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とある異形少女と番い~蜘蛛の娘~
しおりを挟む私に親がたくさんいる
血縁的に父親にあたる魔術師
こいつは私が殺した
血縁的に母であり、私の生みの親であり母体でもあったお母さん
私のせいで精神が壊れた、肉体も普通の人間と少し違う状態になった
異形的に私の親に当たるおぞましい蜘蛛の化け物
此奴は私が食い殺した
そしてこんな私を育ててくれた異形の落とし子である姉、兄達
けれども、私は彼らと違う
あの日、母が蜘蛛の化け物に襲われなければ、きっと私は人だった
襲われたから私は化け物の因子を手に入れた
そして、普通ならば私は化け物になるはずだった
でもならなかった、完全な化け物にはなれなかった
だから、彼らと違う
彼らみたく、親を殺すことで楽になれるわけでもないし
愛しあったからでもない
どちらでもない私は
彼らと違う私は
いつになれば、孤独感を感じずにすむんだろう?
「――えーとつまり調査に紛れ込んで連中潰してこいってこと?」
書類に目を通しながら、焦げ茶と黒のグラデーションの髪色をした少女ぼやいた。
「そうだ。マヨイとエルは向かないし、フエは他に出払っている、コウは性質的に相性がよくないし、ロナクは余計なことをする、私は他にやることがある」
紅がそういうと、少女はがっくりと肩を落とした。
「――全く、私は万屋じゃないっての」
「そう言ってくれるな蓮。私達はお前を頼りにしてるんだから」
紅がそう言うと、少女――蓮は諦めたように息を吐いた。
「はいはい、やりますよおねーさま」
蓮はそういうと、部屋を出て行った。
巨大な建物から出ると、蓮を手に持ったまま口笛を吹いた。
その口笛に引き寄せられるように、おぞましい蜘蛛たち、無数の烏、色とりどりの蛇達が集まる。
「さぁ、お仕事の時間だ。私の目となり、耳となって働きなさい」
書類が青い炎で包まれると、その青い火の粉のような、光の粉ような物体を集まった生き物たちに蓮は振りかけた。
それを浴びた生き物たちは、全員かしづくような動作をとってからそのまま周囲に散らばっていった。
「――さて、お仕事といきますか」
一週間後、蓮はとある山の調査を行うチームに潜り込んでいた。
正確には山に洞窟が無数にあり、その調査を行う研究チームに潜り込んでいた。
ここ最近、この近辺の町では人が行方不明になることが多く、それを怪しんだ異形の子らが独自に調査をした結果行方不明者はみな、此処に連れ込まれたことがわかったのだ。
ただ、一般人の立ち入りは基本許されていないため、怪しまれないように研究チームに医療者として潜り込んだのだ。
蓮は医療品を確認しおわると、バックに入れておいた瓶から飴玉を取り出し口に含んだ。
「……」
研究チームを見渡しながら、内心どれだけ「生きて帰ってこさせられるか」計算をする。
確実に容疑者じゃない人間は既に特定済みのため、その人物達は何がなんでも被害最小限で戻そうと考える。
次に、容疑者だが、そうじゃない人間もできれば戻したい。
その次に、容疑者だがよく理解してない頭悪い連中も可能なら戻す。
容疑者で何をしてるか解ってる奴は、正直殺すのはあまり好きじゃないので殺害は最終手段としておこうと考えておいた。
「――安登奈助手。そろそろ出発の時間だそうだ」
「あ、はい。解りました」
研究チーム参加者の一人が蓮に声をかけた。
蓮は医療品の入ったバッグを持とうとすると、青年はそのバッグをいくつか代わりに手に取った。
「――他に荷物はあるか?」
「あ、いえ。有り難うございます」
「では先に行ってる」
彼はそういうとその場から離れた。
蓮も残ったわずかな荷物を抱えて彼を追いかけた。
蓮は荷物を抱えた参加者の一人の青年をじっと見つめた。
目つきがやや鋭く、髪の毛は男の中でも長い方、肌は黄色系の中でも白い方。目は黄色っぽい茶色。
身長は一般的、体格は服装のみならわりと引き締まっていると感じる、手はわりとほっそりとしていて爪も綺麗に整っている。
顔立ちは細め、整っている、好みかと聞かれたら解らない。
ぶっちゃけると兄弟や探偵さんの方が顔や容姿は綺麗だ。
魔除けなどで使われる系統の香りがするが、私にとっては嫌な臭いではない。
苗字は確か――そうだ「鷹野」だったよね?
えーっと……それで名前は……
「安登奈助手。荷物が重いのか?」
「え?! い、いえいえ!! 鷹野さん大丈夫です!! 私こうみえて力持ちなので!!」
変な考え事をしているのを悟られないように、蓮は腕を振りながら前を歩く鷹野に笑いかける。
「――あまり考え事ばかりしていると置いて行かれるぞ」
「は、はい!!」
蓮は少し歩く速度を上げて、鷹野の横についた。
「教授達は先にいっているそうだ」
「あちゃー……」
蓮は出遅れたことを少し悔やみながらも、鷹野からの視線を感じて顔をあげた。
「鷹野さん、どうしたんですか?」
「……安登奈助手は、目の色が珍しいな」
「あはは、よく言われます。 紫の目って珍しいって……」
蓮は困ったように笑いながら返す。
「そうだな。そんな綺麗な紫色の目は初めて見た」
「……え?」
鷹野の言葉に、目を丸くした。
「だから、綺麗な色だと思ったんだ。そこまで綺麗な紫を、俺は初めて見た」
鷹野の言葉に、蓮の顔が一気に赤くなる。
待て待て!
何私動揺してるのよ!!
落ち着け、落ち着け私!!
だてに半世紀近く生きてるわけじゃないんだからさ!!
……いや、半世紀ぼっちで生きてるからか?
うわぁ、ぼっちつらい
「……本当に大丈夫か? 疲れたなら少し休むか?」
「いえいえー! 大丈夫です私は元気です問題ありませぬ!!」
不思議そうな顔をする鷹野に対して、蓮は顔を真っ赤にし声をうわずらせたまま答えた。
「……ならいいんだが」
「あ、あははー……」
蓮は顔を赤くしたまま、苦笑する。
そして、少し冷静になって自分の目元に触れる。
確かに、紫の目は珍しいがいないわけではない
でも、この『紫』の目は人間である証拠じゃない
私が『化け物』である証
人間はみんな珍しいとは言うけど、ほとんど気味悪がってばかりの目
『家族』からしたら普通の目、紫色というだけの目
宝石のような目でもたいしたことのない目、それを――
――初めて、綺麗と言ってくれた
「――安登奈助手。本当に大丈夫なのか?」
「は、はい?! だ、大丈夫ですよ!!」
安登奈は笑いながら答えると、鷹野は呆れた様なため息をついた。
似たようなやりとりを続けながら歩いていると、先に移動していた研究チームに合流し、洞窟に入る前の準備をすることとなった。
蓮は一休みをかねて鞄の瓶にいれてある飴を取り出して、口に放り込む。
綺麗な空色の飴だった。
あー、やっぱりこの飴上手いわー
マヨイの所で育った果樹とか水とか使ってるからなー
この飴食べたら他の飴じゃ物足りないわーうまうま
「安登奈助手」
「んぐ?!」
突然鷹野に呼ばれ、蓮は口をもぐもぐと動かしながら、手で少し待つように鷹野に伝えた。
飴を砕き、飲み込む。
「……悪い」
「い、いえいえ。お気になさらず……ところでどうしたんですか??」
「ああ、先に軽く内部調査したら立ち入り禁止区域に足跡がのこってたそうだ。それを教授が役所に連絡したところ、警察が来ることになったそうだ」
「もしかして警察の方と一緒に調査することに?」
「そうだ。だから出発はもう少し遅くなりそうだ」
「解りました」
穏やかに答えつつ、内心舌打ちをしていた。
不味い
もしこれで連中が大人しくなったら今回の件がおじゃんになる
逆にこれで連中が過激な行動起こしてもそれはそれで不味い
どうしたものか
穏便に今回の件を解決できなくなる確立が上昇したことに、内心苛立ちながら再度飴を口に放り込む。
ガリガリと飴を噛み砕いた。
「……」
「安登奈助手、本当に大丈夫か?」
「え?! だ、大丈夫ですよ??」
蓮は鷹野の言葉に驚きながらも、少しだけ嬉しそうに返した。
「そうか」
やや不満げに鷹野はそう言ってから、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出した。
「安登奈助手も飲むか? 水分補給は大事だろう?」
「……あ、じゃあお水で」
「水のでいいのか?」
「ええ、タブレットもあるので」
「解った」
鷹野はクーラーボックスから水の入ったペットボトルを取り出し、周りをタオルで拭いてから蓮に渡した。
「有り難うございます」
蓮は蓋を開けて、水を口にした。
「……」
さて、どうしたものか
「あ、鷹野さんも少し休んだほうがいいですよ? そこに折りたたみ式の椅子がありますし……」
「ああ、悪いな」
鷹野はそういうと折りたたみ式の椅子を広げて、腰をかけた。
蓮個人として少しばかり気まずい沈黙が、警察が到着するまで続いた。
警察が到着後、検証しながら調査することになった。
本来は珍しいことだが、教授が此処の洞窟調査では有名だったらしくそうなった。
蓮は少し後ろからついて歩いた。
「……」
その表情はなるだけ穏やかであろうと必死だった。
やばい、予想よりも事態が深刻だ
あの子達の感覚いらないくらい、血の臭いと怨嗟がやばい
ここの人達は気がついてないけど
やばい、早く対策しないと巻き込まれた人達死ぬ
いや、死ぬじゃすまない
蓮は周囲に隠れている配下の生き物たちに指示をだして、対策を取り始めた。
周囲に気づかれぬように慎重に。
しばらくして、キーンと耳を痛めるような音が蓮の聴覚を揺さぶる。
「……!」
蓮は耳を押さえた。
同時に、洞窟内が大きく揺れた。
バキバキと大きな亀裂が走り、蓮だけが隔離されるような状態で地面が、割れた。
やられた
蓮は自分の慎重さが、仇となったことに此処で気づいた。
「安登奈!!」
荷物の一部を捨てて、男が――鷹野が蓮の腕を掴んだ。
何とか鷹野が必死に、彼女の体を抱きしめ、どのままもう片方の手で地面を掴む。
が、再度大きく洞窟が揺れるとその地面も一気に崩れ二人の体は落下していった。
やばいやばい!!
私が無事でも落下したらこの人が死ぬ!!
蓮は自分を守るように抱きかかえる鷹野の腕の中から、必死に対策を練りだし落下地点の地面に大量の「蜘蛛の巣」を張った。
大量の蜘蛛の巣に守られ、何とか死なずに着地したが、ガツンと鈍い音が響いた。
顔を青ざめさせて鷹野を見れば、運悪く彼は石に頭部をぶつけていた。
ヘルメットは完全に破損しており、彼の頭部から血が流れていた。
「鷹野さん?!」
蓮は慌てて医療器具を取り出し、急いで鷹野を治療する。
鷹野は意識を失っているので、比較落ち着いて治療ができた。
その後、配下の生き物にも指示をだし、上にいるであろう教授達の監視と、洞窟内全域の掌握を命じた。
蓮は此処に残しておくのは危険と判断し、背負うなりして運ぼうとしたところ、鷹野が目を覚ました。
「……安登奈、助手?」
「た、鷹野さん!? よかった……えっと無事だったんですけど、鷹野さんが怪我をしてて……治療はできたんですが、ここにずっといるとまた地震がきそうでその」
「――先に逃げろ。ここは、危険だ」
途切れ途切れで鷹野が言う。
「鷹野さん」
「……すまない、俺はここの調査員じゃない。ここで起きた行方不明者の救助と誘拐した組織の壊滅の為にきた」
鷹野の言葉に、蓮は耳を疑ったが、すぐに納得した。
ああ、だから、だからこの人の履歴が不自然だったんだ――
「安登奈助手、早く逃げろ」
「――いえ、一緒に行きましょう。第一怪我人放置して逃亡できるような思考回路をもってません」
蓮はそういうと、頭部と目を包帯で覆った鷹野を肩で背負うようにして、移動を始める。
「少し休んで下さい。一緒に脱出しましょう」
「……悪い、な」
鷹野はそういうと、再度気を失ったようだった。
蓮はそれを見て、少しだけ安心したように息をして奥へと進んでいく。
配下の蜘蛛達が、教授達が今回の事件を引き起こした組織に捕まったと連絡してきた。
どうやら、研究チームの外部参加者一名と、来た警察の半分が組織側だったらしい。
「クソが……アンタ達、教授達を丁重に外にお連れしなさい、組織の連中は死なないならどんだけ痛めつけてもいいから」
舌打ちし、苛立ちながら命令する。
ポケットから棒付きの飴を取り出し、つつみをとって口に放り込む。
ガリガリと噛んで必死に苛立ちを押さえようとしていた。
ああ、此処まで腹がたったのは初めてだ
凄い腹がたつ
自分に?
少しはあるが違う
この人に?
違う、寧ろ申し訳ない
ああ、連中にだ
なんだろう、この苛立ちは
ああ、何百回でも殺したくなるくらいむかついてきた!!
ただの岩場の地面が、真っ黒な色の地面へと変貌する。
あちこちに、咲くぼんやりと青い光を放つ花。
遠目で見れば綺麗だが、全てが人体の一部から咲いていて、おぞましいものであることを示していた。
そこら中にいる虫が、蓮に警告する。
親玉がいると。
「――そこに居るんでしょう? いい加減でてきてくれない??」
口にくわえていた棒をぺっと吐き出し、奥にいる何かに声をかける。
気味の悪い、キーンと耳を痛めるような笑い声が周囲に響く。
蓮は不気味な蜘蛛と、蛇、烏、特別な使い魔に鷹野を守るよう命じると彼を岩場に横たわらせた。
使い魔達が鷹野の体を守るように囲む。
奥から無数の目をもつ、無数の手を持つ巨大な蜘蛛が姿を見せた。
その体には無数の人間の顔が張り付き、手が張り付いていた。
「それがアンタが食ってきた人達か」
蓮が吐き捨てるように言うと、蜘蛛は肯定するように笑う。
「……悪趣味な事しやがる」
再度、棒付きの飴を口にし、ガリガリとかみ始める。
赤い液体が口端から零れる。
『お前とて我らと同じではないか!! これらは皆餌よ、餌。お前のそれとてそうだろう??』
「――ふざけるな小蜘蛛が。食い散らかし、蹂躙するしか頭にないロクデナシめ」
蓮の額に無数の目が出現する。
彼女の目が更に深い紫に、緋色の光を宿した紫に変貌する。
『ほざくな!! 落とし子の分際で――!!』
蜘蛛の足が蓮のいる地点をえぐるが、既に蓮はその場から離れていた。
びきびきと彼女の体がひび割れる。
背中から蜘蛛の足に似た何かが出現する。
ぐちゃぐちゃと気持ちの悪い音を立てながら――彼女は巨大な蜘蛛へと変貌した。
その姿を見て、変貌した蓮よりも巨大なはずの蜘蛛がおびえの声を上げる。
『なぜ?! 何故あの方の姿をお前がしている?!』
「――簡単よ」
「そいつは私を化け物にした奴であり、私が食い殺した奴だから」
静かに、紫色の美しい目をもつ蜘蛛が言う。
「今度は、お前が餌になる番だ」
蜘蛛の腹から無数の小さな蜘蛛達が出現し、巨大な蜘蛛を食い荒らしていく。
耳障りな蜘蛛の声があたりに響く。
美しい目の蜘蛛――蓮が蜘蛛の上に乗り、頭部を容赦なく食いちぎる。
じたばたともがく巨大な蜘蛛を押さえつけながら、ガツガツと食い尽くしていく。
10分も経過しないうちに、巨大な蜘蛛は、小さな蜘蛛と蓮の腹の中に収まった。
蓮はどろどろと蜘蛛の体を溶かしながら、先ほどの少女の姿に戻る。
「ちっ、もう少し痛めつければよかった」
蓮は苛立ちながらそういうと、鷹野の方に近寄り抱き起こすと、肩で背負いその場を後にした。
出口につくと、逃げ出せた教授達が泣きながら二人に駆け寄ってきた。
その中で蜘蛛と蛇とかのおかげでで逃げられたが怖かった、という言葉があり、蓮は少しだけ申し訳ないことをしたな、と思った。
鷹野はその後救急車で運ばれ病院に搬送された。
後遺症などはなく、傷が治ったら今まで通りに生活できると聞かされ、蓮は安心した。
眠る鷹野の枕元に、薄紫の小さな花――シオンの花束を花瓶に生けると、そのまま病室を後にする。
「蓮、お疲れ」
病院を出ると、ブレザー姿の少女――フエがいた。
「フエ姉さん。どうしたの?」
「お仕事お疲れ様――といいに来たかったんだけど、次のお仕事のお願いにきたの」
「ええ?! また?!」
フエの言葉に蓮はがっくりと肩を落とす。
「仕方ないじゃない。似たような連中がでてきてるみたいなの」
フエはそう言って、蓮に書類を渡す。
「そんなぁ……」
「――私もお家に帰ってゆっくり柊さんとお茶したいの!! あまあまいちゃいちゃらぶらぶしたいの!!」
不満そうな蓮に、フエも不満をぶつける。
「もうここ一ヶ月もゆっくりお話できてないのよ!! うわーん!! 私が柊さん不足で死ぬ!!」
「……そののろけで私の精神が今、更に死んだわ」
ぼっちつらい
蓮が遠い目をしながら言うと、フエがくんくんと彼女の臭いをかぎ出した。
「ど、どうしたの?」
「――シオンの花かなぁ? あといつもより蓮から甘い匂いがする、飴じゃないわね」
「な、何をいいたいの??」
蓮が困った様に言うと、フエは笑いながら答える。
「うふふ、内緒」
「え、えー?!?!」
フエは困り果てている蓮をみて、ニヤニヤと笑いながらスキップをしてその場から離れた。
蓮は頭を抱えながらも、書類を見てため息をついた。
そして、名残惜しそうに病院から離れていった。
半年後、蓮は「落とし子」達が頻繁に出入りするカフェでパフェを食べあさっていた。
「蓮ちゃん、どうしたの? そんなにやけ食いして」
「……なんでもねっす」
追加注文した青い色のフィズにストローをさして、ぶくぶくと息を吹き入れてから飲み始める。
「どうやら、少し前にお仕事で遭遇した色男さんと、ここ最近遭遇しまくってるらしいのよー」
カウンターで紅茶を口にしていたフエが、ニヤニヤと笑いながら店のマスターに言う。
「あら」
「ちょ!? 姉さんやめてよ!!」
蓮は本気で困った顔をして、姉にそれ以上いわないように釘をさす。
「ごめんごめん」
「うう……店長さん、フィズ追加で……」
「はい、畏まりました」
蓮はがっくりとうなだれながら追加されたフィズを飲み始める。
いや、本当なんでなん?!
なんであの人と遭遇しまくるの?!
姉さんの悪戯?!
だったらいくら姉さんでも許すまじ
しかもあの人、関わろうとしてくるし……
いやあかんあかん、あの人は普通に人生?
いや、もう普通の人生無理かもしれないけど、人間として普通に暮らして……
やべぇ、結婚とか想像したら涙でてきた
ぼっちつらい
涙がにじんできた事に気づき、蓮は慌ててハンカチを探す。
「使え」
そんな彼女に、青いハンカチを誰かが差し出してきた。
蓮は深く考えず受け取り顔を覆う。
ああ
やっちゃったよ
見知らぬ人に迷惑――
……見知らぬ?
まて、私はこの声しってるぞ?
恐る恐る顔を上げ、ハンカチを渡してきた人物を見る。
「え゛」
この上ない間抜け面をした蓮を見て、フエがカウンターをばんばんと叩きながら笑い出した。
「どうした、今までに無いくらい間抜けな顔をして」
ニヤリと意地悪そうに笑っている、鷹野がそこにいた。
「鷹野さんんんん?!?!」
蓮としては、会いたくもあり、それ以上に会いたくない人物との遭遇だった。
いやいやいや
なんで鷹野さんここに居るん?
そもそもここの店の存在どうやって知った??
だらだらと冷や汗を書く蓮の正面の席に、鷹野は腰を下ろした。
「お客様、何に致しますか?」
「珈琲を」
「畏まりました」
鷹野はじっと、目の前で萎縮している蓮を見ていた。
「お客様、どうぞ」
「有り難う」
出されたカップに口をつけ、珈琲を飲む。
「美味いな」
「……あ、あの何のようでございますでしょうか?」
「お前はそういうキャラだったのか?」
んなわけねーよ!!
つーか誰だ情報漏らしたの!!
殴らせろ!!
蓮はだらだらと冷や汗を流しながら、視線を逸らす。
「いやだから何のよう」
「お前、あのあと他の『仕事』で遭遇してもやけに俺を避けてくれたな」
ぎくり、と音がなりそうな位蓮の体が硬直する。
「いやだって」
「こっちからすると事情をしってるから少しは話しやすいと思ったのに、お前は避けてばかり」
蓮の言葉を遮りながら鷹野は続けた。
「しかもお前は自分から『異形なんだと』わめいて俺の言葉も聞かずに逃亡」
鷹野の言葉に、フエは更に腹を抱えて笑い出していた。
「そんなの知るかといえば耳をふさぐわ、逃亡するわ」
鷹野がじろりと鋭い視線を蓮に向ける。
「はっきり言ってくれ、俺はこういう男だ。言ってくれないと納得できない。近寄るな、とただ一言だけでいい」
鷹野の台詞に、蓮は視線を彷徨わせる。
……ち、か、よる、な
それだけ?
そういえば、もう近寄らない?
ちかよ……
……
い
「言えるか馬鹿ぁあああああ!!」
蓮が声を張り上げて立ち上がり、テーブルを叩く。
「何で好きになった奴にいわなきゃいけ……」
最後まで言う前に、蓮の顔が真っ赤に染まる。
其れを見てフエはまた笑い転げていた、女店主はあらあらと楽しそうに笑っている。
そして鷹野は――
「言質、とったぞ」
ニヤリと楽しそうに笑って蓮を見ていた。
蓮は一万円をテーブルにおくと、全身真っ赤にしたまま店を飛び出した。
飛び出すのを見越して、鷹野も一万円をテーブルにおいて店を飛び出た。
「逃げるな!!」
「うるせーばかー!!」
蓮は鷹野の言葉に、半ばやけになって返していた。
誰も居ない公園に二人の声が響く。
「だから私は異形だっつてんだろうが!!」
「それがどうした!!」
「人間は人間らしく普通に人生おくればいいんだよ!!」
「それはお前の押しつけだ勝手に決めるな!!」
「私はまだぼっちでいいんだよ!! 番なんぞいらんわ!!」
「半世紀近く一人身で寂しいと兄弟にぼやいていた奴が何いっている!!」
「誰から聞きやがった!!」
本当に誰から聞いた?!
フエ姉さんか?! フエ姉さんだな!!
許さん!! 次の仕事は全部フエ姉さんにやらす!!
私はやらんぞ引きこもる!!
縮まることないの鬼ごっこが続いていたが、突如鷹野が頭を押さえて呻き、その場に崩れ落ちた。
「鷹野さん?!」
え、まさか後遺症?!
残ってるはず……いやもしかしてまさか
やばい、いや、やだ、いやだ!!
血相を変えて蓮は鷹野に近づいて、抱き起こそうとした。
その直後、鷹野は彼女の腕を掴んだ。
「漸く捕まえたぞ」
ニヤリと笑っていた。
は、はめられたー!!
「ひ、卑怯だ――!! それでも人類守る組織の一員なのか――?!」
「ああ、それか」
顔を真っ赤にして怒る蓮を押さえながら鷹野はどうでもよさそうに言った。
「やめた」
鷹野の言葉に、蓮は固まる。
「お前の傍にいたいのに、共同で仕事できる保証がない仕事についていても仕方ないだろう」
「いや、だから私異形」
「知ってる」
目をそらす蓮に対して、鷹野は無表情のまま返す。
「そもそも異形の番」
「番になったら年もとらない、運命共同体だろう。知ってる」
おい、どうやってそこまで調べた
「私人間の姿してるけど――」
「ああ、綺麗な紫の目をした、蜘蛛だろう。知ってる」
穏やかに言う鷹野の言葉に、蓮は顔を上げて目を丸くし、耳を疑った。
なんで、知ってる
「――最初会った時、あの時な不定期だは意識が時々戻っていてその時に、ちょうどよくな」
穏やかに言う鷹野を、信じられないものを見る目で蓮は見つめた。
「……最悪だ」
あんな姿、みられたくなかった
化け物でしょう?
気持ち悪いでしょう?
なのになんで――
蓮の目からぼろぼろと涙が零れる。
鷹野は何も言わず、またハンカチをだして彼女に渡す。
「……ほんと、何枚もってるのよ」
泣きながらも、笑いって蓮は涙をぬぐった。
「泣き虫には、必要だろう、その分持ってきている」
鷹野は笑う。
「蓮、どうか一緒に歩かせてくれないか?」
穏やかに笑いながら、いう鷹野に、蓮は小さく頷いた。
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「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
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