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祝福者の傷
聞こえない「声」
しおりを挟む声が出なくなって一週間、俺の声は出る気配がない。
流石に声を出せるようにする薬まではないようで、多分精神的な物が原因と判断され精神の方に作用する薬が今までより強いものになった。
侍女たちはよく俺に話しかける様になった、多分耳が聞こえなくなったらというのを危惧してるのだろう。
俺は思った事が文字として表示される板を手に侍女たちの話に答えたりするようになった、まぁ、耳の方は大丈夫だろう、と俺は思っていた。
アルゴスがもう一度来るまで。
アルゴスが部屋に来た、非常に何と言うか深刻そうな感じ表情で。
「――」
口が動いてる、でも全く声が聞こえない。
「ニュクス様、どうなさいました」
俺に付きっ切りの侍女さんが異変に即座に気づき俺に問いかけた、俺は心の中でこう思った。
『アルゴス、何か言ってるのか?』
そう思っていたを見せると、侍女の顔が青ざめる。
板の文字を見たアルゴスも明らかに動揺した表情を浮かべていた。
「どうしたのだ?」
王様がやってきた、王様の声は聞こえる。
アルゴスが何か言っている感じに口を動かしているが、俺には全く聞こえないので分からない。
王様は額に手を当てている。
王様は侍女とアルゴスを退出させ、俺に近づいてくる。
『なに、何か問題でも起きたの?』
「――非常に頼みづらくなったのだ」
『なにが?』
「……我が子――リアンが既に限界状態だ、だが――」
「今の其方では、リアンの言葉も聞こえはしないだろう」
王様の言葉に、なんとなく納得した。
あの王子様が、仮に喋っても俺は聞こえない、だから何をすればいいか分からない。
だから上手く世話ができない可能性が高い。
けれども、それを気にしている余裕がないのは王様の顔色から何となく予想できる程度の感覚が俺には残ってたらしい。
『べつにいいよ、まぁ、王様が見に来てくれたらいいよ。アルゴスの言葉は聞こえないから』
俺がそう思うと、板にそれが表示される。
「――分かった、すまぬ。其方ばかりに迷惑をかけて」
王様が手を差し出してきた、俺は板を片手で持ったまま、もう片方の手で王様の手を掴んだ。
今回は通路ではなく、王子様の部屋にそのまま転移した。
ベッドに王子様の姿はない。
王様は俺の手を離すと、部屋の隅へと向かった。
ちょうどベッドが遮ってて見えない場所だ。
俺は王様の後ろをついていく。
蹲ってる王子様の姿があった。
顔以外の箇所は――血色が悪い、というのとなんだろう、自傷行為って奴かな、その痕が大量に残っていた。
でも、何も感じなかった、何も思わなかった。
「リアン」
王様が揺すり、名前を呼んでも反応がない。
俺は声が出ないから何も言えないから見てるだけだった。
「――お前の妻が来たぞ」
王様がそういえば王子様は顔を上げた、顔はなんというか、涙も血涙も流したのか酷いことになっていた。
王子様はよろめきながらも、俺の脚に縋り付くように、掴んできて、口を動かしている。
「――リアン、お前の妻は今、お前の声が聞こえぬ」
王様の言葉に、王子様は、金色の目をより大きく開いた。
俺は板の、文字が書かれる方を王子様に見せる。
『王子様、アンタの声俺は聞こえない、けど、食事の世話はするから、そういう約束だから』
その文字をみた王子様がどんな表情をしたのか、俺にはよく見えなかった。
王子様は俺の服の裾をひっぱってついて歩くようになった。
俺が文字を見せて、問いかけても何も反応しない。
俺が椅子に座ると、裾を掴んだまま、絨毯の敷かれた床に座り込んでじっとしてる。
苦労したのは食事だ、食べ物を俺が一度食べてから、それを口に運んでも口を開かなくなった。
まぁ、それで面倒なことが起きた。
俺が寝ている間に、餓死寸前状態の王子様は余程緊急時しか出ない「血の本能」で行動して俺の首に噛みついて俺の血を啜る行動に出るようになった。
これがバレたのは、シーツに血が付着していたのを王様が見つけたからだ。
見つけたのは俺が王子様の御世話をもう一度初めて一週間たってからの事。
王様は部屋の記録を見て、一週間毎晩のように俺が寝ると王子様は俺の首に噛みついて血を啜る行動をとっていたらしい。
だが、王子様はその時のことは全く覚えてないらしい。
まぁ、王子様がつけた傷位だとどうやら俺の体は起きる頃には治るし、俺は睡眠薬で寝てるし、そもそも痛みとかの感覚が麻痺してるから痛みで起きることもない。
あーそーなの。
って感じだった、うん、他人事のようにしか感じなかった。
王子様はそれを王様から聞かされて、酷く狼狽えた様子で、俺にすがってきたが、何を言ってるのか口が動いてるが、王子様の声が聞こえない俺は反応ができない。
王様が謝罪の言葉を口にしていると言ったので俺は板を見せて思った。
『べつに、そういうためのだろ、王子様にとって』
王子様は、その時首を振った、何かまた口を動かしているが、やっぱり聞こえない。
必死そうな表情なのに――
俺は何も思わなかった、何も感じなかった。
王様は暗い表情で、何も言わないから、俺も分からないままだった。
王子様は俺が一度食べた物をなんとか、食べようとした、が吐いた。
王様に俺はたずねた。
『血の本能とかが原因で俺の血以外駄目になったとか?』
俺のその問いに、王様は首を振った。
「それはない、原因は分からぬが医療の者をリアンに近づけることができぬ」
王様の答えに、俺は王子様を見て、王子様の肩をたたいてから、板を見せる。
『俺が、付き添うから、医療の人に見てもらおう、だめ?』
王子様は、なんだろう、怯えた目をしている感じだったけど、頷いた。
王様は医療の責任者――セイアを連れてきて、王子様の診察をさせた。
その間、王子様は俺の腕をずっと握りしめていた。
ちなみに、その所為で掴まれてた箇所の骨が折れた、診察終了後異変に気づいたセイアが王様に頼んで王子様の手を俺の腕から離させると、まぁ、酷いことになっていた。
王子様それを見て血色の悪い顔が更に悪くなって、許しを請うような体勢になった。
セイアは冷静に俺の腕の治療――まぁ、今回は治癒魔法でなんとかなるらしいのでそれで事なきを得た。
ちゃんと手とか動いたし。
王子様にも、色々と薬が処方されることになった。
あと、セイアの提案で王子様も俺が持っている、思っている事を文字にする板を持つことになった。
これのおかげで王子様とのやりとりは少しばかり楽になった。
さて、相変わらず食事の時、王子様はやっぱり口を開かない。
これだと、薬も飲ませられない。
『王子様、どうしたら食べてくれる?』
俺はそう問いかけた。
王子様はしばらく悩んでから板を見せた、こう書かれていた。
『ニュクスが食べたのが、欲しい』
と。
まぁ、よく分からなかった、食べたのがほしい、だから。
食べた、一度口にした物はそれじゃない、つまり俺の口にはいってるものか?
おれはそう思って割と、大きめの赤い果実を三日月型に切ったらしい、それを口の中に入れてそれを少しだけ咀嚼してから王子様に口を開いて見せると、王子様は、口づけ――否、まるで鳥の雛のように、俺の口の中の食べ物を器用に全部食べていった。
薬も俺が一度口に入れて、食べる時と同じように、鳥の雛が親鳥の口の中に突っ込むように舌で薬をとって飲み干す、と言うことをしないと口にできなかった。
これに関しても、俺は何も思わなかった。
王様が額をおさえてため息をついていたけど。
なんでそんな反応をしているのか、俺にはわからなかった。
王子様のベッド、横になると、上質なシーツに寝心地のよいベッドのはずなのに、酷い不快感をいつも感じる。
汚い手が自分をべたべた触ってくるような感じがしてこの時だけは麻痺している「不快感」が反応する。
でも、俺は睡眠薬を使えば寝れるから、そこまで気にすることはしなかった。
なんで「不快感」を感じるかも、分からない。
なんで感じるんだろうな。
睡眠薬、と言っても飲んだらすぐ寝れるわけじゃない。
眠るまで少しだけ時間が必要だ、その間俺はこの不快感のするベッドの上にじっとしている。
椅子で一回寝たけど、起きたら絨毯の上に寝ていたのでやめた、椅子のすぐ傍で寝ていた王子様の上に倒れる感じで寝てたし、やめてくれと言われた。
王子様は、俺の傍から離れたがらない、でも思った事を文字にする板をもって自分から話しかける事は絶対しない。
本当、何がしたいんだろうな。
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