クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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理性と本能~番いも大事だけど花嫁も欲しいんです!~

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「もー機嫌直してってばー!」
「何やってるのフエ姉さん」
 通路でむくれた顔をしている柊と慌てた顔をしたフエを見て、蓮はあきれた顔をした。
「どうせ『花嫁』に手だしたのバレたんでしょう」
「何故分かったし」
「姉さんのことだもの、それくらいは分かるわ」
 蓮はあきれたように言った。
「蓮『花嫁』とは、何のことだ?」
「あ、康陽さんは知らないのか、そっか。『花嫁』ってのは私たち『異形の花嫁』の事なの」
「まださっぱり分からん、もっと詳しく教えてくれ」
「うーん、簡単に言うと私たちが本能的に求める存在、子を産み落とす存在として求める──番いがいても関係なくね」
「なるほど、その本能的に求める『花嫁』とヤったと」
「仕方ないじゃーん! ご褒美くれるっていったから──」
「全面的に姉さんが悪い」
「そうだな」
「何でー⁈」
 フエは絶叫する。
「本能ならともかく、ご褒美でヤルのは番いにとっては自分をないがしろにしているように感じるもんだろ」
「う゛ー……」
「ところで、蓮」
「ん?」
「花嫁って誰だ?」
 康陽は自分が知らない事を聞いた。
「あ、康陽さんもしってると思うよ」
「ん?」
「零さん。平坂零さん」
「マジか……」
「マジ」
「……俺が来るまで発情期は零とヤってたのか……」
「い、今はもうしないよ! ……発情期以外の時は」
「何故そこで発情期は駄目なんだ?」
 康陽に詰め寄られ、蓮もタジタジになる。
「だって、発情期だと異形性と本能が先に出ちゃうと番いよりも『花嫁』に行っちゃうから……」
「なるほど、本能か、それはどうしようもないな」
 康陽はぽんと蓮の頭を撫でた。
「そんときはそんときと受け入れよう、ただし俺がいる間はなんとか俺で我慢してくれよ」
「我慢だなんてそんな……」
「お二人さん、本当何しにきたの?」
 むっすーとした顔でフエが二人を見つめる。
 同じくむすっとした顔で柊も見つめていた。
「能の天才児さんよ、俺と蓮の関係が羨ましいからってそんなにに睨むなよ」
「そう呼ぶな、私は柊だ。今の私はただの柊だ」
「そいつは失礼、柊さんよ。同じ番い同士だ、仲良くしないか愚痴くらいなら聞いてやるぜ」
「……」
 柊はむすっとした顔のままだった。
「例えば、下半身がちょいと緩い異形の子の愚痴とかな」
 そう言うと、柊はフエから離れ、康陽に近づいた。
 そしてべしょべしょと泣き始めて話し始めた。
「フエが、フエが、いっつも私がいるのに、あの探偵とスルんだ。私にしないような事まであの探偵とやっているみたいだし」
「フエ姉さん?」
「いやだって、あそこまでやっちゃうと柊さん壊れちゃうし」
 フエは視線をそらした。
 蓮は呆れのため息をついた。
「だからって零さんにならそこまでやっていいの?」
「ほ、ほら言うじゃん性欲を持て余すって」
「姉さんの場合食欲も持て余してるじゃない」
「仕方ないでしょー! 親食った影響で性欲も食欲も並の異形の子達と違うんだからー?」

「何をしているのですあなた達」

「レオン!」
 鈍い金髪に、青い目の青年が現れた。
「うちの所長が昨日からダウンしてるんだが理由を知らないか」
 全員がそろってフエを指さす。
「フエ姉さん・・・、貴方と言う方は……!」
 青年レオンが指を鳴らすと犬のような姿をした異形が姿を現す。
「げぇ⁈」
「少しは加減というものを覚えてください! 行け『追跡者』‼」
 追跡者と呼ばれた異形はフエを追いかけ回し始めた。
「これが姉にする態度かー⁈」
「姉でもやっていいことと悪いことがあります‼」
 追っかけ回されているフエを見て、柊が慌て始める。
「ふ、フエ」
「自業自得だ、柊さん部屋に戻りましょう」
「そうだな」
 と、柊を連れてその場を離れた。

「うわーん! 姉を見捨てるのかー白状者ー!」

 と叫び声がその場に響いた。




「……体がしんどいな」
 ベッドの上で裸で横になり布団を掛けている零は辛そうに口を開いた。
 手を伸ばしペットボトルの水を飲むと、布団に潜り込む。

「やぁやぁ、花嫁殿・・・。体の調子が良くないようだね」

 浅黒い肌に、黒い長い髪、赤い目の人物がどこからともなく姿を現した。

「……ニルスか、なんだ今回は本性丸出しか」
 零は声をかすれさせたまま言う。
「その通り、花嫁殿。落とし子等などではなく私を選んで──」

「だぁれが落とし子だってぇ?」

「‼」
 フエが現れ、ニルスが差しだそうとした手をはたく。
 ニルスは手を少し痛めたようだった、手を押さえている。

「所長!」
 レオンが扉から入ってきた。
「ニルス、貴様所長に何をする気だ?」
「何も?」
「嘘をつくな!」
「零ちゃん、こいつ首にした方が身のためだよ?」
「げほ……そいつを首にしたら大勢の人が犠牲になる……」
 そう言って零は目を閉じ眠った。

 フエは零の頭を撫でた。
「おっさん、アンタには零さんはやらないよ」
「現主は手厳しいですね」
「アンタにやる位ならレオンとかにやる」
「フエ⁈」
 レオンが目を見開く。
「たとえよ」
 レオンの目が少しだけがっくりとへこんだように揺らいだ。
「では、今日は失礼」
 ニルスがいなくなると、レオンは息を吐いた。
「本当、貴方が零さんに何かしたら奴につけいる隙を与えることになるんですから少しは自重してください」
「自重ができたら苦労はせんわ!」
「何で逆ギレするんです……」
 レオンは肩を落とした。




 異形の子等は番いは大切。
 でも「花嫁」も欲しい、大切。
 それが番いを怒らせてしまう。
 本能にあらがうことのできない彼らにとって「花嫁」は蜜のような存在なのだろう、蜂にとっての、蠱惑的な花。
 本能と理性の中を行き交いながら、今日も彼らは番いと共にいるものは満たされながらも飢え。
 番いを持たぬ者は飢え続けている──





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