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子作りと子育てと巣立ちそして……~私、幸せです~

王宮での事~やっぱり歓迎されてないか~

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 あれから二年が経ち、卒業の季節が訪れた。
 色々あった。

 私を陥れようとする輩を、先にアリス姉様が見抜き退学させた上で平民にしてしまったり。
 私に邪な感情をもって近づこうとした輩を、皆がボコボコにしたり。

 ……本当色々あった。
 でも一、二年時の魔の者とのやりとりに比べたら可愛いものだと思う。
 あれは本当に生きるか死ぬかの二択だったから。

 魔王になるか、ならないかの二択だったから。

 今も復讐心はある。
 でも相手はもう再起不能、療養院での生活を強いられている。
 だから、もういいんだと思った。


 卒業生代表はアルフォンス殿下。
 素晴らしい答辞だった。


「これで学園生活は終わりですわね……」
「私達はこれからどこで暮らす事になるのです?」
 アルフォンス殿下に問いかける。
「皆さん王宮にて暮らすことになっています。部屋も割り当てられていますただ……」
「ただ?」
「アトリアの第一子は私の子と」
 え、マジかよ。
「それは仕方ありませんわね」
「ええ、そうですわね」
「それは仕方ない」
 みんな諦めて受け入れてる。
「アトリアの執事はセバスがやることになった、それが一番安心するだろうと」
「ほ……」
 それだけは安心できた。
 他の人だとちょっと怖いからだ。

 知らない侍女さんに服を着替えさせられた、なんかいい匂いで血が吸いたい気分だが我慢した。

 そして王宮に荷物を運び、私にあてがわれた部屋にびっくりする。

 びっくりするほど美しい部屋だったからだ。
「こ、こんな部屋もったいないです」
「いいえ、次期国王陛下の伴侶の部屋なのですから」
 そういやアルフォンス殿下、次期国王だったな。
「「「「「「アトリア!」」」」」」
 アルフォンス殿下達がやってきた。
「まぁ、素敵なお部屋。さすがアトリアの部屋ですわ」
「ですよね、もったいない位です」
「そんなことはない、なぁ」
「ええ」
 皆が私に近づいてきた。
 そして私を抱きしめる。
「み、皆さん」
「ああ、アトリアの体は本当にいい匂い」
「そ、そうでしょうか?」
 そういえば侍女さんが香水つけていったっけ?
「本当、いい匂いだ……」
 アルフォンス殿下、グレン、ミスティ、フレアが特に匂いを念入りに嗅いでいる。
「──ちょっと皆様、お離れ下さい!」
 セバスさんが引き離し、私の匂いを嗅ぐ。
「この服を着せた侍女は?」
「茶色の髪に緑の目、色白のアンという侍女でした」
「──皆様、今アトリア様には血吸いと呼ばれる危険な香水がつけられています」
「「「「「「‼」」」」」」
 確か禁止薬物だよな。
 血を吸いたくなって、血が無くなるまで吸ってしまう匂いの液体。
 ダンピールと吸血鬼には効果的、人間にはただの香水。

──やっぱり歓迎はされてないんだな──

「アトリア様、私が戻ってくるまで誰も入れてはいけませんよ」
「はい」
 セバスさんはアルフォンス殿下達を追い出して、外へ行った。

 一時間くらいして、漸くセバスさんが戻って来た。

「湯浴みへ参りましょう、そうで無くては匂いは落ちません」
「はい」
 そう言って湯浴みの場所へ連れて行かれ、体を洗われた。
 服も回収され、焼却処分となった、高そうな服なのに。

 新しい服に袖を通し、セバスさんに別室に連れて行かれる。

 どうやら匂いを洗浄する為らしい。
 で、私にその香水をつけた侍女は「王族と、五人もの貴族の相手をするなんておかしい輩に違いない。国を傾かせるに違いない」と言ったそうだ。
 貴族の出の侍女だが、次期国王の伴侶に死に至る可能性のある危害を加えたとしてまぁ、その、処分されたらしい。

 傾国の美女でもなんでもねーんだけどなー私は。

「アトリア様」
「セバスさん」
「今後もこのような事が無いよう気を引き締めて参ります。異変があったらすぐお知らせ下さい」
「はい」
「ともかく、お疲れでしょう。お休みになって下さい」
「……そうですね」

 とにかくバタバタして疲れた。
 私はセバスさんの言う通りベッドに横になることにした。

 夜目覚めると、セバスさんが扉を開け、皆がいた。
「アトリア、大丈夫?」
「私は我慢ができたので……ミスティさん達は?」
「私達もすぐにおい消しの香水を使ってなんとかなったわ」
「そうですか、それならよかった」
「全く王宮にもアトリアをよく思わない連中が残っているのが気に入らねぇな」
「何、あぶり出して処刑していけばいい」
「そうですね」
 アルフォンス殿下の言葉に他の皆も同意する。
 ちょっと怖い

「では、食事に行きましょう。父上と母上達が皆さんと食事が取りたいと」
「うへぇ」
 国王様と王妃様と食事取るの、マジで?
 うーん、仕方ないか。




 という事で王族達の食事の場へと皆案内されて、椅子に座らせられた。
 私はアルフォンス殿下の隣に座ることになった。
「ようこそアトリア。私達王族は貴方を歓迎するわ」
「は、はい。有り難うございます、王妃様」
「結婚したのだから義母扱いでもよいのよ?」
「い、いいえぇ……恐れ多い……」
 王族モード全開の王妃様は、やはりなれない。
「話も良いが食事にしよう」
「はい」




 食事は穏やかに進んだ。
 毒とかも入っていなかったしね。




 そして二度目の湯浴みをしようとしたとき、セバスさんに止められた。
「少々お待ちを」
 そう言って、お湯質を調べた結果、吸血鬼とダンピールに毒になる成分が入っていたことが分かった。
 風呂場の清掃員などを全て呼び出し尋問し、そして持ち物を調査すると複数人の持ち物から出て来たそうだ。

 皆、あの侍女のように私が国を傾けると危惧してやったらしい。

 全員処分された。
 お風呂に入れないのは仕方ないなと思いつつ寝て朝起きると、また何かあった。

 寝ている私を殺そうとした侍女がいたそうだ。

 これも証言は同じ。
 王族と六人と私、セバスさんが集められる。
「さて、どうしたものか?」
「アードルノ陛下」
「どうした、セバス」
「恐れ多くながら、アトリア様の伴侶としての地位を確固たる者にする必要があるかと」
「つまり?」
「御子を授かれば、少しはよくなりましょう」

 その発言に私は飲んでいた血を吹き出しかけた──





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