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束縛からの解放~二人だけの箱庭~
しおりを挟む二、三日が経過した。
外に出る手段は相変わらず見つかっていない。
足枷を外す手段もない。
焦りだけが私を突き動かす。
「メル様」
「いい加減ここから出して! 私にはやらないといけない事が──」
「メル様」
ヴァインは私の言葉を遮っていった。
「本当はヒーローなんてなりたくなかったのでしょう?」
心臓を鷲づかみにされた気分だった。
「周囲の期待に応えヒーローになり、学校では優等生で次期生徒会長とまで言われている程の優秀な人物──」
「それが貴方の『上辺』」
「本当はそんな事をしたくないし、引きこもっていたい、傷つけられたくない、期待されたくない」
「これが貴方の『本音』」
「違いますか」
私は違うと言えなかった。
だって、全部事実だから。
ヒーローなんてやりたくない、傷つくのが怖い、人殺しになりたくない
生徒会長なんてなりたくない、周囲の期待に応えなきゃいけないのがいやだ
家族の期待に応えたくない、本当の私は気弱な臆病者だ
でも、失望されたくない、失望されたら自分からは何もなくなってしまう。
だから、頑張ってきた、なのに──
「メル様、ヒーローエレメント、そしてメル様は亡くなったと公表されました」
「う、そ」
「メル様は二、三日と思っていますが、外では一ヶ月が経過し、痕跡がメル様のパワードスーツのみでしたので死亡と判断されました」
私はがくりと膝をつく。
そんな状態では戻れない、戻っても失望されるだけだ。
恐怖心が私の心を支配する。
「メル様──」
ヴァインが私の手を取った。
「私を『思い出して』ください」
ずきんと頭が痛くなった。
小さい頃から、私は期待に応えるためよい子を演じていた。
でも、人気がないところでその辛さに涙を流していた。
そこで出会ったのだ、不思議な大人の男性に──
ヴァインに。
ヴァインは何もしなくても私を甘やかしてくれた。
私の頑張りを認めて、無理をしないように言ってくれた。
他の大人達と違って。
なんで、忘れてたんだろう。
大切な人を──
家族よりも大好きな人を──
「メル様、幼い頃事故に遭われたでしょう、あの時の事故は私を追ってきた連中によるもの。だから、メル様を危険から遠ざける為に、私は貴方の記憶を封じたのです──」
ヴァインの言葉に心当たりがあった。
私は幼い頃事故に遭い、そこで警察の人達に何かたずねられ──嫌、ヴァインの事をたずねられた。
だが、記憶を失った私はなんのことだか分からず分からないと答え、催眠療法などもためされたが記憶は戻らず、そのままとなった。
でも、分からない事がある。
どうして今になって『ヴァインお兄ちゃん』は私を保護しに来たのか。
「ヴァインお兄ちゃんどうして私を保護しに来たの?」
「そこまでわかりましたか」
「分かるわ、だってヴァインお兄ちゃんはいつだって私の為に動いてくれたもの」
「……JUDGEMENTはヒーローやヴィランの能力者を集めて兵隊を作るつもりです」
「え……」
「クイーンと呼ばれる母胎となる能力者の卵子を用いて、子を作り、兵隊を作ろうとしているのです、世界を征服する為に」
ヴァインお兄ちゃんの言葉に、私は言葉を失った。
それはつまり──
「クイーンはわた、し?」
「その通りです、メル様」
私はめまいがして倒れそうになった。
ヴァインお兄ちゃんが抱きかかえてくれた。
「メル様、お気持ちはわかります。だからこそ、私はJUDGEMENTの魔の手から貴方を守る為にあのような行為をしました」
「……たくさんの人を?」
「いいえ、JUDGEMENTの息がかかって計画を知っている者だけです、最初の部隊は計画を知っている者達だったので念のため処分しました」
「……でも、どうしよう。お母さん達は?」
「彼女は非能力者、JUDGEMENTについて何も知らない。それにクイーンは次のクイーンが死ぬまで生まれない」
「なら……」
「ええ、ですからこの空間で擬似的に向こうの世界ではメル様は死んだという嘘の情報を流すことにしたのです」
「でもJUDGEMENTがあるなら……」
「大丈夫です、それを公にする『爆弾』が間もなく爆発します」
「……」
「メル様」
「なに、ヴァインお兄ちゃん」
改まって言うヴァインお兄ちゃんに、私は身構える。
「どうか今度こそ貴方を守らせてください、貴方の人生を私に下さい」
なんだ、そんなことか。
答えは──
「いいよ、ヴァインお兄ちゃんなら」
「メル様……! 有り難うございます」
「幸せにしてね」
「勿論です……!」
私の足枷は外されたが、私は外の世界に戻る気がなくなった。
こんな素敵な空間で、ヴァインお兄ちゃんに守られて暮らすんだもの。
……姿を隠して外に戻った時JUDGEMENTはヴァインお兄ちゃんが言うとおりの状態になっていた、無関係なヒーローも知らないヴィランも糾弾された。
それと……家の周囲に言ったとき、娘が死んで悲しんでるのではなく、娘にかけた費用が無駄になったと愚痴をこぼしていると周囲の人が言っていたから、私の気持ちはこの世界から離れた。
外はとっても怖い場所。
それくらいなら──
私は死ぬまでここにいる。
ヒーローエレメントは死んだ。
優等生のメルも死んだ。
ここにいるのは、ただのメルという女子。
私は、ヴァインお兄ちゃんだけのお姫様。
ヴァインお兄ちゃんは、私だけの王子様。
二人っきりの箱庭で、死ぬまで暮らすの。
愛している、ヴァインお兄ちゃん。
ずっとずっと、大好きな人。
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正義を建前に裏では……という奴です。そうです、正義にも裏があります。
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飛田励作様、感想有り難うございました!励みになります!