恋人は極悪人<ヴィラン>?!

琴葉悠

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ヴィランな彼氏、担当医と出会う

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 毎日が絶望色で、薬を飲めば楽になる。
 そんな毎日が続いていた。
 続くはずだった。
 それが、急に変わるなんて夢にも、思わなかった。

 今も、頭がついていかない。


「おい、貴様薬をすべて出せ! 私が直々に管理してやる!! また胃袋に手をつっこむのは面倒だからな!!」
 どうやって手を突っ込んだのかは聞けなかったけど、怖くて薬を出した。
 たくさんあるから、よくODオーバードーズしてしまい、虫の知らせで先生がくるんだけど、今回は彼だった。
 今回、先生がくる気配はない。
 携帯電話にも先生の履歴はない、少し見捨てられたかと心配していると突然が電話がなり、あわててとる。
「は、はいもしもし」
『あ――! 姫野さんでた! なんか嫌な予感したからでないと思ったんだけどよかった――』
 先生の、声だった。
「カオル先生、その」
『お薬、飲み過ぎたらだーめよ? 明日の診察はちゃんときてーね』
「は、はい……」
『じゃあ、明日ねー』
 話終えて一息つくと、彼がこちらを見ていた。
 誰と話したかの答えを待っているかのような目で。
「あ、その、担当医の、先生」
「声だけは聞こえた、女の担当医か。で、私が貴様に聞いてるのはそいつの名前だ」
「な、渚薫子先生……私は、カオル先生って呼んで、ます……」
 というと、何故か彼は私の財布を持っていた。
 財布から診察券と、先生からもらった名刺を取り出した。
「『渚医院 精神科医 渚 薫子』……ん? つまり、医者の家系の人間か?」
「は、はい……家族で経営してて、渚先生は他の二人の先生と精神と心療内科のほう担当してるんです……」
「ふむ、で明日病院にいくと」
「は、はい……」
「よし、私もついていってやろう。どんな間抜け面かみてやる」
「……え?!」
 思わず首をふってしまった、だってどうみても人間ではない彼が外を出歩いたら目立ってしまう。
「何だ貴様! 私がわざわざついて行ってやろうというのが不満か!?」
「そ、そうじゃなくて、その、めだって、しまう、から」
「――ふむ、そうだな。貴様の脳味噌からもらった情報からも私みたいな存在はいないのが丸わかりだからな、よしでは此でどうだ?」
 パチンと彼が指をはじくと、瞬きした途端彼の姿が黒髪の紳士服をきた顔立ちの整った男性へと姿を変えた。
「え? え?」
「姿を変えてみたぞ。まぁ、今回は周囲の視覚を操作して変えるだけのお粗末なものだ」
 そういった直後、彼の姿は戻っていた。
「というわけで、貴様以外には私の本来の姿は見えないという訳だ! さぁ誇れ!!」
 偉そうにいうので、よくわからないけどなんとなく拍手してみた。
 すると少し、満足そうな表情を彼はした。
「では、さっさと風呂に入れ! シャワーでも構わん! そんなみっともない格好で外にでて私に恥をかかせるつもりか?!」
「あ、あうう……」
 実際、最低限すぎる生活のためか、髪の毛もぼさぼさだ。
 最近録にシャンプーとリンスも使ってない。
 ボディーソープで間違って洗うこともある。
 よたよたと歩いていき、お湯の電源をいれてからシャワーを出す。
 お湯がでたのを確認すると、浴室前で服をぬぐ。
 ロクに食事をとっていないので不健康にやせて、そして小さくなった胸もみえ、惨めに感じた。
 ため息をはいて、浴室の扉を開けると、お湯が張られた風呂と、花びらが浮いた乳白色のお湯、湯気、先ほどまでない状態と――
「遅い!! わざわざ洗って湯まではってやったのに、私を茹で蛸にするつもりか!?」
 鼻で笑うような、凶悪的な笑みを浮かべて、帽子を脱いで、隠れていた銀色の髪が見えて、ついでに全裸で浴槽はいっていた彼に思わず。
 扉をしめた。
 目をこすって、再度開けると、わざわざ腰にタオルを巻いて間近にいた。
「何故閉める?!」
「だ、だって、お風呂はってない……そんなに時間たってないのに……」
「ふん、そんなもの私の前では無意味だ!」
 そういって彼は私の腕をつかみ、浴室へ引きずり込む。


 浴室に入ると、シャワーチェアーに座らされ、頭からシャワーでお湯をかぶせられる。
「せっかくの髪質が台無しだな、じっとしてるがいい!」
 わしゃわしゃと、柔らかな花の香りのするシャンプーで髪の毛が洗われる。
「ついでだ、顔は自分で洗っておけ」
 最初から泡立っている洗顔料を手にのせられ、言われるままに顔を洗った。
「よし、いいな。では目を閉じろ!」
 目を閉じるとシャワーのお湯が頭からかけられ、今度はリンスをされる。
 同じく香りのいいリンスだ。
 今度は泡だったタオルを渡された。
「背中は特別にやってやる、前くらいは自分で洗え」
 そういわれて、背中を洗われる。
 背中はかなりやせているのがわかりみっともなくみえるんじゃないかと焦って、前をあわてて洗い、背中を洗うのを自分でやろうとすると、もう終わっていた。
「洗い終わったか? では時間的に短いが一緒にリンスを落としてしまおう」
 そういって再び頭からシャワーをかけられ、全身をきれいにされる。
 乾いたタオルで、髪の毛を包むようにまとめられ、顔がはっきりとみえるようにされた。
「ではさっさと入れ」
 腕を捕まれそのまま、促されるままに一緒に入ることになった。
 抱き抱えられるような格好で入るのが酷く恥ずかしい。
 やせ細った体だ、体重だけなら昔――
「酷くやせてるな、貴様体重は40位とか抜かすんじゃないだろうな」
 彼の言葉にびくりとする。
「と、ときどき、40キロ台におちちゃうだけだから…」
「馬鹿か貴様」
 後ろから怒鳴られ、怖くて縮こまる。
「貴様の身長なら体重は50以上はあって当然だ、60は少しだけ太っているだろうが、55はないなら異常だ! 体重もきっちり管理してやるから覚悟しろ!!」
 昔の恋人とはまったく違う言葉に、酷く心が落ち着いた。
 酷く刺々しいのに、何だろう、安心して、甘えていいのかと幻想を抱いてしまう。
 彼のほうをみると、少しだけ不愉快な表情をしていた。
「貴様、昔のそのクズと私を比べるな、比べる価値もないクズだぞ」
「ご、ごめんなさい……」
 思考を多少読んでいるのかなと、こわい感じはしたけど、あってまだそれほどたってないのに、ここまで考えてくれているのに涙がでた。
「ええい、泣くな! 全く……世話の焼ける」
 彼は、私の頭をなでてくれた。
 優しすぎて、涙がでた。

 お風呂から上がると、パジャマに着替える。
 着替え終わると、バスローブを着ていた彼が私を呼びつけ、髪の毛をドライヤーで乾かしてくれた。
 いつも面倒で乾かさないのに、ここまでやってくれる彼が酷く優しく感じてしまう。
 うとうととすると、抱き抱えられて、二階の寝室のベッドに寝かせられる。
「いいか、そのまま寝ていろ。朝になったら起こしてやろう」
 その言葉を最後に私の意識はとぎれた。


 マイが眠ると、ダークレイン、ダークは最初の格好に戻り、ニヤリと笑って、家をでて姿を消した。
 次の瞬間彼が立っていたのはとある有名なカジノの上にいた。
 そして、足をわずかに動かすと、次はカジノの中にいた。
 絢爛豪華なその場所でも、誰も彼に気を止めずにいた。
「ふん、下等動物らしくだまされる奴しかおらんのもつまらんな」
 その言葉は誰の耳にも届かなかった。
 複製したチップを数枚手のひらで遊ばせると、彼はニヤリと笑う。
「何事にも軍資金は必要というものだ、『アイツ』がくれば問題ないが、それまではしばらくゆっくりとやろうではないか」
 そして人混みの中にとけこんでいった。

 翌日、有名カジノが一夜にして経営が傾き破産寸前とニュースになることを、ここの誰もがその時になるまで、気づくことはなかった。


 朝日が昇り、一時間ほど経ったころ。
「おい、起きろ」
「ふぁ……」
 彼の声に、思わず目を覚ます。
 普段より、少し早い時間だというのがわかる。
 いつもはご飯も食べずに病院にいっているのでもっと遅い時間に起きている。
 彼の声で起こされたようだ。
「食事もせんのか貴様は」
「……うん」
 寝ぼけ言葉で返すと、彼は呆れたような顔で布団をひっぺがし、私を抱き抱えて居間へと向かう。
 そこには、湯気がでているリゾットがあった。
「ろくな食材がなかったのでな! 病院からの帰りには買い物に向かうぞ!」
「は、はい……」
 そういえばゼリー系などの食欲がなくてもたべれそうなものしか、簡単なものしかおいていない。
 作られたリゾットを口にすると、薄味で胃に優しい感じがした。
 また材料とかも考えると、冷蔵庫のものでは絶対つくれない気がした。
 時間は早いし、眠った時間を考慮しても、どこかに買い物にいったはずだ、いつのまにでかけていたのだろうとぼんやり考えるが、人間じゃない彼には関係ないことなのかなと考える。
 考えると、彼は少しは理解したかといいたげな顔でにやりと笑って私をみた。
「食事が終わったら、さっさと片づけて病院に向かうぞ」
「は、はい……あの」
「なんだ?」
「料理、おいしいです……ありがとうございます」
「――ふん、当然だ! 私がじきじきにつくったのだぞ!」
 誇らしげに笑っている、とりあえず元気そうだなぁと思いつつ食事をとりつつ今日の病院で何をはなそうかと悩んだ。
 昨日薬を大量に飲んだことを正直にいうべきか、そして彼との出会いをどうやってごまかそうかとか悩み始めた。
「まぁ、面倒な話は私に任せておけばよかろう!」
 と、彼が自身満々にいうので任せることにした。


 時間になったので、病院に向かいいつも通り予約表などを出して、まっていたが、誰も彼のほうを気にしていなかった。
 これが彼が言っていた視覚とかを操る効果なのかなと思っていた。
 となりでは自慢げな顔で彼が座っていた。
 とりあえず呼ばれるまで、症状の変化などをなんとか記入していった。

『10番、姫野舞子様、3番の部屋へどうぞ』

 呼ばれたので、彼が私の体を少しだけ支えるように、部屋に一緒に入っていった。
 部屋に入ると、茶色めの髪の明るい表情の女性――担当医渚薫子先生、通称カオル先生がいた。
「やぁ、マイちゃん! よくきた……」
 いつも明るい表情が、ポカーンと間抜けな表情に変わった。
「……まぁ、いいか」
 いつもの表情に戻る。
「はい、用紙ちょうだいねー」
 用紙を受け取り、それをみながら受け答えをする。
「薬のほうは……ふむ……ODする回数は減ってきてるけど、やっぱり幻聴とかそっちはまだ強くのこってるのねー、まぁODした時はなんでかぴきーんと第六感働いて電話ささるんだけど、昨日ははずれてよかったわー」
 そういうやりとりをして、薬を変更し様子をみることになった。

「――で、話は変わるんだけど」

「となりの人? というか、さっきまで新しい彼氏っていう体で会話参加してたけど、人じゃないよね?」
 カオル先生の言葉に、思わず硬直する。
 え、どういうことなの。
「……何かおかしいと思ってたが、女貴様……私の視覚操作が効かない類いの人間だったか……、異次元に一人いるかいないか位の確率だがまさか当たるとは……!」
 やばい、先生がやばい。
 どうしよう、どうしよう。
 カオル先生はうーんと何かを考えてから手をたたいた。
「あ、今日は午前で診察終わるから、午後になったらマイちゃんちいっていい? そこでゆっくりお話しよ?」
「何……? 貴様」
「は、はい!」
 彼を押さえて、強引に進める。
 彼は驚いた表情をしていたが、少し不本意そうだが納得した顔をして頷く。
「じゃ、お薬ちゃんともらってかえってねー」
 診察室からでて、受付で支払いと処方箋をもらう。
 処方箋を薬局にわたして待っている間、彼は少しじっとこちらを見つめて怖かった。
「……」
 わしっと頭をつかむというか、なでるような仕草をして息を吐いた。
「……安心しろ、あの女誰かにしゃべる気も何もない、今後もそのつもりが大半だが――これからの行動に支障が来すのだけは問題だな」
「あ、あの私病院」
「お前にとって信頼できる先生なのなだろうが、安心して通え、いいな」
「あ……はい……ありがとう……」
「当然だ」
 笑う彼に少し安心した。


 マイの頭をなでながら、ダークは笑うふりをしながら考えた。
 先ほどの医師の脳内を読みとった時のことを思い出す。
 喋る気は全くない、今も、今後も。
 そして、自分が何か悪人のような存在だと感づいているのも理解している。
 一般的にはよくない存在、しかしマイにとっては必要不可欠な存在。
 ならばマイを利用して、こちら側に引き寄せればいいと考えた。
 痛む程の良心はないが、恋人として大事にするといった手前マイを利用するのは少しばかりなんともいえない感情がわき上がった。



「カオル先生、どうしたんですか?」
「んー? なんでもないよー? マイちゃんすてきな彼氏さんのおかげでよくなるといいなーってだけー」
「本当、すてきな人でしたよね!」
 どうやら、一部の会話が届いてないということをカオルは確認すると、それを伝えることなく診察をすべて終え、書類なども急いで仕上げてから医院を後にした――




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