クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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異形少女と花嫁と番い

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 異形──
 別名邪神とも呼ばれるその者達は、ほとんどが人を害なす者である。
 だが、稀に人との間の子を残す。
 それは異形の子と呼ばれ、中でも女子が特別な力を持っている。
 それ故その子等は異形少女と呼ばれる──

 異形の子等は番いつがいを持ち、その番いと死ぬまで暮らすのだが──
 別枠の存在がいる。
 それは「異形の花嫁」たる人間である。

 異形の花嫁として生まれた人間は異形から狙われる。
 異形の子等は花嫁を求める。
 故に両者は対立する、そして異形の子等によって捕食ないしは撃退される。

 それは何故か、異形の子に創造の邪神を食らい、創造の邪神となった者がいるからだ──




「……しつこいな」
 暗闇の路地裏を中性的な美貌を持つ人物が走る。
 黒いコートをなびかせて、その人物は走る。
 後ろからはおぞましい黒い肉塊が触手を伸ばしながら迫ってきていた。

 コートを着た人物は一端振り向き、銃を構える。

 バン! バン! バン!

 おぞましい叫び声を上げて触手が三本はじけ飛ぶが、肉塊からさらに触手が現れその人物に迫る。

「埒があかないな、仕方ない」

 中性的な声はため息をつくと頭上を見上げた。

「フエー! 助けてくれー!」

 その人物は声を上げた、助けを呼ぶ声を。
 すると──

「しょうがないなぁ」

 その声と共に、15歳ほどの黒髪に深淵のような黒い目の少女が現れた。
 手をかざし、触手を防ぐと、触手は硬化を始め肉塊は触手を切り離そうとしたが間に合わなかった。
「そのまま固まって砕けろ」
 肉塊は塊、砕けてその場から消え失せた。

「もう、れいちゃんってば呼ぶの遅いし!」

 少女はぷんすこと怒りながら言う。

「そう言うなフエ。私とてここまでしつこいとは思わなかったのだ」
「異形なんだからしつこいの分かってるでしょ!」
「……そうだな、お前がそのしつこい代表例だしな」
「むー! そんなこと言うなら今日は手加減してあげないんだからー!」
「しまったやぶ蛇だったか」
 少女フエは、中性的な人物を引きずってどこかへと連れて行った。




「──死ぬかと思った……」
 とある探偵事務所の二階の私室兼寝室で、零はベッドでぐったりとしていた。
「あーすっきりした!」
 一方フエは艶々としており、すっきりした表情になっていた。
「シャワー浴びてきた方がいいよ」
「そうする……」
 零がそう言って立ち上がると、その裸体は上半身は薄い胸板華奢な男性のようだったが、下半身は紛れもなく女性のものだった。
「今回の『花嫁さん』の体も綺麗だねぇ」
 フエがじっと零の裸体を見つめながら言う。
「この体の所為で相当苦労したがな」
「でも、私には、私たちには美しく見えるよ、異形の花嫁」
「その所為で両親は死んだがな……」
「両親はその知識があったから零さんだけを僕らの息がかかった孤児院に置いて去ったんだ。孤児院の領域には異形は入れないからね」
「その後、何故去ったのかが分からない。その場所に居れば安全ですんだのに……」
「さてね、それより体冷えちゃうよ?」
「ああ」
 フエに言われて零はシャワールームへと入る。
 水の音を聞きながらフエは言う。
「私は知っている、何故置いて去ったのかを」

「でも、言わない。花嫁を傷つける内容だから」

「花嫁は番いと同じくらい大切な存在。だから言わない」


 フエの深淵のような目が、シャワールームを見つめている。
「私の番いは独占欲が強い可愛い子、花嫁とこういうことしてるって知られたら怒られるどころじゃないからなぁ」
 フエは疲れたように言った。
「でも、そういうところが可愛いんだよね」


 零がシャワールームから出てくると、フエはもう居なかった。
 テーブルの上に紙が置かれていた。

『今日やった事は柊には内緒ね! お願い!』

「……あまり酷いと暴露してやる」
 零はそうぼそりと呟いた。




「ん⁈」
 フエは、黒髪に黒い目のぞっとするような色気を持つ美丈夫とベッドの中でいちゃついていたが、何かを感じ取って鳥肌を立たせた。
「フエ、どうしたんだ?」
「いや、ちょーっと嫌な予感がしてね?」
「そう……でも、フエなら大丈夫だろう?」
 美丈夫はフエに半裸のまま抱きつき、キスをねだる。
 フエはその言葉に不穏な気配を無かったことにして、満面の笑みでキスをする。
「私の番い可愛いなぁ」
 フエは満足そうに言った。





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