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親として
出会い
しおりを挟むメーゼから戻ってきた私達は、二人が良き人と交流できるかを確認見定めるようフォビアに通達しておいた。
帰ってきたクレメンテは何処か不安げで、心配そうだった。
「クレメンテ大丈夫ですよ。彼は悪い人ではない、寧ろ良い人です」
「それでも心配なのだ……ブルーナが傷つく結果になったらどうしようと……」
「そうならないよう祈りましょう」
「ダンテ、私を抱いてくれ。今は怖くてそうでもしないとどうにかなってしまいそうだ」
クレメンテがすがるように言ってきたので、公務を切り上げて部屋でクレメンテを抱いた。
子が傷つく事を恐れるのは親として当然。
クレメンテは我が子を愛してきたからこそ、不安で仕方なかったのだ。
まだ子離れできていないと言ってしまえばそうなるが。
ぐったりする程抱いたので、体の汚れを落とし、服を着せてベッドで眠らせると、私は公務に戻った。
「……」
「ダンテ」
エドガルドが声をかけてきた。
「エドガルド、どうしました?」
「他の三人が気にしている、我が子がどうだったのか」
「ああ……」
納得したように私は頷き答える。
「アルフィオとディアナは良き交流をしているようです、デミトリオは自分からの交流が苦手でアルフィオとディアナの交流に混ぜて貰っているようです」
「デミトリオは自分から話すのが苦手だからな……」
「ええ」
私はそう言ってカップに口をつけお茶を流し込む。
「でも、あの子はあの子なりに頑張っている、それだけで十分です」
「そうか」
「──で、そこで隠れてるお三方、出てきてください」
そう指摘すれば、物陰に隠れていたエリア、アルバート、カルミネの三名が出てきた。
「バレてたか?」
「一応」
私は苦笑して返す。
「……」
暗い表情をしているエリアの元へ行き抱きしめる。
「大丈夫ですよ、デミトリオはあの子は立派にやれてましたとも」
「ダンテ様……」
「そうそう、心配しすぎだって」
「いや、心配はして損はない。我が子の身を案じるのが親だ」
カルミネがそう言ってエリアを撫でる。
アルバートはぽんと肩を叩く。
「そういえば、成績優秀者で宣誓をしたのは誰なんだ?」
「ディアナとアルフィオですよ」
「二人同時か、珍しい」
「ガラッシア学院だとそうみたいですよ」
「へー」
アルバートがのんきにしているのをカルミネが叩いたので私は苦笑いを浮かべる。
「なんで叩くんだよカルミネ」
「お前がのんきすぎるからだ」
と穏やかな会話に戻った。
それから数週間後のある日、また通信機がなった。
「フォビア、どうしたのです……デミトリオ様が女性をかばって怪我?!」
「?!」
その言葉に、エリアの顔色が真っ青になる。
私は彼を抱きしめる。
「ええ、ええ、分かりましたすぐ行きます」
「フィレンツォ、馬車の用意を。私とエリアの分の荷物を」
「は!」
デミトリオが怪我をした、どの程度か分からないが怪我をしたのだ。
それも、誰かをかばって。
私とエリアはフィレンツォと共にメーゼへと急いだ。
「申し訳ございません!」
顔に負傷した痕のある女性が私達に頭を下げてきた。
「ダンテ殿下の御子息様におけがを負わせるような事態を起こして誠に……」
「どうか話してください、落ち着いて。貴方に非があるかはそのあと判断します」
私は静かに言うと女性は落ち着きを取り戻し、話始めた。
女性はガラッシア学院の生徒で、急遽買い出しに行かなければならなくなり、外出した所、男達にからまれ殴られる、何故かそこへやってきたデミトリオが男達をいさめようとすると頭を殴られ昏倒、その直後やってきた執事に男達はボコボコにされた。
との事である。
「ファビア、何か言いたいことは?」
「ありません、父上! 全ては私の不手際です!!」
「ちょっと、落ち着いて。デミトリオと彼女を殴った男達にしか非はないのだから」
血の気だつ全員を鎮める。
「ところで貴方の名前は?」
「私はガラッシア学院一年、アウトゥンノ王国グリーチネ侯爵の長女リアーナです!」
「リアーナさん、事情の説明有り難うございます」
「いえ……私が男達をどうにかできていればデミトリオ殿下はお怪我をせずに済んだのです」
「リアーナさん、それは無謀という物です。その時できなかったなら、できなかったものなのですそれは」
「父上……母上?」
医療部屋からデミトリオが出てきた。
「デミトリオ!」
小柄なエリアが自分よりも背丈の高いデミトリオに抱きつく。
「他に怪我は?」
「ちょっと、頭がクラクラするくらいです……」
「デミトリオそれはいけない、休みなさい」
「はい、あの女の人は大丈夫ですか? お顔のおけが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ですからデミトリオ殿下、お休みください」
「はい……皆様がそういうなら……」
デミトリオは医療部屋へと戻り、穏やかな表情で眠った。
私はデミトリオに、治癒魔法をかけてから、リアーナさんの顔に手を伸ばす。
「な、何を」
「大丈夫です、治癒魔法を使うだけですから」
そういって触れないように撫でると顔のあざは綺麗に消えていた。
フィレンツォが鏡を見せる。
「本当にもうしわけございません……エルヴィーノ陛下にもなんと言えばよいのか」
「お気になさらず」
「しかし……」
「これは、ならず者達によって起こされたもの、貴方は被害者、デミトリオも。それだけのお話です」
「エリア、デミトリオの側にいますか?」
私の問いかけにこくりと頷くエリアを観て、私もデミトリオの側にいることにした。
翌朝──
「ふぁ……父上、母上……お早うございます……あれ、なんでいるんですか?」
「お前が怪我をしたと聞きつけて来たのですよ」
「あ……」
「デミトリオ、傷はダンテ様が治したから大丈夫だけど危ないことはしないで」
「でも母上、誰かが傷ついているのを見過ごせません」
「そのときは一人でなくファビオと一緒に……お願い。僕は貴方に傷ついてほしくないの……」
「母上……」
「フィレンツォ、ちょっとエリアが情緒不安体だ、すこしデミトリオと離して休ませてくれ」
「──分かりました」
私の意味を理解してくれたフィレンツォはエリアを部屋の外へと連れ出した。
「さて、いつ頃話そうかと悩んでいたんだが今話そう」
「何を、ですか」
「私とエリアが何故出会ったのか、エリアの出自について」
「母上の?」
「そうすれば、傷ついて欲しくない理由の真意が分かるだろうからね」
私はそう言って話し始めた。
20年以上前のあの日の出来事を。
エリアの出自を。
私とエリアの子、デミトリオに話し始めた──
「……母上は、だから自分を卑下してばかりなのですね」
話を聞き終えたデミトリオはそう呟いた。
「傷ついて欲しくない理由は、自分の苦しみを味わって欲しくない」
「その通りだ。デミトリオ」
私はデミトリオの頭を撫でる。
「エリアは、痛い事が苦手だ、暴力を振るわれ続けたから。だから怪我をするようなことはお前にはさせたくなかったそうだろう」
「はい……」
「そのたびに私がエリアを説得してきた訳だが、苦労が分かったかな」
「はい……よく分かりました」
デミトリオは申し訳なさそうな顔をした。
「分かったら、次は口で言う前に右ストレートでぶん殴ってひるんだすき股間を蹴り上げてしまいなさい」
「やめなさいとは言わないんですね……」
「当然、だって私は学生時代喧嘩を売ってきた連中は皆そうしてやったからね!」
「父上……過激」
「その通りだ」
私は引きつった顔のデミトリオの頬を撫でた。
「まぁ冗談はさておき、次あったら気をつけなさい」
「はい」
頷いたデミトリオを見て、私はエリアの元へ行くことにした──
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