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愚かな男は無垢な異形に恋をした~優しさを与えられた結果~

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 隼斗の耳元に聞き慣れた澄んだ唸り声が聞こえてくる。
 よく知った手の感触が頬に伝わる。
 重たい瞼を上げると、そこには見知った異形の少女――マヨイがいた。
 隼斗はわずかに口元を動かしたが上手く声が出せなかった。
 体も痛みはないが全身が重く、指を動かすのさえ億劫な程だった。
「う゛ー……」
 マヨイの白く柔らかい手が、隼斗の頬を撫でる。
 闇色の目が隼斗を不安そうに見つめる。
 手を伸ばして頭を撫でようとしても、腕が重くて動かなかった。

 先日、フエに散々犯された結果、隼斗はマヨイがどれほど優しく自分に触れていたのかを痛感させられた。
 時折覚醒させられては、容赦なく性感帯を嬲られ苦痛の中で絶頂させられる。
 行われたものもう散々なものばかりだった。

 フエの行為は手加減はしているものの、隼斗の体の都合をほとんど無視したものだった。
 マヨイがどれほど、自分との行為中に手加減し、自分を労っているのかよく解った。
 自分を労っているから、苦痛を与える行為は一切控え、また苦痛になりかねない箇所はできるだけそれを和らげるようにする。
 どれだけ自分がマヨイに甘やかされていたか、甘えていたかを痛感させられた。

 優しく自分の頬を撫でるマヨイに、隼斗は視線を向ける。
「うー?」
 マヨイは首をかしげて隼斗を見る。
「……」
 何かしゃべろうとしたが、声がでないのを思い出しすぐさま口を閉じた。
 マヨイは何かを感じ取ったのか、考えるような仕草をした。
 そして、にこりと笑ったかと思うと、隼斗に顔を近づけた。
 口を開いて、隼斗の口を食むように口づける。
 隼斗の口内に甘くとろりとした液体が流れ込み喉に落ちる。
 液体が喉にまとわりつき、じわじわとしみこんでいくような感じがした。
 喉の全てが覆われるような感触が伝わると同時に、漸く隼斗の口は解放された。
 口端から琥珀色の液体が零れた。
「う゛ー……」
 マヨイは唸りながら舌をひっこめた。
「のど、だいじょうぶ? よくなった?」
 隼斗はマヨイの言葉の意味を理解し、口を開く。
 喉から普段よりも小さいながらも声が零れた。
「……すまない」
「きにしなくていいのー」
 にこにこと笑いながらマヨイは隼斗の額を撫でた。


 よしよしと自分の頭を撫でるマヨイを見て、なんとも言えない気持ちになった。

 此処に来てから、全てマヨイに依存し続けているのだ。
 居なくなると、自分を保てなくなるほどに依存している。
 だから、男に体を売るような事をして必死に保たせていた。
 そうでもしないと、あのときの光景と自分だけが生き残ったという事実に耐えきれなくなるのだ。
 生きていることが苦痛でたまらないのだ。
 けれども、あの日マヨイが言った我が儘が、「生きて欲しい」という言葉が、自分に生きることを強要する。
 ただ一つの我が儘、酷く重く、辛く、苦しいのだ。

 けれども、その我が儘が、酷く甘く、優しく、愛おしく感じるも事実だった。

 まだ動かすのも億劫な手を伸ばし、隼斗はマヨイの頬を撫でた。
 マヨイは一瞬きょとんと目を丸くしたが、直ぐに嬉しそうな表情になり、目を細めて手に頬ずりした。

 打算や、思惑など、そんなものはない願い。
 互いの利益ばかりが絡まる世界とは異なる縁の中で生きていたであろう彼女の純粋な願い、我が儘。
 自分をこれからも、縛り生かし続けるのだろうという予感はしている。
 それに、既にこの体もかつてのものとは異なる状態なのもなんとなく想像はできた。
 過去の自分なら悲観しただろうが、今の隼斗にはそのような感情はなく、寧ろどこか喜んでいる節すらある。

 隼斗はもう片方の腕も伸ばし、マヨイの肩を掴む。
「……? 隼斗さん、なぁに?」
「……なぁ、マヨイ。いっしょに、眠ってくれないか……? 一人で眠るのは、いや、なんだ……」
 隼斗が小さな声でそういうと、マヨイは少し驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔をして隼斗の腕の中に収まるような格好になり、抱きついた。
 マヨイはえへへと嬉しそうな声をあげた。
「いっしょにおひるねー」
「……ああ、一緒に眠ろう」
 隼斗は腕の中にマヨイをおさめると笑みを浮かべた。

 酷く欲に濡れ、淫靡で壮絶な笑みだった。


 こんなにも無垢な存在が今俺の腕の中にある
 どうか、どうか無垢なままでいてくれ
 俺はどこまでも汚れて、惨めでいられる
 君が無垢なまま笑ってくれているのなら
 俺は何処までも汚れていこう

 だから、どうか俺だけを――

 ア イ シ テ ク レ





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