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真祖に嫁入り~どうしてこうなった~
どうしてこうなった!? ~二千年待ち続けた花嫁~
しおりを挟む私は人間の国に生まれた普通の人間のルリ。
この世界には二つの国がある、人間の国と吸血鬼の国、この二つ。
人間の国は選挙で選ばれた代表達が国家を運営し、頭のよい官僚達がその手伝いをしている。
吸血鬼の国は――詳しくは知らないけど、「真祖」という吸血鬼の王が統治している。
正直吸血鬼の国についてはそんなに知らない、大人になれば就職した職業によって関係を持つとくらいしか聞かされたことがない。
そして私は二十歳、現在大学に通っている。
ちなみに恋愛とかそういう経験は未だ無しである、誰かを恋愛的な意味で好きになるのがよく分からないのだ、友達とかは恋愛とかめっちゃしてるのに、何かボッチ感があって偶に辛くなる。
話がそれた、確かに私は大学に通ってるが頭はそんなに良くない。
だから、きっと、吸血鬼の国とか吸血鬼とかはテレビやSNSで情報を見るか、吸血鬼が出てくるゲームとかでしか知らないまま、人生を終えるのだろうと思っていた。
そう、私が事故で「不死人」になるまでは――
ルリは一人信号を変わるのを待っていた。
横断歩道の信号は赤から青になった。
ルリ青になったのが見えたのでそのまま歩き始めた。
何か音が聞こえた、思わず立ち止まったその直後――
ルリの体に、100キロを軽く超えている速度で車がぶつかった。
――あ、無理――
車はルリの体を引きずり続け、ガードレールにぶつかった衝撃で止まった。
ガードレールの近くにいた人達も負傷するほどの事故が起きた。
「早く、誰か救急車を呼べ!!」
「呼びました!! 引きずられてた人は?!」
血まみれで、服の一部はぼろぼろになり、肉体も損傷した「それ」を見て悲鳴を上げる者もいれば興味本位でスマートフォンで撮る者、それを非難する者、さまざまな者がいた。
救急車がある場所が近かったのか、救急車がすぐやってきた。
救急隊員がどう見ても手遅れな「それ」に近づいた時、彼らの目に信じられない光景が飛び込む。
破損した肉体が、修復され始めたのだ、骨、筋肉、皮膚、臓物にいたるまで全て修復された。
修復は三十秒もかからない程短い時間で衣服以外修復された。
救急隊員は「それ」――女性の破損の少ない鞄からカードを探し出し、機器で読み込む。
「吸血鬼じゃありません!! 人間と登録されています!!」
「ばかな?! 待て、まさか――」
「『不死人』だと思われます!!」
「……んあ?」
ルリが目を覚ますと、病院の天井が視界に入ってきた。
ルリは起き上がり、ぼんやりと少し前までの事を思い出す。
「……あれ? 私車にひかれたよね?」
ルリは着せられた病衣の隙間から体を見る。
体のどこにも痛くないし、傷跡一つ見つからなかった。
「……夢……いや待て、夢なわけがない、その前に私はモモカ達とカフェでだべったり茶飲んだりケーキ食べてた、それはない」
「ルリ?!」
「あ、お母さん」
個室だったその部屋に、ルリの母親が血相を変えて入ってきた。
「お母さん、何で私病院いるの? 私見てよ、怪我なんてしてないよ」
ルリが問いかけると、母親の顔色は何処か悪く、表情も何か混乱しきっているようだった。
ルリが母親が何も言ってくれないのを不審に思っていると、看護師が入ってくる。
「起きましたか、先生からお話があります。体は動かせますか? 必要なら車いすを――」
「あ、はい、大丈夫です」
ルリはスリッパをはいてベッドから立ち上がると、看護師の後を追って歩き始めた。
何故か酷く不安そうな母親が自分の手を離さないのが酷く気になった。
「検査結果、貴方の体には何も問題はありませんでした――そのことが問題なのです」
「……はぁ」
医師の説明曰く、自分は車に引かれて、どう見ても即死の怪我を負ったらしい。
だが、救急隊員からの情報から、ルリの怪我は自動で修復され、怪我を負う前の状態に戻ったとのことだ。
ルリの検査をしたが、吸血鬼が持つ因子は全く見つからなかった、そして説明を終わった医師はルリに対してこう言った。
「ルリさん、貴方は『不死人』になっています」
「……は?」
ルリは頭の中の知識をひっくり返しながら必死に「不死人」のことを掘り起こす。
「えーと……二千年まえに確認されてから人間の中で稀に見つかる新しい種族で『殺せず、死なず、老いず、排泄もせず、飢えもせず、吸血鬼のような弱点も何も持たない存在』……だったような⁇」
ルリが首をかしげながら、答えると医師は頷いた。
「その通りです、ところで人間と吸血鬼の盟約をご存じですか?」
「えーっと、人間と吸血鬼が共存して生きる為の取り決めってくらいしか」
母親の手に入る力が強まったようにルリは感じた、動揺が酷くなっているように見えたのだ、いつも大抵のことはなんとかなるという精神で生きてきた母親がここまで動揺するのは父親が亡くなった時くらいだったというのに。
「――人間から次『不死人』見つかったかつ、その『不死人』が女性場合、真祖の妻にする……という盟約があるんですよ」
「は?」
「そしてルリさん、貴方が『不死人』では初めて見つかった女性です、つまり――」
「……えーと、その流れだと私は真祖の妻にならなきゃならない……うえ!?」
ルリは目を丸くした、寝耳に水と言わんばかりの内容だったからだ。
「あ、あの、それを拒否することはできないんでしょうか?」
「それは私共の方ではどうにも……」
ルリは母親の動揺の理由を此処で理解した、母親は自分より先にこのことを聞かされたのだ、そして動揺してしまったのだ。
それからというもの、家は慌ただしくなった。
この国の役人、お偉いさんがやってきたり、吸血鬼の国のお偉い方がやってきて色々とルリに行ってきたのだが、内容が多すぎてルリは把握しきれなかった。
分かることは現状ではルリに拒否権は「ない」ということと、学校を退学せざる得ない分の保障等はしっかり貰えるということと、国の方から実家の方で今後色々と融通を聞かせてもらえるようになるという事、そして聞かされて腹がたったものがある。
どうやらこの国は吸血鬼の国との盟約破り行為らしいのを二千年の間にかなりの回数――特に宗教が大きな顔をして権力を持っていた時まで相当行っており、宗教の権力がほぼない今はあまり起きていないが、それでも度々起こしているので、今回のこの真祖が直々に作った「不死人の女を妻とする」というのを破ったら何が起きるか分からないと言われたことである。
こちら側が全面的に悪い状態が続いてるので余計立場を悪くしたくないから行けということだ、ルリは自分は、生贄のようなものだと嫌でも感じた。
そしてどうやっても拒否できないという状態がそれらにより詳しい者達に言われたルリの家族の状態は酷い物になった。
母親は大泣きしてルリにすがり、兄は普通通りに見えていつもこなしている家事で料理を焦がしたり皿を割りそうになったり内心動揺しているのが分かったし、嫁に行った姉は卒倒して寝込んだと義兄に言われるし、祖母も寝込むと家の中は悲惨な状態になった。
友達も家に押しかけてきてもう会えないのかなどと聞いてきた。
それがわからずルリは答えられなかった。
「どうしてこうなった」
今までなんとかなるの精神できたルリだが、この時ばかりは嘆いた。
そしてついに、家を離れる日がやってくる。
見送りはない、全員寝込んでしまったからだ。
嫁に行く変わりに、この家は政府から大きな援助があるとのことだが、ルリは末の子、かなり可愛がられて育った、数年前に亡くなった父と祖父も大層可愛がり、嫁にはやらんとまでいっていたほどだ。
ルリは全員の寝室を回り、挨拶をすませる。
自分の荷物、ノートパソコンや本、服、ゲーム機そのほかの物は既に送った。
残ってるのは自分の身一つ。
吸血鬼の役人らしき男が魔法陣の前にいる。
「奥方様早くなさってください、真祖様がお待ちです」
「お願いだからせかさないでよ」
「「ルリー!」」
夜だというのに、友達がやってきた。
「どうしたのみんな?!」
「見送りに来たの、また会えるよね?」
「うーん、わからない」
「limeで繋がってるから大丈夫だよね!」
「うん、それは大丈夫」
「何かあったら連絡してね!」
「うん、わかった、じゃあね」
役人が咳をしてせかしてくるので、ルリはカバンを背負って魔法陣へと飛び込んだ。
周囲の景色が変わる。
都会、それもすごく発展している都会の景色に。
そしてそれと真逆の巨大な城がそびえたっていた。
「わー……」
吸血鬼の役人が案内する、また魔法陣で場所を移動する。
広く豪奢なシャンデリアがつけられたテレビなどで見た王宮の一室のような場所だった。
「真祖様、『不死人』の者をお連れしました」
役人はそう言うと姿を消した。
「ちょ、ちょっと」
ルリは慌てる、こんな広い空間に一人取り残されても困る、と。
「ほう、お前が『不死人』か」
「わ、わかんないけどそうみたいですが?」
突然聞こえる声に、ルリは変な口調になって答える。
「私は確かめるまでは信じぬ性質でな、確かめさせてもらうぞ」
「は?」
首に牙が食い込む感触がした。
「ギャ――!!」
ルリは絶叫した。
自分の首に噛みついている何かを弾き飛ばした。
「な、な、な、な、な、何する……あれ? 噛まれた痕が消えてる?」
ルリは首を抑えて戸惑った、確かに首に牙が食い込んだのだ、だがその痕跡はもうない、残しているのはわずかに服についた血の跡位だった。
黒い影は人型になる。
背の2メートルはあるだろうと思う程高く、顔色は蒼白、髪は闇色、目は真紅、顔つきは非常に整っていて、髭を生やしている壮年の男性だった。
「ふむ、血の味といい、噛まれた痕も残らぬか、間違いなくお前は私が求めた『不死人』そして――」
男――真祖はルリを抱き寄せた。
「私が求めた花嫁だ」
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