41 / 46
他の愛と形は違えど
不安ばかり ~言ってしまった~
しおりを挟む何とか落ち着いたアルジェントはルリの部屋の前に来た。
ふぅと息を吐きだし、扉をノックして少し待ってから開ける。
「ルリ様、失礼いたします」
「あ……う、うん……」
ルリはベッドに腰を掛けたまま、一度アルジェントに視線を向けて、すぐ逸らした。
「……」
ここ最近のルリの自分への態度だ。
表情も何処か重く暗い。
あの襲撃前の怯えとはまた違う表情。
「……」
アルジェントは静かにルリに近づき、ルリの前で膝をつく。
「ルリ様」
「……アルジェント?」
「……手を握らせていただいてもよろしいですか?」
アルジェントはそう言って片手を差し出す。
「……うん」
ルリは小さく頷いてアルジェントの手に片方の手をのせる。
アルジェントはその手を両手で優しく包んだ。
「――ルリ様、ルリ様は、私が不死人になった事を自分の所為だと、思っているようですね」
「……」
アルジェントの言葉に、ルリの表情が更に重く、痛々しい物になる。
アルジェントはそんなルリに優しく微笑む。
「ルリ様をお守りする事が私の務め、私の命などルリ様の体を守る為なら惜しくはないのです。だから――」
「不死人になれた事が誇りなのです。ルリ様をお守りした結果、そうなった。吸血鬼になれない私はいずれルリ様の世話役から護衛から外される。ルリ様の為を考えればそうでしょう、だからその不安が無くなったことが嬉しいのです」
「……でも」
ルリが何か言いたげに口を開いた。
「ええ、分かっております。グリースの所為でこの国では不死人は恐れられる存在、もしくは危険な存在と扱われること位、知っております。それ故ルリ様は――罪悪感を感じているのでしょう」
アルジェントの言葉にルリは小さく頷いた。
「私は私がどれほど侮辱されたとしても構いません、忌避されたとしても、私の主――真祖様が理解してくだされば、同じくルリ様にお仕えするヴィオレが理解してくれれば。そして――」
アルジェントはぎゅっとルリの手を握る。
「ルリ様、貴方の喪失の恐怖の種が一つでも減った事が嬉しいのです。不死人になった今、私はもう死ぬことも老いることもない。ルリ様の御傍で、同じ不死人として、お仕えできることが嬉しいのです」
「……」
アルジェントの心からの言葉、けれどもルリの表情はまだ明るくなってはくれない。
「ルリ様……」
アルジェントはどうすればいいのか分からなかった。
――ルリ様、私は貴方様を――
――愛しております、貴方に恋をしているのです、貴方様に選ばれたいのです――
――貴方様を置いて逝くことが無くなった事が、嬉しいのです――
アルジェントは一番言いたい言葉をぐっと飲みこむ。
アルジェントのルリへの愛は、正直な話、主への忠誠心を上回っている。
だが、アルジェントは主への恩を忘れず、立場をわきまえている。
だから言うことができない。
言ってしまえば、攫ってしまえば、そんな考えが浮かばない訳ではない。
だが、アルジェントにはできなかった。
言う事もできず、ただ隠すのみ。
愛していると一言言えればどれだけ楽なのだろうかと思った。
けれども、言えるわけがない。
最愛の存在は――ルリは自分の主の妻なのだから。
だから、主を愛してもらわなければならない。
立場はそう訴えるが、心はそうではなかったのがアルジェントには苦しかった。
――ルリ様、愛しております、愛しております――
――ですから、そのようなお顔をなさらないでください、どうか、どうか笑ってください――
微笑みを浮かべてくれないルリを、アルジェントはどうすればいいか分からなかった。
立場として、ルリはアルジェントの主の妻、アルジェントは世話役兼護衛。
悪夢を見たと告げた日から今に至るまで微笑みを浮かべてくれない、明るい表情を浮かべられないルリがアルジェントには痛々しく見えた。
「……アルジェント」
「ルリ様なんでしょうか?」
「……お願いがあるの」
「私にできる事なら、なんなりと」
アルジェントがルリは見つめて言うと、明らかに異常を感じた。
酷く怯えていると同時に、自罰的な顔をしている。
「――私の所為だと言って、私の所為で色んなヒト達が苦しんでるんだと言って」
「――私が居なければと、言って」
ルリの言葉に、アルジェントは耳を疑った。
――ルリ様――
――何故、そのような言葉を望むのです?――
「……何故、そのような言葉を?」
アルジェントは言う事ができないという言葉の前に、何故そのような言葉をルリが求めるのか訊ねた。
「――私が不死人になってから色んなことが起きて滅茶苦茶になった。この間のが特にそう。ヴィオレも、グリースも……真祖も、誰も私を咎めない『ルリは何も悪くない』それだけ……」
ルリはうつむきながら、喋り始めた。
「でも、私が居るから、私が此処に居るからあんな事が起きたし、アルジェントは不死人になった、知ってる……私の事を快く思ってない人間や吸血鬼達の方がたくさんいるって知ってる……だからこんなことが起きたのも分かる……だから私が居なければ――」
アルジェントはそれ以上ルリが自分の存在を否定する言葉をルリの口から言うのを聞きたくなかった。
気が付いたら抱きしめ、口づけをしていた。
「……ある、じぇんと?」
口を開放され、突然のアルジェントの行動に、ルリは困惑の声で、名前を呼ぶ。
「……ルリ様、そのような事を二度とおっしゃらないでください。他の者達などどうでも良いのです、貴方様を非難する者、貴方様を愚弄する者、貴方様を利用しようとする者――ルリ様に悪意を向ける者達のことなど考えないで下さい」
静かで、それで有無を言わせないアルジェントの言葉に、ルリは何かを言うことなど出来なかった。
「ルリ様、私は貴方様を誰よりも愛し、お慕いしております。ルリ様、どうか他のことなど気にしないでください。私は愛するルリ様に幸せになって欲しいのです」
「……」
「愛しております、ルリ様。ですから――」
そこまで言ってアルジェントの顔色が変わった。
――あ――
そこでルリは重要な事を思い出した。
アルジェントは自分の事を、ヴァイスやグリースの様に「愛している」事を。
それを隠している事を。
――……自分で、言っちゃった?――
アルジェントの顔色が赤やら青やら何とも言えない、照れとやらかしたという感じの色になる。
「し、失礼いたします。申し訳ございません、ルリ様、先ほどの愚行と、言葉。お忘れください!!」
アルジェントはそう言って慌てて部屋から出て行った。
「……どうしよう?」
ルリは先ほどまでとは別の意味で頭を悩ませた。
「あーれま、遂に言っちまったか。いや、漸くか」
声の方を見れば、グリースがいつものように窓に寄りかかっていた。
「グリース……」
「まぁ、まず最初にルリちゃんはそんなに自分の事責めないように。むしろルリちゃんで良かったと俺は思ってる、他のだったら多分こうはならなかった、もっと悪い方向に進んでた」
「……」
グリースはルリの隣に座り、ルリの頭を撫でた。
「さて、それよりも別の問題が起きた、なんだと思う?」
グリースの問いかけに、ルリは分からず首を振る。
「アルジェントが自分の気持ちをルリちゃんに伝えてしまった、あいつ、拗らせてるから何するか分からないよ?」
「!!」
グリースの言葉に、ルリは理解した。
アルジェントの拗らせ具合はルリもある程度は理解している。
そしてその拗らせ具合も目にしてきた、一度拗れると大変な事になる。
だがヴァイスへの忠誠心は本物だ、偽りない。
けれどルリの事を愛しているという事も本物で、偽りない。
「ど、どうしよう??」
ルリはアルジェントが何をするか分からない不安に今度は押しつぶされそうになった。
「そうだねぇ、言っちまったもんだから一部除いてネタ晴らししてくるわ」
「え?!」
グリースの言葉に、ルリは驚愕の声を上げる。
「いっそ、主からの公認もらった方が良いだろ。あ、ヴィオレには内緒だよ?」
グリースはそう言ってルリの部屋から消えた。
「え、ええ……」
ルリはこれからどうなるのか、今までとは違う意味で不安になった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる