月歌～あなたの歌声は、月光のように温かい～

運命の出会いは、その歌声から始まった

ただ、さっきのバンドとは比べものにならないほど演奏が上手だった。
塞ぎかけていた手をそっと外した瞬間――
澄んだ男性ボーカルの歌声が、すうっと耳に流れ込んで来た。

その声は、春の雪解け水のように清らかで、
暗闇を照らす月光のようにあたたかい。

両親のことで凍り付いていた私の心が、
ゆっくりと溶けていくような感覚に包まれた。

気付けば私は、無意識に立ち上がっていた。
まるで夢遊病者みたいにふらふらと、声のする方へ歩き出して――
しかし、会場整備のお兄さんに呼び止められ、「ハッ」と我に返る。

その爽やかなイケメンのお兄さんは、優しく私の頭を撫でながら、

「そんなに感動したの？」

と穏やかに笑った。

言葉の意味がわからずにきょとんとしていると、
差し出されたハンカチに触れた瞬間、私は泣いていたことに気付いた。

腕には【生徒会役員】の腕章。
その人は私の手をそっと取り、

「内緒だよ」

と口元に人差し指を当てる。

「？」

不思議に思いながらついて行くと、
“控え室” と書かれた扉の前で、彼は軽くノックした。

「はい」

中から女性の声がして、
ショートカットで背の高い、眼鏡を掛けたスラリとした女性が姿を見せた。