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とらわれの身
しおりを挟む本当は、周囲の目が怖かった。
『貴方は優秀なのだから、これくらいできて当然』
その期待が怖かった。
逃げ出したかった。
でも、逃げられなかった。
逃げたところで、どうにもならない。
そう、思ってたから。
そう、あの人と再会するまでは──
「こちらヒーローエレメント。対象の沈黙を確認」
『こちらヒーローブレイズ。人質全員の救出に成功』
「お疲れ様、報告に戻りましょう?」
『あいよ、姐さん!』
連絡を切り、ヒーローエレメントはヒーロー達の集まる本部JUDGEMENTへと帰還する。
「皆のおかげで被害が最小限ですんだ、次もこの調子で頼むぞ」
「次がないと良いのですが」
壮年のヒーローが口を挟む。
「うむ、その通りだ。ヴィランがのさばれなくなり、平穏を取り戻せるよう頼むぞ」
「「「「了解!」」」」
任務が終われば私は日常に戻る。
好ましくない日常に。
「メルお帰りなさい、見てたわよテレビで。さすがメルね」
──吐き気がする──
「うん、お母さん。ヒーローだもの、これくらいできないと」
「私達の誇りだわ」
──嘘をつく自分にも吐き気がする──
本当は頑張りたくなんて無い。
引きこもって、閉じこもって、甘やかされたい。
朝は嫌いだ起きなきゃいけないから、夜は眠れるから好きだ。
「部隊が全滅?!」
「それは本当なんですか?!」
──ああ、面倒くさい──
自分達の出番が来た事に私は面倒くささを覚えたがそれを表に出さない。
「標的は?」
「能力は、分からない。だからそちらで対応してくれ」
より面倒くさい要求が来た事で、私は心の中で舌打ちをした。
「では向かいます、皆注意をして」
「了解!」
「分かってるよ姐さん!」
「勿論だ」
そう言って空を飛び現場へ向かう。
現場は死体だらけ、黒い檻の向こう側は人質。
ローブを纏った謎の人物が立っている。
「今すぐ人質を解放しなさい!」
そういうと、わずかに見えた口元が笑っているように見えた。
「何を笑っているの?!」
相手は答えない。
「姐さん、やっちまいましょう!」
「ちょ、ブレイズ!」
罠の予感がするのに、突っ込んでいくブレイズ。
そして予想通りの罠がブレイズの足下にあった。
影が蠢いている。
「ブレイズ!」
私は焦りブレイズにタックルをして突き飛ばす。
すると影は私を包み込んだ。
私の意識はそこで暗転した。
目を覚ますと、豪奢なベッドの上に寝かせられていた。
ヒーローの時の衣装ではなく、ドレスを着せられていた。
なんとか逃げようとしたら足枷がそれを阻む。
力は使えない状態になっているのも分かった。
──あの人物の目的は、もしかして私?──
──でも何でこんな格好……──
ガチャリと扉が開いた。
私は身構えると褐色肌に銀髪の人物が立っていた。
執事服のような整った品の良い格好をしている。
「……誰?」
「──メル様、お会いしたかったです」
その人物は私の本当の名前を呼び、微笑みすら浮かべていた。
──私の正体を知ってる?!──
──誰なのこいつ?!──
と、思うと同時に、懐かしさを覚えたのは気のせいではないと思う。
「私の事はヴァインとお呼びください、メル様」
「……」
ヴァインと名乗る男性、奇妙な懐かしさ。
私を混乱させるには十分だった。
「貴方は……私に何をさせるの?」
「何も」
「え?」
私は耳を疑った。
私を捕まえておいて、何させないといったのだ。
「私はメル様にお仕えします、外には出せませんがこの室内でしたら好きなように移動してくれて構いません」
「……」
「それでは失礼します」
ヴァインはそう言って出て行った。
私に何かする風でもなく、私を捕まえて何かさせるわけでもなく。
ここが何処か分からないまま、私は疲れたようにベッドに横になった。
外の光景が夜なのが心地よかった。
──不謹慎だけど、ぐっすり眠れそう──
ヒーローや家の事など色々と考えることはあるが、今は疲労感に身を委ねて眠りたかった──
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