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悲しいおとぎ話のように
歪み依存を繰り返す
しおりを挟むニュクスの体を何とか綺麗にして、服も着せ替えて寝かせる。
そしてベッドから離れて自己嫌悪に陥った。
ニュクスの怯えを取り除くどころか、怯えを植え付けるような行為を私はしてしまったのだ。
自分がいかに歪か認識させられる、自分がこれほど醜いのかと嫌でも実感させられた。
反吐が出そうだった。
――私は、君を、傷つける事しか、もうできない――
――なのに、私は離れられない、お願いだ、君の方から、離れてくれ――
自分からもう手放すことができない程に、私は自分が壊れているのを自覚している。
だから、祈るしかないのだ、ニュクスを救ってくれる誰かがくるのを、ニュクスが私から離れてくれるのを。
その結果、私が壊れることになったとしても、それは全て己のしでかした結果だと受け入れる覚悟はできている。
「ん……」
びくりと体が震えた。
身じろぐ音がする。
「……りあん、りあん?」
私の名前を呼ぶ声、返事ができない。
君を見ることができない。
あんな、酷いことをしたのだから。
「りあん……」
ずるりという音が聞こえた。
反射的に動いてしまった、気が付いたら、ベッドから床に落ちそうになっていたニュクスを抱きしめていた。
自分の心臓が酷く五月蠅かった。
「……りあん、どうしたの……?」
「……ニュクス、大丈夫かい?」
ようやく出せた言葉が、コレだ、何が「大丈夫かい?」だ。
「りあんが、だきしめて、くれたから、けがは、してないけど……」
「……違う、そうじゃない……」
「じゃあ……なに?」
ニュクスの問いかけに、中々言葉を返せない。
「……やっぱり、きもち、わるかった?」
ニュクスはそう言って私から離れようとした。
私はニュクスを再度強く抱きしめる。
「――違う、違うんだ。私は君に無理強いをした、意識を飛ばした君を無理やり起こして、何度も何度も、犯し続けた。君の体を私の薄汚れた欲で汚したことを、私は、私の事を、許せないんだ」
君が自分を追い詰めるような事だけはさせたくなかった。
無理など、させたくなかった。
それが、苦しい。
「……」
ニュクスが小さく首を振って背中に腕を回してきた。
「そんなふうに、じぶんのこと、せめないで、りあん……おれ、うれしかったから。こんなおかしなからだでも、こうふんして、ほしがってくれるのが、うれしかった。おれみたいなきみのわるいそんざいを、だいてくれたのがうれしかった」
ニュクスの言葉に、胸が締め付けられる。
君に、そう思う様な状態にしてしまった事実にただ、罪悪感が増す。
「――おれみたいなのを、あいしてるっていってくれてうれしかったから」
幸せそうなニュクスの声、その声に、私の心が引き裂かれるようだった。
抱いた時狂ったように、愛の言葉をぶつけた。
自分の欲望に染まり切った、ニュクスへの歪な愛を言葉にして何度も何度も口にした。
『愛しているよニュクス』
『だから私だけを見てくれ、これからも他の者など見ないでくれ』
『私だけを愛してくれ、他の者達を信じないでくれ、愛さないでくれ』
『私だけが、私だけが、君を愛してる、誰よりも君を愛しているとも』
『だから今は孕まないでくれ、君の愛情を子どもに奪われたくなどない』
『私だけを私だけを愛してくれ、ニュクス』
狂った言葉を思い出す。
私は私自身が汚れ切った存在だと嫌でも認識させられた。
「ニュクス……その言葉は忘れてくれ……あんな言葉に従おうとしないでくれ」
「……なん、で……?」
ニュクスの声が震えている。
怯えているのが、分かる。
「私は、君を愛している……ああ、昨夜言った通りだ、君を他の誰にも渡したくない、他の誰かを愛して欲しくない……そんな、そんな醜い存在なんだ。君を幸せにできない、君の事を傷つけるしかできない――」
「そんなこと、ない……」
私の言葉をニュクスは否定した。
「おれは、りあんいがいは、ふれあえない、りあんいがいがこわくて、しかたない……りあんにあいされてるだけでいい、それできずついたりしてもへいき……だって、りあんはおれのことあいしてくれてるんだもん……」
ニュクスは咎める意味で言っているわけではない、それは理解できる。
だが、これはまぎれもなく私を咎める言葉だった。
――私が君を追い詰め続けた結果が、傷つけ続けた結果が、これ、か――
私以外の者と関われなくなり、私が「愛している」と言えば何でも受け入れる――歪んだ私にとって都合のよい形になってしまった。
理性が「それでは駄目」だと訴えているというのに、本心は「それでいい」と歪んだ笑みを浮かべているのが分かる。
「ねぇ、りあん、だいて? だかれてるとき、すごいしあわせなんだ……」
蠱惑的な言葉。
肉欲が独占欲が、ざわめく。
――誰か、誰か来てくれ――
欲のまま、再びニュクスを汚してしまいたい衝動に駆られそうになるのを堪えながら祈る。
トントンと、ノックする音が聞こえた。
ニュクスの反応が変わる、怯えてしがみついてくる。
扉の前にまだ気配がある。
少しして気配が無くなるのを確認すると、私はニュクスに待つように言って扉を開ける。
食事が置かれていた。
ふぅと、息を吐きだす。
「……食事にしよう、ニュクス。食べていないと、体がもたないだろう」
そう言って食事がのせられた台車を部屋に居れて、ニュクスを見れば、ニュクスは小さく頷いた。
自分の食事を終えてから、ニュクスに食事を与える。
今もニュクスは自分で食べると吐き出すため、口移しでないと食べる事ができない。
ニュクスが私に依存する事を悦ぶ自分に嫌気がさす。
だが、無理に自分で食べれるように言うことはできない。
ニュクスは酷く不安定だ、いとも簡単にで歪み、それ以上に傷つきやすい。
昨夜の行為の所為で、ニュクスの歪みは、私への依存は悪化した。
私の言葉が原因だ、私の行為が原因だ。
けれども私は、私の事を止めることが難しくなりつつある。
私も少しずつ歪んでいる。
歪んで、醜い欲が増してきている。
――誰か、誰か私を、止めてくれ――
誰も来ない。
分かってる、ニュクスの事を気にして、必要が無い限り、誰も部屋に入らない。
入るのは体を診察する時だけ。
それ以外の時は部屋に入ってこない。
魔術で、着替え等の補充等は全て行われるから、部屋や私達の着ている物は清潔だし、浴室も同様だ。
だから、誰も入ってこない。
ニュクスが怯えるから、ニュクスの精神的な負担になるから。
そう命じている。
私の理性が誰かを呼ぶように言うのに、心はそれを妨害する。
誰かを呼ばないとよりニュクスを自分の欲のまま歪にして、自分に依存させてしまう。
誰かを読んだら、ニュクスが怯える、ニュクスを誰にも見せたくない、独り占めしたい。
君を私の薄汚れた色で穢してしまう。
君を私の歪んだ欲で、歪ませて依存させてしまう。
君を救いたいという気持ちがない訳ではない。
けれども、それ以上に――
もう誰にも、君を触れさせたくないという感情が強すぎて、私は私を抑えられない――
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