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幸せにおなりなさい~その言葉を受け止められず~

幸せに──~ようやく腑に落ちた~

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「……ところで王妃様」
「何だアトリア」
「最初会った時と口調違いません?」
「アレは対外的だ、こちらが本性だ」
 王妃様はにやりと笑った。
「は、はぁ」
「前王妃そして私の唯一無二と言ってもいい友の名に恥じぬ王妃としての振るまいを普段しているだけだ、王妃よりも私的な今は本性を出している」
「バレて大変な事になりません?」
「国中じゃ前王妃の名を汚すまいとやっているのを知ってるからな、本性もわりと知られている。本性の私は男勝りなのでな」
「は、はぁ……」
 王妃様にすっかりだじだじな私。
「今のが苦手なら、最初あった時ような言い方をしようか?」
「いえ、今の方が気が楽です……」
「それならいい」
 王妃様は満足そうに笑った。


「さてアトリアよ、お前は自分があの六人にふさわしくないと思い始めているな」

 ぎく!

 王妃様に図星を指され、私は視線を泳がせる。
「其方嘘が本当に下手だな、隠し事も」
「は、はい……」
「ふさわしくない、などという言葉は本人達が納得しているなら気にしなくていいことだ」
「はぁ……」
「お前は婚前交渉までしているし、アルフォンスだけでなく他の五人も大切に思ってるのだろう」
「婚前交渉は不可抗力といいますか……確かに私は皆さんを大切に思っております」
「ならそれでいいではないか」
「でも……」
「それで文句を言ってくる輩がいるなら私達にいうか、バロウズ公爵殿に連絡しろ、物理的にも精神的にも息の根をとめてくれるぞ」
「ひぇぇ……」
「上の子がいるから相談するのも手だぞ」
「さ、最終手段にしておきます……」
 学園内ではあってはいないが、最終手段にしておこうと私は思った。
「ともかく、アトリア。幸せになりなさい」
 王妃様はそうわらって私の頭を撫でて屋敷を出て行かれた。

「幸せに、おなりなさい……」

 母の言葉。
 でも、自分なんかがそれを受け入れていいものか、どうか。
 どうしても悩んでしまう。


「アトリア」
 講義が終わり、一人図書館にいると、一度聞いた覚えのある女性の声が私の鼓膜に入ってきた。
 顔を上げると、あのバロウズ公爵夫妻の奥さんの顔によく似た女性だった。
「アリスさん?」
「アリスで結構ですわ、アトリア」
 アリスさん──アリスはにこりと笑って私の隣に座った。
「もしくはアリス姉様でもよくってよ」
「あ、アリス姉様」
「もう、アトリアは本当に素直で可愛いわ」
 そう言って私を抱きしめた。
「あ、アリス姉様も学園にいらっしゃったのですね」
「そうよ、何かあったら私に言いなさい、例え殿下でもバロウズ公爵家は容赦はしないわ」
「ひょぇぇ……」
「と、冗談はさておいて」
 アリス姉様は真顔になった。
「アトリア、貴方幸せになっていいのか悩んで居るようね」
「はい……」
「貴方は大変な事が色々とあったものね」
「ええ……」

 生まれて半年で父が死に
 母は心と体を病み
 その分自分が支えてきた。

 復讐相手が目の前に来たとき、母を止めた。
 悔しいと泣く母を慰めることしかできなかった。
 だから奴に罪を突きつけ続けた。

 そんな私が。
 彼らのような素晴らしい六人と婚約した。
 そしてそれに安堵したかのように母は死んだ。

 独りぼっちになった。
 けれど彼らが側に居てくれた。
 彼らのおかげで魔王にならずにすんだ。

 それからも色々あった。
 そして結婚した。
 でも──

 頼ってばかりの私が、彼らに愛を返せない私が一緒にいていいんだろうか?
 本当に幸せになっていいのだろうか?

「アトリア」
「はい、アリス姉様」
「貴方は、幸せになっていいのよ。このアリス・バロウズが保証するわ」
「はぁ……」
「だって貴方は」

「幸せになって欲しいと、貴方を愛している人たちに思われているから」

 アリス姉様は微笑んだ。


 すとんと、何か落ちるような気がした。
 気が楽になった、とかピースがはまったとかそんな感じ。


──ああ、私、愛されて、幸せになっていいんだ──


 漸くそう思えた。
「と、本来はこの台詞をいうのは殿下達であるべきだけども、殿下達はこういうところでなんかやらかすから私が言うことにしたわ」
「はははは……」
 乾いた笑みを浮かべてしまう。
 確かに殿下達だと、そうなるだろう。
 すとんと落ちたが、まだしこりはある。
「貴方がアルフォンス殿下達へ愛を返せないのは仕方ないこと、でも大切だと思えるなら、それは愛よりも尊い」
「アリス姉様……」
「──という訳で」
「?」
「そこでこそこそ見ている方々出てらっしゃい」
 見かけたことのあるようなないような方々が姿を現す。
「貴方方が殿下達の間に割って入ることなど不可能、殿下達は我が弟アトリアを深く愛しているのだから」
 悔しそうな顔をしている。
「ああ、そうそう、アトリアに何かしてみなさい」

「アルフォンス殿下が貴方達を潰す前に私達バロウズ公爵家が一丸となって再起不能になるまで潰しますから」

 その方々はひっと悲鳴を上げて逃げていった。
「そしてそこで出損ねているアルフォンス殿下と他の方々?」
「ははは……出るタイミングを完全に逃してしまったよ」
「全くです」
 アルフォンス殿下の言葉にアリス姉様は怒ったような声をだした。
「私達のアトリアを貴方方にお任せするのですから、ちゃんとしてくれなくては困ります」
「ああ、すみません。アリス嬢」
 アリス姉様はふんと鼻を鳴らすと、
「私達のアトリアをお任せするのだから、しっかりして下さい」
 同じ事を言った。

 大事なことなので二度言います的な?

「はい、分かって下ります、バロウズ公爵殿のアリス嬢」
「勿論です、アリス嬢」
「わかっています、アリス嬢」
「分かって下りますわ、アリス様」
「勿論ですわ、アリス様」
「承知してますわ、アリス様」
「返事が良いのはよろしいですわ、でも行動に出さなかったら私怒りますからね」
「「「「「「はい!」」」」」」
 元気よく返事をする六人。
 バロウズ公爵家、怒らせると国王陛下でも困るレベルで怖いんだろうなぁ。
 と、今更ながら思う私であった。
「アトリア」
「はい、アリス姉様」
 アリス姉様はこちらを見て微笑んだ。
「幸せにおなりなさい」
 そう言ってその場を後にした。




──はい、幸せになります──

 心の中でそう思いながら見送った──





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