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親として

奇跡とその代償

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 エドガルドを抱いた後、他の四人も子作りの意味合いで抱いた。
 上手くいけばエドガルドは妊娠する、どうか妊娠しますようにと、四人と共に祈った。


「妊娠、しております」

 医師が驚愕の表情を浮かべて言った。
「まさか?! 兄弟同士では生まれないはずなのに?!」
「えーと、天啓で薬を作りました。一回だけだけど兄弟、姉妹でも子どもを作れる薬を」
「ダンテ様……天啓という事は主神アンノが?!」
 嘘はついたが、天啓なのは間違いないのでそのままで。
「多分……20年以上前のあの事件で頑張ったご褒美かと」
「ただ、これは内密にしましょう」
「分かっている、私はしばらく外に出るのを控える、子どもが生まれるまで、な」
「エドガルド」
「子どもが生まれても色々と不便だが……それでもやってみせるとも」
 エドガルドは腹を大事そうに撫でて言った。

「他の方々も妊娠しております」

「良かった……」
「次はどっちかな」
「とりあえず、エドガルドも妊娠できてよかったよ、比翼副王だけどお前も俺達と同じ伴侶だからな」
「ええ、そうですね」




──神様、いいんですか?──
『主神アンノもいいといってるんだ、ご褒美と思って貰っておけ』
──マジですか──
『今回はあくまで特例だとさ、本当に愛し合っていないと劇薬に変わる薬でもあるからな』
──それ早く言ってー!──
『まぁ、お前達なら大丈夫と思ったからだ』
──うぐ──
『それにこの薬はお前の頭の中にしか設計図がない、お前が死ねば終わりだ』
──た、確かに──
『まぁ、こういうご褒美があっても良いだろう』




 神様と主神アンノが良いというなら、まぁいいんだろうと思うことにした。
 ただ、公ではエドガルドの子という事のみで、父親は私であることを伏せることになる。
 我が子にそれを強いることになるのは辛いことだなと思ってしまう。

「ダンテ」
 エドガルドに呼ばれて我に返る。
「私はな、何一つ公開してないんだ。お前との子を宿せたという事だけで幸せなんだ」
「エドガルド……」
「どんな困難があろうとも、この子は私が守ろう」
「いいえ、エドガルド私も守ります」
「俺達も忘れるなよ」
「ああ、そうだぜ」
 アルバート達も名乗り出る。
「俺等は皆でダンテの伴侶だ、忘れるなよエドガルド」
「そうだな……そうだったな」


 それから、妊夫五名との生活が始まった。
 まずエドガルドは妊娠休暇という名目で仕事をするのを一時的にやめさせた。
 エドガルドはワーカーホリック的なところがあるので、そこをストップ、妊娠生活に集中させる。

 それが功を奏したのか、エドガルドはつわりなどが重く、ベッドで横になる日々だった。

 仕事を休暇にさせておいて正解だった。
 休暇にしてなかったら無理にでも仕事をしようとして流れてしまう可能性があるからだ。


 辛そうなエドガルドをクレメンテ、アルバート、カルミネ、私が交代でさすり見守る。
 エリアも同じくつわりが酷くエドガルドと一緒に交代で見守りつつさすったりしている。


 また、エドガルドは初めての妊娠だということで情緒が不安体になりちょっとしたことで泣く。

 色々と不安体だから前回と違う意味で、私は不安だった。
 もしかしたら今回、誰かの子が証持ち──次期国王になるのかもしれないと。

 それで関係がギクシャクしてしまわないかが不安だった。



『それはないから安心しろ』
──本当ですか?──
『本当だ、私が嘘をついたことがあるか』
──それは、ないですけど……──
『分かったら伴侶を労ってやれ』
──分かりましたよ──




 戻ってくると、私はエドガルドの体をさする。
「何か食べられそうですか?」
「いや、無理だ……ああ、柑橘なら少しは……」
「ではオランジェを持ってきますね」
 オランジェオレンジと思われるだろうが、ミカンだ。
 この世界では。
 オレンジはオレンジのままだった、謎い。

 少しだけオランジェを食べると、少しだけ落ち着いたのか、否疲れたのか、エドガルドはすやすやと眠ってしまった。
「エドガルド……ゆっくり休んでくださいね」
 そう言ってそばを離れ、エリアの元へ行く。
 エリアは前回の出産時の事があるから、不安が酷かった。
「ダンテ様、また赤ちゃんが死んでしまいそうだったらどうしよう」
「大丈夫です、エリア。私の子です、早々簡単に死にませんよ」
 背中をさすり、頭を撫で、何とか落ち着かせようと努力する。
「大丈夫だぜ、エリア。国王、次期国王との子は女神の加護に守られてるんだ、死産とかはないから安心しろ」
「それなら……良かったです」

──あれ、そうなんだっけ?──
『そうだぞ、お前割と重要な事が頭から抜けてるな』
──すみませんでした!──

 落ち着いたエリアは、少しだけ安心したような顔をして、こちらも眠った。
 不安で眠れなかったのだろう。

「アルバートすみません、そういう重要な事を言い忘れてて」
「いいんだよ気にするな! それよか吐きそう……」
「わー!」
 エチケット袋に吐いて貰い、それの後始末をしてから、アルバートを労る。
「カルミネは?」
「ぐーすか寝てる、羨ましい」
「クレメンテは?」
「ブリジッタさんのおかげで眠ってる」
 取りあえず、アルバート以外全員眠っているのが分かりほっとする。
「ダンテ、寝るまで手を繋いでくれよ……」
「分かりました、勿論です……」
 アルバートの手を握り、髪を撫で、眠るのをまった。

 やがて寝息が聞こえると、私はアルバートから手を離し、空いてるソファーに寝転がる。
「ダンテ様、ベッドで休んだ方が良いのでは?」
 フィレンツォが進言するが首を振る。
「何かあったとき、すぐ起きられるようにしなければ」
「ダンテ様……」
「じゃあ、少し寝るから……もし何かあっても起きなかったらたたき起こしてくれ」
「かしこまりました……」
 私はすぐさま眠りに落ちた。




「あのフィレンツォ絶対起こさないな」
『起こさないぞ』
「全く……」
『それはお前が無理をしているからだ』
「それは……そうだけど」
 夢の中で神様と会話をする。
『お前は無理を無自覚にする癖がまだ治らんな』
「そんなこと言ったって……」
『これはお前が成長する為のことだ、だから無理しすぎないためにある人物が来るぞ』
「え、母上?」
『と、祖母だ。リディア元国王陛下だ』
「げ」
『わかったら、たっぷり叱られてこい!』
「そんなぁ!」
 夢の中で私は悲鳴を上げた。





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