い囁きに、サフィールの体に熱が生まれ、疼き、サフィールは笑みを浮かべて、静かに頷いた。



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