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祝福者の傷

ずっと前から「壊れて」た

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 王子様の世話をしながら、時折医務室に行って治療を受けるというのを繰り返してもう三週間がたった。
 相変わらず、俺は王子様の声は全く聞こえない。
 感覚とかも大部分がマヒしたまま、俺の声も戻らない。

 まぁ、俺はそれに対して悲観的な感情を持つわけでもなく――あ、そうだ俺感情の部分も家族以外の事だと麻痺してるんだった。


 ぐちゃぐちゃと音がする。
 王子様が、俺の事犯してる音、でもなんも感じない。

 痛いとか、気持ちいいとか、気持ち悪いとかまぁ、うん、何も感じない。

 何か動いてる、何か出されてる、感じるのはそれくらい。
 なんだろうなぁ、どっかで聞いたことのある話だったか、本で読んだ話だったかは分からないが、性処理のための「人形」があるらしい。
 俺の状態そんな感じ。
 抵抗しない、身じろぎもしない、恥ずかしがらない、ただベッドに横になって、突っ込まれて、ナカに精液吐き出されるだけ。
 以前のように勃起もしなくなった。
 最初の頃は王子様は俺のソレを咥えてあれこれしてたが、何も感じない、ただ唾液でべとべとになるだけのふにゃりとした俺のソレに何しても無理だと何回目かで気づいたのかそれとも、何かあったのか王子様は今は俺のソレを咥えることはしなくなった。

 犯されている最中は、王子様の顔も見ないで、ぼんやりとしてる、何もかもが他人事じみてたからだとおもう。


 二週間が経ったころから、王子様はなんだろうな、それまで我慢してたのが我慢できなくなったのか、毎日のように俺を押し倒しては犯すようになった。
 抵抗する気も、何も起きない。
 早く終われとかも思わない。

 これ終わったら、風呂入ろう、それくらい。

 王子様は俺の事犯してる時、泣いてるのか、精液以外に、涙で体が濡れる。

 何で、泣いてんだ?

 何か言ってたとしても、俺には聞こえないから、どうでもよかった。

 膣内も腹の中も精液を大量に出されたのか、少しだけ重い感じがした。
 おれは裸のまま起き上がり、風呂場に向かう。
 王子様は俺の腕を掴んでついてくる。

 ボタンを押せば、一瞬でお湯がはられる、本当不思議な浴槽。
 浴槽のお湯を備え付けの桶で組んで、体を流す。
 膣内から精液がどろどろと零れて落ちてくる、それがなくなって、体を石鹸で洗って、流してからお湯に浸かる。
 まぁ、王子様の体を洗うのもやる、もちろん。

 ちなみに、風呂場にはあの板を持ち込まないので、この間は俺は全く王子様とほぼやり取りができなくなる。
 お湯に浸かっている間、王子様は俺にしがみついてくる、抱き着いてくる、どっちが正しいか分からないがそんな感じ。
 俺が浴槽の縁に触って、上がろうとするとようやく離れる、その代わりまた俺の腕を掴んで俺についていくように、お湯から上がる。
 王子様の体をタオルで拭いてから、俺は体を拭いて部屋に戻って服とか身に着ける。
 脱がされた服とかは、なんか魔法が掛かった籠に入れるとどっかに転送されて、いつの間にか箪笥の中に入っている。
 ので、服とかには困ることはない。

 ただ、王子様に犯される時、俺は動いてないのだが、何故か酷く疲れを感じる。
 侍女さん達と体を動かす訓練をしていた時以上に疲れるが、理由が全く分からない。
 その時だけは、俺は睡眠薬なしでほんのわずかな時間だけ眠ることができる。
 不快感のするベッドの上でも。

 ただ、その時の夢は酷く不快なのか、俺は起きると着ていた服が汗でぐっしょりと濡れた状態になっている。
 どんな夢かは全く覚えていないのが、いいのか悪いのか分からない。

 俺が寝ると王子様も寝るのか、王子様はその時は寝て起きてこないので、俺はもう一度一人で風呂に浸かって、汗とか流して、そして新しい服を身に着ける。

 そして一人椅子に座って王様が用意してくれたと思う本を読む。
 王子様が目を覚ますまでの、俺の一人静かな時間。
 その時だけは、少しだけ「落ち着く」というのかな、よく分からないが、そんな感じが近い。

 王子様が目を覚ましたら、俺のその時間はお終い。
 また、王子様の御世話をするのが始まる。

 そして一日が終わると、王子様に薬を飲ませてから、俺の薬を飲んでベッドに横になる。
 寝る時はいつも「母さん達、元気かな」とか少しだけ思うけど、今の俺の状態で見に行く気にはなれず、思うだけ。
 そして俺はそのまま眠りに落ちた。


 割と前に、夢で見た神殿、とよく分からない空間。
 フード付きローブで姿を隠してる人物がため息をついたのは聞こえた。
『お前、あの二日で壊れたと思ってるだろう』
「違うのか?」
 此処では声が出るらしい、俺は久しぶりに自分の声を聞いた。
 ソイツは俺に近づいてきて、俺の胸を触った、多分心臓のある場所。
『お前の心はとっくの昔から壊れてたんだよ、でもお前は「家族」に迷惑をかけたくないという感情がその「壊れた」部分を無理くり動かし続けていた。そして「家族」から離れた結果――お前のその「感情」は「家族がいない場所」という状況で「壊れた」部分を動かす必要がないと判断して結果「ぶっ壊れた」というわけだ。まぁ此処迄壊れたなら今更「家族」の所にいっても戻らんな』
 ソイツは俺の口を触る。
『あの二日の行為はそこまで問題じゃない、お前さんの心は物心ついたころから壊れ始めてたんだよ』
「じゃあ、何で王子様とアルゴスの声は聞こえないんだ?」
 俺は疑問をぶつける、ソイツの言う通りなら、俺は全員の声が聞こえなくなってるはずだ。
『ああ、それはな。耳も下手すりゃ聞こえなくなりかけてた状態だが、二日の行為でお前にストレスを与えたあの二人の存在がぶっ壊れたお前のそこが「もう嫌な物はなにも聞きたくない」から「こいつらの声だけ聞こえなくてもいいや」に置き換わった結果、その二人の声だけ聞こえないという状態になっただけ、何もなかったらお前さん家族と離れてる間にゆっくりと五感やら感情が壊れてるのが表面化していくのが、あの二日で一気に出ただけだからお前はどのみち、色んな感情や感覚がぶっこわれるのは表面化するのは確定済みだったわけだ』
「……なぁ、あのまま俺が『魔の子』として追われて家族と暮らしてたら、俺はどうなってた?」
『お前の妹が成人扱いされる年ごろになるまでは、「普通」どおり暮らせるだろう、だがそれが過ぎた途端お前は一気に壊れて、俗にいう廃人になる。元に戻らない。家族は廃人になったお前を見捨てることなどできず廃人になったお前を守りながら逃亡生活を続けてただろう、これに関しては私の予測だすまんが』
「……どっちがいいのか全くわからねぇな」
『その判断になってる時点でお前の頭は相当壊れてるぞ、ぶっ壊れるのが表面化する前のお前がこれ聞いたら「俺の事なんて捨てて母さん達だけでも静かに暮らせばいいのに」とか言ってるのに、お前はそれすらも言わない』
「……あ」
 ソイツの言葉に思った、何故俺はそれを思わなかったんだろう。
『お前は家族の事を確かにまだ気にすることはできてるが、それでもその部分に関しても壊れている、それくらいお前は壊されていたんだ』
「……ああ、そう」
 他人事のように感じた。
 そいつは俺の頬を両手で包んできた。
『お前の、お前の世話をしている王子も、元に戻るのは困難だろう、それくらい、王子もお前も、色んなものを壊されている。お前はずっと前から壊れてたのを知らなかっただけで、表面にでなかっただけ』
「……」
『王子がお前にすがってるのは、それしかいまの王子にはないからだ。王子はまだマシだ、だがお前は――』

『今更「家族」にすがったところで何の救いにもならない』

 ソイツの言葉に、悲しいとか、苦しいとか、ふざけるなとか、そういう感情はわかない、言葉も何もでなかった。
『お前は表面上戻るまでは家族に会わぬ方がいい。もし会う事態になれば私はその事実を語らねばならない、事実を知ればお前の家族は傷を負う』
「……」
『ここで、「何で家族に言うんだ!?」と、壊れているのが表面化する前なら言うだろう』
「あー……」
『王子はまだ手は付けられるが、お前は手の施しようがない、この国の医療者であってもな』
「ああ、そう」
 ソイツは俺の額に触った、何かされた感じはした。
「……?」
『流石に、ここまで育った「祝福の子」……「我が子」を放置するのはできない、だから治癒の印をつけた、誰にも見えないがな、お前なら確認しようと思えは見れるが』
「……『我が子』?」
『――少し喋り過ぎたな、では今宵はここまでだ、ニュクス。私の愛し子よ』
 ソイツの言葉が終わると同時に、またぐにゃりと視界が歪んだ。


 目を覚ますと、変わらぬ王子様の部屋の天井。
 横では王子様が俺の寝間着を掴んで体を丸めて眠っている。
「――」
 一応日課になっている、声が出るかの確認を行う。
 相変わらずでない。
 声が出なくなってもう一か月は経っている。

 このままもっと壊れてるのが表面化して、王様とかの声とか、音とかも聞こえなくなるのかなぁとは他人事のように思った。

 あの人物が言っていた事が本当か確かめようとなんとなく思い、俺は王子様の手を俺の寝間着から離させると、そのまま鏡台に向かい、布をとって前髪を上げて額を見る。
 なんにもない、嘘かなと思ったら、変な文様が浮かんだ。

 あ、嘘ではないのか。

 俺はそれを確認し終えると、布で鏡の部分を隠して、着替えをして、椅子に座って本を読み始める。


 今日も、いつも通りだろう、そう思いながら。





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