月歌~あなたの歌声は、月光のように温かい~

古紫汐桜

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気付きたくない気持ちに、出会ってしまった日

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小柄でふわふわした優しい雰囲気の杉野チーフ。
私が大好きな上司なのに──なぜだろう。胸がざわつく。

思わず手を止めて二人を見ていると、

「おい、柊! ぼんやりしてる暇があるなら手を動かせ!」

森野さんの怒鳴り声が飛んでくる。

……そう。森野さんは、私には怒った顔しか見せない。
でも杉野チーフには、驚くほどいろんな表情を見せる。

複雑な気持ちを押し殺しながらテープでダンボールを閉じ、
私は黙って売り場へ品を出していった。

嫌いなはずなのに──
森野さんの一挙手一投足が、私の心をざわつかせる。

(きっと、カケルさんに声が似ているせいだ……)

そう自分に言い聞かせ、必死に納得させる。

幼い頃に出会ったきりで、カケルさんの顔はぼんやりとしか覚えていない。
可愛い少年みたいな顔だったような……そんな曖昧な記憶。

恋愛感情ではなかった。
あくまで、私を支えてくれる“歌声の人”だった。

学生の頃は彼氏もいた。
でも、父の浮気に苦しむ母の姿を見ていたせいだろうか。
どこか恋愛に冷めていて、相手との熱量の違いに疲れて、
毎回同じ理由で別れてしまう。

いつしか「私は恋愛ができない人間なんだ」と思うようになっていた。

だから──今のこの気持ちは正直、戸惑うのだ。

だから私は、この胸のざわめきに理由をつけてごまかしていた。

両親の離婚。転居。祖父母の死。受験。就職。母の再婚。
いろんなことがあっても耐えられたのは、カケルさんの歌のおかげ。

だから今だって、森野さんの声がカケルさんに似ているから、
私の脳が“勘違い”しているだけだ、と。

……そう思おうとしていたのに。

気がつくと──
視線も、心も、細胞の一つ一つまでもが、森野さんを求めて探してしまう。

ぶっきらぼうで、愛想が悪くて、口も悪くて。
良いところより悪いところのほうが簡単に見つかる人なのに……。

なのにどうして、こんなにも心をかき乱すの?

深い溜息をついていると、

「こ~ら! 溜息は幸せが逃げるんだぞ~」

杉野チーフが顔を覗き込んで微笑んだ。

杉野チーフの可愛らしい笑顔をぼんやりと見つめていると、

「何かあったの?」

閉店後、残業しながら商品を並べていた私の隣で、優しく尋ねてきた。

「いえ……何も……」

小さく返事をした私に、杉野チーフはくすっと笑い、

「森野くんのこと?」

──息が止まりそうになった。

慌てて首を横に振ると、

「柊さんって、分かりやすいよね」

と柔らかく言って、

「最初は大嫌いだったはずなのに、
 なぜか段々、気になり始めちゃった……ってところかな?」

優しく微笑みながら、そう呟いた。

「まぁ、嫌いは好きの裏返しって言うしね」

そう言って立ち上がると、綺麗に整えた売台から離れながら、

「柊さん、ちょっと来て」

返事も待たずに階段を下りていく。

ぽかんとしたまま一秒固まり──
私は慌てて荷物を手に持ち、売り場の電気を消してその後を追った。
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